想い出の公主嶺
太陽が地平線から上り地平線に沈む今は亡き満洲の南部に位置する公主嶺の街で少年期の十年を過しました。公主嶺の名は昔王女が降嫁の途中この地で亡くなったことに由来すると聞いています。街の中央を南満州鉄道が貫き伝説のアジア号が駆け抜けて、屋上に守護神の龍を戴いた駅舎は古い歴史の面影を伝えていました。街のたたずまいは帝政ロシア時代に造られたもので、部屋の隅のペチカは冬の間部屋をやわらかく暖めてくれました。気温が低く空気が乾燥しているので雪だるまも雪合戦もできないほど雪はサラサラでした。流れているとは見えない黄土色の郊外のクリークの水面に土手の柳が映えた美しい風景を思い出します。共に遊んだ幼な友達もだんだんと彼岸へと去り、いつの日かあの曠野に共に帰れるでしょう。私の心は遠く離れた六十年前の懐かしい街をときに彷徨っています。
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