thumbnail こんにちは,

再び92年組に託されたユナイテッド

『The Class of '92』DVD版のボーナスコンテンツの中で、ディレクターのゲイブ・ターナーとベン・ターナーはこの映画の製作意図について、主題としてノスタルジックなものとなるのは当然だとしても、同時に人生におけるある段階を終えて次の段階へ移ろうとしている6人の男の現在の姿を捉えたかったとも話していた。映画の公開から5カ月も経っていない現在、この6人のうち4人の姿が再びオールド・トラフォードのベンチにあるのは、まるでこの映画の予想外のエピソードのようだ。監督のライアン・ギグス、アシスタントのニッキー・バット、コーチのポール・スコールズとフィル・ネヴィル。少なくとも4試合の間は、「シアター・オブ・ドリームズ」はまた夢を見せてくれる。

ギグス自身は、周囲の声が期待する役割を完璧に演じてみせた。過去1週間の出来事の慌ただしさに追われている様子も多少はあったが、それでも自然体で自信を感じさせたマンチェスター・ユナイテッドの新たな暫定監督は、金曜日に臨んだ初の記者会見でまずは初めてのコーチ経験を積ませてくれたデイビッド・モイーズに感謝。その直後には、モイーズの率いた10カ月の記憶を綺麗に消し去ってしまうことが彼の最初の任務であると示唆した。攻撃的なサッカー、ウイングのスピードあるプレー、プレーヤーとサポーターの表情に笑顔を取り戻させることも。キャリントンの練習場は一転して幸福なムードに包まれ、ある新聞によれば再びリーグ優勝を果たしたかのような様子だったという。監督になったチャンスを生かして自分自身に選手としての5年契約を提示した、というギグスのユーモラスな発言にもそれが反映されていた。試合にはスーツ姿で臨むのか、それともトラックスーツなのか? 「もう少し待てば分かるさ」と彼は微笑んでいた。

その24時間後、自分自身を18名のベンチ入りメンバーに含めたいという誘惑に打ち勝ったギグスは、クラブの公式スーツを身にまとってスタジアムの通路から堂々と歩み出てきた。マンチェスター市の紋章が縫いつけられた黒のジャケットに、白と黒の細縞が入った赤いタイ。10代半ばの頃から着こなしてきた似合いの姿である。彼も選手たちも、十分に気合いが入っていた。

ノリッジ・シティとの試合開始からわずか7分、ギグスはテクニカルエリアから飛び出し、リー・プロバート主審に何がしかのアドバイスを提供する。彼が今でも意味ありげに「監督」と呼ぶサー・アレックス・ファーガソンの下で長い修行期間を過ごしてきたことを思い出させる振る舞いだった。序盤はカナリーズの気持ちの入った守備を崩すのに苦戦していたが、41分にウェイン・ルーニーがPKを決めて楽になったユナイテッドは、後半に入ると4-0と突き放して勝利を飾った。フアン・マタを先発から外す決断のため前夜はよく眠れなかったというギグスだが、そのマタの「凄まじい、超一級」の活躍を称賛することを忘れず、勝利を喜ぶサポーターに向けても「自分の身長が10フィートあるように」感じさせてくれたと感謝を述べた。

解任の引き金となったエヴァートン戦に敗れる前の2試合のリーグ戦で4-1、4-0の勝利を収めていた身長6フィート1インチのモイーズには、ある種の同情を感じざるを得ない部分もある。監督とフォーメーションの変更によって、ユナイテッドが一夜にしてトップチームに変貌したわけではない。土曜日の試合でも、0-0の時点での気力をそがれるような雰囲気の中での苦戦がそれを示していた。結局のところ、「ハードワークと誠実な姿勢」を持って仕事に臨んでいた元グディソン・パークの指揮官には、もう少し違った扱いを受ける資格もあったはずだ。だが彼は先週月曜日、北西部の新聞各紙に自分が解任の瀬戸際に立たされているという情報がリークされるのを目にした上で、翌朝正式にそれを伝えられるという目に遭わされることになった。

とはいえモイーズは、その1年足らずの任期を通して、結局はボールドスタイルの黒いスーツと明るい赤のタイの組み合わせが似合うようにはならなかった。金曜日に51歳の誕生日を迎えた彼の監督就任が昨年夏に正式に発表されたときには、ペールグレーのスーツに白とグレーのタイという姿だった。彼がマンチェスターに持ってきたワードローブのほとんどは、抑えめなグレーとブルーの色合いから大きく離れるものではなかった。シーズン序盤に身につけた唯一の赤系統のネクタイも、等幅のネイビーとのストライプ柄。彼には保守的なスタイルの方が似合っているようだった。もちろんこれは視覚的なメタファーでしかない。だが、情熱的ではあるが束の間の情事となりそうなジョゼ・モウリーニョとの関係との二者択一の結果として、賢明な長期的選択として条件を満たしていると思われたモイーズではあるが、ユナイテッドの美的感覚に適した監督ではないのではないかとの警告は早い段階から発せられていた。

昨シーズンの『ガーディアン』による「フットボール・ウィークリー」ポッドキャストの中で話が本題から逸れた際に、「プレミアリーグで最も喧嘩したくない監督」に選ばれたモイーズだが、就任初日には畏敬の念に打たれた様子で、これほどのビッグクラブを率いるチャンスへの感謝の思いでそれを抑えているようだった。そうなるのも理解はできたが、メダルに溢れるドレッシングルームで支配的な存在感を見せていかなければならない彼は、すぐにそれを乗り越える必要があった。だが、ピッチ上での序盤戦の苦戦が長引いていく中で、モイーズが状況をコントロールできるような自信を持った監督に見えることは一度もなかったし、自分自身の立場に満足しているようにも見えなかった。

今となっては信じがたく思えることだが、リーグ戦19試合を戦い終えて2013年が2014年に変わる時点で、ユナイテッドは現在の首位であるリヴァプールとわずか2ポイント差だった。敵地でのハル・シティ戦で劇的な反撃を見せ、フアン・マタの加入が迫り、監督自身にもシーズン後半戦に強さを見せてきた過去があることを考えれば、モイーズがこのチームで何を意図しているかがより明確に見えてくるのではないかと期待する理由はあった。だが、そこから見えてきたサインはネガティブなものへと変わっていく一方だった。

81本のクロスを数えたフラム戦では、マタは一体何の事態に巻き込まれているのかと自問したに違いない。2-1と逆転に成功すると、彼の新たな指揮官は溜め込んだ鬱憤を解き放ったが、すぐにダレン・ベントの同点ゴールで倍返しにされてしまった。その1カ月後にリヴァプールをオールド・トラフォードに迎えると、モイーズは対戦相手が格上であることを認めていた。この試合とマンチェスター・シティ戦にいずれも0-3で敗れると、ファーガソンの「騒がしい隣人」だったチームは、その後継者にとって「憧れるようなレベル」のチームだということになっていた。

低調な結果もあったが、それ以上にモイーズをクラブの出口へと向かわせたのはこの姿勢だった。ファーガソンの後を継がなければならないことで、この仕事は「毒杯」になってしまったという認識があった。ギャリー・リネカーも言っていたように、「マンチェスター・ユナイテッドで監督の仕事をするならサー・アレックスの次の次がいい」ということだ。一方でジャンルカ・ヴィアッリが2月に『BBCラジオ4』で、「イタリアならデイビッド・モイーズはもう3回はクビになっている」と述べたのは、オールド・トラフォード首脳陣の理解ある姿勢への称賛を込めてのことだった。このコラムでも5週間前に指摘したように、ユナイテッドの監督という仕事の性質そのものが、クラブのオーナーたちとエド・ウッドワードCEOが新監督に十分な時間を与えようとする決意を表していた。彼らは決してモイーズを解任したいと望んではいなかった。

サポーターも「選ばれし者」への支持を共有し、「我々全員がデイビッド・モイーズを支える」と歌っていた。その信頼が徐々に薄れていったときでさえ、彼らはそんな素振りを見せようとはしなかった。「あの」飛行機をチャーターした者たちは、ストレットフォード・エンドでブーイングに包まれていた。メディアは彼が早期に解任されることはないと考えていたし、ユナイテッドにそうすることも要求していなかった。そういった意味でモイーズの労働環境は、同規模の他クラブで同じような結果を出した場合に経験することになっていたであろうものと比較すれば、かなり好意的で寛大なものだというのが実際のところだった。

今季リーグ戦で11度目の不甲斐ない敗戦を喫した試合の中で、ユナイテッドはかつて持ち味として知られたようなビハインドを背負ってからの反撃を繰り出せそうにはまったく見えなかった。試合後のモイーズは今回も、自分のチームがいかに良いプレーをしていたと思えるかを主張する唯一の人物だった。ここに至るまでに、試合と同じくらい陰鬱なトレーニングは選手たちから日々の「生きる歓び」を奪い去っており、彼らの監督への支持も失わせてしまうという致命的な事態を生み出していた。リヴァプールにおけるロイ・ホジソンと同じように、モイーズはビッグクラブにおいて課されるスタイルと実効性両面の要求を読み違えていたのではないかと感じられる。昨シーズンのリヴァプールのブレンダン・ロジャースとは異なり、たとえ目の前の結果に乏しくとも計画に基づいたチームが丁寧に構築されている、という感覚はほとんどなかった。ユナイテッド首脳陣が初めて懸念の重大性について議論したのはオリンピアコスに0-2で敗れたときだ。チャンピオンズリーグへの復帰が不可能になると、避けられなかった決断が下された。

真に偉大なクラブというものは、自分たちのやり方で試合を戦わねばならない。モイーズは自分自身とギグスの間に距離を広げることを許してしまい、チームがテレビの生放送でスコールズに批判されるという状況も招いた。92年組が持つ経験や精神、そして妥協なく優位性を求める姿勢をうまく利用していくことがオールド・トラフォードにおける次の正式な監督の最初の仕事になるだろう。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季も毎週火曜日午後10時よりJスポーツ2『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley

関連