東京電力…その一角にある原発作業員たちの拠点です。
原発事故から3年余り。
今も一日4,000人がかつてない困難な作業と向き合っています。
高い放射線量の中原発を解体し安全な状態に戻す廃炉。
40年ともいわれる長い闘い。
その成否は作業員たちにかかっています。
しかし今作業員たちの被ばく線量が限度に近づき次々と現場から離れざるをえなくなっています。
専門家は廃炉作業が進むにつれ担い手が不足するという深刻な未来を予測しています。
廃炉の担い手をどう確保し続けるのか。
その手がかりは世界に2つ。
初めて溶け落ちた核燃料を取り出したスリーマイル島原発。
その裏には熟練作業員を確保する緻密な戦略がありました。
世界最悪の事故を起こした…100年にわたって作業員の数を維持する計画が進められています。
私たちが初めて直面する放射能との果てしない闘い。
原発事故の後始末を誰が担っていくのでしょうか。
シリーズ「廃炉への道」。
第2回は原発作業員。
最前線で起きている現実です。
3つの原子炉が次々とメルトダウンした世界最悪レベルの原発事故。
溶け落ちた核燃料は原子炉の底を突き破ったと見られています。
極めて強い放射線を数万年発し続ける燃料デブリです。
このデブリを取り除き原発を解体するのが廃炉です。
国や東京電力が想定した廃炉の工程表です。
最初の準備期間だけでも10年。
最も困難なデブリの取り出しにおよそ15年。
更に原発の解体作業が続きます。
全てを完了するのに30年から40年かかるとされています。
現在はデブリ取り出し前の準備の段階。
原子炉建屋の内部の調査やガレキの撤去などが行われています。
東京電力は当初必要な作業員の数は年々減っていくと見通しを立てていました。
ところが去年作業員の数を上方修正。
来年度は予測を大幅に上回る1万2,000人以上が必要だと見直しました。
今廃炉の現場で何が起きているのでしょうか。
廃炉作業の中核を担う企業の一つが取材に応じました。
原発構内から戻ってくる作業員。
関連企業を含めておよそ200人。
ほとんどが地元福島の人たちです。
事故から3年。
会社が直面していたのは作業員の被ばく線量の問題でした。
この日現場では汚染されたガレキに直接触れるトラブルがありました。
(一同)お疲れさまです。
(取材者)おはようございます。
(杉)おはようございます。
去年2月から廃炉作業に当たっている杉匡崇さんです。
杉さんの仕事は高線量のガレキをロボットで撤去する事です。
担当するのは水素爆発した3号機。
内部は人が近づけないほど汚染されています。
杉さんは3号機からおよそ500メートル離れた免震重要棟からロボットを遠隔操作します。
使うのは廃炉専用に改良されたこのロボット。
作業現場の放射線量は高い所で毎時2,200ミリシーベルト。
ロボットからの映像を頼りに一つ一つガレキを片づけます。
こうした遠隔操作によって作業員の被ばく線量は抑えられると見込まれていました。
ところが毎日給油やメンテナンスなどのためロボットを運び出さなくてはなりません。
この時杉さんたちは3号機のすぐそばまで行きロボットを回収。
車に載せる作業を行います。
現場の放射線量は毎時0.8ミリシーベルト。
短時間でも強い放射線を浴び被ばくします。
国は原発作業員の被ばく限度を一般の人より高い5年間で100ミリシーベルトと定めています。
杉さんの被ばく線量は1年余りで45ミリシーベルト。
既に限度の半分近くに達しました。
ロボットを使ったとしても作業員の被ばくは避けられません。
作業員を1人追加する事になりました。
今この会社では作業員たちの被ばく線量が次々と限度に近づいています。
作業員200人が事故後3年間で被ばくした放射線量の記録です。
被ばく線量が限度に近づき現時点で廃炉の現場に入れなくなった人が7人。
50ミリシーベルトを超え高線量の現場を避けるようにしている人が30人に上っています。
そこで管理職も動員し被ばくを多くの作業員で分け合う人海戦術をとる事にしました。
この会社では事故直後30人で原発の作業を行っていました。
短期間で1人当たりの被ばく線量は急激に高まりました。
その後線量の高い現場に対応するため200人まで増員。
ローテーションで1人当たりの被ばくを抑えようとしました。
それでも被ばく線量は徐々に増え新たな人員の確保に追われています。
福島第一原発では更に多くの作業員が必要になる事態が起こっています。
汚染水漏れなど当初想定していなかったトラブルが相次いでいるためです。
東京電力が見積もった必要な作業員の数。
昨年度の実績は上方修正した見積もりよりも3,000人以上上回りました。
廃炉を担う企業は更に深刻な課題を突きつけられています。
被ばくの限度が近づき現場を離れる人の多くが熟練作業員なのです。
この会社では廃炉とは別の現場にこうした作業員を配置しています。
発電タービンのベテラン技術者…原発の内部を知り尽くし現場で後輩を指導してきましたが廃炉に関わる事ができなくなりました。
原子炉の制御棒の点検などを担当していた…被ばく線量が限度に近づき間もなく原発に入れなくなります。
残された時間で必要な知識を伝えています。
原発に精通し豊富な経験を持つ人ほど離れざるをえない。
廃炉の現場が直面する現実です。
40年かかるともいわれる廃炉。
その準備段階で浮かび上がる課題。
デブリ取り出しなど作業が本格化する今後担い手を確保していけるのか。
国も東京電力も長期的な見通しを示していません。
今回NHKでは専門家に協力を依頼。
作業員確保の問題を検証する事にしました。
集まったのは電力会社の元幹部や労働力の推計を行う研究者。
福島第一原発の現役作業員や廃炉に詳しい技術者なども参加しました。
専門家たちがまず懸念したのは将来熟練作業員がますます足りなくなるという事です。
原発作業員の労働実態について研究してきた…縄田さんは廃炉に携わる作業員の数を年齢別に調査してきました。
現在全体の4割を超えるのが50歳以上の熟練作業員。
この世代の多くは10年後には退職します。
そのタイミングはちょうど廃炉の最大の山場となるデブリの取り出しの時期に重なるのです。
更に専門家が問題にしたのは辞めていく熟練作業員に代わる人材が新たに入ってくるかどうかです。
労働力推計の研究者…注目したのは放射線業務従事者の数です。
原発で働く人はまず放射線業務従事者に登録します。
その数は過去20年一貫して増えてきました。
しかし横山さんは今後この傾向が変わると分析しています。
横山さんが参考にしたのは原子力産業への就職希望者の数です。
事故後は以前のおよそ1/3にまで減っていました。
事故直後からツイッターで現場の実態を発信し匿名での著書もある現役作業員です。
廃炉の現場に若い人が集まりにくい現状を語りました。
専門家たちは少子化による人口減少も加味して今後40年間の放射線業務従事者の推移を予測しました。
デブリの取り出しが始まる2020年ごろ。
その数は現在の8割になります。
更に取り出しが続くおよそ15年の間に減り続け現在の半数になります。
そして廃炉の終盤には現在の3/3程度になるおそれがあるというのです。
将来にわたって必要となる人材の確保。
その手がかりとなる前例がアメリカにあります。
35年前にメルトダウンを起こしたスリーマイル島原発。
世界で初めてデブリの取り出しを行いました。
これが原子炉から取り出された燃料デブリです。
今なお数時間で人が死に至るほどの放射線を発しています。
デブリ取り出しに向けた作業の記録です。
福島でもやがて向き合う事になるデブリとの格闘。
一体どれほどの作業員が必要となるのか。
スリーマイルで廃炉に当たった作業員の数です。
準備期間中盤からデブリ取り出しに向けて次第に増えていきました。
そして事故から6年後。
取り出しが始まった時ピークに達します。
その期間中一貫して多くの作業員が必要となっていました。
当時作業を指揮したレイク・バレットさんです。
デブリ取り出しの鍵を握ったのは原子炉の構造や工作機械の操作に精通した熟練の作業員だったと言います。
スリーマイル島原発での廃炉作業をまとめた報告書。
豊富な経験と技術を持った作業員の確保に加え専門教育を計画的に行って将来の担い手を育成していたのです。
スリーマイル島原発よりもはるかに困難だとされている福島第一原発の廃炉。
その担い手を確保していく仕組みは出来ているのか。
おはようございます。
私たちは廃炉に携わる企業を対象に人員確保の現状を調べる事にしました。
企業の名前は東京電力が直接発注する元請以外公表されていません。
何だ?関電工。
地元企業ですね重機会社。
福島第一原発に出入りする車の通行証などから下請企業の名前を一つ一つ調べていきました。
連絡先が判明した企業は278社。
このうち102社を取材する事ができました。
企業から聞き取った結果です。
原発事故当時と比べた作業員の数。
「人員の確保が難しく作業員が減っている」と答えた企業が半数を超えました。
更に廃炉の仕事を続けるかどうかを尋ねたところ「続ける」と答えた企業は半数にとどまりました。
これに対して30%が「今後はわからない」。
15%が「続けない」と答えました。
作業が本格化する前の準備の段階で既に廃炉を支える人が減り撤退を考える企業がある事が分かりました。
なぜ今多くの企業が作業員が減っていると答えているのか。
取材に応じた102社の一つ地元福島にある建設会社です。
この日作業員を巡る問題が起きていました。
全く…。
廃炉現場で20人の作業員を束ねるリーダーです。
同僚の一人が数日前から突然現場に来なくなりました。
話を聞くと「福島県内で行われている除染の仕事に移りたい」と言います。
結局引き止める事はできませんでした。
この会社は大手ゼネコンなどの下請として原発構内の土木工事を請け負っています。
その一つが使用済み燃料の保管施設の建設です。
現場は4号機のすぐそば。
周辺の放射線量は毎時0.4ミリシーベルトに上ります。
放射線を遮るため重さ15キロの金属製のベストを着て行う過酷な作業です。
震災で仕事を失い廃炉作業の収入を支えに暮らしてきた遠藤さん。
この3年同僚が次々と現場を去るのを目の当たりにしてきました。
止められなかった。
止められないでしょ。
だってあそこで…あそこはそんな無理に働けとかそういう現場じゃないし。
だから基本的に去る人は追えない現場だと思ってるから。
あの場所は。
「行きたくないから休みます」って言われたら「駄目だ来い」なんて俺は言えない。
「無理して明日も出てきて」って言えるような所ではないと俺は思ってる。
お疲れさま。
1か月ご苦労さまでした。
遠藤さんは同僚が辞めていくのは厳しい仕事に給料が見合わなくなっているからだと感じています。
この日受け取った給料は前の月より1日当たり4,000円も減っていました。
社長は同じ規模の工事でも以前より支払われる代金が下がったためだと言います。
人手が足りないのに作業員の給料が下がっている背景に何があるのか。
私たちは今回判明した廃炉に関わる企業の取り引き関係を調べました。
これがその全体像です。
東京電力を頂点に元請企業1次2次3次と下請企業が連なっていました。
いわゆる重層下請構造です。
取材した建設会社は2次下請に位置しています。
その上の層1次下請の会社の一つが取材に応じました。
この会社の社長は原発の仕事の利益率が事故から3年で半減したと説明しました。
コストカットを迫られた東京電力が競争入札を増やした事が影響していると言います。
A社は8,000円。
B社は8,500円。
C社は7,900円。
そうですね。
東京電力は去年11月競争入札を一部見直すとともに作業員の給料を増やすための対策を発表しました。
人件費の見積もり額に1人当たり1万円を上乗せ。
効果があがると期待しています。
しかし取材に応じた社長は「1万円全額が下請企業に渡る訳ではない」と元請企業から説明を受けたと言います。
上乗せされた1万円は受注金額の中に組み込まれています。
それを給料に積み増すかどうかはそれぞれの企業に委ねられ下に行くほど作業員の手元には行き渡らないというのです。
例えば国の除染事業では賃金とは別に作業員への手当として1万円が保証されてきました。
しかし廃炉は民間企業の事業です。
除染のような手当の保証はなく重層構造の中で減額されていくのです。
東京電力で廃炉作業の要員計画を担当する部署です。
これまで元請企業に改善を求めてきました。
しかし下請企業の作業員への支払いにまでは関与できないとしています。
事故前は東京電力からの巨額の発注を多くの企業が分け合い人を集めてきた重層下請構造。
専門家たちは厳しいコストカットの中でこの構造では人材確保が難しくなっていると指摘しています。
国家の命運を懸けた長期にわたる廃炉。
それを支える新たな仕組みが必要だと指摘しています。
廃炉を担う作業員を確保するにはどのような仕組みが考えられるのか。
28年前世界最悪の事故を起こした…ウクライナでは長期にわたって人を集める一元的な体制を作っています。
100年後の廃炉を目指して進められる新たな石棺の建設。
こうした作業には一日2,000人が必要ですが定員の3倍の応募が続いています。
人材確保の計画は国の主導で進められています。
事故後チェルノブイリ原発の作業員とその家族のためにつくられた町です。
人口は2万5,000。
住居は無償で提供されています。
この町に住む作業員の…給料は一般労働者の1.5倍以上。
50歳まで働けば国から年金が支給されます。
作業員が不安を抱く被ばく対策も進められています。
放射線の影響が出やすい目の精密検査をはじめ徹底した健康診断が行われます。
被ばく線量や病歴などのデータは国が集め長期的な健康管理に生かしています。
しかし国が一元的に行う仕組みにも課題が残されています。
多くの作業員を長期間確保し続けるばく大なコストが財政を圧迫し始めているのです。
40年ともいわれる廃炉の入り口に立ったばかりの日本。
浮かび上がる課題にどう向き合おうとしているのか。
国は私たちの取材に対し…NHKが協力を依頼した専門家たち。
廃炉を成し遂げるには社会全体で担い手を支える事が不可欠だと言います。
もっと国がサポートしないといけないと思いますよね。
国がやっている研究機関とかたくさんある訳ですよ。
そういうふうなところも人材を出したり知恵を結集しないといけないですよね。
働きがい。
それから自分が挑戦したいという…。
国民から信頼され期待されているという気持ちが若者に伝わるような。
10年20年30年レースをやるにはどうすればいいかと。
それは国民で考えなきゃいけないと思うんです。
待遇ですね。
ちゃんとした待遇を受けられるというようなシステムを構築する必要がある。
国民全体としていまだに福島は存在するというのをもう一度理解しないといけない。
小康状態を保ってるのは福島で働いてくれている人がいるからこそ今の状況で収まってると。
それを忘れてはいけない。
福島第一原子力発電所。
廃炉の最前線免震重要棟です。
放射線にさらされる現場から帰ってきた作業員。
その傍らで次に出ていく人たちが準備をしています。
原発事故の後始末廃炉。
その最前線で闘う人をどう支えていくのか。
未来を切り開くために今向き合わなければならない課題です。
2014/04/25(金) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル シリーズ 廃炉への道 第2回「誰が作業を担うのか」[字]
40年かかるという福島第一原発の廃炉計画。成否の鍵を握るのが長期間にわたる原発作業員の確保だ。被ばくを余儀なくされる現場では既に作業員の不足が危ぶまれている。
詳細情報
番組内容
40年かかるという福島第一原発の廃炉計画。長い戦いの成否は原発作業員に委ねられている。しかし開始から3年目、すでに現場では作業員の不足が危ぶまれている。被ばくで離脱を余儀なくされる熟練作業員。待遇が見合わず原発を去る若者。NHKが独自に長期シミュレーションを行ったところ、溶けた核燃料の取り出しが本格化するころには、作業員が急激に減るという結果が出た。作業員の確保という視点から廃炉現場の実態を描く。
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