ゲームブック大事典

今から20年以上前、80年代半ばに、パラグラフを選んで読み進めていくゲームブックというものがブームを巻き起こしました。ここでは当時、自分がハマった数々のゲームブックを紹介していきます。  

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ソーサリー 1
魔法使いの丘
S・ジャクソン著 創元推理文庫
魔法使いの丘
 ファイティングファンタジーシリーズでゲームブックを世に生み出したS・ジャクソンが次にチャレンジしたのがソーサリー4部作。主人公である魔法使いが48の呪文を駆使しながら、魔王を倒すための冒険を繰り広げるといゲームブック4冊にも渡る壮大なストーリー。S・ジャクソンの魔法を使ったゲームブックといえば、すでにバルサスの要塞があるが、今回は魔法の数も格段に増えて、冒険のスケールも大きくなっている。このプレイヤーに託された選択の自由度こそ、ソーサリー4部作をゲームブックの金字塔として押し上げることになったのである。
 冒険の舞台となるカクハバードは、ファイティングファンタジーシリーズのアランシアとは、同じタイタンの世界にありながら別の大陸という設定となっている。そのカクハバードを平和な世界に導いてくれるのが、王たちの冠。これをかぶれば、絶大な統率力と判断力を身に付けることができ、国を治めることを可能にしてくれるのである。ところが、この王たちの冠がマンパンの大魔王によって奪われてしまったのだ。そこで、アナランドの魔法使いであるあなたは、冠を取り返すための冒険に赴くことになる。さて、冒険に出発する前にやるべき事は、巻末に付いている48の魔法を覚えること。冒険に出てしまってからは、呪文の書を見ることができないことになっているので、最初に全て暗記しなければならない。その呪文は、ZAPは電撃、HOTは火炎といったようにアルファベット3文字で表され、唱えるためにアイテムが必要な呪文もある。そのアルファベットと呪文の効用、そして必要なアイテムを全て覚えなければならないのである。
 1巻の冒険の地はアナランドを出てからカーレの街に着くまでとなっており、危険な生物が数多く生息するシャムタンティの丘を通り抜けなければならない。1巻目だけあって難易度は低目となっているものの、それでも油断していると首狩り族や黒いロータスの花など、様々なデッドエンドが待っている。ただし、あなたを待ち構えるのは危険な敵ばかりとは限らない。黒装束に身を包んだ盗賊フランカーなどは、2巻の城砦都市カーレに入ってから心強い味方になってくれるのだ。
 そして、1巻の最大の難関は、表紙にも描かれているマンティコアに生贄に捧げられてしまったスヴィンの娘を助け出すこと。マンティコアは強敵なので、覚えている呪文を駆使しないと倒すことは難しい。そして、この強敵を倒した先には、さらに恐ろしい無法の街カーレが待っているのである。なお、あなたの冒険を女神リーブラが見守っていてくれる。リーブラに祈りを捧げれば4巻にわたる冒険の間に1度だけ、あなたを助けてくれる。どこで、リーブラの助けを借りるかによって、運命が変わってくるかも…。
お気に入りキャラ→旅の途中で出会うミニマイトのジャンは悪いヤツでは無いのだけれど、こいつがそばにいるだけで魔法が使えなくなってしまう。変なヤツに慕われてしまったが、こいつをどうにかして追い払わなければならないのである。
ソーサリー 2
城砦都市カーレ
S・ジャクソン著 創元推理文庫
城砦都市カーレ
 シャムタンティの丘を越えてカーレの街の門の前にたどりつくことができて一安心…してはいられない。この危険な街に仕掛けられた罠の数々に比べれば、シャムタンティの丘の猛獣なんてかわいいものである。出来ることなら、避けて通りたい街なのだが、行く手を大河に阻まれているため、このカーレの街を抜けない限り先に進めないのである。しかも、カーレの街は入るのよりも出ることの方が難しい。出口となる北門は呪文を唱えないと開かないのだが、その呪文の全てを知っているのは、カーレ第一の権力者であるサンサスのみ。しかも、肝心のサンサスが不在なので、北門に着くまでに他の四人の権力者から一行ずつ呪文を聞きださなければならないのである。果たしてこの危険な街の罠を潜り抜けて四人の権力者に出会うことができるのか。
 そんなわけで前作の魔法使いの丘が入門編だとすると、この城砦都市カーレは応用編といったところで難易度も一気にアップしている。冒険の舞台が街中ということで出てくるキャラが個性的なのも、ソーサリー4部作の中でもカーレが名作とされる所以であろう。この巻からプレイを開始することも可能だが、魔法使いの丘からプレイした方が物語に感情移入できるし、前作でスヴィンの酋長から手に入れたカギを使うことや、シャムタンティの丘で出会った刺客のフランカーや、グランドレイガーの友人であるヴィックの協力を得ることができるので、シリーズの1巻目から順当に進めていくほうがお勧めである。
 また、冒険で使える48の魔法の中にはアイテムが無いと発動しないものも多いが、そうしたアイテムを手に入れるには、混沌とした住人がはびこるカーレほどふさわしい場所はない。うまく交渉して、あるいは奪い取ってアイテムを増やすことこそが、冒険の成功につながるのである。また、街頭レスリングやルーレット、サイコロ賭博などのゲームを楽しむことができるのも、冒険の舞台が街であるからこそ。うまくやれば金貨を増やすことができるが、失敗すれば金貨どころか命さえ失いかねないので、あくまでも冒険の目的を忘れないように。
お気に入りキャラ→表紙の絵で描かれているのはカーレの街の下水道に巣食っているスライムイーター。腐りきった街の下水道で出会う怪物というのもゾッとするが、こいつをJIGの魔法で踊らすというのも一興ではないだろうか。それと油断したばかりに一瞬で首筋を噛み切られたカマキリ男は忘れることができないキャラ。
ソーサリー 3
七匹の大蛇
S・ジャクソン著 創元推理文庫
七匹の大蛇
 カーレでの厳しい罠を潜り抜け無事に北門から出ることはできたが、王たちの冠を奪った大魔王が待ち受けるマンパン砦までは、広大なバドゥーバク平原を突き進み、スナッタの森を抜けてイルクララ湖を渡らなければならない。想像しただけでも目もくらむような過酷な冒険が予想されるが、そんな君の前に故郷アナランドからの使いであるイヌワシが現れる。その使いがもたらした文面によると大魔王が刺客として、七匹の大蛇を送り込んだというのである。七匹の大蛇は元はと言えば、7つの首を持つ巨大なヒドラだったが、大魔王は倒したヒドラの首を切り取って自らの手足となって動いてくれる7匹の大蛇として甦らせたのだ。
 その7匹の大蛇は神々の力を得ることで、陽の蛇月の蛇火の蛇水の蛇地の蛇気の蛇時の蛇となり、特殊な能力を兼ね備えるようになった。それぞれの蛇は弱点を持っているものの、その弱点を見つけ出すのが一苦労。中でも時の蛇は、その名が示すとおり最強の能力を兼ね備えており、それまでに弱点を見つけ出しておかない限り絶対に勝ち目が無いのだ。
  また、7匹の大蛇だけでも大変なのに、平原や森には、全身が燃え上がるファイヤーフォックスや、透明になる能力を持つスナッタキャット、巨大なバドゥー・ビートルなど危険な動物がいっぱい。あまりにも困難な冒険のように思えるが、広大な土地を冒険する中で出会うのは敵ばかりではない。7匹の大蛇のことを良く知るシャドラックや、眠れぬラムへの対抗策を知るシャムなど、大魔王を倒すために協力してくれるものも少なくない。そうした協力者から助言を受けたり貴重なアイテムを手に入れることが、冒険の成功につながるのである。
 そして、7匹の大蛇に出会った時に役に立つのが城砦都市カーレで乞食からもらった蛇の指輪なのである。大蛇に出会った時に蛇の指輪を見せると、戦いを避けることはできないが、指輪の契約により大魔王が待ち受けるマンパン砦の秘密を聞き出すことができる。全ての大蛇から情報を聞き出せば、今後の冒険の手助けになることは間違いない。進んでいくルートによっては7匹の大蛇のうち何匹かは出会わずにすむパターンもあるが、冒険者たるもの全ての大蛇を打ち倒し大魔王の出鼻をくじいてからマンパン砦の冒険に挑みたいものである。
お気に入りキャラ→数少ない冒険の協力者の中で、冒険のクリアに欠かすことの出来ないのがエルフのフェネストラ。水の蛇に父親を殺されたことから7匹の大蛇に恨みを持つ彼女の助けが無ければ、イルクララ湖を渡ることすら出来なかったであろう。
ソーサリー 4
王たちの冠
S・ジャクソン著 創元推理文庫
王たちの冠
 苦しい冒険の末に、大魔王の忠実な兵士バードマンが目を光らせる低地ザメンと高地ザメンも通り抜け、ついに大魔王が待ち受けるマンパン砦にまでたどり着いたが、マンパン砦で最も気をつけなければならないのは、冒険者の行く手を阻む4つのスローベンドア。無理に開けようとすると恐ろしい罠が待っているので、それぞれのドアを管理しているものから正しい通り方を聞きださなければならない。しかし、スローベンドアを守るのは守銭奴のヴァルギニア拷問の名手ナッガマンテ衛兵隊長カートゥームといった一癖も二癖もあるやつばかり。こんな連中とまともにやりあっていたら命が幾つあっても足りないが、どすうればドアの通り方を聞き出せるかが勝利の分かれ目となってくる。
 そして、やっかいなのはスローベンドアの管理者たちだけではない。大魔王のお膝元らしくマンパン砦の住人は、いずれも油断ならない連中ばかり。ゾウのような姿でボソボソと小さな声で話すマカリティック、視線で全てを焼き尽くすレッドアイ、裏切り者のサイトマスター、そして大魔王の最も危険な部下とされる眠れぬラムなど、こいつらの目を掻い潜って大魔王の元へと向かわなければならないのだが、何と言っても恐ろしいのは七匹の大蛇の頭を切り取られて放置されていた体の部分。この蛇の代わりに7つの神々の頭を持ったヒドラには、どんな魔法を使っても、とても勝てるとは思えない。それと、いくらお腹がすいたからといって台所でミートボールのつまみ食いは、おすすめできないと忠告しておこう。
 そんな危険だらけのマンパン砦では、これまでの冒険と違って女神リーブラの加護も届かない。そんな不利な状況を跳ね飛ばし、大魔王を倒して王たちの冠を取り戻すことができるのか。そのカギを握るのは、48の魔法の中でも禁断の魔法とされ、これまで使われることが無かったZEDの呪文になるなのだが、あまりにも強力すぎる呪文のため、ヘタすると1巻の魔法使いの丘からやり直しなんてことになってしまうかも…
お気に入りキャラ→冒険の初めの頃に分かれたミニマイトのジャンとマンパン砦で再会したのは良いが、ご存知のようにミニマイトがいると魔法が使えなくなってしまう。随分とやっかいなヤツに出会ってしまったように思えたが、この憎たらしきミニマイトがいたからこそ奇跡が起きたのである。
ファイティング・ファンタジー
S・ジャクソン 著 創元推理文庫
ファイティング
 このコーナーはゲームブックを紹介するものだが、正確には本書はゲームブックではない。欧米ではゲームブックが生まれる以前にダンジョンズ&ドラゴンズのようなテーブル・トークRPGが存在したが、ゲームブックを知ったからには、テーブル・トークRPGのおもしろさも分かってほしいということで、バルサスの要塞さまよえる宇宙船でおなじみのスティーブ・ジャクソンが書いたゲームマスターになるための入門書となっている。そんなわけで一人でプレイできるゲームブックと違って、本書ではゲームマスターになる自分以外に、複数のプレイヤー(最低でも1人は)が必要となってくる。本書で描かれているダンジョンを進むプレイヤーが無事に目的を達成できるかどうかを、ゲームマスターであるキミは神の視点となって見守っていくのだ。
 本書で描かれているダンジョンは二つある。一つは入門編となる18の部屋からなる願いの井戸で、貴族たちが願いを叶えるために金貨を投げ入れた井戸が干上がったことから、井戸の底に眠る金貨を手に入れるため潜り込んでいく。もう一つは応用編で39の部屋を持つシャグラッドの危険な迷路。老エルフのシャグラッドの土地にある地下迷宮を、自分は危険だから潜れないという彼女の代わりに、見つけた財宝の一割を彼女に差し出すという約束のもと冒険に乗り出すことになる。プレイヤーはダンジョンの中で何をしても自由だが(見かけた相手を片っ端から殺そうと、冒険をやめて逃げだそうとも)、その場合にどんなことが起きるかは、本書に書かれたシナリオをもとにゲームマスターが判断していくことになる。例えばプレイヤーが部屋に入ってから1分で動き出す仕掛けがある場合は、プレイヤーに気づかれないように時計を見なければならないし、思いもよらぬ行動を取ろうとするプレイヤーを制御できるかはゲームマスターの腕次第だ。
 本書はファイティング・ファンタジーシリーズの読者がプレイしやすいように、技術点、体力点、運点の設定や戦闘方法はシリーズに順じたものとなっている。違う点といえば敵に攻撃ポイントがあるぐらいで、何人まで同時に戦うことができるかが決められている。なお、本書はファイティング・ファンタジーシリーズではないが書名がファイティング・ファンタジーなので、少し混乱を招きかねない。残念ながら自分はゲームブックの趣味を共有する友人がいなかったので、ゲームマスターになって本書をプレイすることはできなかったが、この本がきっかけになってテーブル・トークRPGの世界に飛び込んでいったという人もいるのではないだろうか。
お気に入りキャラ→プレイヤーの反応次第で相手の出方が変わった方がおもしろいので、本書ではひねくれ者やいたずら好きのキャラが多いのが特徴。シャグラッドの危険な迷路に住んでいる仙人や友人のモーフィールなどは、余程うまく話を進めなければ宝を手に入れるのは難しいだろう。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 1
吸血鬼の洞窟
D・モーリス 著 創元推理文庫
吸血鬼の洞窟
 創元推理文庫からソーサリーの後に続くシリーズとして出されたのが、本書からはじまるゴールデン・ドラゴン・ファンタジィシリーズ6部作である。シリーズといっても著者や戦闘システムが共通しているだけで、物語につながりはなく主人公も同一人物ではないと思われる。ただし、いずれもファンタジーの世界を背景にしたゲームブックということでは共通している。冒険をはじめる前にサイコロを振って決めるのは、体力ポイントPSIポイント敏捷性の3つ。体力ポイントがゼロになったら死亡というのは他のゲームブックと同じだが、PSIポイントは魔法への抵抗性、敏捷性は壁を昇ったり罠を避けるのに成功するかどうかに関わってくる。
 戦闘方法はファイティング・ファンタジーシリーズソーサリーよりも単純で、サイコロを2個ふって一定の数より下なら自分の体力ポイントを減らし、一定の数を上回れば相手の体力ポイントを減らしていく。つまり、弱い敵ならば2〜5で自分の体力を減らし6〜12で相手の体力を減らすが、強い敵になると2〜8で自分の体力を減らし、9〜12で相手の体力を減らすということになる。また、強い敵ともなると体力ポイントも多く持っているので注意が必要である。
 冒険者であるキミはウィストレンの森をさ迷ううちに、不気味な屋敷にたどり着く。危険な森で夜を過ごすよりは安全だろうと、屋敷の中に踏み込んでいくが、そこは森以上に危険な吸血鬼テネブロン卿の屋敷だったのだ。元は人間だったにも関わらず悪魔と契約して不死の力を手に入れたテネブロン卿を倒すため、複雑な地下洞窟まで存在する屋敷を進んでいかなければならないのだ。なお照明のないテネブロン卿の屋敷ではランタンが最も重要なアイテムとなる。これがなければ歩くこともできないので、絶対にランタンを失わないように気をつけなければならない。
 屋敷に巣食っているテネブロン卿の配下の者は、ゾンビやワイトなど不死のものばかりとは限らない。冒険中に2度も対峙することになる魔女や、透明になる能力を有するホブゴブリン、テネブロン卿のペットのヘルハウンドなど、危険なモンスターが数多く存在する。そして、最後に待ち受けるテネブロン卿は相手の心を操る催眠力を持つ強敵だが、実は拍子抜けするほどあっけなく倒せる裏技が存在するのである。
お気に入りキャラ→訳も分からないうちにテネブロン卿の屋敷に入り込んで、冒険に巻き込まれてしまった主人公だが、屋敷の中で吸血鬼を倒してくれる冒険者を待っていたハーカス神父から事情を聞いて、ようやく自分の状況を理解する。自分では吸血鬼を倒せないという神父からもらえるのは、十字架強い意志をもたらす薬のどちらか一つ。どちらを選ぶかはキミの判断に任される。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 2
シャドー砦の魔王
O・ジョンソン 著 創元推理文庫
シャドー砦の魔王
 戦闘システムやルールは前作の吸血鬼の洞窟を踏襲したものとなっている。主人公のキミはララッサのヴァラフォール王に使える近衛隊の戦士だったのだが、王が遠征している間に国を治めていた弟のアヴェロックは圧政で国民を苦しめ、国はすっかり荒れ果ててしまった。すっかり絶望したキミは国を捨てて旅に出ることにしたが、その途中で老いさらばえたヴァラフォール王に出会い、全ての元凶はシャドー砦の城主であるアーケイン・ダークローブ卿にあり、アヴェロックを吸血鬼に変えて操っているのだと聞かされる。ダークローブ卿を倒しにいった王も魔法をかけられ精気を奪われたと知ったキミは、王の代わりにダークローブ卿討伐に乗り出すのであった。
 しかし、まずはシャドー砦にたどり着くまでが一苦労。シャドー砦でモンスターに出会う分には納得できるが、そこまでの道中ですらトロールやオオカミ男など危険なモンスターが出てくるのだ。しかし、こうしたやっかいな連中を倒すことで貴重なアイテムが手に入る場合もあるから、戦えたことを幸運と思わなければならない。
 そして、苦労してたどり着いたシャドー砦では、鉄の扉金の扉木の扉の3つの入り口が待ち受けている。いずれ3つの道は合流するものの、どの扉をくぐるかで遭遇する敵も、手に入るアイテムも違ってくる。実はシャドー砦には、こんな感じの分岐点が幾つかあり、全く違ったルートを取りながらも、アーケイン・ダークローブ卿のもとにたどりつくことができるのが特徴。つまり攻略までのルートは決して一つではないのだが、ルートによって難易度が異なってくるので、より安全なルートを探し出していかなければならないのだ。
 実はこのシャドー砦の魔王は自分にとって妙に印象深いゲームブックとして記憶に残っている。戦いに勝利できるか、トラップをすり抜けることができるかは、全てサイコロの目にかかっているのだが、シャドー砦の魔王をプレイしている時はサイコロ運に完全に見放されてしまったのだ。何度かプレイしているうちに攻略までのルートは見えてきたにも関わらず、ことごとく戦闘では負け続け、信じられないぐらいの確率でトラップにハマり、それほど難しくないゲームブックにも関わらず、クリアするまですさまじく苦労させられた1冊なのである。
お気に入りキャラ→シャドー砦の庭にいるゾンビー・ホークは相手の目をくり抜こうとする恐ろしいモンスターだが、シャンボール・アイホークから杖をもらっていれば、心強い仲間にすることができる。この黄金の鷹が思わぬところで活躍してくれるのがうれしいところである。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 3
炎の神殿
D・モーリス、O・ジョンソン著 創元推理文庫
炎の神殿
 最も寒さを感じさせてくれるゲームブックが雪の魔女の洞窟だとすると、この炎の神殿は最も熱さを感じさせてくれるゲームブックと言える。冒険の舞台となるのは、どこにあるかも分からないとされていた炎の神カタクの神殿。ふとしたことから、その場所を知りえたパラドスの竜騎士であるキミは、神殿に眠る財宝を求めて危険な地に乗り込んでいくのであった。さすが、炎の神殿と呼ばれるだけあって、炎の悪魔マルガッシュ、炎を吐くレッド・ドラゴン、炎のオーラに包まれたスカルガスト、炎の不死鳥フェニックスなど、炎に関連するモンスターが次々と行く手をはばむ。神殿の中には炎に関する罠も多く、プレイしているだけで思わず汗がにじんできそうである。
 そして主人公を待ち受けるのは、神殿を守るモンスターばかりではない。かつては一緒に冒険した仲間であり、裏切って自分の命を奪おうとした狂える魔道士ダモンティールも財宝をねらって、先に神殿に入り込んでいる。彼が魔法で生み出した暗殺の達人である悪夢兵も脅威ではあるが、最も恐ろしいのは彼の指にはまっている炎の光線を放つ廃墟の指輪。この一撃をくらうと瞬時に致命的なダメージを受けることになる。しかし、ダモンティールが先に神殿に入り込んで荒らしまくってくれたおかげで、恐ろしいモンスターと戦わずにすんだことは感謝すべき点である。
 この炎の神殿がすごいところは、ちょっとやそっとでは見つからないぐらい隠しルートが、うまく隠されていることにある。タルミリのサンダルを手に入れるためのルートも分かりにくかったが、ほら貝のらっぱを手に入れるためには、どうしたら良いか分からず、思わず本を投げ出したくなったほどである(この隠しルートは心理的に見つけるのが困難であった)。その他にも簡単に攻略するためのルートが、実に巧妙に隠されていて、ここを通れば強敵と戦わずに済んだのかと、後から知って驚かされることも多かった。
お気に入りキャラ→炎の神殿のお気に入りキャラとなると、クモザルのミンキーをおいて他に考えられません。冒険のはじめにピンチを救ってあげたことからペットになったミンキーだが、常に主人公の肩に乗っかっていてかわいいヤツなのである。それだけにミンキーがダモンティールによって殺されたときは震えるほどの衝撃を覚えたものである。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 4
失われた魂の城
D・モーリス、Y・ニューナム 著 創元推理文庫
失われた魂の城
 リントンの町で勇敢な冒険者はいないかと呼びかける若者の誘いにのったキミを待っていたのは、あまりにも恐ろしい冒険の依頼だった。そのジャスパーと名乗る若者によると、彼の父であるルーサー・フェイズ悪魔スランクと契約を交わし、巨万の富を手に入れたが、その見返りとして死後に魂をスランクに奪われてしまったというのだ。しかし、フェイズも転んでもたたでは起きない男で、スランクの居城である失われた魂の城の図書室にたてこもって、悪魔を倒すための手段を見つけ出そうとしていた。そのために必要となるのは、水晶玉四つ葉のクローバー聖者の灰尼僧の髪の毛立派な騎士の鎧の破片乙女の涙の6つ。そこで、そのうちの一つであるジャスパーの妹の涙を受け取り、キミは危険な冒険に乗り出すことになったのだ。
 そこで、この6つのアイテムを手に入れるための苦難の冒険がはじまるかと思いきや、リントンの町で水晶玉、四つ葉のクローバー、立派な騎士の鎧の破片は、いともたやすく手に入ってしまう。聖者の灰と尼僧の髪の毛だけは、いかがわしい連中が多いリントンでは入手困難ということで、失われた魂の城に向かう途中で見つけなければならないのだが、それも普通にプレイしていれば、割と簡単に手に入れることができる。さらに、城に入るまでは戦闘で体力を失っても回復する機会は多い上に、出発する時にジャスパーから体力を回復できる魔法の治療薬4回分を持たされているとあっては、これまでのゲームブックの主人公と比べて、随分と恵まれた環境にあるように思われる。
 こんな感じでシリーズ4冊目にも関わらず難易度が甘めに設定されているが、もし必要なものを手に入れられずに進んでしまったとしても、攻略が可能であるという点も、簡単に攻略ができる一因でもある。そして、もう一つ気になることとしてはファイティング・ファンタジーシリーズの盗賊都市と悪魔の退治方法が似通っている点である。必要なアイテムを幾つか手に入れて弓矢で倒すというところがザンバー・ボーンとの戦いを彷彿させるのである。これは推測に過ぎないが、本書のみがY・ニューナムとD・モーリスの共著という形になっている。若きゲームブックの書き手であるY・ニューナムにD・モーリスが手を貸して完成させたことから、甘いところが目立つゲームブックになっているのではないだろうか。
お気に入りキャラ→1人は嘘しかつかないし、1人は本当のことしか言わないゴブリンのドランとカバグー。クイズマニアにとってはおなじみの嘘つき族と正直族の問題だが、今回の場合はそれが見抜けないとあっという間にゲームオーバーになってしまう。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 5
ドラゴンの目
D・モーリス 著 創元推理文庫
ドラゴンの目
 ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィシリーズは剣でモンスターを倒していくのが基本だが、このドラゴンの目だけが主人公が魔法が使えるようになっている。使うことができる魔法は、燃え盛るトラが敵をなぎ倒す「炎のトラ」、相手を混乱させる「目くらまし」、突風を巻き起こす「疾風怒涛」、近くにいる相手の心を読む「ESP」、催眠術などの精神攻撃から身を守る「サイコ・バリア」、幻の物体を生み出す「蜃気楼」、ハチの大群を敵に襲わせる「死の群れ」、さまよえる死者の霊を呼び出す「死人返し」、空中に短剣を出現させる「念の剣」、数秒間だけダメージを受けない「無敵」、素早く動けるようになる「敏捷」、体力を回復させる「治癒」の12種類。ただし、それぞれの魔法は冒険の間に一度だけしか使えないという厳しい制約が設けられている。それにしても、たった一度しか使えないので無闇には唱えられないが、瞬時に敵を殲滅させる炎のトラの迫力は痛快である。
 冒険の舞台となるのは1000年前に滅びて廃墟と化したタリオスの町。海の浅瀬に位置し、常に潮にさらされているタリオスだが、この町を調査していた考古学調査団が最強の力を持つアイテムであるドラゴンの目を発見したというのだ。しかし、ドラゴンの目は持ち出せないように魔法の罠が仕掛けられているので、魔法の修行を積んだキミに白羽の矢が立ったというわけだ。タリオスの町で待つジールー導師に会えば、すぐに片付く仕事かと思われたが、海底に住む種族であるミューもドラゴンの目をねらってタリオスに上陸してきた。キミはタリオスの町を徘徊するミューよりも先にドラゴンの目を入手しなければならないのだ。
 タリオスの町が海の浅瀬の上にある町なので、冒険を進めるうちに何ヶ所か海を越えなければならない場面に遭遇する。この行く手を阻む海こそ最大の難敵で、海を乗り越えるためのアイテムを入手できるかどうかがカギとなる。また、ドラゴンの目のおもしろいところは、本来なら冒険の終盤に訪れるような場所に、途中を飛び越してたどり着けてしまうことにある。目的地の近くに早々とたどり着けるのは良いことだが、そうなるとクリアするために必要なアイテムが入手できない状況に陥ってしまう。この仕組みに気づかないと、なかなかクリアすることができないのである。
 また、冒険の舞台が海の近くであることから、海から上がってきたミューをはじめ、クラーケンや人魚、海の騎士など海に関するモンスターに数多く遭遇する。しかし、その中でも最も恐ろしいのが海の王と呼ばれるナックラヴィー。人体標本のように盛り上がった筋肉がむき出しになっており、馬と人間が融合したこのモンスターは、数あるゲームブックの中でも怖いモンスターのベスト3に入るほどのすさまじさがある。
お気に入りキャラ→水晶の牢獄の中に閉じ込められていたマンティス卿は昆虫の王とも言うべき存在。助け出してくれたお礼に宝をあげようと言うので喜んでいたら、こいつがトンデモないしみったれ野郎だったのである。
ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ 6
ファラオの呪い
O・ジョンソン 著 創元推理文庫
ファラオの呪い
 キミが冒険に出るきっかけとなったのは、カーフート大王の墓所を示す石版の半分を手に入れたことにある。このファラオの墓には莫大な財宝が眠っているとされることから、手がかりを得るために石版の持ち主であった古美術商のガバットを訪ねるため、アルコスの町に乗り込んでいったのだ。そういうわけで、冒険の主な舞台はカーフート大王のピラミッドの中になるのだが、アルコスの町からピラミッドに行くまでが一苦労なのだ。なにしろカーフート大王の財宝をねらうものは多く、キミが石版の半分を持っていることは、町中に知れ渡ってしまっているため、暗殺者たちが次から次へと襲い掛かってくるのである。
 砂漠やピラミッドの冒険は、あまりにも危険がいっぱいのため、アルコスの町で充分な準備を整えておく必要があるのだが、町の露天商から持ち金が許す限り、丈夫な手袋空中浮揚薬水が出続ける水筒敏捷薬魔法のじゅうたん(1時間分)といったアイテムを購入することができる。しかし、手元に少しでも多くのお金を残しておきたいところなので、どれを購入するかはキミの判断に任されることになる。
 実はこのファラオの呪いはシリーズ最終作の割には、多少拍子抜けの感がある。それというのも、クリアするために欠かせない重要なアイテムを見落としてしまうようなことが、ほとんど無いのに加え、これまでのシリーズでは、テネブロン卿、アーケイン・ダークローブ卿、魔導師ダモンティール、悪魔スランク、ミューといった最後に戦うことになる敵キャラが存在したのに対して、ファラオの呪いでは多くのゲームブックに見られる最後の戦いが待ち受けていないのだ。そのため、カタルシスが高まらないうちにラストのパラグラフに到達してしまうところが、いささか残念な気がする。それでもピラミッドの中には、これまでのラスボス以上に恐ろしい力を持つモンスターが存在する。中でも悪魔ボス悪魔イポは、普通に戦っても勝てる相手ではない。この悪魔たちをどうやって攻略していくかが重要なポイントとなるのだ。
お気に入りキャラ→砂漠を通り抜けピラミッドに向かうためには、ガバットに案内してもらうのが基本的なルートとなるのだが、それ以外の行き方も幾つか存在する。その中の一つとして、奇妙な老人に案内してもらうルートがあるのだが、この老人こそが悪魔ボスに生贄を運ぶ役割を任された僧侶の幽霊なのである。
ユニコーン・ゲームブック 1
魔王の地下要塞
ポール・ヴァーノン 著 創元推理文庫
魔王の地下要塞
 ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィシリーズに続く、海外のゲームブックシリーズ第二弾として創元推理文庫から出されたのが、このユニコーン・ゲームブックシリーズとなるのだが、残念ながら本書と、続くファイアーロードの砦の2作のみで終わってしまった。それというのも、これまで多くのゲームブックをクリアしてきたユーザーでも楽しめるように、戦闘方法などを複雑にしたため、残念なことに取っ付きにくい作品となってしまったのだ。
 事件の発端はドラーケン森を旅していたキミが、危険を避けるため木の上で休息をとっていたところ、女性を浚って森の奥深くに入っていく一団を目撃したことにある。朝になってベックフォードの街に行ったキミは、浚われたのはロマーク公爵のもとに嫁いでいくところのエスガロン伯爵の娘のアロウェン姫で、彼女に求愛して断られたことがあるドラーケンスフェルト男爵に犯人の濡れ衣が着せられていたのだ。しかし、真犯人は男爵の弟のロデリック卿であり、魔術師のザンダバーと組んで、兄の男爵を落としいれようとしていたのだ。このままではエスガロン伯爵とドラーケンスフェルト男爵の間で戦争が起こりかねないことから、誘拐事件の真相を知るキミはドラーケン森の奥深くにそびえる孤高の山「ドラーケンズトゥース」に乗り込むことになったのだ。取り返しのつかない事態となるまで残された猶予は7日間のみ。果たして期限までにアロウェン姫を救い出すことはできるのか。
 冒険の舞台はドラーケン森と敵のアジトである地下迷宮に分かれるが、本書の最大の特徴はドラーケン森のマップが、六角形のマスの組み合わせで描けることにある。ボードシミュレーションゲームでヘックスと呼ばれるマスとなるのだが、そのためルートを完璧に描き出すことができる。ただし、残念なことにドラーケン森のマスが全部で11マスというのは少なすぎである。そのうち2マスが敵の本拠地のドラーケンズトゥースなので、実質的に9マスだけが移動可能なマップである。冒険の後半はドラーケンズトゥースの地下に張り巡らされた迷宮となるのだが、ドラーケン森から地下迷宮に入る入口は全部で4ヶ所ある。どこから入っても構わないが、入る場所によって危険度が異なってくる。この地下迷宮は、六角形のマスではないが、やはり完璧に近いマップを描くことができる。
 さて、本書の問題点である複雑な戦闘方法だが、自分のつたない文章では伝わりにくいと思うがダラダラと記しておく。最初に戦力ポイント、敏捷ポイント、魔力ポイントを決定するのだが、サイコロを一つ振って6を足したものが戦力ポイントとなり、戦力ポイントが12のときは攻撃ボーナスポイントが+2、10か11のときは+1、3か4のときは−1、2以下のときは−2となる。敏捷ポイントもサイコロを一つふって6を足したものとなり、攻撃ボーナスポイントと同様の数値が防御ボーナスポイントに加味される。そしてサイコロを一つ振って4を足したものが魔力ポイントとなる。戦闘は自分のターンから始まり、サイコロを2つ振って、それに自分の攻撃ボーナスポイントを加え、そこから敵の防御ボーナスポイントを引き、その値が9以上なら敵の戦力ポイントか敏捷ポイントの好きな方を、持っている武器のダメージポイントの分だけ引いて、また自分のターンとなる。つまりサイコロの目さえ良ければ敵のターンが回ってくることなく倒せるのである。値が7か8なら勝利して敵にダメージを与えられるが、次は敵のターンとなる。6以下なら攻撃が失敗して敵のターンとなる。敵のターンではサイコロを2つ振って、敵の攻撃ボーナスポイントを足し、そこから自分の防御ボーナスポイントを引き、それが9以上なら自分の戦力ポイントか敏捷ポイントのどちらかを敵のダメージポイント分だけ引いていく。敵のターンではサイコロの目がいくら良くても、次には自分のターンに戻ってくる。そして、戦力ポイントか敏捷ポイントのどちらかがゼロになったら気絶したということで戦闘終了となる。
 書いている自分でもウンザリするが、これに戦闘中の魔法までルールに加わるのである。魔法は使うたびに魔力ポイントが消費されるが、複数の敵を眠らせるスランバー、複数の不死のモンスターを遠ざけるリペルアンデッド、一体の敵に稲妻を放つパワーボルト、自分の戦力ポイントや敏捷ポイントを回復させるヒーリング、透明になれるインビジリティ、ニセの足音を生み出すフットステップ、暗い場所を明るくするライト、高い壁を登れるフライフィート、宙を浮くことができるフロート、鍵のかかった扉や宝箱を開けるセサミの10種類となる。スランバーやパワーボルトを戦闘中に使うことで優位に戦えるのだが、その効果はサイコロを振って判断しなければならない。しかも、その際に振るサイコロは3つという異例の多さである。
 以上のように戦闘方法が複雑な上、戦ったところで経験値が得られるわけではないので、本書をプレイしていると戦闘恐怖症に陥りかねない。ちょっと辛辣なことを書いてきたが、完璧な地図が描ける六角形の組み合わせは、おもしろい試みであった。戦闘方法を単純にして、フィールドのマップを広大にすれば、ゲームブックの新たな可能性が開けたのではないだろうか。ともあれアロウェン姫の救出に成功したキミだが、それを祝う宴の席において男爵達からファイアーロード討伐を依頼されることになる。こうして物語は次作のファイアーロードの砦につながっていくのである。
お気に入りキャラ→本書最強の敵キャラは地下迷宮に潜むファイアー・リザ−ドとなるのだが、迷宮の本筋から外れたとこで、隠れキャラのように潜んでいるので、こいつに出会わずにクリアした人も多いはず。なお、敵のゴブリンの中に目立って体格のでかいナレクというヤツがいるのだが、自分が守るべきゴブリンの族長が嫌いなので、代わりに倒してくれないかと持ちかける仕事意識ゼロの困ったヤツなのである。
ユニコーン・ゲームブック 2
ファイアーロードの砦
ポール・ヴァーノン 著 創元推理文庫
ファイアーロードの砦
 シリーズ前作となる魔王の地下要塞の続編にあたる作品で、アロウェン姫を助けた功績をかわれたキミは、隊商を襲って略奪行為を繰り返すファイアーロードの討伐を命ぜられる。しかし、ファイアーロードは難攻不落の砦に居城を構えているため、わざと奴隷として捕まることで、砦の中に潜り込むという作戦に打って出る。なお、この作戦のため前作で手に入れた武器やアイテムは持ち込めないという設定になっている。戦闘方法や魔法の使い方が複雑であるのは前作と同様であるが、訳者であるマジカル・ゲーマー氏も複雑すぎる戦闘方法が気になったのか、自分で分かりやすいルールに改造してプレイしてみてはどうだろうかと、あとがきで勧めている。
 魔王の地下要塞で特徴的だったのは、フィールド上で展開された六角形のマスからなるマップだったが、本作は砦の中からゲームがスタートするので、フィールドのマップは存在しない。砦内部に広がる迷宮の通路は、前作同様にイラストで描かれているものの、六角形のマップが無くなってしまったのは少し残念なところである。敵の居城である砦の中だけで冒険が進むだけあって、かなり複雑な地下迷宮となっている。隠し通路や下の階層につながる螺旋階段など、複雑に入り組んでいるので、マッピングしていかないと攻略は難しいのではないだろうか。しかも、この砦にはウンザリするぐらい「燃える手」族のオークが、ファイアーロードの配下としてつかえている。潜入がバレて仲間を呼ばれたりすると、戦闘することもできないままワラワラと取り囲まれてゲームオーバーになってしまう。前半はいかにオークに見つからないようにするかの冒険と言っても過言ではない。
 砦への潜入方法は隊商の一員として紛れ込み、わざと捕まるというものだが、商人護衛書記御者のいずれに化けていたかにより、砦でのスタート地点が変わってくる。商人に化けていた場合はオークのマルガーの奴隷として、書記に化けていた場合は主席書記シグバートの手伝いとして、御者に化けていた場合は厩番としてスタートすることになるが、護衛に化けて潜入した場合は、強制的に闘技場で戦わされることになる。闘技場では、オオカミ、ライオン、闘士、オークのチャンピオンに次々と勝ち抜いていかなければならないが、この過酷な戦いをクリアすると前半のオークだらけの迷宮を通らないですむルートを選ぶことができるのだ。
 ファイアーロードは炎の悪魔であるグロガラックから力を得ているので、まともに戦おうとしても瞬時に焼き殺されてしまい相手にならない。彼の力の源であるファイアーロードのお守りが攻略のカギとなるのだが、力を失ったファイアーロードの最期は、数あるゲームブックの悪役キャラの中でも、最も悲惨なものだったのではないだろうか。そして、ファイアーロードを倒した後は、前作同様に伯爵が催した宴会となるのだが、今度は新しい任務を言い渡されることなく、領地を授かって終了となる。こうして複雑すぎるルールが災いしたのかシリーズは2作で完結となってしまった。
お気に入りキャラ→表紙にも描かれているファイアースネークは、地下迷宮の奥深くに潜み、相手を麻痺させる能力を持つ強敵である。しかし、護衛からスタートしたルートでは、こいつの存在がゲームクリアに欠かせないものとなっている。さらに、迷宮の最深部にはドラゴンが控えているが、本作のドラゴンは強すぎるため、戦って勝つのは不可能である。
THE TOWER OF DRUAGA 1
悪魔に魅せられし者
鈴木直人 著 創元推理文庫
悪魔に魅せられし者
 ゲームセンターの数あるゲームの中でも、パスワードを記録しておけば、続きをプレイすることができるということで話題をよんだドルアーガの塔。さらに、ファミコンでも発売され人気のゲームとなったが、そのドルアーガの塔がゲームブックとなって登場。ゲームと同じく全60階からなるドルアーガの塔を昇っていくことになるが、3部作の1作目となる本書では1階から20階までの冒険が描かれている。主人公のギルガメスブルークリスタルロッド恋人のカイを、悪魔ドルアーガから取り戻すために塔に乗り込むことになった。危険な罠と凶悪なモンスターが待ち受けるドルアーガの塔を、ひたすら60階目指して昇り続けるのだ。
 戦闘方法はサイコロ2個を振って自分の攻撃力が相手の防御力を上回れば敵の体力を削り、次に振ったサイコロで敵の攻撃力が自分の防御力を上回れば自分の体力が削られていくというもの。体力が0になった時点で戦闘終了で、自分の体力が0になったらゲームオーバーとなる。この攻撃力や防御力は持っている武器や防具で変わるので、塔を冒険する中で、より強い武器や防具を見つけ出していかなければならない。また、RPGらしく敵を倒せば倒すほど経験値がたまっていき、その経験値を戦力に還元できるのが、うれしいところである。
 さらに戦闘を左右するのは武器や防具ばかりではない。ギルガメスは戦士なので得意ではないものの、必要に応じてはマジックバリアの呪文であるMUARUや、秘密のドアを開ける呪文となるNUARAなど、魔法の呪文を唱えることができる。ただし、無闇に魔法を使うのは、あまりにも危険な賭けとなるため、それぞれの呪文の効果を塔の住人から聞きだすことを忘れてはならない。さもないと呪文を唱えた途端にゲームオーバーといったことになりかねない。
 難攻不落のドルアーガの塔だが、下の階ほど迷路も単純で、出てくるモンスターも弱いものとなっている。例えば1階は部屋が二つあるだけで、グリーンスライムを倒しカギを手に入れれば、2階に上がれるようになっている。ちなみにドルアーガの塔では、上の階に行くと下へ続く階段が消滅してしまうので、ひたすら昇っていくだけの一方通行の冒険となる。
 塔の中の冒険ということで閉塞的になるかと思いきや、6階は全てのフロアが熱湯風呂で飛び石を渡っていかなければならないし、16階は丸ごと巨大な闘技場である。そして、14階から17階は外階段でつながっていて自由に行き来できるなど、単純に上に昇れば良いだけの冒険ではない。なお、ファミコンのゲームをゲームブックにしただけあって、レッドソードという隠しアイテムまで用意されている。これが、どこにあるかはプレイしてみてのお楽しみ。この1巻目で冒険できるのは20階までとなるが、何と20階にはラスボスであるドルアーガが待ち受けている。もちろん、この段階でドルアーガを倒すことはできないが、この後の冒険のことを考えれば、せめて一太刀はあびせておきたいところだ。
お気に入りキャラ→5階は牢獄になっているのだが、ここに捕らわれている東洋一の剣士クルスは無骨ではあるが、何となく信頼しても良さそうなヤツである。19階で再び彼に出会うことになるが、敵に回すと恐ろしいが、味方になれば、これほど頼りになるヤツはいない。
THE TOWER OF DRUAGA 2
魔宮の勇者たち
鈴木直人 著 創元推理文庫
魔宮の勇者たち
 20階でドルアーガと対峙したギルガメスは、ついに21階のフロアにたどり着いた。このシリーズ2作目となる本書では、21階から40階までの冒険が描かれることになる。シリーズものなので1作目からプレイすることをおすすめするが、21階には武器屋や防具屋、薬屋などが並んでいるので、そこで買い物をすることで、前作をプレイしなかったハンデは取り返すことができる。さらに、前作の悪魔に魅せられし者が、ひたすら上に向かうだけの一方通行だったのに対し、本書では23階〜25階、26階〜28階が螺旋階段で繋がっていたり、21階・25階・28階に止まるエレベーターがあるなど、比較的自由に上と下の階の行き来ができるようになっているのが特徴。
 しかし、いつまでも同じ階を行ったり来たりしていては物語が進まない。28階で盗賊王であるドワーフのタウルスを仲間にしてから、29階がモンスター軍団によってふさがれてしまうので、一気に上を目指していかなければならない。ちなみに、タウルスは盗賊王だけあって、鍵がかかっているドアを開けてくれたり、能弁でモンスターをだましてくれたりと何かと役に立ってくれる。
 30階の酒場で東洋一の剣士クルスと再会し、31階でロックデーモンに刺さったクロムの長剣を引き抜き、32階のバードマンをだまして泉を越え、33階でグリーンクリスタルロッドを手に入れたたギルガメスは、ついに34階でもう一人の仲間である魔術師メスロンと出会う。こうして戦士、盗賊、魔術師というRPGのパーティーを完成させたところで、さらに上の階を目指していくことになる。
 そして、40階でギルガメスたちを待ち受けるのは、ドルアーガの忠実な部下であるダブルヘッドリザードマンのゴルルグ。2つの頭から同時に異なる呪文を唱えてくる強敵である。こいつを打ち倒せば、この巻における冒険はクリア。仲間となったメスロンとタウルスと、しばしの別れを経て41階以降の冒険を描いた魔界の滅亡へと続くのである。
 ちなみに、この閉塞的なドルアーガの塔の中でも異色なのが25階の船の発着場。そこから空とぶ船に乗ってドルアーガの尖兵たちが、他国に出撃していくのだが、ギルガメスも身分を偽って、塔から飛び出して外に出撃していくことができる。その行き先はサイコロ次第で、うまくいけば塔の中では手に入らない貴重なアイテムをゲットできるが、ヘタすれば二度と塔に戻ってこられなくなるのでご用心。
 お気に入りキャラ→もちろん仲間となるメスロンとタウルスはお気に入りキャラであるのだが、それ以外だと27階の笛吹きのハーメルンや、船で外に出撃した際に出会う聖なる力を持つ赤ん坊あたりが、印象に残るキャラである。ちなみに35階では、この60階に及ぶ塔を作りドルアーガを復活させてしまった張本人である、かつての皇帝の変わり果てた姿を目にすることになる。
THE TOWER OF DRUAGA 3
魔界の滅亡
鈴木直人 著 創元推理文庫
魔界の滅亡
 ドルアーガの部下であるゴルルグを倒し、ついに塔の41階にたどり着いたギルガメスだが、いよいよ出てくるモンスターもウィザードゴーストやドッグナイトなど、半端じゃなく強いやつらになってきた。レッドクリスタルロッドという貴重なアイテムも4人のウィザードによって守られている始末。そんな強敵ぞろいで難攻不落とされた60階まである塔を攻略し、悪魔ドルアーガを倒さなければならないのだ。40階で別れた仲間のタウルスとメスロンも、上の階に昇ってきているはずなので、彼らとの再会も冒険攻略のカギとなってくる。
 また、それぞれの階のつながりも、これまでと比べて複雑になっている。普通に41階から42階に上ることもできるのだが、外階段を使えば一気に50階に行くこともでき、それと同様に43階と45階と53階をつなぐ階段があるなど、これまでの冒険とは異なり、同じ階を何度も行き来することになる。その際に同じモンスターと何度も戦うことがないように、モンスターを倒すと鐘が手に入り、すでに倒したモンスターは2度と登場しないようになっている。
 本書の特徴としては、戦闘だけでなく頭を使ったパズルの攻略が求められることにある。42階の鋼の矢を手に入れるためのダイヤル錠、50階の男が頭を悩ませている宝の地図の謎、54階の部屋に閉じ込められた際に解かなければならない魔方陣、フロアにある巨大な氷を正しい方向に押し進めて手に入れる聖冠、そして本書最大の謎にして連立方程式を使って解くことに成功したのが、二つの星が交わる角度と時間を導き出して聖印を手に入れるための謎である。
 そんな謎だらけの塔の支配者であるドルアーガは59階で待ち受けているのだが、その前に4体のハイパーナイトやドルアーガの忠実なペットである巨大な翼竜を倒さなければならない。そうした戦いの末にドルアーガと対峙することになるのだが、端正な顔立ちの美少年の姿を脱ぎ捨てた正体は、9本の腕と4本の足を持つ醜悪な悪魔の姿。この恐るべき能力を持つ悪魔を倒すのは容易ではない。これまでに手に入れたアイテムと呪文を最大限に活用しなければ勝利するのはとうてい不可能。しかし、悪魔を滅することができる手段は、これまでの冒険の中で、おそらく手に入れているはずである。果たしてドルアーガを倒し、塔が爆発する前に60階にいるカイを助け出すことができるのか。
お気に入りキャラ→楽屋落ちではあるのだが45階には、この本の作者とイラストレーターの分身とも言うべきパオトアンフがいる。パオトが売っている「悪魔に魅せる勇者の滅亡」という本は、攻略本になっていて、これを見れば魔方陣や星が交わる角度と時間も一発で分かるという優れもの(ただし見るたびに体力が無くなる)。また、56階に出てくるバルキリー・ナオミタルカ・トウミは、それぞれナムコの古川尚美さんと、創元社の田中克己さんがモデルである。
スーパー・ブラックオニキス
鈴木直人 著 創元推理文庫
スーパー・ブラックオニキス
 ドルアーガ3部作を世に送り出した鈴木直人が次にコンピュータゲームをゲームブック化した作品が本書スーパー・ブラックオニキスである。パーティーを組んでダンジョンを冒険するというパソコンのRPGを見事なまでにゲームブックで再現している。冒険の舞台となるのはウツロの街。その町の中にレベル1からレベル5、さらにはブラックタワーという6つのダンジョンが広がっている。ドルアーガ3部作でも全ての階層をマッピングすることが可能だったが、本作でもウツロの街を東西8ブロック、南北12ブロックでマッピングすることが可能なほか、全てのダンジョンをマッピングすることができる。
 主人公となるのは燃えるような赤い髪を持ったテンペスト。戦で仲間を失ったテンペストは、金貨20枚だけを持ってウツロの街に流れ着いたのだ。この街には秘宝ブラックオニキスが眠っているという噂がある。そこで一攫千金を求めて冒険を繰り広げていくことになる。ウツロの街には武器屋、防具屋、質屋、酒場、食堂、宿屋、病院、教会、墓場と何でも揃っていて、レベル1からレベル5のダンジョンの入口も街のどこかに隠されている。とはいうものの、最初からレベル5のダンジョンに入れるわけではなく、まずはレベル1のダンジョンから挑戦し、ある条件を満たすと次のダンジョンに入れるようになるのだ。
 本書の最大の特徴はパーティーを組んで冒険を進めていくことにある。レベル1のダンジョンは1人でも攻略可能だが、レベル2以降は1人ではクリアできないというか、入り込むことすらできないのだ。最初に仲間になるのは盗賊のバムブーラだが、実はバムブーラは3人いる。ちょっと分かりにくいかも知れないが、全くの別人で能力値の異なるバムブーラが3人いて、どのバムブーラを仲間にするかは君の判断に任されるといった感じである。続いて仲間になる魔術師のシモンも同様に3人のシモンがいる。シモンが使える魔法は電撃のZAPPA、火炎のNARRO、相手を石化させるROCFO、仲間の動きを加速させるARZONの4種類で、アイテムさえ入手すれば全ての魔法を使えるが、それぞれのシモンは仲間になった時点で使える魔法が異なっている。そして、最後に仲間になるのが女戦士のタラミスで、バムブーラやシモンと違ってタラミスは1人だけである。なお、タラミスは剣の腕前も優れているが、治療の術も使うことができる。宿屋のないダンジョンにおいてはタラミスの治療の術は、実にありがたい存在となる。
 また、敵と味方が複数で戦闘を繰り広げるので、戦闘方法を文章で説明するのは難しいのだが、こちらの攻撃が一度でもヒットすれば敵は即死し、敵の攻撃がヒットしたらダメージポイントの分だけ体力を引くというのが基本的な戦闘の手順。例えばこちらが4人パーティーで敵のモンスターが8匹いる場合は、最初にテンペストとバムブーラとタラミスが剣で攻撃し、3人とも攻撃が当たれば敵は5匹となり、その5匹に向けてシモンが魔法を繰り出す。その魔法で敵を3匹倒したら、残った2匹が反撃してくるのである。そして、体力が0になってもゲームオーバーではない、薬さえ持っていれば仲間を生き返らせることができるし、自分の体力が0になっても、薬も持っていて、なおかつ仲間がいれば生き返らせてくれるのである。なお、テンペストには、その言葉を聞くと怒りに我を忘れ、一瞬で戦闘を終了させてしまう、言ってはならないキーワードがあることを追記しておく。
 このウツロの街を支配しているのが司法官のマサイヤなのだが、その正体は邪教の神に使える魔法使い。マサイヤが盗んでダンジョンに隠したブラックオニキスを十月二十日までに見つけ出さないと、ウツロの街に滅亡が訪れてしまうのだ。冒険を開始した時点では九月三十日なのだが、この時間の制約というのが実に厳しい。ダンジョンに入るたびに1日たち、体力を回復させるため宿屋に泊まると1日たってしまう。それなら戦闘を少なくして、早くゲームを進めようとすると、戦闘不足により経験値が足りなくなり、マサイヤとの決戦で勝利することができなくなってしまう。このあたりのバランスは実にうまくできていると思う。ちなみに、何かアイテムを得たりすると冒険記録紙のチェックリストにチェックを入れていくのだが、それに関して重大な誤植が存在する。自分が買ったのは再版だが、シモンを助け出すために必要な牢のカギに関する記述が間違っているのだ。そのためシモンを助け出すことができず、レベル3以降のダンジョンに入れなくなっている。これによりクリアできなくなり、挫折してしまったのだが、仮に誤植に気づいて先に進めたとしても、レベル3のダンジョンに出てくる悪夢のような回転ドアに打ちのめされていたと思う。
お気に入りキャラ→ウツロの街の片隅でブラックタワーのペナントと寒暖計を売っているお土産屋の男は、魔界の滅亡にも登場した作者の分身とも言えるパオトである。また、マサイヤの手下の黒騎士の中には東洋の剣士が紛れ込んでいるが、どう見てもドルアーガの塔で死んだはずの剣士クルスである。このように見覚えのあるキャラが登場しているのがうれしいところである。
ネバーランドシリーズ 1
ネバーランドのリンゴ
林友彦 著 創元推理文庫
ネバーランドのリンゴ
 項目数1000を誇る林友彦氏によるプーカ(猫妖精)の勇者ティルトを主人公にした国産ゲームブック。冒険の目的は妖精の国ネバーランドを脅かす魔導師バンパーを倒し、奪われたガラスが丘の魔法のリンゴを取り戻すことにある。当時、急速に普及したファミコンの影響を受けて、主人公は三つの命を持っていて、二度までは死んでも生き返ることができるなど、TVゲームを意識した作りとなっている。戦闘方法はサイコロ2個振って出た目に戦力ポイントを足した値が攻撃ポイントとなり、この攻撃ポイントが敵のキャラクターの攻撃ポイント以上なら武器ポイントの数だけ相手の体力を減らし、敵の攻撃ポイントを下回った場合は、敵のダメージポイントの分だけ自分の体力を減らさなければならない。サイコロの目に加算される戦力ポイントというのは最初は0だが、敵を倒すたびに経験値が加わり、経験値が8増えるごとに戦力ポイントは1つずつ上がっていく。ちなみにティルトの体力はサイコロ2個振って10を足した数となるが、おもしろいことに80から3人分の体力ポイントの合計を引いた数が所持金となるので、体力が低いキャラほど多くの金額を持ってスタートできるのである。
 その最大の特徴は双方向のパラグラフなので広大なネバーランドを東へ西へと自由に移動することができることにある。バンパーには千里眼のトレム地獄耳のクリストブルーグの首領フウムーンという3人の腹心の部下がいるが、彼らを攻略するためには姿を消し、気配を断ち、怪物の姿を映す3つの宝が必要となってくる。そこで、バンパーの居城に乗り込む前に、ネバーランドを駆け巡って、それらの宝を見つけ出す必要がある。また、コッドリープ市長ハリー・ブー娘エスメレーも、バンパーの手下によってさらわれてしまったので、宝を探すと同時に彼女も見つけ出さなければならないのだ。ネバーランドの各地を巡る中で、最初に訪れた時に入れなかったところが、別の場所でモンスターを倒してから再び訪れると入れるようになるといったところが、双方向パラグラフの魅力と言える。本書は全体で二部構成となっていて、このネバーランドでの冒険が第一部「ネバーランドのリンゴ」となり、バンパーの居城に乗り込んでからが第二部「蜃気楼の城」となる。
 勇者ティルトは基本的に剣を使って戦っていくことになるが、ドルイドの護符を見つけると、その護符に秘められた魔法が使えるようになる。その使える魔法は体を透明にする能力、体を五倍の大きさに巨大化できる能力、体を十分の一の大きさに縮める能力、武器から炎が吹き出す能力、怪物の姿に変えられた者を元に戻す能力の5つ。それぞれの護符には数字が付いているので、魔法を使用する場合は、指定された数字に護符の数字を加えたパラグラフに飛ぶことになる。中には普通に冒険しているだけでは、なかなか見つからない護符もあるので、ネバーランドをくまなく歩いて全ての護符を見つけ出してほしいところである。
 ちなみにネバーランドのリンゴは項目数1000といっても、その多くはバンパーの居城に張り巡らされた複雑な迷路に費やされており、東西南北のどちらに進むかが書かれているだけのパラグラフが多いのが、いささか残念なところである。しかし、個人的に最も残念なのは最後に待ち構えているバンパーのデザイン。彼の顔がだまし絵に使われている関係上、仕方が無いこととはいえ、悪の魔導師というよりは近所のおっさんといった風貌で拍子抜けである(部下のフウムーンの方がラスボスっぽい…)。しかし、そうした部分を差し引いてもネバーランドを自由に歩き回れる構成はプレイしていて実に楽しく、アドベンチャーシートのチェックポイントを埋めるのに思わず躍起になってしまう。
お気に入りキャラ→バンパーの居城の入口は塔の高いところにあるので、乗り込むには3つのアイテムの他に飛行術が必要となってくるが、それを授けてくれる魔導師ティグルワイズは、主人公のティルトの言うことには耳を貸さないくせに、エスメレーがなだめると大人しくなるなど、フェミニストというよりは、単なるスケベじじいとしか思えない。それと冒険の序盤で仲間になってくれるモグラのようなヌーだが、彼のアドバイスが役に立つことはあまり無かったように思える。
ネバーランドシリーズ 2
ニフルハイムのユリ
林友彦 著 創元推理文庫
ニフルハイムのユリ
 ネバーランドのリンゴの続編にあたる作品で、主人公も前作と同様にプーカの勇者ティルト。二度までは死んでも生き返れるといったルールや戦闘方法なども前作を踏襲した形になっている。今回の冒険の舞台となるのはネバーランドのはるか北にある妖精の国ニフルハイム。ネバーランドのリンゴ盗難事件から1年が経ち、娘のエスメレーと一緒にニフルハイムを訪れた市長のハリー・ブーは、すでに春になろうとしているのにニフルハイムの地が、未だ雪と氷に覆われている事態に遭遇する。その原因は地底の迷宮に住むゴブリンの王メレアガントが、フヴェルゲルミルの泉に咲く魔法のユリを奪い去ってしまったことにある。そこで、またもやティルトが困っている人たちを助けるための冒険に旅立つことになったのである。双方向のパラグラフを自由に行き来できるのは前作と同じだが、地下迷宮に入るために必要となるオイデ草に臭いを嗅ぎ付けられないヒドラの冷気で凍えないキメラの吼え声を聞かないといった、三つの「ない」を達成するためのアイテムを全て手に入れるためには、ニフルハイムの地を何度も西へ東へと動きまわらなければならない。
 また、同一キャラであることから、前作で覚えた魔法はそのまま使えることになっている。そのため前作をプレイしたことがある人は、体を透明にする能力、体を五倍の大きさに巨大化できる能力、体を十分の一の大きさに縮める能力、武器から炎が吹き出す能力、怪物の姿に変えられた者を元に戻す能力は最初から使えるようになっている。このうち小さくなる能力と武器から炎を出す能力は本書からプレイしても覚えることができるが、その他の3つは前作からプレイした人のみが使える魔法となる。しかし、霧を発生させる能力オオカミに変身する能力牙から味方を生み出す能力の3つは本書から新たに登場するもので、ゲームを攻略するために重要な魔法となる。この中で牙から味方を生み出す能力は、呼び出すものの牙を手に入れなければ使えないが、召還できるのはライオン、土竜、トロール、ブルーグの4種類。これらの生き物の牙を手に入れれば、戦闘は格段に楽なものとなるに違いない(使いどころにもよるのだが…)。
 そして、前作同様に本作も2部構成となっており、地下迷宮の入口を見つけるまでの冒険が第一部 ニフルハイムのユリ、そしてメレアガントの居城に潜り込んでからが第二部 地の底の迷宮となる。この第二部の地下迷宮に費やされているパラグラフは前作よりも少なくなっているものの、上の階と下の階を行き来しなければならない立体的な迷宮はマッピングするのも難しく、実にプレイヤーを苦しめてくれる。この地下迷宮を攻略するためのヒントも存在するのだが、今度はヒントに隠された暗号を解くことが困難で、これならダンジョンに苦しめられたほうがましかも知れない。ネバーランドのリンゴでも様々なパズルが出てきたが、本作ではパズルの難易度もアップしており、バラバラになったチェス盤を組み合わせたり、大山椒魚の出す金色の鱒を独り占めする方法など、すぐに解けるようなパズルではない。その中でも、地下迷宮の進み方を示したクナイホープの暗号は、あまりの難易度にギブアップした人も多いのではないだろうか(巻末に全てのパズルの答えは出てくるが…)。
お気に入りキャラ→地下迷宮に乗り込むためには、ヤガー婆さんの協力が必要となってくるが、彼女が住んでいる小屋はすぐに見つかるものの常に不在で、彼女に出会うことが本書の最大の難関と言っても良いぐらい難しいものであった。また、前作でバンパーの肖像を描いたノームの絵師プップホルツは本作にも登場するが、見かけによらず憎たらしいのは相変わらずである。
ネバーランドシリーズ 3
ネバーランドのカボチャ男
林友彦 著 東京創元社

ゲームブックとボードゲームを組み合わせたゲームということですが、残念ながら未プレイです。
展覧会の絵
森山安雄 著 創元推理文庫
展覧会
 ゲームブック雑誌であるウォーロックでソーサリーを抜いて好きなゲームブックの1位にも輝いたことがある名作。何がそこまで読者を引き付けたかというと、その独特の世界観と雰囲気、そして意外なラストにある。主人公であるキミは、気がついたら全ての記憶を失い吟遊詩人として旅を続けていた。そんな戦闘にも不向きな主人公が、真の楽師の琴だけを頼りに、10枚の展覧会の絵の中に入り込み、自分が何者かを見つけるための旅に出る。剣が使えない代わりに吟遊詩人であるキミは真の楽師の琴を使って、和解の旋律戦いの旋律魔除けの旋律を奏でることができる。ただし、その回数には限りがあるので、時と場所を心得て音楽を奏でなければならない。旋律を使いきってしまうと真の楽師の琴は壊れてしまうのだ。この展覧会の絵では、複雑な戦闘方法は存在せず、音楽の使い方とサイコロの目だけが、冒険の成否のカギを握ることになる。
 1枚目の絵である「侏儒−地の精」の中でノームから旅の目的を説明されたキミは、「古城」で風の精から砂の王の退治を依頼される。続いて「チュイルリーの庭」で美術館を見学したら、「ビドロ−牛の群れ」では凶悪なミノタウロスを退治することになる。驚くべきことに「卵の殻をつけた雛の踊り」では生まれたばかりの雛鳥になって鳥として生きていくことになり、「サミュエル・ゴールデンベルグとシュミイレ」では仲違いしている兄弟の仲裁に走り回る。「リモージュの市場」では旅の途中で挫折した女性の吟遊詩人と出会い、「地下墓地」では暗い迷宮をさ迷い続けることになる。そして「バーバ・ヤーガと鶏の足の小屋」を抜ければ、最後の「キエフの大きな門」にいたり、主人公がこの世界に来た本当の意味を知るのである。この絵の世界を進む中で手に入れなければならないのは12の誕生石。全てを手に入れる必要はないが、冒険をクリアするためには多いに越したことはない。
 次の世界に進むには、キエフの門の印が付いた絵を見つけ出していくしかないのだが、こんな感じで訳の分からないうちに冒険に巻き込まれ、謎を解き明かしていくうちに、その冒険の意味が見えてくるというのは、児童書の名作であるぽっぺん先生シリーズを思い起こさせてくれる。ゲームブックのシステムとして凝ったルールが用いられてなくても(音楽で危機を乗り切るというのは革新的だが)、そのストーリ展開だけでも充分におもしろいゲームブックになるということを証明してくれた一冊である。
お気に入りキャラ→リモージュの市場に存在する輪廻の蛇は、これまでに10回も甦り、そのたびに鱗の数が増えていった。この鱗の数が分からなければ、先に進むことはできないのである。
ゼビウス
古川尚美 構成・文 創元推理文庫

ゼビウス  ゼビウスといえばゲームセンターで大人気を博したナムコのシューティングゲーム。ソル・バルウに乗船して敵機を撃ち落していく爽快感、見事なまでのゲームバランスの良さ、優れた音楽やグラフィックスなど様々な要素が合わさってグラディウスやツインビーと並ぶ名作として名を残すことになった。本書はそのゼビウスの世界観を元に作り上げられたゲームブックだが、主人公のP・J(ポール・ジョーンズ)は人類に滅亡をもたらすバイオ・コンピュータであるガンプのレプリカを破壊するため、単身ゼビウス星に乗り込んでいく。ゲームと違いソル・バルウには乗らずに、生身の身体で戦いを進めなければならない。
 まず冒険の前にサイコロを2個振って、それに12を足したものを体力ポイントとして設定。続いてサイコロを1個振り、それに6を足したものを戦力ポイントとして設定する。敵との戦闘になったら最初にサイコロを2個振って敵の戦力と合計、続いてサイコロを2個振り、自分の戦力ならびに自分の武器ポイントと合計して上回った方が勝利となる。たいがいの場合、戦闘は1度で終了し、キミが勝てば相手はダウンしたことになり、キミが負けたらダメージを負って逃亡することになる。何度もサイコロを振る手間は省けるが、その代わりに同じ敵と何度も戦う場合もある(ゲームでも次から次へと敵機が登場するので矛盾はしていないが…)。ちなみに武器ポイントが勝利の命運を分けるので、ゼビウス星でいかに強い武器を手に入れるかが重要なカギとなる。
 また、P・JはESPの能力を備えているので6つの能力を修得することができる。サイコキネシスは手を触れずに物体を動かしたり、自分の体を浮かすことができる。テレパシーは言葉を使わずに別のエスパーと会話が可能。サイコ・ショックは相手に精神攻撃を行い無力化する。サイコ・バリアーは相手の超能力攻撃から身を守る。透視力は物体の内部を見ることができる。テレポートは瞬時に別の場所に移動することができる能力。ゲーム開始時には、この中の能力を一つだけ修得しており(テレポートを除く)、後はゼビウス星に着いてから身につけることになるのだが、最初にどの能力を選ぶかの判断はプレイヤーに任される。
 ゼビウス星では双方向のパラグラフで何度も同じ場所を行き来することが可能。体力が許す限り自分の能力を高め、必要なアイテムを手に入れてからガンプとの戦いに臨むことができる。ゼビウス星において戦闘からの逃亡はさほど難しくないので、まだ勝てる段階でないと思ったら、さっさと逃げるのも懸命な手段。ゲームではおなじみのトーロイドやドモグラムといった敵機も登場するので、ゼビウスをゲームでプレイしたことがある人は、このゲームブックで一味違ったゼビウスを楽しんでほしい。ちなみにゼビウス星は地球と違い16進法が用いられている。鍵などに描かれているゼビ数字を解読できないと進めなくなるので、それなりの知識が試されるところだ。なお、ゼビウスにおいてナムコのゲームと創元社のゲームブックの融合が成功したことから、名作ドルアーガ3部作が誕生したわけで、そういった意味でも本書の功績は大きいと言える。
お気に入りキャラ→ゼビウス星は敵地でありながら、P・Jのガンプ破壊工作を協力してくれる者が何人か存在するが、その中でもガンプ攻略に欠かせない存在となるのが、バキュラ博士娘のカーチャ。バキュラといえばゼビウスにおいて絶対に壊せない物質だが(ゲームでは256発撃てば壊せるというウソ情報が出回った)、博士の助け無くしてはガンプを守るバキュラを溶かせないのだ。
ドラゴンバスター NEW
古川尚美 著 創元推理文庫

ドラゴンバスター  ゼビウスドルアーガの塔といったナムコのゲームがゲームブック化されて好評だったことから、同じくナムコのゲームで、ゲームセンターやファミコンで人気の高かったアクションRPGのドラゴンバスターがゲームブック化されたのが本作となる。著者はゼビウスに続いてナムコの社員である古川尚美さん。ゼビウスネバーランドのリンゴと同様に双方向型のゲームブックで、主人公のクロービスはローレンス王国周辺を自由に歩き回ることができる。つまり、冒険を進めていく中で、必要なアイテムを集めて、充分に強くなってから最後の戦いに臨むことができるのだ。ただし、一度入ったら敵を倒すまで出ることができない一方通行のダンジョンもあるので、その点は注意が必要である。
 ローレンス王国の王女であるセリア姫が、ドラゴンによって連れ去られるという事件が発生する。姫を守ろうとした親衛隊長のセリアズは命を失ったが、その一人息子であるクロービスが、父の仇を取り、幼馴染でもあるセリア姫を助け出すため、愛剣イクサーソードを携え、冒険に旅立つことになったのだ。サイコロを2つ振って、それに24を足したものを原体力ポイント(他のゲームブックと比べて体力ポイントが高めに設定されている)、サイコロを1つ振って、それに6を足したものを原戦力ポイントとして設定。敵との戦闘の場合は、まずサイコロを2つ振って、それに敵の戦力ポイントを合計し、続いてサイコロを2つ振り、自分の戦力ポイントと武器ポイントを合計し、上回った方が勝利となる(同じ数値の場合は自分の勝利)。敵に勝った場合は、一部の戦闘を除き、一撃で勝利したことになり、負けた場合は相手のダメージポイントだけ体力ポイントを減らして逃亡する。ゼビウスと同様に一回の戦闘で終了するところが、実にシンプルである。なお、敵を倒すと経験値を獲得することができ、経験値が10ポイントたまるごとに戦力ポイントが1点加算される。双方向のゲームブックなので、何度も同じ敵と戦うことは可能だが、無駄な経験値稼ぎを防ぐため、同じ敵に出会うと敵の戦力ポイントとダメージポイントが2倍、3倍と増えていく。こうなると同じ敵に何度も勝つことは不可能になるので、一度きりの戦闘が基本となる。
 冒険に出たクロービスは、最初にローレンス王国内で準備を整えることになる。アーマーショップ、ポーションショップ、アイテムショップなどは、全て王国内にあるので、ここで必要なアイテムのほぼ全てが揃えられる。その王国を取り囲むように、東にはマークレイマウンテン、南にはシーガルマウンテン、西にはアルバトロスマウンテンがそびえ、それぞれのマウンテンにはダンジョンが張り巡らされている。そして、敵の本拠地であるアルバトロスマウンテンには、レッドドラゴンブルードラゴングリーンドラゴンゴールデンドラゴンが待ち構えている。双方向のゲームブックなので、攻略する順番は自由だが、かなり効率よく冒険を進めないと最後の敵を倒すことは不可能である。
 サイコロを1つ振って、4を足したものが魔力ポイントとなり、最初は剣で戦うしかないが、冒険の途中で魔法のアイテムを見つけると、魔法をはね返すリフレクトスペル、扉を開けるオープン、空に浮かび上がるフローティング、敵を眠らせるスリープ、火の玉を放つファイヤーボール、氷の息を吐くコールド、指から稲妻が発せられるサンダーボルト、そして特別な呪文であるメタモールを唱えられるようになる。敵を一撃で葬り去れる魔法は強力ではあるが、魔法を使うたびに魔力を消費していくので、使う回数も限られる。なお、ファイヤーボールの呪文を使う際は、その項目番号に10を足すなど、それぞれの魔法は、パラグラフに数を足したり引いたりすることで効果を確認する。
 本書は失われた体力や魔力を取り戻すのが難しいのが特徴で、宿屋に泊まっても体力は回復せず、限られた食料で体力を回復するか、寺院で大金を払って回復してもらうしかない。そのため双方向といっても戦闘での無駄な消耗は避ける必要がある。かといって戦闘で得られる経験値は、どうしても確保しておきたいところで、実際にプレイしてみると分かるが、サイコロ運に恵まれ、高い戦力からスタートしても、登場するモンスターを片っ端から倒して経験値をためておかないと、ゴールデンドラゴンを倒すのは難しい。なお、作中に登場するモンスターは、とび跳ねるヒヨコのようなリーベン、突進してくるイノサイ、回転しているテストールなど、いずれもゲームに登場したキャラとなっている。
お気に入りキャラ→シーガルマウンテンのダンジョンでバッタリ出くわすのが、作者の分身キャラであるバルキリー・ナオミである。リフレクトスペルやファイヤーボールの呪文を使いこなすためには、難しい謎を解く必要があるが、どうしても解けない場合は、冒険の途中で作者に出会えたのだから、直接聞いてしまえばいいのである。なお、ダンジョン内に大声を出すとひっくり返る小動物がいるが、こいつのモデルはナムコから発売された怪獣型キャラクターの「ワギャン」である。
バック・トゥ・ザ・フューチャー
安田均/TTG 著 創元推理文庫
バック・トゥ・ザ・フューチャー
 バック・トゥ・ザ・フューチャーといえば1985年に公開されたロバート・ゼメキス監督のSF映画。デロリアンで時空を移動するというストーリーが話題を呼び、PART2、PART3が作られるほどの人気作となった。主人公のマーティ天才発明家のドクが発明したタイムマシンで30年前の1955年にタイムトリップするが、そこでタイムパラドックスのジレンマに捕らわれながら、未来に戻ろうと奮闘努力することになる。本作はそのストーリーを下敷きにゲームブック化したもので、著者はゲームブック雑誌ウォーロックの監修をつとめた安田均。初期のゲームブックであるためゲームのシステムが未成熟である点や、他のゲームブックのように名も無き冒険者ではなくマーティが主人公のため感情移入しにくいなどの問題点があるものの、原作付きのゲームブックというジャンルを開拓したゲームブック創成期を代表する一冊になっている。
 物語を始める前に決めておくのはサイコロ1個ふって6を加える運勢値のみ。基本的に選択肢を選ぶだけで物語りは進んでいくが、途中で何どもセービング・スローを試される場面が出てくる。これは誰かを殴ったり説得したりする場合に成功するかどうかを判定するもので、ST4ならサイコロを振って4以下、ST2ならサイコロを振って2以下で成功となる。ただし、ここで運勢値を1つ使うごとにサイコロの目を2つ増やしたり減らしたりすることができる。つまり、運勢値が残っている限り自由にセービング・スローを成功させたり、失敗させたりすることができるのだ。わざと失敗する必要など無いように思えるだろうが、これがタイムトリップものの難しいところで、相手を殴って倒したことが良い結果に結びつくとは限らないのだ。
 実は映画の方が未見なので、どれだけ原作に忠実なのかは判断つきかねるが、マーティがタイムトリップしてきたせいで、父親と母親の結婚が危うくなり自らが消滅しかけることや、やたらといじめっ子のビフが邪魔してくるのは原作と同じようである。自分の母親に好意をもたれてしまい、嫌われるための行動をとらなければならないというのも大変な話だが、選択肢を間違えると母親とただならぬ関係になってしまうという他のゲームブックには見られない恐ろしい末路が待っている。途中で選択肢を誤っても同じパラグラフにたどり着けるパターンが多かったり、本筋を外れた部分で無駄に分岐していくなど、問題点も多く残るゲームブックだが、3パターンのマルチエンディングが用意されているなど面白い試みが取り入れられている。
お気に入りキャラ→選択肢を誤って取り返しのつかないことになったとしても、運勢値が残っていればバッドエンドにはならず、時間エントロピー修復機関の工作員によって、少しだけ時間を戻した状態でやり直しとなる。この工作員は何人もいるのだが、安田均氏の趣味でSFに関連した人物の名前が付けられている。元ネタが分からないものも多いが、ハンニバル・フォーチュンはラリー・マドックの小説に出てきた工作員、ジャド・エリオットはロバート・シルヴァーバーグの小説に登場する時間旅行のガイドで、パルケリア・エリオットはジャドが恋してしまう自分の先祖、マンス・エヴァラードはポール・アンダースンの小説に出てくるタイムパトロールである。
暗黒教団の陰謀 輝くトラペゾヘドロン
大瀧啓裕 著 創元推理文庫
暗黒教団の陰謀
 創元推理文庫からは怪奇作家ラヴクラフトの全集が発行されているが、そういった経緯からラヴクラフトが描き出したクトゥルー神話の世界をゲームブック化したものが本書となる。作者の大瀧啓裕氏は同社のラヴクラフト全集の大半を翻訳するなど、ラヴクラフトの世界観を誰よりも精通している人物である。クトゥルー神話とは旧神によって封印されたクトゥルーやヨグ=ソトースなどの旧支配者がもたらす狂気の物語で、このゲームブックもミスカトニック大学の付属図書館に勤める主人公が、旧支配者とそれを信奉する者たちがもたらす災厄から世界を救うホラーゲームブックとなっている。
 ゲーム開始前に決めるのは生命力、気力、知性の各ポイント。サイコロを2つ振って15を足したものが生命力、同様に10を足したものが気力、5を足したものが知性となる。戦闘ではサイコロ2つ振った数と気力ポイントを合計して上回った方が勝利したことになり、相手の生命力を4減らし、引き分けの場合は互いの生命力を2減らす。また、行動によっては経験ポイントが加算されていくが、経験ポイントを1減らすことで攻撃力や知性ポイントを2増やすことができる。また、ホラーゲームブックの特徴として狂気ポイントがあり、恐ろしい体験をするたびに狂気ポイントが加算され、10を超えると発狂してゲームオーバーとなる。この狂気ポイントを2増やすことで、生命力か気力を2増やすことができ、その逆に生命力と気力の両方を2減らすと狂気ポイントを2減らすことができる。
 主人公であるあなたは叔父のピースリー博士から旧支配者の復活を妨げるために、インスマスの街のどこかに隠されている輝くトラペゾヘドロンを見つけなければならないと告げられる。しかし、インスマスには全ての旧支配者を復活させようとする星の智慧派と、クトゥルーを復活させて世界を征服しようとするダゴン秘密教団が結託して待ち構えているというのだ。しかも、インスマスという土地自体が狂気に取り付かれた場所であり、余所者が滅多に訪れないような場所である。そんな恐ろしい場所で無事に目的を果たせるのであろうか。
 さて、この暗黒教団の陰謀は不条理な展開ということで、有名な作品だったりするのである。それというのもクリアに至るルートが、ほぼ一つしか無いにも関わらず、その正当なルートから外れても、すぐにゲームオーバーにならず、正当なルートから外れた後は、冒険を進めたあげく最終的に死が待つという過酷な運命を背負わされるのだ。その極めつけとなるのが、攻略のカギとなるシュリュズベリイ博士に会うためのルートである。博士に会うためのルートは限られていて、しかも見つけるのは困難を極める。そして博士に出会えなければ、そこからマーシュ精錬所に行こうが、悪魔の暗礁に行こうがゲームオーバーが待つだけである。しかも、本作には運試しにあたるギャンブルという設定があり、博士に会えるルートを選んでも、途中で振るサイコロの目によっては会えずに終わってしまう。これはゲームブックとして問題のあるところだが、扱っているテーマがクトゥルー神話である本作に限っては、許されるのではないかと思われる。運命に翻弄され、自分の意思に反して死を迎えるしかないという不条理感により、旧支配者の恐ろしさが伝わってくるのだ。ゲームブックとしての爽快感は全く無いが、ラヴクラフトの小説の読後感と、本作をプレイした時の感覚が似通っているのは、この不条理感ならではと思われる。
 また、とても戦えるような相手ではない怪物が登場するのだが、ルルイエの深きものどもの気力78・生命力500なんかは甘いほうで、ヒュドラにいたっては気力1000・生命力10000という絶望的な数値が設定されている。
お気に入りキャラ→キーマンであるシュリュズベリイ博士は旧支配者に立ち向かうだけあって人間離れしており、眼球が無いのに物を見ることができ、地球を離れてはハレー彗星の訪れとともに戻ってくるという生活を送っている。戦闘能力も超人的で、博士が一緒の時は気力と生命力を3倍にしてもよいという設定がなされている。また、酔っ払いのジョシュはゲーム開始当初から重要人物扱いされているのだが、ようやく会えたと思ったら拍子抜けというのも、不条理感あふれる本作ならではと言える。
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