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2014年1月12日(日)

全国に影響の予測も もし桜島が大噴火したら…

近田
「鹿児島県にある火山、桜島についてです。
去年(2013年)は、3,000メートル以上の噴煙が上がる噴火が30回を超え、ここ数年、活動が活発になっています。



この桜島で、日本における20世紀以降最大の火山災害『大正大噴火』が、ちょうど100年前の今日、1月12日に発生したことを、みなさんご存じでしょうか。
専門家は、桜島が再び大噴火を起こす可能性を指摘しています。」




京都大学防災研究所 井口正人教授
「大正級の大噴火の間隔は、だいたい100年から200年。
少なくとも今後、警戒を要する時期に入ってきていると思う。」




江崎
「ただ、観測網の整備が進められていまして、今すぐ大噴火を起こす兆候がみられるわけではないということです。
しかし、研究機関による最新のシミュレーションで、桜島が100年前と同じように噴火すれば、気象条件によっては、全国各地に大きな影響が広がるおそれがあることがわかってきました。
この色のついた部分が、火山灰が降り積もる場所を示しています。
また100年前と違って、現代社会では交通機関や社会インフラで、電子化や機械化が高度に発達しています。
それゆえに大きな影響が出るということが懸念されています。
何がその引き金になるのか、まずは当時の証言をお聞き下さい。」

生存する大噴火経験者 その証言が伝えたのは…

田野邊ミツエさん
「火柱が上がったと父が言ったから、私も見たらバーっと(火柱が)上がった。
それだけは覚えている。」



103歳の田野邉(たのべ)ミツエさんです。
桜島からおよそ20キロの鹿屋市(かのやし)の海岸から、父親とともに噴火を目撃しました。

田野邊ミツエさん
「家を出て、道路から桜島を見たら煙が出ていた。
黒い煙がこうだった。」



100年前の大正3年に起きた桜島の大噴火。
噴火にともなう地震などで、58人が犠牲になりました。




山の2か所から大量の溶岩が流れ出し、桜島は大隅半島とつながりました。
当時の住民2万人余りが、島を離れざるを得ない事態となりました。




この大噴火の記憶を語る人は、もういないとされてきました。
3年前に出された政府の中央防災会議の報告書でも、「体験者も生存せず」とされています。
しかし、NHKが1年近くかけて捜した結果、7人の体験者が見つかりました。
多くの人が、溶岩流や地震とともに怖いと証言したのは、「火山灰」のことだったのです。

米倉夕子さん
「(噴煙が)こうしてプーッと上がった。
家の上まで来るようだった。
怖かった。」


白坂ナツさん
「真っ黒で(空が)見えなかった。
雨が降るように落ちた、灰が。
かさをかぶったり、みのをかぶったり。
(父は)妹をおんぶして、私は腰ひもでくくりつけられて逃げた。」

当時、桜島に積もった灰は1メートル以上とされています。
もし、再び桜島が当時のような大噴火をした場合、果たして灰はどのように降るのでしょうか。

最新シミュレーション “火山灰”が都市を覆う

気象庁の気象研究所です。
大正大噴火の最新の研究を元にシミュレーションしました。
100年前と同じ規模の噴火が起きた場合、どのように灰は降るのか、結果は、驚くべきものでした。


まず、東風が吹いた去年8月の気象条件をあてはめました。
地上に積もった火山灰の量を、色で示した図です。
紫は厚さ1メートル以上、赤は10センチから1メートル未満を示しています。
火山灰は、鹿児島市の中心部で70センチから80センチに達するという結果になりました。
火山灰は1日以上降り続き、大人の腰の下まで埋まってしまうほどの量になると推定されます。
車や電車、交通機関もすべて停止。
都市の機能がまひしてしまうのです。

“重い”火山灰で木造住宅に危機

さらに専門家は、住宅が倒壊するおそれもあると指摘します。

鹿児島大学 下川悦郎特任教授
「建物によっては、降り積もった灰の重みで壊れる可能性がある。」




火山灰は1ミリ積もると、1平方メートルあたり1キロもの重さになります。
50センチ積もれば、500キロにもなります。
下川さんは、木造住宅なら耐えきれない可能性があると指摘しています。



灰が50センチ以上積もる可能性がある範囲を示した図です。
古い木造住宅が密集する地域もあり、倒壊の被害が出かねません。

鹿児島大学 下川悦郎特任教授
「大噴火は桜島島内だけの問題ではない。
火山灰は非常に空間的に広い範囲に及ぶので、周辺地域も含めて十分な防災対応、備えをしておくことが必要。」

“火山灰”に弱い現代社会 全国でも思わぬ影響が…

近田
「今ご覧いただいたシミュレーションは、鹿児島市中心部に大きな被害が出るケースですが、それだけではない結果もあるんです。」

江崎
「風向きによって火山灰は全国に飛散します。
広い範囲でライフラインや交通網などに影響を及ぼすことがわかってきました。」

気象研究所が行った、もう1つのシミュレーション。
南西の風が吹いた、去年10月の気象条件をあてはめました。
火山灰は近畿から東海、関東など広い範囲に及び、一部は北海道まで達するというのです。


気象研究所 新堀敏基主任研究官
「桜島の大正噴火、今から100年前の降灰は東北地方まで実際に確認されている。
風向きによっては全国に影響が及ぶ。」


このとき降り積もる火山灰の量は、大阪市で1.3ミリ、名古屋市で0.5ミリ、東京の都心で0.3ミリ。
一見少なく感じられる量ですが、この量の火山灰でも現代の私たちの生活には、深刻な影響を及ぼしかねないのです。

火山灰が襲う? 浄水場 ろ過機能がストップか

火山灰が影響を与える施設。
その1つが、私たちに飲み水を供給する浄水場です。
ろ過の前に水をためておく池に、火山灰が入るおそれがあるからです。
灰の粒子は細かいため、ろ過装置では浄化しきれません。


実際に鹿児島市の浄水場では、過去5年間で、灰が降ったために53回も運転を停止していました。
1日分の水の蓄えがあったため、断水には至りませんでしたが、降灰が長引けば復旧は簡単ではありません。


鹿児島市 滝之神浄水場 内村優場長
「灰がやむのを待つしかない、それまで我慢。」




この浄水場では、ここ数年、噴火が活発になっていることから、去年3月、ろ過用の池に蓋を取り付ける対策をとりました。
しかし、鹿児島市でもこの1か所だけで、ふだん火山とは縁のない全国の多くの浄水場では、こうした備えはありません。

火山灰が襲う? 高速道路 四国~関西でも通行が…

高速道路にも影響が想定されます。
灰の影響で四国から関西の広い範囲で通行に支障が出るおそれがあります。
平成7年8月に起きた桜島の噴火の際の九州自動車道の様子です。



西日本高速道路によると、この時、道路に積もった灰は3センチ。
車のワイパーさえ動かなくなりました。
視界も悪くなり、10メートル先さえ見えない状態になりました。



灰が降るのが止み、除去されるまでのほぼ1日半、およそ28キロの区間が通行止めとなりました。
国は、この時より少ない数ミリの火山灰でも同じように視界が悪くなり、通行に支障が出るおそれがあるとしています。

火山灰が襲う? 鉄道 列車が“消える”

より少ない火山灰で影響が出る可能性があるのが鉄道です。
大阪や名古屋の大都市圏では、混乱が広がるおそれがあります。
一昨年(2012年)7月、鹿児島市中心部に降った灰は、1ミリにも満たないものでした。
このとき、JR鹿児島線など3つの路線で列車が“消える”という異常事態が起きていました。
いったい、どういうことでしょうか。

運行中の列車が今どこを走っているのか、集中的に管理するJRのシステム。
列車からの電気信号を受けてその位置を把握しています。




信号は、車輪から線路を通して送られています。
ところが、火山灰が車輪と線路の間に入りこみ、しかも雨が降って線路にべったり張りついたため、信号が送れなくなったのです。



「レールが一面見えない状態で、触ってみると、まさに粘土。」

このため、システムの上では列車が“消えた”ようになり、運行できなくなったのです。
シミュレーションでは、大阪に積もる灰の量は1.3ミリで、この時よりも多く、同じように列車が“消える”可能性があるのです。


JR九州鹿児島支社 枝元昭浩安全推進室長
「地下鉄以外では、灰が積もれば同じ現象が起こるはず。
大都市圏などは降灰除去のノウハウがあるのか、知識・ソフト面も心配。」

火山灰が襲う? 航空機 日本の空はマヒ状態に

さらに、全国への影響が懸念されるのが空の便です。
オレンジ色で示したのは、航空機が運航している高さで漂う火山灰です。
噴火から20時間後、関西・中部・羽田・成田の主要な空港の上空が火山灰で覆われます。


航空機のジェットエンジンが火山灰を吸い込むと、灰が高温で溶けて内部にこびりつき最悪の場合エンジンが停止します。
1982年には、インドネシア上空でジャンボ機の4つのエンジンすべてが止まり、かろうじて緊急着陸するというトラブルが起きました。


4年前の2010年、北欧のアイスランドの火山で起きた大規模な噴火では、ヨーロッパ各国の空港がおよそ1週間閉鎖され、10万を超える便が欠航、1,000万人の乗客が足止めされました。
このときと同じような事態に陥るおそれがあるほか、灰が降るのがやんでからも滑走路などから取り除くのに時間がかかり、影響が長引くおそれがあると専門家は指摘します。

桜美林大学 小野寺三朗教授
「日本の空はまひ状態になる。
約2日間は飛べないし、その後も数日、状況によって1週間影響が残る可能性がある。」

火山噴火 いつか起きる その日のために…

近田
「取材にあたった古川記者とお伝えします。
これだけ全国に影響があるかもしれないというのが、正直驚きなんですけれども、大噴火の可能性、実際どうなんでしょうか?」

古川記者
「そうですね。
専門家によりますと、桜島はすぐに大噴火するという兆候があるわけではないんです。
ただ、ここ数年、活動は活発になっています。
専門家によりますと、桜島の地下、『マグマ溜り(だまり)』というのがあるんですけれども、ここのマグマの量が大正大噴火が起きたときのおよそ90パーセントまで戻っているという指摘もあるんですね。
将来、大噴火が起こりうるということは、忘れてはいけないと思います。
そして、こうした大噴火なんですけれども、大正大噴火以来、国内では起きていないんです。
ということは、同じ規模の大噴火、私たちの現代社会というのは経験したことがないんですね。
100年前にはなかったさまざまな被害、そして影響を想定して備えを進める必要があるんです。」

江崎
「その備えなんですけれども、全国的に国や自治体の備えというのは、どれくらい進んでいるものなんでしょうか?」

古川記者
「火山の大規模な噴火、そう頻繁にあるものではありません。
故に、まれにしか起きないために全国的にはまだあまり進んでいないと言わざるを得ないと思います。
このため去年、専門家による検討会が、国に対して提言を行いました。
その内容なんですけれども、全国の主な火山ごとに地元と協力して避難などの対策をまとめてくださいと、そういう提言をしたんですね。
ようやくそういったことが、全体として動き出したという段階なんです。
全国に活火山というのは、110あります。
この中には東日本大震災以降、火山性の地震が増えるなど活動に変化が起きている火山というのもあるんです。
桜島の大正大噴火から今日で100年ということなんですけれども、この節目に、私たちはそういった火山が多い国、『火山国』に住んでいる。
火山噴火による影響というのは、全国どこでも起こりうるんだという認識を持って、備えていくことが非常に重要だと思います。」