NTTドコモは25日、インドの携帯電話事業から撤退すると発表した。約26%出資する現地の携帯大手の株式をすべて売却する方向だ。ドコモが1兆円規模の損失を計上して欧米事業を畳んでから約10年。再び立ちはだかったのは通信業界に独特の「海外の壁」だ。米TモバイルUSの買収で米国事業の拡大を目指すソフトバンクにとっても人ごとではない。
「インドはこれからも伸びると思うが、成長性は当初の見通しほど高くない」。25日の記者会見でドコモの加藤薫社長は淡々と話した。提携するインドの大手財閥タタ・グループを通じて、合弁会社タタ・テレサービシズ(TTSL)の株式を売る。ドコモはTTSLに2600億円超を投じたが、回収は半額程度にとどまる見通しだ。
2009年にドコモが出資した際、インドにおけるTTSLのシェアは6位。当時、ドコモ幹部は「インドでは挑戦者だから、攻撃的な手法が必要だ」とハッパをかけた。TTSLは秒単位の課金など斬新な料金体系を導入してシェアは一時4位まで浮上したが、上位企業の反撃を受けると勢いを失った。
競争激化に加え、インドの政策変更が打撃となった。同国では汚職が契機となり、政府がかつて割り当てた122件の周波数免許を12年になって取り消した。これを契機に随意契約から透明性が高い入札に変更し、「コストが高騰した」(加藤社長)。上位企業に比べて体力が乏しいTTSLの経営の重荷となり、ドコモは最終的に撤退を余儀なくされた。
ドコモは00年前後、米AT&Tワイヤレスに約1兆1000億円を投資するなど積極的な海外展開を仕掛けたが、多くは失敗した。今回は提携先に株式の引き取りを求められる条項をあらかじめ加え、出資比率も高めて重要な経営判断に拒否権を発動できるようにした。だが、通信は安全保障と密接に関わっており、各国政府の意向に左右されるという構図は同じだ。
こうした事情のため、通信会社が海外に投資する際は出資比率が限られ、そもそもシェアが低い中下位企業への出資しかかなわないことが多い。「越えられない一線があった」。かつてNTTグループで海外企業への投資に関わった幹部は語る。インドでも「壁」に阻まれたのは想像に難くない。
NTTグループはドコモの海外事業の整理を進める一方、海外投資は制約が少ない北米のクラウドコンピューティング事業などにシフト。一方、ソフトバンクは米携帯3位のスプリントを買収し、同4位のTモバイルとの統合を目指す。この計画には「現行の大手4社体制が適切」とする米司法省幹部などが否定的な見方を示すなど早くも「壁」に直面。これをどう乗り越えるかが成否の鍵を握る。
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