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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

勇者降臨のようなもの

交渉開始らしい

 景気良く、ブレスを一発ぶちかまして聖都の城のど真ん中に降り立ったまでは良かった、と蓮弥は思う。
 問題はその後である。
 国王を出せと凄んでは見たものの、一向にその国王とやらが出てくる気配が無い。
 しかも蓮弥は聖王国の国王の顔を知らない。
 これでは自分で探しに行くこともできない。
 ただただ時間が過ぎ去っていき、ひたすら聖王国の兵士達の震える剣先や槍の穂先やら、怯えた視線やらを向けられ続けると言う苦行に、蓮弥もだんだんと飽き始めていく。
 足元のエメラルドドラゴンに至っては、さっさと地面に丸くうずくまり、目を細めて事の次第をどこか楽しそうに見るだけになっていた。
 威圧という点ではその時点においてすでに皆無になっていたが、それでも一番最初に見せられたブレスの威力が目や頭から離れてくれないのか、襲い掛かってこようとする勇気のある兵士はいない。

 「き、貴様一体何者だっ!?」

 ある程度骨のある兵士は、蓮弥の正体を確かめようとして離れたところから声をかける。
 蓮弥はそれに対して、面倒臭そうに答えた。

 「王が来たら話すよ」

 「貴様のような怪しい奴に、王が直接お会いになることなどない!」

 「それは困ったね」

 あまり困っていないような蓮弥の言葉。
 それを感じ取ってなのかドラゴンが、くぁと大きくあくびをする。
 随分と可愛らしいあくびをするのだなと思った蓮弥だったが、周囲からしてみればドラゴンが大きく口を開いただけで恐怖の的だ。
 我先にと慌てて逃げ出そうとして、こんがらがってしまっている一団などが見える。

 「俺としては別に、出てこなくてもいいんだがね」

 そう言いながら蓮弥はドラゴンの身体をぽんぽんとたたき、その注意を引いてから都市の外縁部である壁の何箇所かを指差す。
 それだけでドラゴンは何をどうしたらいいのか理解したらしい。
 頭をもたげたドラゴンの、口から再度緑色の光が漏れ出す。

 「まさかっ、や、やめろっ!」

 誰かの叫びに応じるように、緑の閃光が夜空を切り裂く。
 着弾したブレスが巻き起こす光の柱が、外壁をまるで砂糖菓子のように脆く崩れさせていった。
 外壁を形作っていた石材が、崩れていく轟音の中で蓮弥はなんでもないことを告げるような口調でいった。

 「国王が出てくるまで、地道にこの街を削っていくからそのつもりで。最悪、出てこなくとも丸裸にしておけば攻めやすいしな」

 街が大きいので外壁も長い。
 これはまた崩し甲斐があるなと思う蓮弥と、何故か目をキラキラとさせたドラゴンの視線が合う。
 その反応は予想外だったのか、蓮弥がわずかに身を引くが、引いた分だけドラゴンの頭が蓮弥を追いかける。
 この反応から察するに、どうやらこのドラゴンはもっとブレスを吐いて物を壊したいらしい。
 ドラゴンと言うものは、潜在的にでも破壊願望でもあるんだろうかと蓮弥は首を傾げる。
 思念で会話した限りでは、ドラゴンと言うのはもうちょっと理性的な感じがしていたのだが、どうにもこの破壊すると言う行動に関してのみは、欲望がストレートに発揮されるようであった。

 「出てくるなら早い方がいいぞ。どうもこいつ、外壁を壊したくて壊したくて仕方ないらしいからな。いつまでおあずけできるかわかったものじゃない」

 「ワシに何の用か」

 蓮弥とドラゴンとを遠巻きにしている人壁を割って、姿を現したのはどうも慌てて正装を着込んだらしい聖王国の国王であった。
 あまりに慌てたせいなのか、服のあちこちがしわくちゃになってしまっている。
 蓮弥は初めて、聖王国の国王の姿をまじまじと見たのだが、あまり威厳の有る人物には見えない。
 背丈は蓮弥に比べると頭二つほど低いし、身体つきも戦いに赴くようながっしりとしたものではなく、ひょろっとしているように蓮弥には見えた。
 そして何より問題は。

 <なぁエメドラ。この王様の名前知ってる?>

 <エメドラとは私のことか……いや知らぬ。人族の国家の主など私達にとってはどうでもいい存在でしかない>

 <どうでもいいか……覚えていても仕方無さそうな情報だし>

 「黙っていては分からぬ。ワシに用なのかと尋ねている」

 「聖王国、国王で間違いないか?」

 ドラゴンの背から降りようともせずに、逆に尋ね返す蓮弥。
 それはもちろん一国の王を相手にする時の態度では無かったが、蓮弥の頭の中では目の前で偉そうにしているおっさんは、敵であり斬らずに済ませている段階で、必要以上の敬意は払っていると思っている。
 本来ならば、戦時中で敵の親玉なのだから、無言で切り捨てても良いはずなのだ。
 そこを斬らずに済ませて、話をしようとしているのだから褒められてこそけなされる謂れはない。

 「いかにも、ワシが聖王国国王、第24代……」

 「あぁ、名乗りはどうでもいい。お前の名前なんぞ覚えておくだけ無駄だしな」

 名乗りを上げようとした国王の、言葉を遮って蓮弥が言う。
 国王はいきなり名乗りを止められて、不快そうではあったが蓮弥からしてみれば話す相手が国王だとだけ分かれば良いのであって、名乗りまで求めていない。

 「では聖王国国王に問う。此度のトライデン公国への出陣、誠に彼の国が魔族に与したものと思ってのことか?」

 「さ、左様。これは勇者と神の名の下に、告げられた真実である」

 「ほぅ?」

 蓮弥が左手を腰に吊るしている刀に添える。
 わずかに親指で鍔を押し、鯉口を切ればわずかにのぞいた刀身が、少ない灯りを照り返して光った。
 その光に貫かれたように、王が数歩後ずさる。

 「その真実とやら、貴様も信じているのだな?」

 「む……無論である」

 これは斬る以外ないな、と蓮弥は思った。
 お前は敵なのだろうかと言う問いかけに敵であると答えているのだ。
 議論の余地なく、ここで斬り捨てて黙らせる以外の選択肢が無い。
 そんな思いが表情に出ていたのか、蓮弥と目を合わせた国王が短く悲鳴を上げてその場に座り込んでしまう。
 そんな王を助け起こして逃がそうとする兵士達も、蓮弥が国王に向けている殺気の余波だけで、足が震えて思うように動けなくなる。
 そしてさらに、蓮弥が乗っている足元のドラゴンの身体も震えだしていた。

 「っておい。なんでお前が怯えてる」

 <いや、これは……聞いてはいたのだが……無関係のはずなのに震えが来るとは>

 「し、しかしであるっ!」

 半ば悲鳴のような王の言葉に、足元のドラゴンを見ていた蓮弥がじろりと王を睨んだ。
 腰は砕け、足は思うように動かすことが出来ず、這いずって蓮弥から離れようにも腕もきちんと言うことを聞いてくれない状況下で、国王は必死に頭を回転させて、言うべき言葉を探す。
 それを探しきらなくては、おそらく自分はこの場この時において、明日の朝日を拝むことなく血溜まりに沈められることになるだろうと察したからだ。

 「トライデン公国は古くより、人族の大陸における魔族や魔物からの防波堤の役目を負ってきた国。それが易々と魔族に与するなど、考えにくいことではあるっ!」

 「それで?」

 「それ以上は……言えぬ!。言えばこの身は勇者に逆らい、神の言葉を信じなかった不信心者として教会からも追放されかねん。聖王国全ての民の上に立つ者として、それは聖王国国王としては出来ぬ話なのだ!」

 なんだかぱっと聞いただけならばカッコイイ事を言っているように聞こえなくも無いが、実際は勇者と教会に逆らうのが怖いので、その言う通りにする以外ないんですと言う、どうにも情けない類の告白だ。
 それでもまぁ為政者と言うものは、大なり小なりそんなものだろうと理解できなくもない話ではある。

 「では、もしもの話をしようか?」

 「なに?」

 僅かに抜きかけた刃を鞘へと戻し、穏やかに話しかけた蓮弥。
 刃が鞘へ納まると同時に、撒き散らしていた殺気も雲散霧消していた。

 「もしも。今トライデン公国に侵攻している勇者が、この世界からいなくなったのであれば。前言を翻すと言うことはありえるのか?」

 「それは……」

 国王は返事に困ったように言葉に詰まった。
 ドラゴンの上から見下ろす蓮弥を見上げ、周囲に視線を走らせて、落ち着かなくみじろぎしつつ、なんと答えたらいいものかを思案しているように見える。
 国王からしてみれば、本当はすぐにでも頷きたい所なのだろう。
 しかしそれは勇者を見捨ててしまうことであり、現状まだ勇者が健在である状態で口に出来るような言葉ではない。
 それに尋ねた蓮弥が確実に勇者を仕留められるのだろうかという疑問もあるのだろう。
 この期に及んでまだ、保身を一番に考えている所は非常に見苦しいと言えるが、人としては正しい思考回路を持っていると言えなくも無い。

 「提案だ。勇者と、勇者と一緒に侵攻しに行った10万の兵について諦めろ」

 「なんだ、と……!」

 蓮弥の言葉には王のみならず周囲の兵士達もざわつきだした。
 そのざわつきには構わずに、蓮弥は続ける。

 「その様子では、引き戻せと言っても無理だろう?」

 「う……むぅ」

 「引き戻せる兵があるのならば、そこは見逃すからさっさと引き戻せ。奴らがトライデン公国の首都に到着した時点から先は、何人死のうが知ったことじゃないからな」

 できれば大半の兵にそのまま引いてほしい蓮弥ではあるが、それをそのまま口にすれば舐められる怖れがある。
 最悪、首都に到着した後の戦闘から逃げた兵士も逃げるがままにしておくつもりではあったが、それも口にすることはできない。
 口にしてしまえば首都まで進んでいる間のどこかで決めればいいか、と思われてしまうからだ。
 兵士達が侵攻状態を保持し続ければし続ける程に、トライデン公国が受ける被害は増えていく一方なのだ。
 可能な限りさっさと領内から出て行って欲しいのだが、既に被害らしきものも発生しているはずだ。
 トライデン公国側とて、攻められた被害者感情と言うものがある。
 そう言った物の為に、ある程度はイケニエに上がってもらう以外ないだろうなとは蓮弥も思っている。
 もちろん、筆頭はこんなバカ騒ぎを先導した、あの勇者様なのではあるが。

 「勇者だけはきっちりと、帰って来れないようにする。それが終わり次第、貴様の名前でトライデン公国に関する通達は無効とし、全てはあの妄執に取り付かれた勇者が発端である。しかしその勇者の悪行を止め切れなかったことは聖王国にも責があるとして、今回参加の各国への賠償を行う、と宣言しろ」

 「賠償……」

 国王の顔が青褪めていくのが、薄暗がりの中でもはっきりと蓮弥には分かった。
 連合軍10万のうち、聖王国以外の国が拠出している兵力は半数の5万だ。
 このうちどのくらい引き戻せて、どのくらいが首都まで来てしまい、そしてどのくらいがそこで死ぬのかは蓮弥と言えども予想することはできなかったが、中途半端な数になることだけは無いだろと思っている。
 そんな数の兵士に対する賠償と言うものは、どれだけの金額に及ぶことになるというのか。
 聖王国の屋台骨が傾く事はないとしても、相当な痛手であることは間違いないだろうと蓮弥は踏んでいる。
 その痛手が元で聖王国が弱体化してくれるならばそれはそれで良しとし、そうでないとしてもその賠償のせいで落ちる国力を元の水準に戻すまでくらいは大人しくしているだろう。
 そう考えての提案であった。

 「嫌ならそう言ってくれ。何もこちらとて手加減をしたいわけじゃないんだ。10万の兵士も、お前達も。根こそぎ斬って聖王国自体を更地にしてしまえばいい。あとはゆっくりと他の国への補填の相談をするさ」

 聖王国が保有している資産全てを補填に回せば、どうとでもなるだろうからなと蓮弥が笑うと、国王のみならず周囲にいる兵士達までが面白いように青褪めた。

 「さて、どうするかね? 拒否した場合はまずこの場から始めるが」

 尋ねる蓮弥と、その足元で威嚇するようにその場に居合わせた者達を睥睨するドラゴン。
 国王以下、その場に居合わせた者達は他に選択の余地も無いとばかりに、首を縦に振って蓮弥の意志に沿うことを了承するのだった。
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