挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
先代勇者は隠居したい(仮題) 作者:タピオカ

孤島の大迷宮ノルドヨルド編

先代勇者、小さくなる

「なっ、何をするだー!」

なんて事だこのロリ吸血鬼、どんな手を使ったか知らないが俺を……俺を小学生のガキくらいにまで幼くしやがった!

「キキッ! 我が秘術の応用じゃ」

「こっ、このっ……よくも俺をこんな姿にしてくれやがったなっ!」

見た目女の子だからやりたくなかったが、少々お灸を据えなきゃいけないらしい。
腰に巻いていたが体が小さくなりずり落ちてしまった四次元ポーチをブカブカになった靴で蹴り上げ、ポーチの中に手を突っ込み水晶剣を取り出した。

「今すぐ戻すって言うんなら許してやる。……そうでないなら」

「キキッ。……そうでないなら?」

鞘から剣が抜き辛かったので、鞘を落とすように外すと、俺は剣先をパイモンに向ける。
が、剣先を向けられてなお、パイモンは余裕そうな顔を変えない。

「なら……腕の一つは覚悟してもらっ、うぉっ!?」

踏み込み剣を振ろうとすると、手から剣がすっぽ抜け、天井に突き刺さってしまって。
剣の柄の大きさが、子供の手では掴みづらかったのが原因だ。

「その身体を元に戻したくば、わらわの元まで来るがよい。……待っているぞ、巫女の血統よ! キキッ、キキキキッ!!」

そう言い残すと、パイモンは無数のコウモリとなって迷宮への入り口へと入って行ってしまった。

「……な、なんだったんだ」

突然現れ突然去っていく。しかも人を子供にするっておまけつき。
こう言うぶっ飛んだところはほんと魔族らしいと思うが……。

「しかし……また迷宮に潜る理由ができたな」

ポリポリと頭をかきながらそう呟いた俺の肩に、ポン、と手が置かれた。

「んぁ?」

「も、戻す必要なんてないですよヤシロさん!」

「……はぁ?」

振り返ると、頬を赤くそめ、鼻息を荒くしたベルナデットがそこにいた。
……えっと……あれ? ベルナデットだよね? 俺の見間違いとかじゃあないよね?

「べ、ベルナデットさん? 一体どうしたの? あ、そう言えばもう催眠術解けたみた──」

「はぁ…はぁっ……、……お、お姉ちゃんって……言ってみてくださいっ」

君は最近築き上げていた何かを今失った。
つ、つかなんなんだ? このベルナデットの異常な状態……まさかこの身体になって魅了が発動しているとか!?

「フィオナ! 俺ってイケてる!?」

「……は? 何馬鹿な事言ってんの?」

よし、この反応からしてどうやら魅了が発動してるわけじゃあなさそうだ。
つか冗談だからそんな養豚場の豚を見るような冷たい目で俺を見るな。

「うわー、うわー! ヤシロさんヤシロさん! スッゴく可愛いですよ! ヤシロさんってもっとのぺーっとした顔で濁った目をした人かと思ってたんですけど、小さい時はとっても可愛いかったんですね!」

「はちきれんばかりの笑顔で人の心を抉りに来るのやめてくんない!? つ、つか離れろ! お前キャラ可笑しくなってんもふっ!?」

「いーやーでーすーよーっ! あははっ! 可愛い弟ができたみたいで嬉しいですっ!」

こ、こいつっ、人を玩具みたいに扱って……で、でも抱きしめられた時にこの巨乳に挟まれるのは良いな。凄く心地良い…………って俺は何を考えてやがるっ。

「くっ、クオン! 俺を助けろコノヤロー!」

「あー、それにしてもどうすれば良いんだ? このまま潜るわけには……いかないよな?」

ベルナデットの腕の中でもがきながら呆然としていたクオンに叫ぶと、ぽりぽりと頬を掻きながら俺から視線を逸らし、フィオナに話しかけるクオン。
おいこら、師匠だろ? 俺、一応師匠だろ?

「ええ。少なくとも今は無理ね。勇がどこまで戦えられるのか微妙だし……どうやらさっきので敷いていた転移魔法陣が機能しなくなって……いいえ、魔法陣が消えてしまったみたいなの」

こらっ、今重要な話になってるみたいだから離せベルナデット! 

「三バカ、手を貸せ!」

「ふっふっふっふっふ。……散々アタシらの邪魔をした黒毛が随分と可愛らしい姿になったじゃあないか! 精々そのシスターに可愛がられているが良いさ。いい気味って奴だよ!」

「「って奴だ!」」

「こいつら……」

くそ、どいつもこいつも役に立たん!

「勇、いつまでも遊んで一度出るわよ。……全く、どっかの誰かさんのせいで時間だけが過ぎていくわ」

「遊んでるわけじゃねーよ! つか誰かさんって俺の事じゃねーだろーな!」

来た道を戻って行くフィオナに着いていくクオンと三バカ。
おいコラ、ベルナデットをなんとかしろっての!

「ズィ、ズィルバ!」

「クケー」

あっ! おまっ、ちょっ、一応お前の主人である俺を無視すんな!

「あ、そうだ。ヤシロさんの新しいお洋服を買わないといけませんね。可愛い服があるといいんですが」

「今まで来てた服はサイズが合わなくなってしまったのは確かだ。が、しかし! 可愛い服なんて絶対着ねーぞ!?」

「うふふ、ベルナデットお姉ちゃんに任せてください! 先ずは寸法を……」

「ちょっ、おまっ、どこ触って……アーッ!」

今日この日、俺は何か大事な物を失ったような絶望感を味わうことになった。




翌日、再度酒場に集まった俺たちだったが、見慣れぬ人物が一人、同席していた。

「はわぁ……本当に小さくなってしまったんですねぇ。これじゃあ、確かに片手で剣は振るえませんね」

異常なほど身長のちっこい女鍛冶師、アハトだった。
……いや子供の姿にされたがお前よりは大きいぞ? とちゃんと言ってやるべきだろうか?

「まだアニキの方があんたよりデケェけどな」

椅子に腰掛けていたクオンが俺の代弁をする。
ダンジョンに潜れるって思ってたのにお預けを食らい機嫌が良くないみたいだ。

「わ、私はドワーフなんですっ」

あー、やっぱりドワーフだったか。背が小さくて鉄関係の作業が得意な種族にドワーフとホビットがいる。
どちらも細かい作業が得意なのだが、剣を始めとする鍛冶師はドワーフが圧倒的に多いからだ(ホビットの鍛冶師もいるにはいる)。

「それで、ドワーフのアハトさんが何故ここに?」

俺の真上からベルナデットの声がする。しかし仰ぎ見ようとしてもその姿は見えない。彼女の豊満な胸が視界を遮っているからだ。……小さくなった利点の一つに、物が体感的に大きく感じる所があると思う。
その利点のおかげで、元より大きかったベルナデットの胸が更に大きく見えるのだ。
大迫力。その一言に限る。

そしてベルナデットのみに適用される利点だが、どうやらこのベルナデット、ショタコンの気があるらしく小さくなった俺にとことん甘いのだ。
頭の上に胸を置いて重みで興奮するなんてある種特殊な事したら本来銃口を突きつけられているだろう。
だが、今の俺がやった所でベルナデットは拒否をしない。むしろ抱き心地の良い身体で逆に抱きつかれるなんてサービスまで!
……正直このままの姿でも良いと思い始めて来た所なのだ。

「小さくなってしまった知り合いが使えそうな武器を工面してくれと、フィオナさんから頼まれまして」

アハトがチラと横を向くと、迷宮の地図を眺めていたフィオナが顔を上げる。

「彼女の腕は本物よ。私が保証するわ」

「……エルフとドワーフは仲が悪いってのはアタシの覚え違いだったのかい?」

フィオナとアハトを交互に見てアンジェリカが苦笑する。
アンジェリカの言った通り、エルフとドワーフの種族間は昔からとてつもなく仲が悪い事で有名だ。
戦争にこそなってはいないものの、小競り合いのような事はいつも起こっていて、街でばったり出会うものなら大規模な喧嘩が起こるほど。

……と、俺も認識していたので、二人の言葉には驚いていたのだ。

「そんな考えをするのは森の奥から出て来ない田舎エルフの戯れ言よ。今時ドワーフだから人間だからと見下して悦に浸ってるなんてダサいったらないわ」

心外だとばかりに言い放ったフィオナに、アハトがクスリと笑う。

「私は人間の街に住んでいる祖父に育てられたせいか、あんまりそう言うのは無いんです。『自分が打った剣を任せられる奴以外はどいつも一緒だ!』なんて言う祖父で」

そいつはまたステレオタイプな職人さんだ。
テンプレートと言った方がイメージが良いかな?

「話が逸れたわね。……それで、勇が扱えそうな武器はある?」

フィオナがチラと俺を見る。
俺の身体は今や小学生の子供並の小ささだ。
腕力に関しては、弱体化してはいるがこの状態でも常人を遙かに凌駕しているようで、並の武器なら軽く振り回せる事だろう。
しかし子供の手の平でしっかりと掴める武器でなくては、水晶剣の二の舞になる。

「はい。色々考えてみたのですが、やっぱり長剣ロングソード辺りが無難かと思うんです」

そう言いながら取り出したのは、まるで氷から削り出したような刀身の剣。

「氷魔石から作った魔剣、その名も『アイスソード』です! はい、どうぞ!」

ねんがんの、アイスソードをてにいれたぞ!

……見たまんまの安直な名前だが、出来具合は中々の物だ。
ベルナデットの膝上から降りると、俺はアイスソードを受け取った。

「……予想以上に軽いな。重量軽減(コストダウン)か?」

「ご名答、です」

柄を両手で持って構えると、体格のせいで大剣のように感じるが、その見た目に反して軽く、振り回されない程度の重さになっている。

「重量で叩き斬るより切れ味特化で切り裂く感じか……良い剣だけど奪われそうだから良いや」

「お気に召しませんでしたか?」

「お気に召す、と言うか……そ、そうだ。もう少し頑丈なのはあるか? どうにも砕けちゃいそうで怖くてさ」

「でしたらこちらを……火山を根城にする魔竜の尾骨から作られた魔剣、その名も『ヴォルテール』!」

次に渡されたのは竜の骨から作られた片刃剣。
骨の武器と侮るなかれ。骨を削って作り出された刀身は、軽く指をなぞっただけで皮が切れて血が滲む。
竜の骨は頑丈なのが定説で、これなら多少荒く扱っても大丈夫そうだ。

……と思ったのだが、

「うおっ!? ……ほ、炎?」

ボッ! と少しだけ振った魔剣から人一人包みそうな炎が燃え上がったのだ。

「あはは……か、軽く振っただけで炎が出ちゃうんです」

失敗作じゃねーか! こんなの振り回してたら使ってるこっちが燃えちまうよ!

「で、できるだけ特殊能力の無い剣を お願いしたいんだけど……」

別に魔剣を求めてるわけじゃないしな。耐久性が高くて扱い易ければそれで良いんだ。

「それなら、私が打ったわけじゃあないのですが……」

抱えていた剣の束から、使い古されたように汚れた鞘に収まってる剣を渡された。

「ん? ……この鞘、開くようになってるのか?」

「腰に佩いた時に、留め具を外す事で剣が落ちる(・・・)ようになってるんです」

渡された鞘には簡単な留め具が付いており、それを外すと、アタッシュケースを開けるように鞘が開き、剣がその姿を見せる。

剣の幅は短めだが厚みはあり、両手で持って見ると、手にとても馴染んだ。

「こいつは……良い剣だ」

良く研磨された刀身は俺の顔を映し、鈍く光る。
少し地味な装飾だが、無駄を省いたような作りは好感が持てる。

……うん。これだ。これを貰おう。
そう決意した俺はこの剣がどれくらいの値段なのだろうか思案しながら鞘へ戻そうとしたのだが、

「……久し振りのシャバに出てみゃあ、こんな小僧に持たれるとはな。おい糞坊主、わしはテメェなんかが手に持って良い剣じゃあねぇぜ! 他の剣で我慢しな!」

掲げた剣から、俺を罵倒する声が響いた。


「い、知恵を備えたインテリジェンスソード!?」

そう、この剣は魔剣の中でもまた異質、人並の知恵を持った喋れる剣だったのだ。
ミツルギの方に投稿してしまってました(笑)

改めて、お待たせしました。最新話です。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ