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TPPの妥協点として牛肉が急浮上。背後にはパッケージ・ディールの存在も?

 2014年4月下旬のオバマ大統領来日を控え、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉がまとまる可能性が高まってきた。カギとなるのは重要5項目のうち牛肉分野の譲歩である。

 TPP交渉では、原則としてすべての品目について関税を撤廃するとしているが、日本側はコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖を「重要5項目」とし、関税撤廃の例外にしたい方針である。これに対して米国は、原則としてすべての分野における関税撤廃を要求しており、双方とも妥協点を見いだせていない。

 2月にシンガポールで行われた閣僚会合では日米はまったく歩み寄ることができず、交渉は物別れに終わった。その後、実務者レベルで協議が続いていたが、状況は進展していなかった。

 だがここに来て、日本側が重要5項目のうち牛肉について妥協することで、交渉を成立させるというプランが急浮上している。それとタイミングを合わせるように、安倍首相は7日、来日したオーストラリアのアボット首相と会談し、豪州産牛肉の関税について、現在の38.5%から段階的に20%台に引き下げ、日豪EPA(経済連携協定)を締結する方向で大筋合意した。

 同日からはTPPに関する米国との実務者協議が都内で始まっており、9日には閣僚級会談も実施されている。オーストラリアとの合意を材料に、米国に対しても同様の提案を行うとみられる。

 一部報道によると、牛肉分野の譲歩を妥協点にするというプランは、日韓首脳会談を米国に仲介してもらったことの見返りとして提供されるものだという。オバマ大統領の来日日程が、当初の1日から2泊に延長になり、日本側が求めていた国賓待遇になったこととも関係しているという。

 外交は時としてこのような、パッケージ・ディ-ルが行われる。どの分野でバーターが行われたのかについては公表されないので、最後まで詳細は分からずじまいということが多い。だが今回、TPPが妥結に至ったという場合には、総合的に見て、日韓首脳会談、河野談話継続、オバマ大統領の国賓待遇、そして牛肉がパッケージ・ディールの対象となった可能性は高い。

 日韓首脳会談はこれまで日本側が何度も要望しながら実現できなかったものである。また当初、オバマ大統領は国賓待遇でのゆっくりとした訪日を望まず、短期間での事務的な訪日を強く求めていた。だがその流れが大きく変わったのが、日韓首脳会談である。

 米国側は、日韓首脳会談に韓国が応じるよう説得する代わりに、河野談話見直しを取りやめるよう要望し、さらにTPPにおける日本側の譲歩も迫った可能性が高い。オバマ大統領が当初の予定を変更し、国賓待遇での来日を受け入れたのは、日本側がこれらの条件を受け入れたからである。

  最終的にこのディールが成立するのかは、牛肉分野での具体的な交渉内容次第なので、まだ結果は流動的だ。少なくとも安倍政権は、日本側がこれ以上強行なスタンスを取った場合、日米関係がさらに悪化すると懸念した可能性は高いだろう。

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