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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

活動編のようなもの

戦闘終了らしい

 身の丈2mを超える男が、片手片足を失った状態で背中から剣に貫かれて大地に縫いとめられている光景と言うものはなかなかに異様な光景であった。
 人族の者が見れば、その信じられない光景に、現実あるいは自分の頭の中身を疑うような光景も、蓮弥には何の感慨も抱かせない。
 だくだくと出血しつつ、痛みになのか、逃げようとしてなのか、とにかくもがくことをやめようとしない魔族を見下ろした蓮弥は、しっかりと抜けないように、突き刺した大剣の柄を踏みつけて、さらに深々と刃を埋め込んだ。
 再度あがった悲鳴には耳を貸さず、蓮弥は周囲の状況へ目をやる。
 蓮弥がかなりがんばり、エルフ達が攻撃を引き継いで、さらに相当がんばったとは言え、やはり2万と言う数は早々たやすく瓦解する数ではない。
 森の空気が血なまぐさい匂いを帯びるくらいの数の屍を晒して、尚魔物達の攻撃は続いている。
 しかしそれも、少しずつではあったが攻撃の手が緩みつつあった。
 おそらくは軍の長であった魔族が、討たれたと言う情報が魔物達の間に広がりつつあるのだろうと蓮弥は推測する。
 頭が無くなれば、どれだけ数が揃っていようが烏合の衆と成り果てるのが軍の常だ。
 しかも、あまり知能の高くない魔物の群れとなれば、強い者が倒されてしまえば、その下にある者が戦いを継続し続けるのは難しい。

 「それでも戦は継続中、と。全く面倒な話だな」

 踏んだままの大剣の柄を、ぐりぐりと動かせば言葉にならない魔族の悲鳴が上がる。
 何かしきりにしゃべっているようだったが、何を言っているのか蓮弥には分からない。
 単語としては耳に入ってくるのだが、どうにも理解をする気になれないのだ。
 無理矢理理解しようとすれば、どうやら「やめろ」「助けろ」「こんなことをして」と言うお決まりの文句を延々と繰り返しているらしいことが分かる。
 全く意味不明だ、と蓮弥は肩をすくめる。
 もしこれが、守備砦の兵士達や砦に勤めていたエルフ達を捕虜としてきちんと扱っていた軍の将が口にするのであれば、理解はできる。
 俺達はきちんとした扱いをお前達にしてきたのだから、俺達の扱いもそれに準じたものにして欲しいと言う至極全うな要求だからだ。
 しかし、蓮弥は現場を見てはいないが、魔族や魔物達は守備砦を思うままに蹂躙してきたはずなのだ。
 想像するだにおぞましいような行為を、死体すら残らないレベルで、誰はばかることなく兵士や砦勤めの女性達に施してきたはずなのである。
 そんなモノが、立場が逆転したからといって、今更扱いをなんとかしろ、と言い出すのは実におかしいと蓮弥は思う。
 蹂躙戦を仕掛けてきたのだから、逆に殲滅されても文句を言える立場ではないはずなのだ。
 そう考え始めると、足の下でぎゃあぎゃあ騒いでいる魔族が非常に疎ましく思えて、蓮弥は遠慮なしにさらに大剣の柄を踏みつける。

 「お前なぁ、ちょっとは我が身の行いってやつを振り返ってみろよ?」

 一段階、悲鳴の大きさが上がったのを耳にしながら、蓮弥は足元の魔族に語りかける。
 その声音は、実に穏やかであるが、その穏やかさが逆に魔族に恐怖を与える。

 「自分らがやってきた事を省みて、助けてもらえると毛の先程でも思えるのか? もし思えるならば随分とめでたい頭の出来だと感心するんだが」

 そう言う蓮弥であったが、足元の魔族を逃がす気がない理由は別にもある。
 この魔族は蓮弥の武器等を眼にした後、国に戻ると言い出した。
 それは、この魔族が蓮弥を脅威、あるいは危険因子として認識したからだろうと蓮弥は思っている。
 つまりはこの魔族を生きて国に帰してしまえば、魔族の間に「人族にはレンヤ=クヌギと言う危険な人物がいる」と言う情報が知られてしまう。
 自分がそんなに危険な存在だとは露ほどにも思わない蓮弥であったが、問題は相手がどう思っているかと言う一点のみであり、一度そんなレッテルを貼られてしまったら、魔族達は事あるごとに蓮弥をなんとかしようとする手を打つことだろう。
 大した問題ではない気もしている蓮弥であったが、やはりできるならば問題は少ないに越したことは無い。
 寿命が来るその日まで、適当に美味しいものを食べて、快適な家に住み、なんとなくそこらへんに潤いのある人物を侍らせて暮らせれば、それで万々歳なのだ。
 降りかかる、もしくは降りかかりそうな火の粉は払いのけるが、進んで火の粉を増やそうとは思わない。
 もっとも、進んで降り注ぐ火の粉の中に飛び込んでるんじゃないか、とたまに思う蓮弥ではある。
 その辺りの矛盾は仕方がないものだと諦める以外ない。
 いつでもブレない、統一された生き方など望んでもできるものではないからだ。

 「それはさておき……」

 蓮弥は戦闘中に聞こえた声の正体を確かめるべく、意識を凝らす。
 念話とか言う技術は、フラウがたまに使うのでなんとなくではあったが蓮弥も使えないこともなかった。

 <クロワール? 絶壁のクロワールさん?>

 <誰が絶壁ですか!? 妙な二つ名を付けるのやめてもらえます? 控えめですがちゃんと膨らんでて柔らかい場所はあるんですよ、私にだって!>

 返事は即座に返ってきた。
 一応とは言え、膨らんでたり柔らかかったりする場所があるのかと言う軽い驚きは脇にどけておいて、蓮弥は会話を続ける。

 <そちらの状況は? こっちは魔族を片付けたぞ>

 <防御主体で、敵戦力を削り落としてる所です。ぎりぎり維持してますが、負傷者が出始めてます。魔物が結界を抜け始めて……って、魔族倒しちゃったんですか!?>

 <倒したよ。まだ生きてるけど。見てたんじゃないのか?>

 魔族が攻撃を飛ばして来た時に、クロワールの警告が無ければ一撃もらっていたかもしれない。
 魔術ならともかく、自称普通の剣士でしかない蓮弥からすれば、剣撃が飛んでくる等と言うのは想像の範囲を超えているのだ。

 <最初は見てましたけど、途中からそれどころじゃなくなりました>

 <まぁそうだろね>

 <そんな事より、こっちを手伝って下さい! 本当にぎりぎりなんとかって感じなんですよ!>

 声、と言うか念に焦りが混じっている。
 そんなに不味い状況なのだろうかと思いつつ、蓮弥は返事をした、

 <えー、俺もうお仕事終わったし>

 蓮弥の見立てでは、魔族さえいなければ、そしてエルフの結界が維持され、攻撃に使う魔力が足りなくさえならなければ、なんとかエルフ達だけで防衛は成功する見立てだった。
 それでなくとも魔族との戦闘に入る前に、蓮弥が相当数減らしているし、自滅していった魔物の数も多い。
 犠牲者は確かに出るだろうが、総崩れになる事はないと思っていた。

 <報酬は出しますから! お願いしますから!>

 <報酬ねぇ……何くれるかによるねぇ>

 <何がいいんですか!? なんならナニでもいいですよ!? エルフの底力を思う存分味合わせて差し上げますよ!>

 <……肉食系金髪は間に合ってます>

 答えながら、蓮弥はちょっと自分の見立てが甘かっただろうかと首をかしげている。
 クロワールの念話は、報酬にシモネタを挟んでくる辺りまだまだ余裕なのかと思わせて、その実、なりふりかまっていられないと言う切羽詰ったものらしいと気づいたからだ。
 念話と言うものは、精神同士が直結するようなものなのか、話し相手の感情の揺れ等が結構ダイレクトに伝わってくる。

 <人使いの荒いエルフだなぁ……>

 <愚痴とかボヤキとか文句全般につきましては、私が責任を持って、後ほど全てお伺いしますから、早くお願いしますーっ!>

 ついに、泣きが入ったクロワールの念を聞きながら、蓮弥はほんの少しだけ歩みを早めてエルフの陣地へと戻っていく。
 結論を言えば、蓮弥が参入することで、エルフの陣地における防衛線は実にあっさりと天秤が傾いてエルフ達優勢になった。
 多数の魔物達は、軍の長であった魔族が倒された時点で逃げに移っていたし、蓮弥の目を盗んでエルフだけでも食べて帰ろう等と言うなかなかに根性の座った考え方をする魔物達も、エルフ達の徹底抗戦に攻めあぐねている所に、おっとり刀で蓮弥が駆けつければ、それ以上の交戦は死者が増えるだけだと嫌でも理解する。
 ただ、理解した時には既に遅く、最後までエルフ達に固執していた魔物達は斬られ、穿たれ、大地にその屍を晒す羽目となった。

 「し、死ぬかと思いました……」

 うっすらと空が明ける頃、ほとんどのエルフが疲労困憊で地面に座り込んでしまっている中で、やはり同じく座り込んでしまったクロワールが荒い息の下からそう言った。
 服のあちこちは破れたりしており、さらにあちこちに血の染みがついてしまって酷い有様を呈している。
 戦闘の終わり際には、結界を越えてきた魔物達と接近戦にもちこまれることが何度かあり、その度にクロワールと学校の生徒達が、近づいてきた魔物以上の数を投入して、随時撃退していたのだ。
 数の上では絶対に優位であったにせよ、学校の生徒達にとって魔物と直接武器を交えると言う経験はほとんど初めてのものであり、肉体的な疲労に加えて精神的な疲労が大きい。

 「そんな大袈裟な。大した事はなかっただろう? 魔族も俺が対処したんだし」

 誰も動こうとしない中で、一人元気なのは蓮弥だ。
 戦場となったエルフの結界が張られていた範囲に転がっている、まだ原型をとどめている魔物の死体をまとめて五つ六つと引きずってきては、手早く解体してから山と積む作業を延々と繰り返しているのだ。
 ゴブリンやオークからは、質は悪いものの一応魔石が採れる。
 オーガクラスになると、魔石の質もやや良いものとなるし、さらにオーガの角は素材として売ることができるらしいことをクロワールに教わった蓮弥は、ここぞとばかりに死体集めに走ったのだ。
 ちなみに、オーガの角は天日でよく干した後、すりつぶして粉にすると滋養強壮の薬の原料になるのだと言う。

 「2万対700ですよ!? 魔族抜きにしても、十分死ぬような戦だったと思うんですが」

 「十分な陣地に結界までつけて、しかも魔力切れの心配なしに魔術打ちまくれるような戦で死ぬような目と形容できるかなぁ?」

 随分と楽をさせてやったつもりなんだけど、と蓮弥が言えば、反論する気力も無くクロワールは黙り込む。
 確かに、蓮弥からの魔力供給が無ければ、もっと酷い戦になっていたことは間違いない。
 そもそも、あんな巨大な結界を形成することはできなかっただろうから、数の暴力に押しつぶされて、今頃オークの腹の下でひぃひぃ言っていたかもしれないことはクロワールも理解できる。
 それに比べれば、随分と楽をさせてもらった、と言っても過言ではないのだろう。

 「できれば二度とやりたくないです」

 「それはなんとも言えないな」

 そう言って笑う蓮弥のすぐ近くでは、フラウが一生懸命に穴を掘っている。
 エルフの兵士が、塹壕でも掘るつもりで持ってきたらしいものを借りてきて、一生懸命に地面に穴を掘っているのだが、一体なにに使うつもりなのか、クロワールにはさっぱり分からない。
 戦闘中、フラウもかなり兵士達に混じって働いていたのだが、全く疲労の色が見えない。
 そればかりか、黙々と掘り進む穴はかなりの広さになっており、いかにフラウが休まずに一心不乱に穴を掘り進めているのかが見てとれる。

 「取り合えずクロワールは一旦街に戻って薪と油を持ってきてくれ」

 「いいですけど。何に使うんです?」

 「結構原型の残ってる魔物の死体があるからなぁ」

 日の光が差し込み始めた戦場を見回しながら蓮弥が言う。

 「後処理をしなくてはなるまい?」

 「なるほどですね。すぐ手配します。それと兵士の中から軽傷の人を選んで手伝ってもらいましょう」

 「そりゃ助かるな、この後イベントもあるし」

 イベントと言う単語に、何かひっかかりを覚えたクロワールであったが、問いただすようなこともせずに蓮弥の手助けをする為の兵士の選定と、街から薪と油を運んでくる手はずを整えに行く。

 「フラウ、なんかこう火に強くて丈夫な紐みたいなのあるか?」

 「マスター、これを使うの。燃えないし、オーガが十匹で引っ張り合いしても切れないの」

 フラウが差し出したロープの束を蓮弥が受け取る。

 「そりゃすごいな」

 一連の作業を終え、街に一旦戻ったクロワールは蓮弥から頼まれた薪と油の手配をする間に、転送門の所で待機していたシオンとローナに事の顛末を話しに行った。
 蓮弥が無事だと聞いた二人に、クロワールは人族の大陸に、ここで起こったことと同じことが起こりうると言う情報を持ち帰ってほしいと頼みこんでククリカの街に戻ってもらっている。
 二人は確かにその通りだと、クロワールに蓮弥へ先に帰る旨の伝言を頼んで転送門を潜っていった。
 二人の背中をにこにこと見送ったクロワールは、荷物を荷車で引きながら蓮弥の所へと戻る。
 そこで蓮弥とフラウは妙な作業を行っていた。
 手伝いをしていた兵士達が、なんだか微妙な表情で見守る中、蓮弥が組んでいるのは太い木材を十字に組み合わせたものだった。
 クロワールが見る限り、どうやらかなりの太さの生木で組んでいるようだが、それで一体何をするつもりなのかが、全く見えてこない。

 「あの、レンヤ。薪と油を持ってきました」

 おそるおそる声をかければ、蓮弥がクロワールの存在に気がついたように顔を上げる。

 「ああ、お疲れ」

 「それと、シオンさんから伝言が。御無事なのが分かったので先に人族の大陸に戻られるとのことです」

 「そっか。そうだな。今回のことを報告しに行かなきゃいけないだろうしな」

 頷きつつも蓮弥は作業の手を止めない。
 十字の台を組み終えると、蓮弥は少し離れた所に転がしてあった黒い物体をずるずると引きずって来る。
 その物体に目をやったクロワールは息を飲んだ。
 土と血で汚れた薄紫色の髪。
 全身を黒鉄の鎧に包んでいるが、左腕の肘から先と、左足の膝から先が無い。
 その身体には背中の方から、大剣が根元まで突き刺さっており、クロワールはすぐに死体なのかと思ったのだが、しばらく見ていると虫の息ではあるがまだ生きていることが分かる。

 「そ、それってもしかして」

 「あ、うん。今回の首謀者っぽい魔族」

 引きずってきた魔族を十字の台の上に腹ばいになるように放り投げる。
 背中側から大剣が突き刺さっているので仰向けにできないのだ。
 そこから、背中の剣の柄を叩いて腹から突き出ている刃を十字の台に打ち込む。
 弱弱しい声が上がるが、蓮弥はそれを無視すると、十字の横の棒に両手を伸ばしてフラウから受け取ったロープで肘の辺りを縛りつけ、両足は縦の棒に揃えて膝の辺りをロープで結ぶ。
 これをフラウが一生懸命掘った穴の中心部に立ててやれば、変則的な磔台の完成となる。

 「よし、あとはこいつの足元に魔物の死体と薪と油を敷き詰めたら作業終了だ」

 にこやかに宣言する蓮弥に、多少引き気味のエルフの兵士達であったが、魔物の死体を処理しなければならないのは事実であるので、蓮弥が魔石を抜き取って積み上げていた山と、まだその辺に転がっている魔物の死体とを穴の中へ移動させる作業に取り掛かる。
 この頃になれば、体力を幾分回復した、戦闘に参加した大半の者が作業に参加するようになり、人海戦術にて、魔物の死体は急ピッチでフラウが掘りあげた穴に積み重ねられていく。
 足元、と蓮弥は言ったが、出来上がった山はしっかりと魔族の胸の辺りまでを埋めるような高さになってしまっている。

 「貴様ら……こんなことをして……ただで済むと……」

 「クロワール、面倒だからさっさと着火しちゃってくれるか?」

 「え、私がですか?」

 切れ切れに聞こえる魔族の声を無視して、蓮弥がクロワールにそう言うと、クロワールは意外そうな表情で尋ね返してきた。

 「まぁエルフなら、誰でもいいんだが。砦のエルフ達の仇討ちって意味合いもあるし……それに中々魔族を焼き討ちにするって経験はできないと思うんだよな」

 「それもそうですね……では」

 他のエルフの兵士達が見守る中、一歩進み出たクロワールは声を張り上げて魔族に言う。

 「魔族よ! これは貴方が無残に殺した砦の者達の報復の炎です! 存分に味わってから地獄へ落ちなさい!」

 「や……やめ……ろっ!」

 魔族の制止の声には聞く耳も持たず、クロワールは<着火>の魔術を行使する。
 たっぷりと油の振りかけられたその山は、すぐに赤い炎を上げて轟々と燃え上がり始める。
 積み上げられた山の中で、唯一息のあった魔族が生きたまま焼かれると言う苦痛に悲鳴を上げる。
 なまじ生物として強靭であるが故に、魔族が絶命するまでは相当な時間焼かれ続けることだろう。
 その光景を、エルフ達が様々な思いを胸に見守る中、蓮弥とフラウだけが通常運行状態だった。

 「あー、終わった終わった。報酬に何もらおうかね?」

 「お金になるものとか、おいしそうなものとかが良いとフラウは思うの!」

 ちょっと黙っててくれないかなぁと、燃え上がる炎に立ち込める黒煙を眺め、そこに混じる魔族の絶叫を耳にしながら、思うクロワールであった。
このお話の作者は皆様の声援を燃料に、稼動しております。
ご意見ご感想は常にお待ちしております。

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