おなかの中で元気に動く赤ちゃん。
出生前検査で重い障害がある可能性が母親に告げられました。
妊婦の血液を調べて胎児に病気があるかどうか判定する新型出生前検査。
導入から1年。
予想をはるかに上回る8000人近くの妊婦が受けました。
妊婦とその家族は胎児に障害があると分かったとき子どもを産んで育てられるのか中絶するのか多くの場合重大な決断に直面します。
しかし、その決断を支える体制が十分に整っていないことが分かってきました。
急速に広まる出生前検査とどう向き合うのか。
各国でも模索が始まっています。
ドイツでは国を挙げた議論の末法律を整備。
全国に設置した専門の相談所で妊婦と家族の支援を行っています。
命を巡る決断をどのように支えていけばいいのか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
出産の年齢が上がるとともにおなかの中で育っている赤ちゃんに染色体の病気があるリスクが高まります。
晩婚化に伴い今や妊婦の4人に1人は35歳以上です。
妊婦の僅かな血液を分析するだけで胎児の染色体の病気の可能性を出せる新型出生前検査と呼ばれる検査が導入されこの1年で予想をはるかに上回る女性たちがこの検査を受けました。
検査で分かるのは知的発達の遅れを伴うことが多いダウン症候群。
そして重い身体的障害などを伴う13、18トリソミーという3つの染色体の病気です。
新型の検査で陽性、病気の確率が高いと判定された場合羊水検査などを受けて結果を確定させます。
羊水検査ができるのは妊娠15週以降。
結果によっては染色体の病気を持つ赤ちゃんを産むべきかそれとも産むことを諦めるべきか女性本人だけでなく家族も葛藤することになります。
特に生命を宿している女性は成長する胎児を体で感じているだけに難しい選択を迫られます。
女性自身が産む、産まないを決定する自己決定権の尊重が重視される一方で胎児の命の選別にもつながりかねないという懸念の声もあります。
障害のある子どもを産む決断をした場合どのような困難に直面するのか。
子どもの将来は大丈夫なのか。
さまざまな課題がある中で検査を始めるにあたり医師などによるカウンセリングが検査の前後にしっかりと行われることが条件とされたのです。
ところが、取材を通して明らかになってきたのは女性を支える支援体制が十分ではない中で女性たちが難しい決断を急いで迫られている現実でした。
関東地方に住む43歳の女性です。
この日、新型出生前検査の結果を聞きに来ていました。
赤ちゃんに病気が、見つかれば中絶するしかない。
女性はそう考えていました。
検査の結果は陽性。
胎児は重い心臓病や知的障害が起きる病気18トリソミーの可能性が40%以上あると告げられました。
病気かどうか確かめるため女性は、すぐに次の検査を受けました。
おなかに針を入れて羊水を取る検査です。
画面には、妊娠18週を迎え元気に動く赤ちゃんの姿が見えました。
病気だと分かれば中絶するつもりだった女性の気持ちに変化が現れました。
中絶が認められるのは妊娠22週未満まで。
羊水検査の結果が出てから2週間しか時間がありません。
障害のある子どもを産んで育てるとしたらどんな生活になるのか。
何か支援は受けられるのか。
逆に中絶したらどんな思いをするのか。
女性には、知りたい情報がたくさんありました。
しかし、医師らによる遺伝カウンセリングで伝えられたのは、検査の意味や病気の詳しい症状など医学的な説明が中心だったといいます。
女性は知りたかった情報をなかなか聞くことができなかったといいます。
1週間後、女性は再び病院を訪れました。
羊水検査の結果胎児は病気ではなかったと告げられました。
5か月後。
女性は元気な女の子を出産。
しかし、いっときでも中絶を考えた自分に後ろめたさを感じています。
新型の出生前検査が始まって1年。
NHKがこの検査を実施している33の医療機関に取材したところ現在行っている遺伝カウンセリングでは十分ではないと感じている医師が少なくないことが分かりました。
本当の意味でのカウンセリングになっていない。
医学的な知識を、妊婦や夫婦に伝えるのが精いっぱいでなぜ、自分はダウン症の子どもを産むことを選ぶのかあるいは選ばないのかというところまでは話が及ばない。
障害のある子どもを産んだ場合将来どうなるか、説明できない。
情報がない。
親御さんたちは自分が先に死ぬことの不安を口にするが、答えられない。
一方で、ほとんどの妊婦は中絶すると決めてきていてなんのためのカウンセリングなんだろうと疑問に思うことがあるなどの声もありました。
取材に答えてくれた医師の一人澤井英明さんです。
澤井さんの病院ではこの1年で400人以上が新型検査を受けました。
羊水検査の結果ダウン症だと分かった6人の妊婦のうち5人が中絶を選択しました。
胎児に病気があるなら産まないと決めている妊婦が多いといいます。
産むか産まないかの判断は最終的には、妊婦とその家族が決めることだと澤井さんは考えています。
しかし、限られた時間の中で病気について十分知る機会もないまま中絶を選ぶ妊婦や家族を前にもどかしさも感じています。
こんにちは。
ご無沙汰してます。
澤井さんは妊婦の決断の助けになればと同様の経験をした母親を紹介する取り組みを独自に始めました。
この病院でダウン症の男の子を出産した松原未知さん。
先月初めて、ある妊婦と話をする機会がありました。
松原さんは、ダウン症の子どもやその家族のことがあまりに知られていないと感じたといいます。
自身も、産む前は不安だらけだった松原さん。
多くの妊婦とその家族に後悔しない選択をしてもらいたいと願っています。
きょうは法哲学・生命倫理がご専門でいらっしゃいます、北里大学准教授の齋藤有紀子さんをお迎えしています。
検査を受けた女性が、そのあと元気な赤ちゃんを出産されましたけれども、いっときでも、中絶を考えた自分に後ろめたさを今も感じてらっしゃるという、このことから感じられる、この検査の重みっていうのをどう受け止めてらっしゃいますか?
出生前検査が持っている大きなジレンマの一つだと思います。
この検査は、決して陽性になった方とかだけの問題ではなくて、今の映像のように、陰性になったけれども、そのことを選ぼうとしてしまった自分を考える問題もありますし、あと検査というものが提示されて、それを受けようか受けまいか、迷ったということ自体で、そのあとずっと悩まれる方もいらっしゃいます。
そうすると本当に、子どもを妊娠される女性、すべてに関わる問題になっているということですけれども、ただ、今までも染色体の病気を知るいろんな検査があったわけですけれども、そうした検査とこの検査の違いというのは、どう受け止めたらいいんでしょうか?
やはり羊水検査という胎児の流産のリスクがない新型出生前検査ということで、血液だけで検査ができるということで、やはり妊婦さんにとっては、検査のハードルは下がるというところがあるかと思います。
また、逆に羊水だったら受けないけれどもということで、血液検査なら受けようという、妊婦さんのニーズも掘り起こすというところがあるかと思います。
そのことによって、胎児がだんだんと親が体の特徴や胎児の体の特徴などを検査をして、妊娠中に考えてもいい、そういう対象だということを、検査自体が社会に暗黙のメッセージとして、出しているというところはあるかもしれません。
生まれてくる生命っていう、その赤ちゃんの意味とはまた別の違う意味が出てくるおそれということですか?
そうですね。
妊婦さんがそう思うかどうかということ以前に、やはり検査ができるということ自体がそういう社会に向かっているというメッセージになるかなという感じがいたします。
選択の対象という?
そうですね。
胎児の存在通してということですね。
生命を巡る非常に重い決断なんですけれども、出生前検査の広がりを受けて、新たな制度を作ることで、この問題に向き合おうとしているのがドイツです。
日本より半年早く新型出生前検査を導入したドイツ。
妊娠葛藤相談所と呼ばれる公的な相談機関を全国1500か所に設置しています。
ここでは、妊婦とその家族が専門のトレーニングを積んだ相談員のカウンセリングを何度でも無料で受けることができます。
同じような体験をした人や支援団体も紹介してもらえます。
中絶を体験した女性を支援する団体。
ダウン症など障害のある人たちの生活を支える団体。
障害のある子どもを育てる家族への補助金や税負担の軽減を行う窓口の紹介も受けられます。
ドイツでは、胎児の命を巡る選択をどう考えるのか20年以上にわたり国を挙げた議論を続けてきました。
その中で作られたのが妊娠葛藤法。
妊娠や中絶の悩みに応じる専門の相談所を全国に設置すると定めました。
さらに4年前には、出生前検査の急速な広がりに対応するため法律を改正。
胎児に障害があると分かった場合検査を行った医師は妊婦に相談所を紹介しなければならないと義務づけたのです。
法律の改正を受け医師と相談員の連携も進められています。
出生前検査の専門クリニックです。
ここでは、同じフロアに妊娠葛藤相談所が設置されています。
多くの妊婦は、胎児に障害があると分かった直後は混乱し相談所に足を運ぶことさえ難しくなるからです。
医師と相談員は常に情報を共有し妊婦の状況に合わせた対応を考えます。
相談所の支えで不安や混乱の中から一つの決断にたどりついたというある夫婦を訪ねました。
ティーツさん夫婦と長女のミアちゃんです。
2年前、出生前検査でおなかの中のミアちゃんはダウン症だと診断されました。
しかし、相談員と何度も話し合ううち自分たちが本当はどうしたいのか夫婦で確かめ合うことができたといいます。
検査を受けて、そして相談所を訪れた、ドイツの妊婦や家族の方々の9割が、相談所に助けられたというふうに答えていますけれども、一方で日本では、1つ前のVTRでありましたように、本当の意味でのカウンセリングになっていないと、カウンセリングを行っている、主に医師たちがそう感じている。
決断にしかし、どこまで影響を及ぼしていいのかということと、本当にどういうカウンセリングが求められているのかっていうのは、これ、どういうことが必要なんでしょうか?
やっぱり病院で、お医者様たちはやっぱり、偏りのない正確な医学的な情報とか、妊婦さんの理解を促進しようというふうに説明されると思うんですが、妊婦さんの関心とか自分の心の中の迷いというのは、たぶん医学的な説明だけでは解消されなくて、やはりそれ以外の居場所といいますか、妊婦さんの迷いとか不安に、ゆっくり耳を傾けてくれる、ただそれだけをやってくださる、その上で話し合いにつなげていけるというような、人とか場所とか時間というのが、とても大事になってくると思います。
具体的にどのような迷い、どのような心の、恐らく胎児がだんだん大きくなってきて、生命というのをおなかに感じながら、しかし、その自分として育てられるんだろうかというようなことがあると思うんですけども、具体的にどういう向き合い方が求められるんですか?
やっぱり妊婦さんは生活に根ざした実感といいますか、これからの生まれてくる子どもとの暮らしですとか、あとは、今いる、すでにいる子どもたちとの関係性、それからパートナーとの関係性がどうなるか。
しかもその検査をすること、しないことで悩むこと自体にも、先ほどのような、後ろめたさを感じている中で、本当に自分が決めていいんだろうかというような思い、それを必ずしもパートナーと同じリズムで悩みや迷いを共有できないという、そういうところがあると思いますので、やっぱりそこに耳を傾けられる気持ち、心を寄せる社会制度というのが必要じゃないかと思います。
生命を自分の決断で絶つかもしれないと思っただけで、やはり。
ですので、ただやはり、どの妊婦さんも、多かれ少なかれ、向き合う、本当に重いテーマですので、あなただけではないと、むしろそういうふうに悩んでいることこそ、胎児とあなたがしっかり向き合っている証拠なんだということを受け止めて、否定しないで、責めずに受け入れてくれる、そういう場所が、恐らくドイツのような、葛藤相談のような場所では、少し実現してるのではないかなというふうに思います。
高齢で出産する女性たちが多く、そして、高齢出産になれば、そのリスク、染色体の病気を持つお子さんが、胎児ができるそのリスクが高くなって、そしてこういうふうに血液検査だけで、検査することができるようになった。
そのことによって、この社会は、この検査をどう捉えて、向き合っていくべきかっていうのは、非常にデリケートな問題ももたらすでしょうね。
ただやっぱり、社会全体でいろいろな人がやはり知恵を絞って、妊婦さんの居場所、考える場所というのを作り、それから、やはり社会の中で、障害を持った人、病気を持った人たちが、温かく迎え入れられている、あるいは生まれてきた子どもの将来をイメージできるような、そういう社会であれば、おのずと妊婦さんの考える決断の軸というのも、変わってくるという可能性はありますので、やはり今、そういうことを考えるきっかけが、この検査を通して社会に提示されてるんではないかなというふうに思っております。
むしろ、その障害があって生まれてくるお子さんが、よりいやすい場所、いやすい社会であるような方向性に向かうように、社会的な議論が進むことが大事だ2014/04/28(月) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代▽新型出生前検査導入から1年〜命をめぐる決断 どう支えるか[字]
去年4月に始まった新型の出生前検査。運用に法的な基準がなく、検査を受けた妊婦や実施する病院の間で困惑も広がっている。先進地・ドイツを取材、日本でのあり方を探る。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】北里大学医学部准教授…齋藤有紀子,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】北里大学医学部准教授…齋藤有紀子,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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