富岡製糸場:保存評価「奇跡的」…世界遺産へ
毎日新聞 2014年04月26日 23時52分(最終更新 04月27日 00時12分)
日本が世界文化遺産に推薦していた「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬県富岡市など)について、文化庁は26日、国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部・パリ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス)が世界遺産登録を勧告したと発表した。今年6月にカタールの首都ドーハで開かれる第38回ユネスコ世界遺産委員会で正式決定するが、登録勧告の場合、そのまま認められる可能性が高く、「世界遺産」に向けた地元の10年来の思いが実を結ぶことになる。
◇「絹の大衆化」要素絞り奏功
「日本側の主張が認められた。パーフェクトに近い勧告」(文化庁記念物課)となったのは、構成資産の保存状態の良さが大きい。加えて、「絹を世界で初めて大衆化した技術革新の遺産」との意義を明確化するために構成資産を絞ったのが功を奏した。
1872(明治5)年に設立された富岡製糸場は当時最先端の製糸技術で生糸を戦前の日本の主要な輸出品に押し上げた。主要施設は操業当時のまま、ほぼ完全に残されている。イコモスは「保存状況は適切であり、そのための方策も十分である」「完全性、真実性が満たされている」などと高く評価した。
1939年から運営してきた繊維会社「片倉工業」(東京都中央区)が、87年の操業停止後も2005年に富岡市に移管されるまで億単位の維持費を毎年負担して施設を維持し続けた。88年には地元に市民団体もでき、保存の機運は高まった。2003年に世界遺産登録を目指す構想を発表した群馬県も、富岡市とともに担当課を置くなど保存に努めた。
製糸場の歴史を研究する富岡市の機関「富岡製糸場総合研究センター」の今井幹夫所長は、見学したフランス人研究者の「この保存状態は奇跡的だ」という言葉が印象に残っている。「画期的な養蚕・製糸技術がシステムとして丸々残っているところが高く評価された」と分析する。
昨年、「武家の古都」を掲げ文化遺産登録を目指した鎌倉(神奈川県)に対しイコモスが「物的証拠が少ない」として不登録を勧告したのとは対照的な結果となった。