（沢嶋）
もしこの世にダンスが存在していなかったら多くの若者たちは味気ない青春を送った事だろう。
日本におけるダンスの歴史は波乱万丈とも言えるものだった。
これはダンスという新しい文化に青春を捧げた若者たちの映像記録である
え〜アブソリュートポジションＮ３４５Ｗ６１７Ｅ１９７Ｓ９３４。
ポジション確認。
アブソリュートタイムＢ０６３１２１９年６１時１１分３５秒。
西暦変換しますと１９２３年８月２０日１４時０２分２３秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー５１４９７９これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名も無き人々を記録していくタイムスクープハンターである。

あすなろ會。
ダンス好きの若者たちが作った同好会である。
明治の文明開化と共に西洋からもたらされた社交ダンスは徐々に庶民にも広まる。
大正時代にはブームが巻き起こりこのようなダンスクラブがたくさん設立された。
今回はこのあすなろ會を密着取材。
日本のダンス黎明期に生きた若者たちを追う
え〜この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
１９２０年横浜に日本で初めて本格的なダンスホールがオープンした。
これをきっかけとして限られた人たちだけがしていた社交ダンスは一般にも普及していく。
流行に敏感な若者たちの心を捉えるのに時間はかからなかった。
都会では瞬く間に同好会やクラブが生まれていく。
あすなろ會もその一つだ
そうなんですか。
はい。
なるほど。
一緒に？はい。
そうなんですよ。
ところが…お俺…俺は…。
アハハハハ…。
いやだって…それを言うなら…えっ？そうなんですか？そうそう。
（みさを）かほるさん。
なるほど。
あっそうだ！ねえ。
私は大丈夫です。
そんな事言わずに。
そうですか…じゃあお願いします。
ほら。
じゃあお願いします。
お願いします。
そうですか。
ねえ。
じゃあやってみましょうか。
私がじゃあ組むから教えてあげてくれる？
（朔太郎）分かった。
（みさを）一緒にやりましょう。
まず右足から１２３４。
これを２回。
１２３４２２３４。
そのあと左足から前進。
１２３４５６７８。
じゃあ曲に合わせてやってみよう。

（拍手）ありがとうございました。
日本のダンスの始まりは幕末に遡る。
日米修好通商条約により開港した横浜に西洋人と共にやって来た。
明治時代西洋化を推進する政府が鹿鳴館を建てると上流階級の社交の場として舞踏会が盛んに行われる。
そして大正時代にはブームの裾野が広がりダンスは庶民のものになっていく
夕暮れ時。
あすなろ會に事件が起きる
・
（戸をたたく音）
（花子）見つかった…？・
（戸をたたく音）
突然の訪問者はみさをが勤務する女学校の教頭と武雄の母であった
いや「そそのかした」なんて…このように…そんな破廉恥だなんて何も知らないのに。
明治４０年体育の授業にダンスを取り入れようとした女性教員が舞踏会に参加した。
その事が新聞に掲載されると世間は女性教員を「道徳にそぐわない」と糾弾。
ダンスの是非をめぐる一大論争に発展した。
ブームとなる一方でダンスに否定的な者たちが多くいたのも事実である
いいです！
（武雄の母）もう何してるの!?さっさと出て。
さあ！ったく…。
街のカフェーに彼らの姿があった。
練習場所を追い出されたあすなろ會は存続の危機に立たされている
（武雄）よう。
そっちは？という事は…結局あの時…ですけど…
そんな時だった
（武雄）おお朔太郎。
（朔太郎）なあ正一。
（正一）ああ。
（武雄）本当か!?ほんとだ！
早速６人はアトリエへ向かう
（ノック）おお東君来たか。
はじめまして。
さあ入ってくれ。
想像していたより広くて立派なスペースに驚く
荷物は大体まとめてしまってるが…ここを貸して頂けるんですか？ええいいですよ。
皆はやる気持ちを抑えられない
ありがとうございます。
それは願ってもない申し出だった
そうそう。
小野村が見せたのは雑誌の切り抜きである。
ダンスは立ち居振る舞いをしとやかに優雅なものにするとの記事が掲載されていた。
次第に世論はダンスを認める方向に傾きつつある。
風向きはいい。
更に…
よし！思ったんだが…会員制か…。
そうだな！いやそんな…
あすなろ會の新たな船出。
誰もがすばらしいダンスクラブになると信じていた。
だが…
（呼び出し音）はいこちら沢嶋。
本部古橋です。
古橋さんどうしたんですか？沢嶋さん本部への帰還命令が出ています。
えっ？どうしてですか？間もなくそちらで超大型地震が発生します。
えっ？地震？はい関東大震災です。
地震発生まであと１分を切っています。
帰還準備に入って下さい。
あっええはい。
え〜っと…。
未来の事を伝える事はできない。
私は彼らを見送る事しかできなかった
関東大震災は甚大な被害をもたらした。
死者・行方不明者１０万５，０００人余り。
建物被害およそ５７万棟。
大震災により東京のほとんどの踊り場が潰れた。
無傷だったのは帝国ホテルだけであったという
震災から３年。
私はあすなろ會のその後を追跡調査する事にした。
タイムナビゲーターの古橋ミナミに支援してもらい東京中のダンスクラブをスキャン。
メンバーがいると思われるポイントをついに見つけ出した
あっありましたね。
「あすなろ舞踏教授所」と書いてありますね。
ちょっと入ってみましょう。
蓄音機だろうか軽快な音楽が聞こえてくる。
果たしてそこには…
ごめんください。
（みさを）はい。
ごめんください。
はい。
ええ。
どうぞ中に入って下さい。
みさをは無事であった。
その元気な様子にほっとする
お久しぶりです。
だが気になる事があった
皆さん！久しぶりだな。
生きてたのか！よかったよかった。
お久しぶりです。
震災にもめげず彼らはたくましく生きていた。
しかし…
あれ？
悲しい現実にも直面する事になった
「分からない」？そうだったんですか…。
その５日後の事だった
か…かほるが…ほんとか!?ああ。
そうだ。
ああ。
レオパードは…
（みさを）そんな…！どうしようもこうしようもない。
ああ。
かほるの安否を確かめるため大阪へ向かう。
ダンスの舞台は震災で壊滅的となった東京から大阪へと移っていた。
震災後にはタクシーダンスホールという新しいタイプの踊り場が流行する。
チケットを購入し店の女性とダンスを踊る事ができるシステムが受け大盛況となっていた。
だが一方で遊郭などが客寄せのためにダンスを取り入れ女性従業員に男性を接待させるようないかがわしいダンスホールも増えていた
分かったわ。
よし。
じゃあ行ってくる。
えっ？よし行こう。
朔太郎と正一による決死の潜入作戦。
私も２人に同行。
潜入取材を試みた
入り口でダンスチケットを買い店内へと案内される

（ボーイ）いらっしゃいませ。
どうぞあちらのお席に。

薄暗い店内。
その中で男女がダンスに興じている。
何やら妖しい雰囲気
いねえな。
その時だった！
向かいの客待ちをする席。
そこにかほるはいた
どうする？ああ。

曲が終わると客が散らばる
私はモスキートカメラを使いかほると朔太郎の動きを追う事にした
（朔太郎）かほる。
（朔太郎）チケット？
（朔太郎）ああ。
こっちよ。
ああ。
私は行けないわ。
どうして？何でなんだ？また戻って一緒にやろう。
「行けない」って…。
仲間？痛い…やめて！出るんだ！借金…？帰って！俺たちは仲間だろう！いやっ！かほる！
（ボーイ）どうされました？落ち着いて下さい。
うるせえな。
（ボーイ）大丈夫？店内での…。
うるせえな！お前は黙ってろ！かほる戻ってこい！借金なんてどうにかなる！触んじゃねえよ！おいかほる！かほる！かほる！かほる！何だよここは！
その時だった！
（刑事）おいそこを動くな！
男たちは警察官である
大正１５年１２月２５日大正天皇が崩御。
公序良俗に反するダンスホールの増加に頭を悩ませていた大阪府警はこの日一斉に取り締まりを行ったのである
どさくさに紛れ店を脱出する
裏の路地を抜けた先にはみさをと花子の姿が
お帰り。
ありがとう。

（「ダーダネラ」）
２週間後。
東京・あすなろ舞踏教授所。
そこには元気にダンスを踊るかほるの姿があった。
久しぶりに顔をそろえたあすなろ會のメンバー。
ダンスを楽しむ笑顔がほほ笑ましい。
この年の３月帝国議会には社交舞踏取締法案が提出されていた。
もし法案が成立していたならば健全なダンスホールまでも取り締まられ日本に社交ダンスは存在していなかっただろう。
はじけるように踊る姿を見届けて今回の取材を終える事にした
それでは私はこの辺で失礼します。
また今度あんたも来なよ。
教えてやるよ。
ええ是非。
でもあんたダンス下手だかんな。
そんな事ないわよ。
下手な方が教えがいがあるわ。
お手柔らかにお願いします。
それでは失礼します。
じゃあな。
さようなら。
よしじゃあもう一曲いくか。
いきますか。
震災の復興につれてダンスは目覚ましい速さで普及していく。
人々の力強さを感じた今回の取材。
度重なる困難にも負けずまっすぐに突き進む若者たちの姿を私はいつまでも忘れない
以上コードナンバー５１４９７９アウトします。
よく晴れた日庭のテラスに出ていたソニャちゃん。
2014/04/25(金) 02:00〜02:30
ＮＨＫ総合１・神戸
タイムスクープハンター「踊れ！あすへのステップ」[字][再]

シーズン６の第３回。時空ジャーナリストの沢嶋雄一（要潤）は大正時代、社交ダンスのブームを追う。西洋化に伴い、どのようにして庶民に普及したのか、若者たちを取材。

詳細情報
番組内容
今回の取材対象は社交ダンスに夢中となる若者たち。ダンスが日本に伝わったのは幕末だが、明治後期から大正時代にかけて庶民の間にダンスブームが起きる。一方、男と女が腰に手をやり、くっついて踊ることを破廉恥なものとして、ダンスを毛嫌いする人も多かった。１９２３年、男女６人の若者が蓄音機から流れる音楽に合わせ、楽しげにダンスを踊る。ダンス同好会「あすなろ会」の取材中、関東大震災が発生！果たして彼らの運命は？
出演者
【出演】要潤，杏

ジャンル :
ドキュメンタリー／教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード（ステレオ）
サンプリングレート : 48kHz

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