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神達に拾われた男(仮題) 作者:Roy

第三章 13話

本日2話目の投稿です。今回は珍しく、主人公の店の従業員視点です。
次回は4/28の予定です。
 割り当てられた部屋のベッドで目が覚める…………

「フィーナ、起きて!」
「ん……ジェーン……?」
「まったく! 普段しっかりしてるのに、何でこう寝起きだけは悪いかな?」

 …………いけない、二度寝してたみたい。流石に仕事のある日は二度寝しないけど、今日はお休みだから……

「今日は皆で街に出るって話、忘れたの?」
「そうだった!」

 今月から週に一回、皆一緒に休みが取れる事になったから、皆で街に遊びに行こうって話になったんだった!

「すぐ用意するから、待ってて!」

 私は慌てて出かける用意をして、従業員寮のロビーに向かう。そこには同じ村から一緒に出稼ぎに来たマリアとジェーン、そして同僚のリーリンさんが居た。

「お待たせ! ごめんなさい、遅れちゃって」
「おはよ~」
「気にする事無いネ」
「ま、いつもの事だしね」

 ジェーンの言葉には反論したいけど、ジェーンの言う通りだから言い返せない。何で私はあんなに寝起きが悪いんだろう……?

「さぁ、行くよ!」

 ジェーンがそう言って先頭に立ち、私達は街に出る。私はリーリンさんとマリアに励まされながらついて行く。

 街に出てからは少し落ち込んでいた気分も晴れ、3人と一緒に街を楽しんだ。

 朝ごはんは街の独身労働者相手に商売をしてる屋台で買い食い。肉体労働する男性向けのお店だったから、私とマリアには一食の量がちょっと多かった。

 ご飯の後は昼を少し過ぎた位の時間まで日用品を買い込んだり、服を見て回ったりしてすごす。



 まさか出稼ぎに来てこんな生活が出来るなんて思ってなかった……私たちは間違いなく運が良かった。村に居た時は毎日朝早くから夜遅くまで働いても私達が自由に使えるお金なんて稼げないと思ってた。出稼ぎに出て、帰って来た人達が皆そう言ってたから。

 多分ジェーンもマリアも同じ事を考えてたと思う。でも、実際は予想と違った。1人1人に個室が与えられて、食事はシェルマさんが美味しい物を作ってくれて、お給料は多い。仕送りのお金を予定の倍にしても、週に一度の外出で買い食いや買い物に使える位のお金が貯められる。

 マリアは時々ボーッとしてる事があって、転んだりして怪我をするけど、その時はすぐに回復魔法で治して貰ってるらしい。リーリンさんから聞いた話だと、フェイさんも足の骨折を治して貰ったみたい、しかもタダで。

 回復魔法での治療なんて、普通はあまり気軽に頼める物じゃない。それをうちのお店では従業員限定でいつでもタダで受けられる。お店に妨害が来始めた頃から、店長がヒールスライムというスライムをお店に常駐させてるから。

 前は店長が管理していたけど、ロベリアさん達が居た時はロベリアさん達が管理していて、ロベリアさん達が支店勤務になった後は従魔術を覚えたマリアが管理してる。ロベリアさんからは貴重なスライムだって聞いてるから、そんなに簡単に預けていいの? と思う……でも、回復魔法をいつでも受けられるのは安心感がある。

 とても良い仕事場で、この前村の両親がこっちの生活や雇い主はどんな人かと私達を心配して手紙を送ってくれた時は、心から心配しなくて良いと返事を書けた。

「フィーナ、何ボーッとしてんの? まだ目がさめてないの?」
「もう覚めてる。いつまでその話を引っ張るのよ」
「とりあえず、例のお店に行くよ」

 例のお店と言うのは最近ギムルの街で人気の喫茶店で、お菓子が比較的安くて、美味しいらしい。噂を聞いてマリアとジェーンが行きたがってたので、買い物の後の休憩はそこにしようという話になっていた。

 そしてそのお店に入ると木製のテーブルと椅子が並べられていて、所々に花が飾られ、今の季節は火が付いてないけど隅には大きな暖炉がある落ち着いた雰囲気の店内だった。

 私たちは窓際の席に案内されて、席に座る。そして女性の店員さんに注文を出して待つ。その間にジェーンが聞いてくる。

「で、さっき何考えてたの?」
「別に、私達って運が良かったなーって」
「何だ、その事か。確かに普通のお店に雇われてたらこんな贅沢出来ないよね」
「仕送りもちゃんと出来て~、お休みもあって~、良い職場だよね~」
「そう言えば、3人は同じ村から来たんだたネ?」
「そうです~」
「強い魔獣も居なくて、特産品も無くて、土地もそれほど豊かじゃない何も無い村ですけどね」
「出稼ぎなら、いつかは今の仕事、辞めるカ?」

 確かに出稼ぎをして故郷に帰る人達は居るけど、私達はそのつもりは無い。

「店長が良いと言ってくれたら、ずっと働きますよ~」
「他の仕事より多くの仕送りを送れますし、一度辞めてまた雇って貰えるか分かりませんから」
「従業員募集とかしたら希望者が殺到しそうだもんね。そう言うリーリンさんとフェイさんは? 前は行商人だったって聞いたけど」
「私達の国、とても危ないヨ。私も父も、帰る気無いネ」

 ジルマール……ってどんな国だったかな? 大きいけど遠い国だから名前くらいしか聞いたことが無い。村に住んでた頃はこの国の名前と周りの村の名前を知ってれば良かったし、遠くの国の事なんて聞く機会が無い。

 私と同じでマリアやジェーンもよく理解できてないみたい。危ないって事は理解できるけど、どう危ないかは分からない。それに気づいたリーリンさんが説明してくれた。

「ジルマールはずっと昔から戦争中ネ。他の国とじゃなくて、同じ国の中の貴族同士で争ってる。元々はジルマールを建国した初代皇帝が使っていた装備を、皇帝の死後に奪い合ったのがきっかけらしいヨ」
「武器を奪い合って戦争に?」
「武器だけじゃなく、鎧や兜もネ。しかもそれ、全部凄い力を秘めていたらしいネ。その装備一式を全て揃えると最強の力を得られ、国を統べる事が出来る……という眉唾な話が残ってるヨ」
「それを今でも?」
「今は戦争してた相手に復讐されたり、復讐し返したりを繰り返してる。だから国も荒れて盗賊も多い。ジルマールに残ってる家族もいないから、平和なこの国で暮らすヨ」
「だったらこれからも一緒ですね~」
「これからもよろしくお願いします」

 そう言った所で頼んでいたお茶とお菓子が来た。

「お待たせしました、紅茶と季節の果物のパイです」

 店員さんが持って来たお茶とお菓子にジェーンとマリアが目を輝かせる。

「来た来た! これが食べたかった!」
「いただきま~す」

 2人に続いて私とリーリンさんも食べる。するとパイの中には何種類か果物が混ざってるみたいで、果物の甘味と爽やかさが口の中に広がっていく。これは美味しい!

「うん。噂通り、美味しいね」
「幸せ~」

 ジェーンとマリアがそう言うと、リーリンさんも同意見みたい。それからも私達はお茶とお菓子とお喋りを続ける。そして今日買った服の話が一段落したあと、唐突にジェーンが話を切り出す

「そうだ、店長ってどんな人だと思う?」
「急にどうしたの~?」
「この間、村から手紙が来たでしょ?」

 確かに手紙は来た。出稼ぎに出ている私たちを心配して両親が送ってくれた手紙が先日届いた。

「あたしへの手紙にね、店長や先輩から度を超えて冷遇されてないか? とか色々関係を迫られてないか、とか書かれててさ」

 そういう雇い主も居るって聞くから、ジェーンの家族も心配だったんだね。私の手紙でもさりげなくそこの所を聞きたがっていた。

「勿論今の店は良いお店だし、立場を利用して関係を迫ってくる男はうちの店に居ないって返事は書いたんだけど、考えてみたら店長の事、あまり知らないな~と思って」
「そう?」
「だってお店の事と良い子だって事以外は殆ど何も知らないでしょ? スライムをたくさん飼ってる事や、態々廃鉱になった鉱山に家を建てて住んでる位じゃない?」

 言われてみれば、確かに。私達が店長と話す内容は殆どがお店の設備やお客様への対応、従業員の待遇について。それ以外の話は殆どしていない。

 それから皆で考えたけど、結局店長は良い子、良い人という事で話が終わった。店長がどんな人かは追々知ってこう。私とリーリンさんはあまり詮索するつもりは無いけど、ジェーンとマリアは勢いで色々聞きに行きそう。迷惑にならないように気をつけた方が良いかもしれない。

 そんな事を考えているうちにお茶もお菓子も食べ終わり、お店に長居してしまったのに気づいてお店を出た。その後も皆で街を歩いて、暗くなる前に寮に帰る。

 今日はちょっと財布が軽くなったけど、これくらいなら問題ない。お金を貯めて、また今度皆とあの喫茶店に行こう。


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