ストラディヴァリウス通称ストラド。
史上最高のバイオリンとしてクラシック界に君臨してきました。
生みの親は…今から300年ほど前に活躍したイタリアの天才職人です。
歴代の名手たちがストラドを受け継いできました。
現存するストラドは600挺余り。
それぞれに愛称が付いています。
これはかつてメンデルスゾーンが所有していたもの。
映画「レッドバイオリン」のモデルにもなりました。
落札価格はおよそ2億円。
ストラドはお値段も最高峰です。
誰も超える事ができないといわれてきたストラドの音色。
一体他のバイオリンとどこが違うのでしょうか。
その秘密に迫ろうと大勢の研究者や職人が人生を懸けてきました。
今も世界中でさまざまな挑戦が続けられています。
人の心をひきつけてやまない魔性の楽器ストラディヴァリウス。
これは至高のバイオリンの謎とそれを巡る人々との300年の物語です。
ここにも一人ストラドに心を奪われた演奏家が。
アメリカを拠点に活躍するバイオリニストです。
カナダ人の父と日本人の母の間に生まれました。
バイオリンを始めたのは5歳の時。
才能を見いだされて名門ジュリアード音楽院で学び15歳でプロデビュー。
ストラドに出会ったのは12年前の事です。
カレンさんの才能を見込んだ所有者から永久貸与されました。
カレンさんの愛器はストラディヴァリ59歳の時の作品「オーロラ」。
その音色が北の空に広がる虹のような輝きを持つ事から名付けられました。
ストラディヴァリが活躍したのは北イタリアの町…今でも中世の町並みが残されています。
古い大聖堂とイタリアで一番高い鐘楼が町のシンボル。
およそ150の弦楽器工房があります。
伝統的なバイオリン作りは世界無形文化遺産にも登録されています。
2013年ここに新しい博物館がオープンしました。
バイオリンの歴史をたどる膨大なコレクションを誇ります。
バイオリンが歴史に登場したのは16世紀半ば。
ストラディヴァリが生まれる100年ほど前の事です。
クレモナはその最初からバイオリン作りの中心地で多くの製作者が活躍していました。
アンドレア・アマティはバイオリンを発明したともいわれる人物です。
ストラディヴァリは初めからトップだったわけではありません。
16世紀半ばから17世紀にかけてクレモナにはアマティという一族とその弟子すじに当たるガルネリの一族がバイオリン製作の第一人者として君臨していました。
そこに突然登場したのがアントニオ・ストラディヴァリだったのです。
これは現存する世界最古のバイオリン。
アンドレア・アマティの作品です。
当時のバイオリン製作者のほとんどはこのアマティの形をそのまままねていました。
胴体がやや丸みを帯びふっくらとした形をしています。
しかしストラディヴァリは独自のバイオリンを追究します。
例えばこれはストラディヴァリの代表的な作品「クレモネーゼ」。
アマティのものに比べると中央のくびれや胴体下部の丸みなど輪郭が変わっています。
微妙な違いですがバイオリンの音には大きな影響がありました。
ストラディヴァリは美術的センスにも優れていました。
この作品は縁が美しい象牙と黒檀に彩られています。
この美しさのためにストラドは美術品としても愛好されました。
ストラドをコレクションしていたある貴族のメモです。
どこにどんなストラドがあるか調べ上げ詳細なメモを残すほど入れ込んでいました。
例えばあるバイオリンについては「すばらしい」「よく出来ている」「比類なき美しさ」と絶賛しています。
30代でストラディヴァリの名声は既にヨーロッパ中に鳴り響いていました。
スペインやイギリスの国王からも大口の発注を受けるほどだったのです。
ギターやチェロなどを合わせ生涯に作った作品は1,100挺以上。
同時代の製作者と比べ群を抜いて多作でした。
巨匠自らが手にしたであろう道具の数々。
ここに音の秘密を求めてやってくる職人たちは数知れません。
でも…。
クレモナには世界でも珍しい国立の弦楽器製作者学校があります。
世界各地からおよそ250人の生徒が集まり未来のストラディヴァリを目指しています。
まずはストラドの形をまねるところから修業はスタートするそうです。
バイオリンの仕組みはストラディヴァリの頃から変わっていません。
基本は木でできた箱です。
裏板を横板に取り付け表板をかぶせます。
渦巻きの飾りが付いた頭部をはめ込み弦を張るための部品を付けます。
弦の振動は駒を通してまず表板に伝わり更に「魂柱」と呼ばれる小さな木の棒で裏板にも伝わります。
内部で空気が震え「f」の字に開いた穴から音が出ていくという仕組みです。
この生徒がまねているのは1715年製のストラド「クレモネーゼ」。
生徒たちにとってガラスケースに入っていないストラドを間近に見るのは初めての経験です。
突然の授業まで始まりました。
(拍手)耳のそばで聴こえる音が私にとって粒がそろってるというか。
ドルフィンにとって気持ちの良いコンディションですと非常に低音は深く鳴りますしまた高音は非常に透明感があってそれは高音で…演奏家たちが感じているストラドの音の特徴を科学的に捉える事はできるのでしょうか。
NHKでは音が反射しないように作られた特殊な部屋で3人のバイオリニストの協力を得て実験を行いました。
それぞれストラドを愛用してきた演奏家たちです。
これらのストラドと20世紀以降に作られたいわゆるモダン・バイオリン数挺とを弾き比べます。
演奏者を取り囲むように42個のマイクを取り付けどの方向にどんな音が出ているか録音します。
監修するのは…楽器の演奏を立体的に分析する第一人者です。
42チャンネル同時録音で得られる膨大な音のデータ。
デジタル技術の発達で初めて解析が可能になった世界初の実験です。
果たしてストラドの音色の秘密は見つかるのか。
録音された10時間分のデータを解析する事1か月。
牧さんが注目したのは音の飛ぶ方向いわゆる「指向性」です。
3次元のグラフにしてみるとストラドの音に明らかな一つの特徴が見えてきました。
満遍なくいろんな方位に飛んでる。
どっちかというと噴水みたいな感じですね。
言うなれば絞ったホースみたいな感じですよね。
そういう感じで音が出ているというのはもう全然違う。
実際の演奏に3次元のグラフを重ねてみます。
モダン・バイオリンは全ての方向に比較的均等に音が出ていました。
一方こちらはストラド。
斜め上の方向に赤く表示された強い音の放射が見られます。
これが今回見つかった指向性です。
しかもこの強い指向性は調べた3挺のストラド全てに共通していました。
ストラドの音がホールの奥まで届く理由の一つがこの指向性にあると牧さんは考えています。
今分かってない何か秘密がまだ残ってると思うんですよ。
今回指向性という事で一つ明らかにはなったと思いますが…まだいくつも宝が眠ってるとは思うんですけれどもちょっと定石とは違う攻め方をしないとなかなか明らかになってこないのかなという気がします。
何がストラド独特の音を生み出しているのか。
秘密を解くカギは材料の木材だという説があります。
クレモナから北へ300km。
ストラディヴァリが木を買ったと伝えられる森へ向かいました。
ここは最高級の楽器用木材の産地として昔から知られてきました。
森に生えているのは…バイオリンの表板になります。
植林は行わず自然に生えたものだけを育て良質な木の遺伝子を守ってきました。
この森は標高が1,700mと高く寒いために植物がゆっくりと成長します。
割ってみると年輪が均等に詰まっているのがよく分かります。
丈夫でゆがみにくく音の振動が伝わりやすい最高級の板です。
森のそばを流れる川もいい音に一役買っていたといいます。
ストラディバリの時代は切り出した丸太を数か月間水につけそのまま流して町まで運んでいました。
ストラディヴァリの時代は今とは環境が違っていたために木の質が更に良かったと考える人もいます。
小氷河期に育ったスプルースは現在ほとんど手に入れる事ができません。
地球温暖化によって良質な木材も減る一方です。
そこでスイスの国立大学の研究所では理想的な木材を作り出す研究を行っています。
この日研究の成果が披露される事になっていました。
一面白いものに覆われた板が現れました。
この研究所は木材の細胞に注目しました。
「ある生物」を使いストラドのように高品質な板を作ろうとしています。
木材を変える「生物」とは…。
木を分解する作用を持つ菌。
これを天然の板に塗って寝かせる事で質が変化するといいます。
黒く映っているのが菌。
処理後は細胞壁の厚みがそろい音が伝わりやすい状態になっています。
このあと殺菌処理をして仕上げます。
この板を使ったバイオリンの試作品作りが今地元のスイスで始まっています。
(木をたたく音)
(拍手)300年という長い時間がワインのようにストラドを熟成させ良い音に磨きをかけているのではないか。
そんな仮説に基づく最先端の研究開発が日本で進んでいます。
こちらがARE処理装置です。
若い木材を長い年月を経た木材に促進するための装置です。
浜松市にあるこの楽器メーカーでは長い年月の間に木が経験する温度・湿度の変化を数十分で人工的に作り出す技術を開発。
まるでタイムマシンのように一気に数百年を飛び越える事が可能になりました。
出来ました。
この木は10分前に比べて100歳年を取ったそうです。
果たして音は違うのでしょうか。
同じ板から取った2枚を比べてみました。
こちらが処理をした材料こちらは処理をしてない材料になります。
低音の伸びを聞いて頂きたいと思うんですけども。
こちらが処理をしてない材料です。
低音の「ボーン」という伸びの量です。
(木をたたく音)この「ボーン」という音の伸びを聴いて頂ければと思うんですが。
(木をたたく音)こちらの方が低音の伸びが長くなっているのがお分かり頂けると思います。
(木をたたく音)どうして古い木は音が良くなるのでしょうか。
木材は繊維質のセルロースがヘミセルロースやリグニンといった物質と結び付いてできています。
メーカーによると新しい木ではセルロースがふぞろいなうえヘミセルロースが隙間なく密着しているため板があまり振動しません。
ところが木材が古くなるとセルロースは結晶化が進んで均一になり固さが増します。
一方間をつなぐヘミセルロースは分解し減っていきます。
その結果板が振動しやすくなり音の伝わりが良くなるというのです。
そこまでは考えていないですね。
やはり材料だけではなくてデザインであるとかその他の部分っていうのは大きく影響を受けると思いますしやはり演奏者が弾きこむ事によって楽器って変わってくるという事は依然としてあると思いますのでその辺りも全体を含めてよりよい楽器にしていけたらと…なっていけたらというふうに思いますけども。
最高の材料がそろってもストラドの音が簡単に再現できるわけではなさそうです。
ストラディヴァリを目標に修業を続けるあるバイオリン製作者を訪ねました。
中国からアメリカに移住してきて20年余りがたつ…ここ数年で頭角を現し楽器作りのコンテストなどで高い評価を受けています。
ファンさんの原点となった写真を見せてくれました。
中国では文化大革命の頃舞台劇の伴奏用にバイオリン製作が本格化したといいます。
ファンさんのお父さんはその第一世代でした。
大人になった今もストラディヴァリを追いかけています。
この日の作業はニス作り。
ニスは松ヤニとオイルを煮込んで作ります。
種類によって色はさまざま。
何をどれくらい入れるのかニスの製法は製作者の秘密とされてきました。
ストラディヴァリの音の秘密はニスに入っている特別な成分だという説も長い間有力でした。
しかし近年の科学的な調査でそれは否定されています。
ファンさんが音の秘密として特に重要だと考えている事があります。
これはバイオリンの周りに石膏を流し込み正確に型を取った「キャスト」と呼ばれるもの。
バイオリンの板にはアーチと呼ばれる微妙な膨らみがついています。
この形こそが音に影響を与える重要なポイントだといいます。
バイオリンは板の振動が空気に伝わる事で音が出ます。
板が薄ければ振動しやすくなりますがその分楽器はもろくなります。
音が良くなおかつ300年持ちこたえているストラドは理想のお手本です。
過去300年誰も超える事ができないといわれてきた天才職人ストラディヴァリ。
一体どんな人物だったのでしょうか。
実はストラディヴァリの人生について分かっている事は僅かです。
その一つがクレモナのこの教会で結婚式を挙げたという事。
資料保管庫に貴重な記録が残されていました。
当時教会で執り行われた儀式について詳細に書かれています。
結婚当時ストラディヴァリは23歳。
フランチェスカは年上の未亡人でした。
そしてその3か月後には早くも最初の子供の記録が。
若き夫父となったストラディヴァリ。
彼が300年前に教会で見た絵がまだ残されていました。
20代で職人として独り立ちしたストラディヴァリ。
93歳で亡くなるまで新しいバイオリンを生み出す事に挑戦し続けました。
2013年その革新の歩みをたどる事のできる展覧会がイギリスで開かれました。
これは現存する最古のストラド。
結婚の1年前22歳の時の作品です。
なぜバイオリン作りを始めたのかは全く分かっていません。
内部のラベルには「アマティの弟子」という文字が読み取れます。
しかしストラディヴァリはすぐに誰かをまねる事をやめf字孔の形やアーチなど細部にわたって独自のモデルチェンジを続ける事になります。
その才能が最大限に発揮されたのは50代後半から70代にかけて。
後に黄金期と呼ばれる時代です。
こちらは65歳の時の作品。
しかしストラディヴァリがそれに満足する事はありませんでした。
晩年の90歳になってもなお製作をやめる事はなかったのです。
ラベルには若い時には書かれる事のなかった年齢も書き加えられています。
試行錯誤とモデルチェンジを繰り返したにもかかわらずストラディヴァリの楽器がどれも名器と評価されているのはなぜなのか。
最新の研究でストラドの構造には一定の法則性がある事が明らかになってきています。
この日カレンさんが訪ねたのはアメリカ北部のとある病院。
Hi.Nicetomeetyou.Verynicetomeetyou.放射線科医のスティーブ・サーさんとバイオリン製作者のジョン・ワドルさんです。
もともと友人だった2人は20年前からあるものを使ってストラドを研究してきました。
それは医療用のCTスキャン。
趣味でバイオリンを弾く医師のスティーブさんがふと思いついたのがきっかけでした。
この方法ならバイオリンを傷つける事なく内部のデータをとる事ができます。
これまでにスキャンできたストラドは22挺。
カレンさんも愛器オーロラでデータ収集に協力する事にしました。
表からは見えない板の密度や厚み修理の様子などが手に取るように映し出されます。
ストラドのCTを撮る事で2人はそれまで知られていなかった事実を次々と発見しました。
スティーブさんはデータから3D画像を作るなどさまざまな分析を行いました。
精密に計測してみるとストラドは一台ごとに寸法も厚みもばらばらでした。
しかし分析を重ねるうちに構造上の共通ルールがある事が分かったのです。
表板のバランスポイントは弓の振動を伝える駒の所。
ここで板の重さがぴったり2分されていました次に裏板。
ポイントは魂柱です。
魂柱の中心を通る線でちょうど裏板の重さも2分されていました。
そして魂柱を通るこの線で「内部の容積」もぴったり2分されていたのです。
実は名器ストラディヴァリウスも300年の歴史の中で一度だけ存続の危機に直面した事があります。
時代はストラディヴァリの死からおよそ半世紀がたったころ。
一体何が起きたのでしょうか。
それを教えてくれる貴重な楽器がこの博物館に所蔵されています。
Hi.Howareyou?Hello.Iamkaren.2挺のストラドよく御覧下さい。
左が作られた当時の形を残したバイオリン。
右は現在使われている形です。
指で押さえる部分指板が長くなっています。
ストラディヴァリの死後改造されたのです。
指板だけではありません。
ネックも胴体に対してより傾きがつくように改造されました。
こちらはストラディヴァリが作った当時の形。
この改造は時代の要請に応えるためのものでした。
ストラディヴァリが活躍していたのはいわゆるバロック音楽の時代。
演奏は主に貴族の館など小さなサロンで行われていました。
しかしストラディヴァリの死後音楽の世界は急速に変わっていきます。
舞台は大きなホールへ。
よりドラマチックで華やかな音楽が好まれるようになりました。
バイオリンは強い音や幅広い音階を奏でる必要に迫られたのです。
そこでヨーロッパ全土で行われたのが大改造。
指板は長くなって音域が広がりネックは角度がついて弦が長くなりました。
更に駒を高くする事で弦の張力が一層強化。
強く張った弦をこする事で時代の要請に合わせた力強い音が出せるようになったのです。
この大改造を経て他の製作者が作った多くのバイオリンは壊れたり音が駄目になったりしました。
しかしストラドはそれに耐えただけでなくより一層輝かしい音を手に入れたのです。
大改造を生き延びたストラド。
しかし楽器を取り巻くストレスがなくなったわけではありません。
現代の演奏家は目まぐるしく世界中を飛び回るからです。
バイオリンケースの中の温度や湿度は常にチェック。
加湿材などを使ってストラドの環境を一定に保とうとしています。
乾燥を避けるため練習中は冬でも暖房を使いません。
こうして名器を守っています。
それでも中には修復が必要なストラドが出てきます。
長い年月の間には避けられない傷やひび割れ。
生き残れるかどうかは修復を担当する職人の腕にかかっています。
人の手が救った奇跡のストラドをご紹介しましょう。
「マーラー」と名付けられたチェロ。
ストラディヴァリが作った80挺ほどの中の一つです。
1960年代初めこのチェロを乗せた船が火災のため沈没。
楽器はばらばらになってしまいます。
名器が失われる事を残念に思った人々が破片を拾い上げ修理に出したのです。
チェロには今も傷痕が残っています。
マーラーの修復をしたのはロンドンにあった…世界で最も多くストラドを扱った工房として有名でした。
その後オーストリアの財団に渡ったマーラー。
音楽性と楽器を大切にするクリスチャンさんの人柄が見込まれ永久貸与されました。
弦楽器の修復はその製作と同じくらい高度な職人技が要求される世界です。
ドイツのこの工房には世界中から名器の修復依頼が舞い込みます。
こちらはストラドとほぼ同時代のガルネリ。
過去に不適切な修復を受け十分に音が出なくなってしまいました。
表板の裏側には補強のためにさまざまな接ぎ木がされています。
しかしその一部がはがれてしまい駒や弓の圧力に耐えられなくなっています。
色が変わって見える所も過去になされた修復。
接着の状態が悪いためにひびが入り元の構造にダメージを与えてしまっています。
新しい板を足した事で本来の振動を妨げないように細心の注意を払います。
これは虫が食ったチェロの横板。
硬さや木目ができるだけ似た木を吟味し少しずつ穴を埋めていきます。
最終的には修理跡が見えないくらいにまで仕上げます。
名器としての評価が高まれば高まるほどストラドには時間と費用をかけた修復が施されるようになりました。
ストラドにかける人々の思いが誕生から300年を経た楽器の寿命を今なお延ばし続けているのです。
ストラディヴァリの背中を追いかけてきたバイオリン作りの世界。
今アメリカでは先端技術と職人技を組み合わせて先人を乗り越えようという動きが活発化しています。
サム・ジグムントーヴィッチさんはそのリーダー格。
作品に最も高値がつく現代のバイオリン製作者として有名です。
今だからこそできる重要な事。
サムさんにとってそれは演奏家と直接対話しながら音を作り上げていく事です。
各国のオーケストラでコンサートマスターとして活躍してきた…ストラドとサムさんが作った楽器の両方を愛用してきました。
バイオリンの状態についてしばしば相談に訪れます。
演奏家の望む音を作り出すためにサムさんは模索を続けています。
数年前音響学者らと共に行ったのが…バイオリンにレーザー光線をあて胴体がどのように振動しているか目で見えるようにしようというのです。
結果はこちら。
強調された画像ですがバイオリンの至る所が動いている様子が世界で初めて捉えられました。
この複雑な動きが音となって聞こえてくるのです。
サムさんは3Dプロジェクトの結果と自分の経験からバイオリンのどの部分が音色にどのように影響するか熟知するようになりました。
こんな小さなシールで抑えるだけでバイオリンの振動は変わります。
演奏家にはその音の違いがよく分かるようです。
そして今こうして得られた新しい知識を分け合おうという画期的な試みも始まっています。
オハイオ州オーバリンには毎年各国からトップクラスの製作者が集合。
どんなバイオリンがよく響くのか。
微妙な部分はどう削ったらよいのか。
数週間の合宿を行っています。
あのスティーブさんたちもCTスキャンで得た最新の知見を惜しみなく提供しています。
音響学者など分野を超えた人々も参加。
こうした交流の成果でここ数年バイオリン作りの技術は飛躍的に向上したといわれています。
2年前このオーバリンであるプロジェクトが行われました。
数十人の知恵と技を結集し一挺のストラドをモデルにコピーを作ってみようというのです。
どれほどまねようとも追いつけないと言われたストラディヴァリ。
現代の職人たちはどこまで迫れたのでしょうか。
モデルになったストラドオーバリンで作られたバイオリンは共に議会図書館に所蔵されています。
(五明)Ohgorgeous!Wowbeautiful!そしてこちらが職人たちの作った…オリジナルと同様大切に保管されていました。
「ベッツ」はカーブの見事さや保存状態の良さでストラディヴァリ最高傑作の一つといわれます。
職人たちはCTスキャンで得たデータに基づき木の密度にまでこだわって材料を選定。
アーチの削りだしやニス作りなどそれぞれ得意な所を担当しました。
中をのぞくと製作に携わった職人たちのサインが書き込まれていました。
300年前の天才に追いつこうとした努力の証しです。
音色はどうなんでしょう。
議会図書館のホールで2つの弾き比べをさせてもらいました。
今も多くの人が憧れ超えようとするストラディヴァリという高み。
300年前一人の天才職人がいなければバイオリンはこれほどすばらしい楽器にはなりえなかったのかもしれません。
魔法の箱はこれからもきっとたくさんの物語を紡ぎながら未来の音楽を奏でていくのです。
2014/04/26(土) 00:00〜01:30
NHKEテレ1大阪
ETV特集「ストラディヴァリウス〜魔性の楽器 300年の物語〜」[字][再]
史上最高のバイオリンとされるストラディヴァリウスの魅力に迫る。好評だったNHKスペシャルに未公開の映像や演奏を大幅に加えて再編集した豪華89分版。音楽:千住明
詳細情報
番組内容
史上最高のバイオリンとされる「ストラディヴァリウス」。歴代の一流奏者によって弾き継がれ、一挺あたり数億円で取り引きされている名器中の名器だ。生みの親は17世紀イタリアの天才職人アントニオ・ストラディヴァリ。いったい彼は楽器にどんな魔法をかけたのか。昨年11月に放送して好評だったNHKスペシャルに未公開の映像や演奏を大幅に加え、新たな角度から至高のバイオリンの魅力に迫る豪華89分版。音楽:千住明。
出演者
【出演】バイオリニスト…五明カレン,バイオリニスト…マキシム・ヴェンゲーロフ,バイオリニスト…イツァーク・パールマン,バイオリニスト…イヴリー・ギトリス,バイオリニスト…諏訪内晶子,【語り】柴田祐規子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
音楽 – クラシック・オペラ
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