何時間働いたかではなく、どんな成果をあげたかで賃金が決まる。それ自体は、合理的な考え方だ。

 だが、過大な成果を求められれば、長時間労働を余儀なくされ、命や健康がむしばまれかねない。その危機感が薄いのが心配だ。

 政府の産業競争力会議で、民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事が新しい労働時間制度の創設を提案した。

 賃金を労働時間と関係なく成果で払うようにすれば、労働者が働く時間や場所を選べ、創造性を発揮できる弾力的な働き方が可能になるという主張だ。

 日本では原則1日8時間・週40時間労働で、残業や休日・深夜労働には割増賃金を払う必要がある。ただ、上級管理職や研究者などで例外がある。

 提案は、この例外を大きく広げる。国が目安を示して「労働時間を自分の裁量で管理できない人」を除けば、労使の合意で誰でも対象にできる。

 最大の懸念は労働時間の上限規制があいまいなことだ。国が基準を示しつつ、労使合意に委ねるというが、雇い主と働く側との力関係を考えると、有効な歯止めにはならないだろう。

 今も労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になる実態がある。しかも、サービス残業が労働者1人あたり年間300時間前後にのぼるとの推計もある。残業代さえ払われない長時間労働を根絶するのが最優先課題である。

 その点、長谷川氏が前提として挙げる「職務内容の明確化」は重要な視点だ。労働者が過重な仕事を割り当てられる状況を改めるには、「どのくらいの時間が必要か」を含め、仕事の質と量を労使で調整する作業が必要になる。これは、新しい制度の導入の有無に関係なく取り組むべき事柄だ。

 長谷川氏の提案は、長時間は働けない子育て・親介護世代や女性、高齢者の活用を期待してのことだという。だが、短い時間で高い成果を上げる人を活用し、高い給料を払うことに何ら規制はない。経営者の取り組みに大いに期待したい。

 成果ベースの賃金制度は、政府の規制改革会議も提案している。こちらは「労働時間の量的上限規制」や「休日取得に向けた強制的な取り組み」とセットであることを強調している。

 働き方を柔軟にすることは望ましい。しかし、理念を追求するだけでは、逆に労働環境を悪化させかねない。どんな場合でも、労働者の命と健康を守るための「岩盤規制」は必要だ。