Financial Times

あまり自由でない国・アメリカ自由を尊ぶ文化と細部に至るまで規制したがる衝動

2014.04.30(水)  Financial Times

(2014年4月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

公共交通機関での電子たばこ使用が禁止に、スイス

電子たばこは禁煙を手助けする道具なのに・・・〔AFPBB News

米国は自由の国であり勇者の祖国――。この国の国歌ではそううたわれているが、いつもそう感じられるわけではない。

 米食品医薬品局(FDA)は先週、電子たばこを通常のたばこと同様に規制する方針を打ち出した。電子たばこが通常のたばこに手を伸ばすきっかけになるという証拠などないにもかかわらず、だ。実際はその逆で、電子たばこは禁煙を手助けする道具なのだ。

電子たばこもダメ、炭酸飲料もダメ、カフェイン禁止も時間の問題か?

 シカゴ、ボストン、ロサンゼルスの当局はさらに一歩踏み込み、公共の場での電子たばこの使用を禁止している。電子たばこから出る蒸気が使用者やその周囲の人々に害を及ぼすという証拠はない。どうやら、電子たばこを吸う姿が見えるだけで十分に不快であるようだ。

 米国はこれまでもずっと、自由を求める衝動と、干渉せずにはいられないというカルヴァン主義的な衝動との間で揺れ動いてきた。21世紀に入って、この振り子は干渉する方に戻りつつある。職場の安全においても、交通や公衆衛生、社会行動といった分野においても、細部に至るまで規制したいという衝動が少しずつ強まっている様子が見受けられる。

 米国と言えば、広い大地の真ん中を通る道路をオートバイで走って自由を満喫できる国というイメージがあるが、今日では地方レベルや連邦レベルの法規制がクモの巣のように張り巡らされている。例えば、かっこいい自転車にヘルメットを着けずに乗ったり、飼い犬を放したり、海岸で缶ビールのふたを開けたりすることを禁止する条令が米国には存在する。

 ニューヨーク市は16オンス(約470ミリリットル)の炭酸飲料水を禁止しようとしている。ラーム・エマニュエル氏が市長を務めるシカゴでは、シンガポールのリー・クアンユー氏も場違いな思いをせずに済むだろう。砂糖は新種のたばこだ*1などという声も上がっている。これでは、カフェインがやり玉に挙がるのも時間の問題だろう。

 保護と支配がセットになっているパターナリズム(父親的温情主義)が流行しているのは、周りの基準に従う傾向が強まっているためだ。

 まず、一方には基準に合わせたいと思う人たちがいる。大恐慌と第2次世界大戦から3世代以上、ベトナム戦争からもほぼ2世代に相当する月日が流れ、かつての生活がいかにつらくて厳しいものだったかを覚えている米国人はほとんどいなくなった。倹約とか、荒波を乗り越えてといった言葉は、日々の会話では使われなくなっている。

壊れやすい「ティーカップ学生」と不寛容になった社会

 人々が危ないと認識するものの数は急増しており、その一方で、人々が挫折や逆境に耐える力は低下している。大学関係者の間では、「ティーカップ学生」という言葉がささやかれている。とても脆弱で、簡単に傷ついたり壊れたりしてしまうという意味だ。

 学部の1年生は、凡庸な成績で合格点をもらうことに高校で慣れてしまっているために、正確な採点を目にした時のショックに対応できないケースが多い。米国の大学生の半分近くは、4年で取得するはずの学位を6年かけても手にできないという。

*1=たばこと同じくらい危険だという意味

 他方には、基準に合わせてほしいと望む向きがある。労…
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