大阪観光大学 CSJ/国際交流学部 > CSJコラム > 宮澤 太聡「日本語「で」日本語「を」考えてみよう。」 > 日本語はあいまい?
皆さんは、学校で先生に「黒板を消しておいてください。」なんて言われた経験、
一度くらいはありますよね。
丁寧に消す人、雑に消す人、消す人によっても個性が見られますし、
筆圧の強い先生なんかは、きれいに消すのが大変で、嫌がられたりするんですよね。
さて、今日のコラムは、「日本語はあいまいなのか」というお話です。
もう一度、上の段落を読んでみてください。何か「あれ?」と思うことはありませんか。
ヒントは、「何を消す」のかということです。
・・・そうです、よく読むと「黒板」を消すことになっているんです。(しかも、その後の文では、
すべて何を消すのかを省略しているので、余計にわかりにくくなっています。)
でも、一段落目を読んで、「黒板を消すって手品かよ!無理だよ!」と思う人は
ほとんどいないんじゃないでしょうか。
きっと、「黒板に書いた文字を消す」のことだと頭のなかで補って理解すると思います。
また、「トイレを流す」は、文字通りの意味で理解すると、
次にトイレを使う人が困ってしまいますよね。
でも、そんな心配をする人はおらず、「トイレの便器に水を流す」と補って理解するはずです。
このように、言葉で表現されたことと実際の意味がずれることがあるので、
これをもって「日本語はあいまいだ」というかもしれません。
しかし、例えば、英語でも
“Erase the blackboard.”(「黒板を消して。」=「黒板の文字を消して。」)
と言えるんですね。
上記のような表現を専門的にはメトニミー(metonymy)といいますが、
このメトニミーは、日本語だけでなく英語や他の言語にも見られます。
そのため、「黒板を消す」等の表現だけを取り上げて、
「日本語はあいまいだ」ということはできません。
これは、言語一般が抱える問題で、むしろ、「日本語もあいまいだ」というべきなのかもしれません。
(みやざわ たかあき:「日本語演習(読解と要約)」他担当、日本語学・日本語教育学)