地方発 ドキュメンタリー「そして社長は給料を上げた〜中小企業とアベノミクス〜」 2014.04.29

4月12日安倍総理大臣が主催した桜を見る会。
この場で安倍総理大臣が語り始めたのは…。
お粗末でありました。
政府による異例の賃上げ要請も行われた今年の春闘。
トヨタ自動車で月給1万円のアップなど大手企業が次々と大幅な賃上げを実現。
その流れは働く人の7割が勤める中小企業にも波及しました。
平均賃上げ額は4,651円とここ数年にない高水準です。
しかし中小企業の賃上げの多くは社長たちの苦渋の決断によってもたらされたものでした。
円安が進んだため原材料費やガソリン代が上がり中小企業の経営環境は苦しくなる一方です。
それでもこの春は賃上げをしなければ会社が更に追い込まれる状況に陥っていました。
社長たちはなぜどのように賃上げを決めたのか。
その先に待ち受けるものは何なのか。
賃上げの春。
中小企業の社長たちの決断を見つめました。
トヨタ自動車の本社から車で30分の愛知県大府市です。
自動車部品などを作る中小企業が集積しそのほとんどが下請け仕事をしています。
私たちが取材を始めた2月初旬この町の社長たちは賃上げについて消極的な姿勢を示していました。
正社員40人のプラスチック部品メーカーの…日高さんもこの春会社には賃上げをする余裕はないと考えていました。
この会社では自動車や家電製品などの部品を作っていますがこの5年売り上げが減り続けているからです。
技術力をつけた韓国や中国のメーカーとの価格競争が激化し部品の納入価格が下がり続けているのです。
納入先企業との価格交渉の窓口を務めています。
この日受注を目指す部品の見積もりを出しましたが納入先からは大幅な値引きを求められました。
こんなもんか。
海外メーカーならもっと安くできると言われてしまうため強気の姿勢には出られません。
結局今回も利益がほとんど出ない安い価格で引き受けざるをえませんでした。
会社の儲けが増えない中…多くの社員が食費や娯楽費を切り詰めています。
昼食は外食よりも330円の仕出し弁当が人気です。
特に厳しいのが管理職の課長たちです。
給料は一般職と違って残業代がつかない固定給です。
ボーナスの額が下がった事もあり年収が100万円以上減った人もいます。
営業課長の山田さんもマンション購入に充てた35年間のローンを抱えています。
どっかからそれを用意してとか。
会社には6年前まで60人の正社員がいました。
しかし収入が減っていく中で1/3が辞めていきました。
2人いた部長が会社を去りそのポストは空席のままです。
残った社員は効率よく働く事が求められています。
工場では1人で2つ以上の仕事を任される事が増えていました。
この日トラブルが起きました。
複数の機械を掛け持ちしていた社員が金型を傷つけてしまったのです。
部品は夜10時までに納入しなければなりません。
6時間後に迫っていました。
(山田)はい分かりました。
社外との交渉を任されている営業課長の山田さんが金型を修理してくれる会社を探す事になりました。
電話をかけ続けてようやく1軒の会社が見つかりました。
あっホント?どれぐらいかかるんやろ。
夜7時修理を終えた金型が戻ってきました。
プラスチック部品の製造が再開できました。
期限の間際になってなんとか部品を発送する事ができました。
こうした現場のミスは山田さんたち課長がカバーするのが日常になっていました。
毎日のように夜遅くまで働いても残業代は出ません。
課長として会社の置かれている状況は理解していても割り切れない思いが募っていました。
言っちゃあれなんですけど…会社を守るために人件費を抑えるという判断を下してきた社長の日高さん。
しかしこのまま社員に我慢を求め続ける事で道を切り開いていけるのか迷い始めていました。
最後まで頑張ろう!
(一同)オ〜!頑張ろう!この春大手企業の間では賃上げの機運が高まっていました。
トヨタ自動車の労働組合は5年ぶりに基本給のベースアップベアを要求しました。
トヨタの昨年度の営業利益は過去最高を更新する見通しです。
安倍政権が発足してから一気に進んだ円安で自動車の輸出や海外事業の儲けが膨らんだのです。
政府は儲けが増えた企業に対して従業員に賃金として還元するよう求めてきました。
企業と労働組合の代表者を集めた政労使会議を設置。
異例の賃上げ要請を繰り返したのです。
政府が賃上げを要請した理由。
それは安倍政権の経済政策アベノミクスで目指す経済の好循環を実現するためです。
大規模な金融緩和などで円安が進み自動車や電機など輸出や海外事業で稼ぐ大手企業の業績は回復しました。
そこで今度は企業で働く労働者の賃金を増やしそれによって消費が活発になり再び企業が儲ける好循環を作り出そうというのです。
国や経済界を挙げて賃上げの動きが広がる中で判断を変える事になった社長がいます。
愛知県大府市にある自動車部品メーカーの社長…大手企業の労働組合が次々と強気の要求をした3月上旬野村さんの会社でも労働組合との賃上げ交渉が始まりました。
組合の要求は月給の3%分にあたる平均6,000円です。
消費税の増税に合わせて毎月の給料を上げてほしいというものでした。
これに対して野村さんは月給のアップではなく一時金つまりボーナスの支給で応えようと考えていました。
この会社の正社員は140人。
トヨタ自動車のシートの部品を作っています。
部品は100%トヨタの部品メーカーに納入します。
部品メーカーはシートにしてトヨタ自動車に納めます。
野村さんの会社はいわゆる2次部品メーカーの一つです。
これまで安定して利益を出してきました。
しかし円安で原材料費やガソリン代が上がり始め会社の儲けは少なくなってきました。
更に4月からは電気料金も値上げされ経営はますます苦しくなります。
毎月の給料アップに慎重だった野村さん。
ところがその考えを揺るがす事態が起こります。
トヨタ自動車の春闘が大幅な賃上げで決着したのです。
ベアと定期昇給を合わせて1万円。
21年ぶりの大台突破でした。
トヨタの部品メーカーでも次々と賃上げが実現。
デンソーやアイシン精機トヨタ紡織などが毎月の給料を引き上げました。
自動車部品メーカーの間で賃上げの動きが広がる事についてはトヨタの豊田章男社長も期待を示していました。
そして3月中旬野村さんのもとにトヨタの部品メーカーから異例の知らせが届きました。
部品を納入する際の値下げ率を4月から抑えてくれるというのです。
野村さんの会社では部品メーカーから仕事をもらう代わりに毎年納入価格の値下げに協力してきました。
常に前の年より安く仕事を引き受けてきたのです。
ところが今年はその値下げ率が例年の半分でいい事になったのです。
会社の利益は予定よりも増える事になります。
皆さんおはようございます!
(一同)おはようございます。
野村さんは月給アップを決断しました。
(野村)おはようございます。
(一同)おはようございます!毎月の給料を6,000円上げるという組合への満額回答です。
先行きが見通せない中での毎月の給料アップ。
トヨタの2次部品メーカーの社長野村さんが選んだ道でした。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
プラスチック部品メーカーの社長日高章さんです。
大手企業に続いて中小企業の一部でも賃上げを決める会社が出てくる中日高さんも給料を上げて社員に応えたいと思い始めていました。
賃上げのために利益をどう増やしていくか。
日高さんは幹部社員に対して会社の実情を伝える事から始めました。
山田さんが課長を務める営業課では納入先との取り引きで少しでも儲けを増やせないか交渉する事になりました。
日高さんの会社はトヨタや日産など大手メーカーと強い結び付きはありません。
国内や海外のライバル企業とコストダウンの競争をしながらさまざまなメーカーの仕事を受注してきました。
この春トヨタの協力企業の間で値下げの緩和が実施された事もあり日高さんの会社でも値下げ率を見直してもらえないか交渉する事にしたのです。
山田さんはこの日最も大きな取り引きをしている部品メーカーに出向きました。
1か月の取り引き額は5,000万円以上。
僅かでも値下げを緩めてもらえれば大きな利益になります。
山田さんはこの会社と1か月以上交渉を続けました。
しかし首を縦に振ってもらう事はできませんでした。
営業課の社員は2人。
もう一人の笹嶋広孝さんは別の会社との交渉に臨みました。
厳しいコストダウンに協力してきた代わりに儲けが出る新たな仕事をもらえないかと訴えました。
こちらも交渉はまとまりませんでした。
日高さんの会社では結局取引先から賃上げにつながる配慮は得られませんでした。
春のお彼岸日高さんは墓参りに行きました。
6年前がんで亡くなった父の學さんが眠っています。
學さんが社長を務めていた頃も仕事は全て下請けでした。
当時は取引先との関係は持ちつ持たれつ。
苦しい時には利益の出る仕事を回してもらえる時代でした。
しかし会社を取り巻く環境は変わりました。
この厳しい時代に40人の社員を率いる社長として進んでいかなければならない日高さんです。
賃上げを実現するためには自力で利益を出すしかない。
日高さんはある決断をしました。
最先端のプラスチック成形機を購入する事にしたのです。
付加価値が高い部品を大量に作り儲けを一気に増やそうというねらいです。
価格はおよそ6,000万円。
手元資金だけでは賄えない額ですが日高さんの背中を押したのはアベノミクスで打ち出された補助金でした。
生産効率の高い最先端の設備を買う時に補助を受けられます。
ただし上限は半額まで。
残りの3,000万円は銀行から借りる事にしました。
購入した最先端の機械です。
毎日稼働するだけの仕事を確保できないと借入金が大きな負担になってしまいます。
しかし日高さんは賃上げを実現するためにはこの方法で稼ぐしかないと選択しました。
新しい機械を使う仕事を増やすためにこの日日高さんは自ら営業に出かけました。
訪れたのはこれまで取り引きのなかったプラスチックメーカーです。
新しい機械と自社の技術を使えばより早くより高品質の製品が作れると訴えました。
これまで経験のない新しい仕事も積極的に受注を目指す事にしました。
3月下旬。
日高さんの会社は営業の成果が出始めていました。
プラスチックメーカーの部品を作る仕事を半年分受注できたのです。
このあとも仕事を確保し続ける事ができれば念願の賃上げが可能になります。
1人当たりの月給を平均4,400円上げられると日高さんは計算しました。
そしてこの日。
全ての従業員を集めて日高さんは賃上げを宣言しました。
4月15日。
社員に新たな給料の額が知らされる日です。
3月分の給与明細の中に賃上げ後の金額を通知する小さな紙が入れられました。
お疲れさまです。
ありがとうございます。
ご苦労さまです。
5年ぶりとなる本格的な賃上げです。
一方で同じ会社で働いていても賃金が上がらなかった人たちがいます。
日系ブラジル人などの派遣社員です。
日高さんの会社では仕事の量に応じて派遣社員を活用しています。
この春派遣会社との契約見直しはまだ行われていません。
新たな仕事が入り連日フル稼働する工場。
それは基本ですね。
この日トラブルが発生しました。
プラスチック部品を組み立てる過程で大量の不良品を出してしまったのです。
この仕事をしていたのは数人の正社員と増えた仕事に対応するため新たに雇った15人の派遣社員でした。
納入先のメーカーの社員からも厳しく指導を受けてしまいました。
こうしたトラブルをなくさなければ安定して仕事を確保する事は難しくなります。
夜11時過ぎ。
派遣社員が帰ったあと工場には山田さんをはじめ課長たちの姿がありました。
翌日にまた同じミスが起きないよう人の配置や部品の置き場などの見直しをしていたのです。
こっちにあるから。
派遣社員が手順を間違えないよう小さなネジを一つ一つ分けて箱に入れていきます。
こうした作業が全て終わるまでには4時間以上かかりました。
この春の賃上げで課長の固定給も1万円以上上がりました。
しかし山田さんたちに笑顔はありませんでした。
社長が社員と共に会社を前に進めるために決断した賃上げ。
しかしその先に続く道は平たんなものではありません。
おはようございます!
(一同)おはようございます!
(一同)品質と信頼で会社を飛躍させる。
(一同)信頼されるものづくりを追求する。
日高さんはこの春賃上げに至るまでに自分が何を考えてきたのか40人の従業員に率直に語りかけていく事にしました。
この春…去年より13%増えました。
この金額の陰には社長たち一人一人の重い決断がありました。
2014/04/29(火) 00:40〜01:24
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「そして社長は給料を上げた〜中小企業とアベノミクス〜」[字]

賃上げムードが高まった今春闘だが、中小企業では厳しい状況が続いている。もうけが出にくい中、社員の給料をアップすべきなのか。苦悩する社長たちの選択の現場を追った。

詳細情報
番組内容
大手メーカーが数年ぶりのベースアップを次々に回答し、賃上げムードが高まった今春闘。背景には“経済の好循環”を実現したい政府による異例の賃上げ要請もあった。しかし、働く人の7割が勤める中小企業では厳しい状況が続く。原材料費高騰などでもうけが出にくく、社員の給料アップを容易には決断できないのだ。苦悩する社長たちの選択の瞬間を追い、日本経済が本当に元気になるために中小企業に必要な施策とは何か考える。
出演者
【語り】内藤啓史

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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