営業として客がダンスを踊れるようにしているなら、規制の対象とする。こんな時代遅れを残す現在の風俗営業法は、抜本的に見直した方がいい。

 警察は近年、公安委員会の許可を得ずに客を踊らせていたクラブを次々に摘発してきた。騒音や暴力などで近隣からの苦情が続出したことが背景にある。

 だが大阪地裁は、無許可営業していたとして、風営法違反の罪に問われた大阪のクラブの元経営者に無罪を言い渡した。

 判決は、風営法の規制目的は性風俗にかかわる問題の防止にあり、騒音や暴力、薬物への懸念ではない、と明示した。風営法をたてにクラブに幅広い網をかけようとした捜査のあり方は反省を迫られる。

 1948年に制定された風営法がダンスを規制の指標にしたのは、戦前のダンスホールが売春の温床にもなった時代背景があったとされる。

 裁判で検察側は「男女の享楽的な雰囲気を過度にかもし出す」かどうかが、違法と判断する基準だ、と主張した。

 ただこの裁判のケースでは、男女の客は触れ合ってもいなかったのに、大阪府警は摘発に踏み切った。結局のところ、違法の線引きは捜査側の裁量に委ねられ、あまりに判断基準があいまい過ぎる。

 「どんな行為が犯罪かは明確でなければならない」という罪刑法定主義の考えにはとてもそぐわない。

 ダンスは身体の動きが表現の手段である。言うまでもなく、憲法が保障した表現の自由を最大限に享受すべきである。判決は風営法の規制自体は合憲としたが、自由への制約は、できる限り小さくすべきであろう。

 ヒップホップ、レゲエ、サルサ……。世界各地のさまざまなダンスを若者が楽しむ。男女が触れ合うペアダンスも、高齢者に人気を集める時代だ。ダンスを、風俗を乱す指標とみる考え方に、もはや合理性はない。

 一連の摘発をきっかけに、文化人らの呼びかけで風営法改正を求める運動が高まった。超党派の国会議員連盟も今国会に改正案を出す構えだ。判決を機に、議論を加速させたい。

 むろん、自由に踊れる環境をつくるには、周囲の理解が欠かせない。この点への気配りをおろそかにしたクラブもあったことが、近隣住民が不安を強めた要因である。

 暴力や薬物などの犯罪の排除に進んで乗り出す。業界は自由を享受する一方で、自主、自律で努力を重ね、信頼を広げていく責任もある。