2012年12月30日

伝説の5二銀はソフトに見えるか?

激指のレーティング戦で低級に「ゴキゲン中飛車」でボコボコにされた!この手の「角道を止めない振り飛車」はプロ間で流行っているらしく、その中でゴキ中は駒組みが比較的簡単ということで、アマの間でも結構流行っていると聞く。元々、中飛車はバランスがよい戦法で攻めにも強いんだけど、それがさらに早くなっている感じ。棒銀の定跡しか知らない私には指せない相手で、何せ狙いである角がいないんだもん。で、ついつい飛車先の歩を伸ばすと向かい飛車に回られて、銀と飛車の攻撃を止められない。他の振り飛車はともかくゴキ中くらいは居飛車の定跡を勉強しておこうかと思った。ちらっと見たところ居飛車側は右銀を早く繰り出していかないと作戦負けになるみたい。ゴキ中対策はまだ先でいいと思っていたのになあ。激指の低級恐るべし。まあ、棋力の調整はしていても定跡として何を選択するかはランダムだろうから、たまたまだとは思うが、それだけでボコボコにされるのでは我ながら情けない。

さて、表題の件。来年(2013年)の3月から第2回電王戦が始まるということで、最近、さらに将棋ソフトについての興味が高まっていて、あれこれ弄んでいる。で、表題のことをふと思った。「ソフトの指し手は棋士とか感覚が違う」とか言われるし、基本的に局面の点数計算で指し手を決めている(はず)ので、「伝説の5二銀」のような手は見えにくいのではないかと試してみた。

無料で公開されているソフト、私が持っている「激指 定跡道場3」、「柿木将棋VIII」で検討させてみた。柿木将棋VIIIは設定で「学習を使用」の機能を切るかどうかで結果が変わるので要注意っと。それまでの指し手の学習結果の影響を受けるので。ここではこの機能は切った。ちなみにちゃんとリーグ組んでまだして試したわけではないが、それなりに対戦させてみて、各ソフトの強さは以下のような感じだと思っている(激指は12が出ているけど、他は2012/12/30現在ですべて最新のはず)。

GPSfish > GPS将棋 > Bonanza > Blunder > Ponanza
Bonanza > 激指 > 柿木将棋

USIを使えるソフトは自動対局で何局か連続で指せるので、1行目は少なくとも私の環境ではこうなるとかなりの精度で言えると思う。選手権で上位だったPonanzaが一番弱いというのはよくわからない状態だが、環境による差が大きいのだろうか。
激指と柿木将棋は手動で対戦しないといけないので、あまり対戦してない。ただ、激指はBonanzaにはまったく勝てない状態ではあった。Ponanzaと一局やらせたら勝ったので、その間のどこかという感じだが検証するのは面倒なので省略(そこまで興味があるわけではないし)。

ということを踏まえて(別に踏まえなくてもいい気もするけど)、「伝説の5二銀」の話に戻る。
これは5二銀だけでなく、この一局そのものが名局とされる将棋で、1989年のNHK杯で加藤一二三九段と羽生五段(!)の対局である。幸いにして囲碁・将棋チャンネルで再放送されていて当時の放送を見ることができた。
戦形としては、「角換わり棒銀」となったのであるが、大盤解説の米長九段(おしい人を亡くしました)によると「居玉のまま戦うのは珍しい」とのことなので、この一局から今の角換わり棒銀の定跡が整備されていったのかなあと思う(よく知らないけど)。少なくとも今の角換わり棒銀の定跡では互いに居玉のまま戦うのが定跡となっているし。角換わり棒銀は私もときどき指すけど、今のところ、相手(コンピュータ含む)が定跡から外れた手を指して、それを咎めて勝つことが多い。逆に定跡を知ってないと指しにくい将棋である(棋力だけで指すには限度があって…)。それをこの当時、ほぼそのまま定跡として採用される手をお互いに指し続けたわけで2人の棋力には当たり前とは言え、感嘆するばかりである。加藤九段が後の研究で「後手が悪い」とされる手を指して、羽生五段が優勢となるのだが、それにしても定跡の先の展開がもう、難解というか、羽生さんらしい攻め将棋ですごかった。
話が長くなっちゃった。で、この局面が「伝説の5二銀」が出た局面である。なんというかポンっと打った手に見えるが、金か飛車で取ると▲1四角からの詰みがあるという妙手で、加藤九段も△4二玉と頑張るが▲6一銀不成がまた妙手で最終的に羽生五段の勝ち。で、この5二銀は伝説と呼ばれているわけである。「5二銀と打って取ったら詰む」までは上級者なら見えそうな手ではあるが、△4二玉の先までしっかり読んでいるが故に伝説と呼ばれる。

やっと本題だ。そこで、この局面をソフトに検討させて、次の一手を示させた結果が以下の通り。USIのソフトは「将棋所」を採用。棋譜を読み込んでその局面から始める機能があるので。「検討」機能を使って結果を見た(なぜか将棋所ではGPSとGPSfishは誤動作することが多いので、対戦させるときには「USI将棋」を使っているが)

柿木将棋VIII:2三香成(レベル8のヒント機能)
激指 定跡道場3:5二銀(検討モード)
Bonanza6.0:5二銀(検討)
GPS将棋(r2749M):2三香成(検討)
GPSfish(0.2.1):2三香成(検討)
Blunder:5二銀(検討)
ponanzaQ:2三香成(検討)

激指、Bonanza、Blunder恐るべし。ちゃんと(?)5二銀を見つけたよ。まあ、結果論なところはあって、この一局も含めて学習しているソフトが多いので、この局面で5二銀と「学習結果通りの手」を指しただけとも言えるだが、一局だけのデータで指しているわけではなく、局面の評価関数がそうなっていないとこうはいかないので、「ソフトでも伝説の5二銀は見える時代はきている」と言っても嘘ではないだろう。3つとも後手の応手はちゃんと△4二玉と読んでいるし。
問題はその後で、私にはよくわからないのだが、3つとも「▲6一銀成」と読んでいる。で、その後「▲5一角(または銀)」からの寄り筋を読んでいる。まあ、これでも寄り筋ではあるのだが、羽生五段の▲6一銀不成、▲3二金の方がそこだけ見ると勝る。実際、▲3二金と打つ局面をソフトに検討させると、あっさりと▲3二金からの詰みを見つける。
ただ、これかなり難しい問題で、いくつかのソフトでさっと見たところ、▲6一銀不成とした局面において、受けの手として「△3六歩▲同香△3五桂打▲同香△同桂」と香を払ったり、△5四歩として逃げ道を確保するとか、受けの手があって(加藤九段も秒読みでこの辺り読むのは厳しいよね)、こうなると▲6一銀成の方が勝っている可能性がある。
とまあ、結論がぼんやりしているが、「ソフトでここまで指せる」というのは素直にすごいと思った。

話は変わって(話長くなったから分けようかとも思ったが、流れで)、今や語り草の「米長永世棋聖vsボンクラーズ戦」についてちょっとだけ。米長永世棋聖の2手目「6二玉」がかなり話題になり(つまり右図)、米長永世棋聖自身は「奇手ではなく立派な手である」と記者会見でコメントされていたし、実際、少なくとも途中まではその作戦はうまくいっていた。しかし、棋士同士の対戦で指されることはまずない手で「対ボンクラーズ用」の手であることは間違いない。

大盤解説の渡辺竜王によると、通常、この局面は「7五歩」と歩を伸ばすソフトが多いらしい。ただ「2六歩」と指されると、金で受けるしかなく、飛車先の歩の交換が受からない形で、「即優勢ということはないが、点数は稼げる手」という解説。なので、2手目「6二玉」が単純に悪手になるということではないことであった。とは言え「人間相手には絶対に指さない手で、コンピュータ用の手で、2六歩とは指してこないことがわかっているから指せる手」ともコメントしていた。私の素人感覚では「2六歩」で後手の駒組みのバランスが悪く、先手がかなり指しやすそうな気はするのだが。
で、この局面、「コンピュータ用の手」というのは正しいのか、つまりソフトは2六歩とは指さないのかちょっと試してみた。条件は上と同じ。

柿木将棋VIII:2六歩(レベル8のヒント機能)
激指 定跡道場3:2六歩(検討モード)
Bonanza6.0:7八飛(検討)
GPS将棋(r2749M):7八飛(検討)
GPSfish(0.2.1):7八飛(検討)(深さ21のときには2六歩だったんだけど、ちょっとの差で7八飛に)
Blunder:7八飛(検討)
ponanzaQ:2六歩(検討)(他には6六歩、6八銀。7八飛は候補にも上がらず)

微妙な結果。2六歩を指すソフトもあるが、強いソフトは7八飛である。特にGPSfishの結果が興味深く、途中まで2六歩は有力と見ていたが、最終的に数点差で7八飛を選択している。つまり、かなり先まで読んで7八飛が有力と判断したのである。とは言え、これは各ソフトの形勢判断の問題であり、その形勢判断がどこまで正確かという話になるわけだが、「ソフトから見れば7八飛が有力」というある種の癖というか傾向はあると言えると思う。しかし、2六歩を指すソフトもいるわけで、「こうすれば絶対飛車を振ってくる」と決め打ちしているのなら危ないという話になる。電王戦では各棋士、ソフトの研究をして臨んでくるだろうけど、どういう研究をし、どう対策を立ててくるのか非常に楽しみである。

posted by shadow at 15:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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