あなたは日常生活の中でこんな悩みを持った事はありませんか?バーゲンに行くと…そんな私たちの不思議な心理や行動をつぶさに観察しよりよい社会をつくるために何が必要かを探究していく学問が…この分野で全米から最も熱い注目を浴びているのがデューク大学の…アリエリー教授は数々のユニークな実験を通して一筋縄ではいかない人間の感情やちょっと愚かでいとおしい行動の数々を研究してきました。
今回アリエリー教授は多くのベンチャー企業が集まるサンフランシスコで起業家たちに向けた6回にわたる集中講義を行いました。
教授が語る行動経済学のノウハウ。
聞き入ったのは社会をより便利で楽しくしたいと日々考え続けているシリコンバレーなどの若き野心家たちです。
アリエリー教授は最新の行動経済学を駆使して人間のまか不思議な行動や意思決定のメカニズムを解き明かしていきます。
4回目のテーマは「自己コントロール」です。
日本人は自己コントロールがうまい国民だと言われている。
秩序ある行動をしてたくさん貯金もしているから自分を上手にコントロールできているにちがいないというわけだ。
でも本当だろうか?日本の居酒屋に何度も行ったがそこはまさにカオスでこんなに自分をコントロールできない人たちは珍しいと思った。
今日は「自己コントロール」について講義しよう。
(拍手)
(拍手と歓声)感動した。
本当だぞ。
今回は自己コントロールの話をしよう。
自己コントロールとは何だと思う?僕にはないものです。
君にはないものか。
君だけならいいんだが。
自己コントロールとは何かを考えてみよう。
では正直に答えてほしいが運転中にメールした事がある人は?両手を挙げている人もいるな。
では聞くが運転中にメールするのはとんでもなく愚かだと認識している人は?全員だな。
ではこんなふうに考える人はいるだろうか。
「運転中にメールする事はとんでもなく愚かだと思った事もあります。
でもどういうメリットとデメリットがあるかを整理して考えてみました。
死にたくない気持ちや人を殺してもいいという気持ちはどのくらいあってメールの必要性はこのくらいあってそんな全てをてんびんにかけた結果運転中のメールは妥当だと判断したんです」と。
そんな人はいないだろう。
誰もが運転中のメールはよくないと知っている。
でも運転中にメールの着信があった途端人はそれまでとは違った人になるんだ。
この先の長い人生の事を考えずメールばかり気にするようになる。
たとえ道がそんなに混んでいない時だとしても一瞬の心の隙が自分や他人の命を大きな危険にさらす事になる。
自己コントロールできない事はきわめて普遍的な問題で社会の最大の病の一つなんだ。
アメリカのある調査で賢い選択ができなかった事が結果として死につながった人の割合を分析したものがある。
何かやるべきではない事をやってしまいそれが原因となって死に至った人が100年前と現在それぞれどのくらいいるか推計した。
100年前はそういう人の割合はおよそ10%だった。
その当時死に至るような不適切な行動といえばどんなものがあっただろう。
自分で自分を切りつけるとかだろうか。
一方現在はというと40%以上に上る。
一体何が変わったのか。
死をもたらしうるテクノロジーが生まれたんだ。
喫煙肥満糖尿病運転中のメール。
運転中のメールの場合にはあっという間に死に至る事もある。
また1度の間違った選択では死ななくてもそれが積み重なってじわじわと死に至るものもある。
自己コントロールの問題を2つのチョコレートを例に考えてみよう。
最高級のチョコレートを思い浮かべてくれ。
君たちに今すぐ食べるなら半分1週間待つならその倍の量をあげるとしよう。
今からチョコレートを回して匂いを嗅いでもらって今すぐ食べたければ食べてもいいがその場合は量は半分だ。
1週間後ならその倍食べられる。
では1週間待って倍もらおうという人は?何人かいるね。
賭けてもいいがもし本当にチョコレートがあって匂いを嗅いだら待てる人はいないにちがいない。
君たちはきっとこう言う。
「待つほどの価値はないから今下さい」と。
大体の人は「待つ価値がない」と言うんだ。
でもチョコレートをもらうのがもっと先だったらどうだろう。
1年待てば半分1年と1週間待てばその倍もらえるとしたら。
さっきと同じ事を聞いているんだ。
つまり「1週間先延ばしする価値があるか」という事だ。
でも選択肢が1年後の事だったらどうか。
多くもらうために1年と1週間待つという人は?たくさんいるね。
この概念は「双曲割引」と呼ばれている。
「物の価値」というものは今と明日とでは大きく異なるんだ。
でも7日後と8日後ではあまり違わない。
「今」と「少し後」では物の価値は急な角度で減るが「後」と「さらに後」ではなだらかな角度でしか減らないという事だ。
別のグラフで同じ概念を説明しよう。
大小どちらかの報酬をもらえるとする。
小さい報酬なら少し先にもらえるが大きい報酬はそれより後にしかもらえない。
初めのうちは大きい報酬の方が小さい報酬よりも価値が高く魅力的に思えていた。
でもだんだんもらえる時が近づいてくると気持ちが揺らぎ始める。
赤を1年後にもらえるチョコ青を1年と1週間後にもらえるチョコだと思えばいい。
最初は大きい報酬まで待とうと思っていてももらえる時が近づくにつれて先にもらえる小さい報酬の方が魅力的に思えるようになってしまう。
そしてやっぱり赤がほしいと思ってしまうんだ。
「将来」の世界は誰にとってもすばらしい。
将来は痩せるだろうし貯金もするだろう。
将来はすばらしい事だらけだ。
でももちろんそんな将来はやって来ない。
「人は目先の誘惑に負ける」という問題は大昔から人類を悩ませてきた。
アダムとイブの事を考えても「普通なら木の実1つと引き換えにすばらしいものを放棄するわけがない」と思うだろう?でも人は目先の満足にとらわれてしまって将来のすばらしいものを放棄してしまうんだ。
質問してもいいですか?どうぞ。
あと1週間待てば大きなチョコがもらえるとしてもそれより前に脇見運転の車にひかれて死んでしまうかもしれません。
あるいは私が騒いだりうそをついたりして結局大きなチョコがもらえなくなるとしたら小さなチョコをすぐにもらった方がいいと思います。
もし今夜お酒を飲んでクッキーをたらふく食べたら楽しく過ごせるでしょう?でもそれを我慢しているうちに脇見運転の車にひかれてしまうかもしれません。
だとしたら目先の損得で判断するのは合理的だと言えるのではないでしょうか?将来なんて当てにできないからです。
確かにそのとおりだ。
だが私が言ったのは人は常に「より先にもらえる方」を選ぶという事ではない。
「今どちらを選ぶか」だったら早い方を選ぶが遠い将来の事なら後のものを選ぶ事もあるという事だ。
もし君が一貫して先にもらえる方を選ぶとしたら君とっての物の価値は時間とともに一定の割合で減り続けるといえる。
大切なのは実際の価値の変化は「今」の価値の減り方は急だが「将来」の価値の変化は少ない事だ。
だから本来の価値の差が見えやすくなるんだ。
さて個人的な話をすると私の人生最大の試練はインターフェロンという薬だった。
私は大やけどでずっと入院していたと言ったがその時輸血が原因で肝炎にかかったんだ。
当時はどのタイプの肝炎かが分からずやけどの治療は遅れ皮膚移植による拒絶反応も出た。
しかも肝臓の病気は何度も再発した。
大学院生の頃また症状が出て病院に行くとC型肝炎だと言われた。
そのころにはC型肝炎だと判別できるようになっていて医者にこう言われた。
「今試験中のインターフェロンという新しい治療法がありますが臨床試験に参加しますか?」と。
私がこのまま治らなかったらどうなるかを聞くと医者は肝硬変で苦しむ様子をとても生々しく説明してくれた。
そこで臨床試験に参加したんだ。
問題はインターフェロンは強烈な不快感を与える事があるという事だ。
注射する度私は一晩中具合が悪くなった。
嘔吐頭痛震え。
肝硬変で苦しむよりはいいだろうが注射で具合が悪くなるのは確実だった。
想像してほしい。
学校から帰ってきた時にいつも判断を迫られる。
注射をして惨めな一夜を過ごすか注射せずに快適な一夜を過ごすか。
でも注射しないと30年後に肝硬変になる確率は高まるだろう。
ちなみに注射は1年半にわたって週3回も必要だった。
1回限りの話ではない。
これは自己コントロール力を試される極端な例と言える。
でもこの薬のおかげで私は自己コントロールというものに興味を持ち実体験に基づいて考える事ができるようになった。
そして1年半後私は病気を克服する事ができたんだ。
でも私は担当医に多くの被験者の中でちゃんと注射していたのは私一人だけだったと言われた。
なぜだろうか?私が他の人よりも自分の肝臓を愛していたからだとか人より将来の事を考えていたからとか合理的だったからとか思うかもしれない。
だがどれも違う。
実は自分の置かれている環境を変えて治療を魅力的なものにしようとしたんだ。
私は映画ファンだ。
時間があればいくらでも見たい。
そこで自分でこうしようと決めた。
週3回朝一番にレンタルビデオ店に行き本当に見たい映画を借りる。
それを一日中持ち歩き見るのを心待ちにする。
家に帰るとビデオの準備をしてから注射をする。
副作用に備えてバケツと毛布を用意したらすぐに再生ボタンを押す。
私は「嫌な事」つまり注射と「好きな事」映画を結び付けたわけだ。
考えてみれば奇妙な話だろう?なぜなら私の話には「肝臓」という概念が含まれていない。
ただ映画のために注射注射のために映画というだけだ。
「肝臓の治療に集中しよう。
肝臓をもっと大事にしよう」といった発想はしなかった。
そうではなく他のもの「映画」に集中したんだ。
でも結果としてまるで肝臓の事を考えているかのような行動がとれたんだ。
肝臓は目先の問題ではなくずっと後の問題だ。
ずっと後に変化が現れる事だからモチベーションはもともととても低い。
ずっと先の話だからだ。
映画ならすぐに見られるというわけだ。
この引き換えの発想を「代替報酬」と呼ぼう。
人には気にかけたくてもなかなか気にかけられない事がある。
よくある対処法は人に「大事な事だから」と教育し多くの情報を提供する事だ。
もちろん「一晩中かかって大切さを説いても無駄だ」とはなから諦める事もできる。
だが人が興味を持てる別の何かを見つければ人はそれに夢中になるから結果として本来の問題を気にかけているかのように振る舞うというわけだ。
これが代替報酬の考え方だ。
君たちにも代替報酬についてちょっと考えてもらいたい。
地球温暖化について考えてみよう。
温暖化は気にかける事が本当に難しい問題の一つだ。
世界中であらゆる問題のリストを作って最も関心を持たれないものはどれか考えればそれは地球温暖化の問題かもしれない。
前回の「感情」についての講義を思い出してほしい。
感情の面から考えると無関心になる原因はいくらでも思いつく。
温暖化は遠い将来の人に降りかかる問題で今何か起きているようには見えないしたとえどんな努力をしてもバケツの一滴にすぎず困っている人の顔も見えないからだ。
では代替報酬を利用してみてはどうだろうか。
他の何に焦点を当てれば地球温暖化の事を気にかけているような行動をとらせる事ができる?何かいい案は?問題をシフトするのはどうでしょう。
気候変動という大きな問題を地元で起きるぜんそくとかもっと被害者の姿が見える小さな問題にシフトするんです。
うんシフトするなら気にかけてもらえるようななるべく小さな事にシフトする必要がある。
前回の授業で人々の関心を引くためには子供8人でも多すぎるという話をした。
問題をどこまで小さくできるかが重要だ。
他には?カリフォルニアでは瓶や缶のデポジット制度があります。
それがリサイクルの動機になっています。
お金を払って行動を改善させるというわけだ。
人は環境の事は気にしなくてもお金は欲しい。
他には?「近所の人がどう思うか」を利用します。
「近所の人がどう思うか」だね。
エネルギー消費のほとんどは人目につかないからなかなか難しい。
でも日本製のハイブリッド車に乗るなら話は違う。
人目につく環境保護のやり方だからだ。
私はハイブリッド車に関してちょっとした個人的な調査をした事がある。
ハイブリッド車に乗っている友人たちにこう尋ねてみたんだ。
「何か他に環境保護のためにしている事はあるか」と。
省エネの電化製品にするとかしているかと。
でもみんなハイブリッド車以外には何もしていなかった。
友人たちが駄目な人たちだと言いたいわけではない。
問題はエアコンの温度設定を工夫したりしてもそれに見合った報酬がない事だ。
近所の人などの人目につく形で行動して初めて快感になるんだ。
実際ハイブリッド車に乗っている人はそうでない人より笑顔が多いようだ。
というのも運転している時「私ってなんてすてきな人間なんだろう。
みんな偉いと思ってくれている」と思うからだ。
ところでハイブリッド車の見かけが独特なのはいい事だ。
他の車とあまり違わなかったらメッセージ効果がなくなる。
他には?子供を通じて親に罪の意識を持たせてはどうでしょう。
将来影響を受けるのは子供たちだからです。
子供を通じて親に罪の意識を持たせるのはとてもいい方法だ。
私たちはアメリカの選挙の投票推進キャンペーンをした事がある。
人々に「もし子供に誰に投票するかと聞かれたらどうするか」と尋ねたんだ。
人々にとって選挙とはたった1票では結果は変わらないし時間がかかるし見返りもないものだ。
でも我が子には「お父さんは怠け者だから投票しないんだよ」とは言いたくない。
あれは今までのキャンペーンの中でも最も効果があったと思う。
子供の前では怠け者ではいたくないからだ。
今話してきたような事は最近はやりの「ゲーミフィケーション」の概念と同じだ。
ゲーミフィケーションとはコンピューターの世界で人々が今再発見し始めている心理学の手法だ。
彼らはこう考える。
「自分たちのために長時間無料で働いてくれる人が欲しい。
だからお金以外のものをあげよう。
ポイントとか他の人と比較した評価とかバッジとかスマイルマークとかをあげよう」と。
つまりただ何かをやってくれと言っても人は動かないから何かをあげる事でその作業が魅力的に見えるようにしようというわけだ。
このゲーミフィケーションの概念は実は人間のあらゆるモチベーションを高めるのに使える。
「歯磨き」の事をちょっと考えてみてほしい。
毎日歯を磨く人は?いいね。
ところで人類の歴史を振り返ると人に習慣づける事に成功した行動はほとんどない。
でも歯磨きはその一つだ。
では歯磨きよりもフロス糸を頻繁に使うという人は?ゼロだ。
フロスの方が歯磨きよりも大事だと思う人は?少しいるね。
そのとおり。
本当はフロスの方が大事だとも言われているが歯磨きほどはしない。
では歯を磨くのに歯磨き粉が大事だと思う人は?実は歯磨き粉についてはつけない場合と比べて効果の違いはほとんどないという報告もある。
でももし歯磨き粉が発明されてなかったら人々は歯を磨くだろうか?歯磨き粉のない世界を想像してくれ。
歯ブラシだけがいつもと同じ場所にあっても今と同じ頻度で磨くだろうか?そういう実験はまだした事がないがきっと磨かないだろう。
実は歯磨き粉は代替報酬だからだ。
人は「5年後には今より健康的な歯になりたい」とか思って歯を磨くのではない。
人が欲しいのは爽やかミント味だ。
人は物事を長期的な目では見ずに短期的に考える。
ミント味はもはや習慣になっているからその味がしなければ物足りないと感じるんだ。
歯磨きの習慣が間違った理由によって保たれているのは面白い。
歯磨きをする時歯磨き粉が口の中に運ばれる。
人は歯磨き粉を味わいたいから歯を磨くんだ。
ではなぜフロスは習慣になりにくいのか?代替報酬がないからだ。
ミント味のフロスもあるが歯磨き粉で十分ミントを味わっているからそれ以上必要とは思わないんだ。
私たちの目標は人々をよい行いに導くためのいわば「歯磨き粉」を見つける事だと考えてほしい。
人は歯を守りたいから歯磨きをするわけではなく歯磨き粉を味わいたいから歯を磨く。
それが代替報酬の本質だ。
人によい行動を促すための新たな方法を見つける事が大事なんだ。
一つビデオを見せたい。
見た事がある人もいるかもしれないがフォルクスワーゲンが行ったプロジェクトだ。
「人によい行動を促すためもっといい方法を見つけよう」というプロジェクトだ。
エスカレーターがあると人はなかなか階段を使わない。
(ピアノの音)
(ピアノの音)
(ピアノの音)とにかくこれはとても効果的だった。
階段を上るという行動を楽しくしたんだ。
「代替報酬」に関して私のお気に入りの実験がある。
そのいくつかを紹介しよう。
ある薬がある。
発作を起こした経験がある人が飲めば2度目の発作が起きる確率を21%から3%に減らす事ができる薬だ。
安くてよく効くが副作用が少しだけあって葉物野菜をあまり食べてはいけないとも言われている。
でも飲めば発作が起きる確率は減る。
ところが患者は発作のつらさを知っているのにもかかわらずその薬を飲む人はアメリカで66%しかいない。
患者は2度目の発作を避けたいと思わないのだろうか?どうやらそのようだ。
そこでだ代替報酬を利用できないだろうか。
薬を飲む事の重要性を考えれば66%という数字は好ましくない。
血液が固まるのを防ぐ薬だから定期的に服用しないといけないからだ。
では代替報酬として何を考えればいいだろうか?患者に規則的に薬を飲んでもらうためにどうすればいい?薬にカフェインを入れます。
カフェインね。
薬を魅力的なものにするわけだ。
でももっと面白いものはないかな?カフェイン止まり?薬をチョコレートに載せて飲ませます。
うんチョコレートはいい報酬だ。
他には?例えば7日間続けて薬を飲めば何か報酬をもらえるような仕組みを作ればいいと思います。
例えばどんなもの?お金とか。
いくらくらい?5ドル。
7日間続けて飲んで5ドル?はい毎週。
毎日飲んで週に5ドルか。
考えてみてくれ。
7日間というのは適切な期間だろうか?次の月曜にお金がもらえるというのは励みになるだろうか?「双曲割引」の事を考えると大事なのは今日だから答えはノーだ。
将来は今日ほど大事じゃない。
もう一つ君の答えには「7日間続けて飲まなければならない」という縛りがある。
もし火曜に飲まなかったらもう報酬はもらえない。
すると水曜はどうする?分かるだろう?つまり状況しだいでは逆効果になりかねないんだ。
「ああこれで報酬はパーだからもうやめよう」となる可能性がある。
だから適切な期間を見極める必要があるんだ。
他には?例えばマイナスのフィードバックを与えるのはどうでしょう。
罰を与えるという事かな?はい。
服用しなかったらその人の子供にメールを送るとか。
罰と恥の組み合わせというわけだね。
他には?逆にいい面を強調するのはどうでしょう。
例えば「親はいい事をしている」と子供に知らせるとか。
つまりこう伝えるわけだ。
「あなたの人間関係を利用して報酬か罰を与えます。
身近にいる人にそれをやってもらいます」と。
子供を利用するとかね。
他には?マイレージがたまるようにします。
マイレージね。
何かのポイントとかギフトカードはどうでしょう?ポイントやマイレージについて考えてみよう。
明らかなマイナス点は手に入るのがずっと後だという事だ。
一方いい点は現金とは違う価値を持つ事だ。
ポイントというものは面白い。
次回の講義でお金の話をする時にまた言うがお金の場合1ドルは1ドルでしかないがポイントは違う。
ブロンズからシルバーゴールドへと昇格するものもあるし逆に降格するものもある。
更にポイントは何か特定の事にしか使えないのに面白い特徴がある。
例えば君たち全員がカプチーノ好きだと仮定しよう。
カプチーノは1杯3ドルとする。
3ドルの現金しかもらえないならやりたくない事でもカプチーノ1杯のためならやってもいいと思う事があるだろう?その場合君たちにとってのカプチーノの価値は3ドルより高いという事になる。
同じようにポイントのような特定の事にしか使えないものが現金を上回る動機づけになる事があるんだ。
ポイント稼ぎそのものを楽しい体験にするともっといいと思います。
例えばポイントを獲得すると心地よい音楽が流れるとか。
笑顔やご褒美褒め言葉だね。
私もここへ来る度にワクワクする。
君たちが私を好きだと分かるからね。
では先ほどの薬を飲ませる事に関してジョージ・ローウェンスタインとケビン・ヴォルプと私たちがやった実験のいくつかを紹介しよう。
まずは被験者に1日3ドル払って時間どおり薬を飲ませようとした。
毎日3ドルだ。
薬を飲めば3ドルもらえるがどうなったと思う?特に効果は見られなかった。
次に私たちはこう考えた。
「この3ドルをどう膨らませられるか。
3ドルに3ドル以上の価値を持たせるにはどうするか」。
行動経済学には「損失回避」と呼ばれる法則がある。
「失うつらさは得る喜びの倍」という感じの法則だ。
そこで薬を飲まなかった被験者の銀行口座からお金を取り上げる事を思いついたが私たちの実験は全てある審査委員会の監督下にあって被験者からお金を取り上げるのはやり過ぎだと言われた。
でも前払い金を与えておけばOKだった。
90日間毎日薬を飲んだと見なしてお金を先に払っておいて後で取り上げるわけだ。
前払いしておいて返金させただけなんだがこの場合は効果があった。
更に一連の実験で私が一番気に入ったのはケビンとジョージがやった事だ。
2つの事を同時にやったのだがまずは宝くじを利用した。
3ドルあげる代わりに10%の確率で30ドルが当たればよりワクワクするのではないかと。
大金が当たるような宝くじは当たる確率がごく僅かしかない。
しかし当選金が少ない代わりによく当たる宝くじを作ればよりワクワクする。
だから宝くじというのはいいアイデアだった。
実験ではもう一つの面白い要素「後悔」の要素も加えた。
後悔というのは「本当ならこうだったはずなのに」という思いから湧き出す感情だ。
人の満足度というのは「他にどんな可能性があったか」との比較から生まれる。
もっとよかったはずだと思えば惨めになる。
逆にもっと悪かったかもしれないと思えば現状に満足できる。
例えばどっちがより惨めだろうか。
2時間遅刻して飛行機に乗り遅れるのと2分遅刻して乗れないのと。
2分だ。
なぜか?乗れた場合の事をどうしても考えてしまうからだ。
「こうだったら間に合ったのに」という可能性をいくらでも想像できる。
もし信号がもう少し早く変わっていたら。
自分の前にいた人が液体持ち込み禁止のルールを知っていたら。
もし空港の係員のIQがあと1ポイント高かったらと。
君たち自身の生活ではどうだろう?自分の幸せな気持ちが現状から来るのではなく「こうならなくてよかった」という思いから来る事がたくさんあるだろう。
では後悔はどうだろう?後悔は心理的に大きなダメージを与え不快感をもたらす。
では実験に後悔の要素をどう加えたか。
「後悔」の要素を加えるにはまず薬を飲む飲まないにかかわらず全員に宝くじを渡す。
そしてこう言うんだ。
「ピーターおめでとう当選です」。
まあ彼はイスマエルだが。
「ピーター君が今回の当選者です。
ついているね。
おめでとう。
ただ…残念ながら君は薬を飲んでいなかったからお金は渡せません」。
こうなると後悔の気持ちがあふれ出る。
「今朝薬を飲んでいさえすればこんな思いをしなくて済んだのに」と思う。
この実験では薬をしっかり飲む人が98%にまで増えたんだ。
発作を避ける薬を飲まないというのは嘆かわしい事だがそこで諦めなくてもいい。
「代替報酬」を作ればいい。
更に人のやる気を最大化させる方法を考えればいい。
3ドルでは十分でなかったが「宝くじ」と「後悔」の要素を併せると大きな効果が出たんだ。
望ましくない行動をとる人への普通の対処法は教育する事だ。
「君は間違っているからこうしなさい」と。
でも教育ではなくて「よい行動につながる何か別の動機づけを見つけよう」というのが代替報酬なんだ。
さて次に話したいテーマは「自己コントロールのための環境設定」についてだ。
オデュッセウスの神話を覚えているか?オデュッセウスはセイレーンの声を聞いてしまったら誘惑に負けて船を難破させてしまう事を知っていた。
そこで乗組員に頼んで自分の体をマストに縛りつけてもらい乗組員たちには耳栓をさせた。
こうしておけばたとえセイレーンの声が聞こえても自分は動けないから誘惑に負けて船を難破させる事はない。
今で言えばオデュッセウスが車の運転中に携帯電話をトランクに入れておくようなものだ。
そうすれば携帯が鳴っても電話に出られない。
このオデュッセウスの話を応用できないだろうか。
将来自分がよくない行動をとるのが予想できるから自己コントロールのために自分の手をあらかじめ縛っておこうというのはいい発想だ。
君たちに聞きたい。
君たち自身の生活の中で今話したような例はあるか?「将来自分がよくない行動をとると予想できるからそうはできないように環境を設定している」という例だ。
何か例が挙げられる人?毎日お弁当を作っています。
お弁当を作る。
出勤前に作っています。
そうしないと健康に悪いものを買ってしまうと分かっているからです。
すばらしい。
職場へ行けばいろんな誘惑がある。
誘惑を前にすると我慢できないと分かっている。
税金の前払いをしています。
税金の前払い。
もしそのお金が銀行にあったら無駄遣いする事が予想できるからだな。
例えば…?靴とか。
靴ね。
無駄遣いはしたくないが確かに手持ちが少なければ靴を買いたいとは思わないだろう。
他には?チョコレートやアイスクリームの大きいサイズは買わない事にしています。
小さいのしか買いません。
どちらにせよあっという間に食べてしまうからです。
いいね。
例えば「チョコレートを箱買いして1日置きに1かけらずつだけ食べよう」と決める事もできる。
でも「今はそう思っていても将来の気持ちは変わるかもしれないから将来気が変わってもそうはできないように今手を打っておこう」という事だね。
君たちの中でジムに通ってパーソナルトレーナーについた事がある人は?パーソナルトレーナーの大きな特徴は返金してくれない事だ。
返金してくれるならみんなトレーニングに行かなくなるからだ。
つまりこう考えるんだ。
「将来の自分が運動をサボりたがるのは分かっているが自分にはどうしても運動してほしい。
だから予約を入れてトレーニング代を前払いしよう。
そうすればたとえサボりたいと思ってもお金を無駄にしたくないから行くだろう」と。
そしてトレーニングに行く事になる。
このように痛みと報酬を事前に設定しておく事で将来の自分によい行動を促すわけだ。
ちょっと見てほしいものがある。
MITのメディアラボの学生の作品だ。
これは目覚まし時計で回転速度が異なる2つの車輪がついている。
これがオリジナルであっちが市販品だ。
どうやって使うのかというとまず目覚ましをセットして自分に誓う。
「明日朝6時に起きてジョギングに行きます」と。
だが翌朝6時になると君は昨日とは別人だ。
違う願望を持っている。
普通の目覚ましを使っていれば腕を伸ばしてスヌーズボタンを押せばいい。
でもこれは違う。
部屋中を転げ回る。
車輪がランダムに回ってどこに行くか想像がつかない。
追いかけ回して捕まえなければならない。
そしてそのころには目覚めているんだ。
「ジョギングに行こうか」となる。
別のも見せよう。
これも目覚ましなんだが君たちの銀行口座とつながっている。
更に君たちが大嫌いなチャリティー事業ともつながっているんだ。
(笑い)口座に少しでもお金があると君たちがスヌーズボタンを押す度に君たちが嫌いなチャリティー事業にお金が寄付される。
大変不愉快で苦痛だろう。
だから大きな可能性を秘めているんだ。
こんなウェブサイトもある。
サイトのソフトウエアをインストールすると君たちがポルノサイトを見る度に知り合いにお知らせがいく。
ソフトウエアをアンインストールしてもやはりお知らせがいくから一度インストールしたら逃れられない。
どこかの教会が開発したらしい。
こんな感じの面白いものがたくさんある。
さて「マシュマロ・テスト」について君たちも聞いた事があるだろう。
心理学の古典的な実験だ。
小さな子供たちをそれぞれ部屋に入れてこう伝える。
「マシュマロが1つある。
今すぐ食べてもいいけど10分待てばすてきなお姉さんが来てマシュマロを2個くれるよ」と。
結果はどうだったか。
待った子もいたし待たない子もいた。
その後の追跡調査で待った子供たちの方が学業成績が良かった。
更に自己コントロール力を発揮した子の方がその後犯罪歴が少なく健康に過ごしたという調査結果もある。
この調査から自己コントロール力は一生ものの極めて大切なスキルだという事が分かる。
考えてほしいのは自己コントロールできた子供たちはどうしてそれができたのかという事だ。
神からその力を授かったのか生まれつきそういう遺伝子を持っていたのか。
それとも自分をコントロールするための方法を思いついたのか。
答えは思いついたんだ。
マシュマロ・テストのビデオを見ると子供たちはマシュマロを見て気にならないわけではなかった。
けど両手をお尻の下に置いたり天井を見上げたりあらゆる手段で誘惑を退けようとしていた。
まさにオデュッセウスの「自己コントロールのための環境設定」だ。
自分の気をそらす事で誘惑を退けたんだ。
私たちが自己コントロールに関して行った実験の話をしよう。
食べ物に関するものだ。
君たちの中でレストランで出される食事の量が多すぎると思う人は?ではお店の人に「量を70%に減らしてもらえますか?」と言った事のある人は?言わないだろう。
簡単だし誰にも文句を言われないのにそんな要求はしない。
簡単な事なのになぜかそういう発想をしない。
ではオデュッセウスの「自己コントロールの環境設定」を人々に提案してみてはどうだろうか。
よりよい行動につながるような提案はできないものだろうか。
私たちは先日南アフリカで健康保険会社と一緒にある調査を終えたばかりだ。
その保険会社は食べ物に関してもともと面白い特典を用意していた。
保険に入った人がスーパーで食品を買うと買い物かごの中にヘルシーな食品がどのくらいあるかを計算してくれてその代金の20%を返してくれるというものだった。
さて南アフリカのいいところはプライバシー保護にうるさくないところだ。
それに保険会社は加入者の食品購入履歴を把握しているから実験にはもってこいだった。
保険に入っている人がレジを通ると買った商品のリストが保険会社に送られる。
どの食品がヘルシーかは把握しているからヘルシーな食品に関してのみ代金の20%を返金するという仕組みだった。
実験では被験者たちにこう説明した。
「2つの選択肢があります。
1つ目は今までどおりヘルシーな食品に対して20%の返金をします。
2つ目はこんなプログラムに参加する事です。
先月あなたの買い物の25%がヘルシーな食品でしたがヘルシーな食品を更に5%以上増やせば今までどおり20%返金します。
でも5%以上増やさないと返金はなくなるというプログラムです。
参加しますか?」と。
おかしな話だろう。
2つ目のプログラムに利点はあるのか。
よくて現状の返金率を維持できるだけでそれもヘルシーな食品を5%増やせばの話だ。
でもなんと1/3の人が2つ目のプログラムに参加したんだ。
実験は半年続けた。
するとその間に被験者の食生活が改善したんだ。
つい先日終えた調査では被験者は実験後もヘルシーな食品を買い続けた事が分かった。
習慣のなせる業だ。
この実験で興味深かった事は結果的に返金を受けられなかった人が結構いた事だ。
だがプログラムをやめようとはしなかった。
最も返金を受けられなかった人でさえ保険会社には「もっとこういうプログラムを増やしてほしい」と言っていた。
この実験では被験者はそもそも2つ目のプログラムを選択しなくてもよかった。
しかし被験者は「会社が本気で応援してくれるように感じられるから参加してみたい」と思ったんだ。
オデュッセウスの「自己コントロールのための環境設定」はあらゆる分野で大きな可能性を秘めていると思った。
質問なんですが。
どうぞ。
少し話はそれますが質問があります。
がんと遺伝子検査についてです。
遺伝子検査は将来の自分が抱えるかもしれない問題を教えてくれて結果もすぐ分かります。
なのにその情報を知りたがらない人が多いのはなぜでしょうか?その情報に基づいて自分の長期的な健康改善に向けて対策をとれるかもしれないのに。
私は実は遺伝子検査会社に勤めています。
だから人々がどう考えているのかを知りたいんです。
検査に対して尻込みしてしまうのはなぜなんでしょうか。
大変興味深い問題だ。
人が知らないままでいたい事は実は驚くほどたくさんあるんだ。
アフリカでは人々を説得してエイズ検査を受けに行かせるのは結構簡単だが結果を聞きに行かせるのは至難の業なんだ。
わざわざ検査を受けに行ったんだから結果を知りたいはずだと思うだろう?でも知りたがらないんだ。
不確実な事とどう向き合うのか。
大変な事が起きるかもしれないという可能性がほんの僅かだけある場合に人々はどうするのかという事だ。
例えば夏に市民プールに行くとする。
自分がプールに入る10分前にどこかの子供がそのプールの中でこっそりおしっこをした確率はどのくらいだと思う?99.9%だという事にしよう。
これが1つ目のシナリオだ。
2つ目のシナリオは子供がプールサイドからプールにおしっこする光景を目撃したらというものだ。
おしっこが終わった瞬間にプールに入るかどうか決めなければならなかったらどうする?これが99.9%と100%の違いなんだ。
知らないままでいたいと思う事がある。
いざ知ってしまうととても気になるからだ。
遺伝子検査にも似たようなところがあるのではないだろうか。
では自己コントロールの話をまとめよう。
人間の判断は自分が置かれた環境の産物である事を最初の講義で伝えた。
では私たちの周りの環境は私たちをどう誘惑しているだろうか?目先の満足へと誘惑しているのではないか。
逆に君たちに将来の幸せこそが大切なんだと気付かせてくれる存在とはどんなものだろうか?母親です。
家族かもしれないね。
親しい人や家族。
他には?宗教もそうだろう。
医療や保険もそうかもしれない。
だが君たちの周りの大抵のものは君たちの時間やお金を浪費させようと誘惑する。
君たちにとって道を歩くのは戦場を歩くようなものだ。
周りの全てのものがお金や時間を遣わせようとするからだ。
この傾向は強まる一方だ。
次世代のドーナツはもっと心をそそるものになるだろうか?なるだろう。
それこそが企業の目指すところだからだ。
次世代のフェイスブックはもっと魅力的になるだろうか?フェイスブックが気にかけているのは君たちの長期的幸福だろうか?それとも君たちが今日あと1回フェイスブックをチェックする事だろうか?世界中のものが私たちを誘惑していて私たちは誘惑との闘いに四苦八苦している。
だからこそ誘惑と闘う方法をどうやって編み出すか。
代替報酬とかオデュッセウスの方法とか誘惑に対抗する方法をどう人に伝えてゆくか。
どんな時にも頼りになる普遍的な戦略とは何か。
私はテクノロジーがその一つだと考えている。
私たちにはアダムとイブのような欠点があって「自分もオデュッセウスのように誘惑に立ち向かおう」と思ってもなかなかできない。
でも幸い私たちにはテクノロジーがある。
さっき紹介した目覚まし時計のようなものやさまざまなアプリもある。
自分の行動を改善できるすべがあるんだ。
君たちが世界を設計すると仮定してほしい。
どういう世界を設計するかは君たちしだいだ。
人を誘惑し人の弱さにつけ込む世界を作るのかそれとも人によい行動を促す世界を作るのか。
どちらを選ぶのかは君たちしだいだ。
今回はここまでだ。
何か質問は?ではみんな楽しい夜を!どうもありがとう!
(拍手)2014/04/25(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
お金と感情と意思決定の白熱教室 楽しい行動経済学の世界 第4回 [二][字]
食事に気をつけたり運動したりすることは、将来有益だと分かっていても、スイーツなどを前にするとついつい気が緩む。知られざる自己コントロールのノウハウを探る!
詳細情報
番組内容
食事に気をつけたり運動したりすることは、将来有益だと分かっていても、スイーツなどを前にするとついつい気が緩む。人間が、目の前の利益に執着する証拠だ。自分のことだけでなく、地球温暖化の問題に人類が真正面からなかなか取り組めないのも同じ理由だ。将来の利益や危険は、たとえ深刻なことであっても「遠い未来のことだからまだ考えなくていいや」と思ってしまう傾向が強いのだ。自己コントロールのノウハウを追求する!
出演者
【出演】デューク大学教授…ダン・アリエリー
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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英語
サンプリングレート : 48kHz
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