木曜時代劇 銀二貫(3)「ふたつの道」 2014.04.24

(松七)何もかも松吉のせいだっしゃろ!
(善次郎)あいつら〜!丁稚と手代がいっぺんに逃げ出してしもうた!あんさん来てからや。
井川屋はガタガタや!
井川屋がえらい事なってますねん。
丁稚と手代2人も逃げられましてなあ…
(梅吉)そやけど間に合わんでこれ!
(松吉)薄い…。
(かしわ手)字も小そうなっとる。
(お里)さすがに懲りはったん違う?始末し過ぎてあの2人出ていったんやし。
聞こえてますで。
これはな墨を始末したんや。
ケチくさ!
(和助)だいぶん売れ残ってしもてるなあ。
浮舟はんとの取り引き断ったさかいなあ。
ほな。
そこをなんとか!例の浮舟はんの一件でお宅と商いやめてしまいましたわなあ。
あの時に別の寒天問屋さんお願いしてしまいましたさかいに。
それにお宅の寒天高うますねん。
ほな。
高いのはよその寒天に比べて味がええからだす。
けど寒天なんかどれも味一緒だっせ。
一緒やおまへん!安物と一緒にせんといて下さい。
うちの寒天は丹後の…。
毎度おおきに。
おいでやす!丹後の天草と…。
もう帰っておくれやす!伏見の水で…!もうよろしいおます!おいでやす!丹後の…丹…。
丹後の…。
そうか…。
そないあかんかったか。
どこもかしこも安い寒天でええ言うんだす。
そんなもん安かろう悪かろうやのに!あの〜ほれあれなああそこのあの〜嘉平はんとこの料理屋のあの…。
ああ!真帆家はんどすか?それそれ!
(善次郎)あそこはまだ店始めたばっかりやさかいに…。
(真帆)お父ちゃん大事ない。
うちが天神さんにお願いしといたから。
(嘉平)ん?何がや。
心配せんでもええ。
そのうちはやる。
お父ちゃんの料理は天下一やから。
うまい事いくとええのやけどな。
そうどすな。
旦さん…。
ああ!そやったなあ。
あの〜今朝なあ文が届いてな。
お里はんのお父さん亡くならはりましたんや。
お父様が…!それはそれはご愁傷さまでした。
ああいえあの…昔嫁いでた先の義理のお父様だす。
それでなちょっと明日からおらんようになるんや。
しばらくの間ご迷惑をおかけ致しやす。
すぐに戻ってきますよって。
ほなお里はんがおらん間誰ぞ女衆っさん頼まなあきまへんな。
うん。
まあみんな忙しいやろさかいわてが探しておきます。
すまん事でございます。
けどこの中で誰かが掃除洗濯料理ができたら飯代1人分助かるんだすけどなあ。
どこまでケチやねん!お待っ遠さん。
ん?数が違うやないか!掛け算どころか足し算もでけへんのか!すんまへん!もうええわ!出直してき!5掛ける24。
引く事の20。
足す事の36。
では?なんぼだすか?なんぼだすか!ええ…。
3ぐらい?ぐらいって何や?品物1個5匁。
それが24個。
先月の繰り越しが36匁。
30…。
(算盤を振る音)梅吉!松吉!すんまへん!ひょっとしてわてら商人向いてないんやろか。
算盤できへん商人て何やろ。
刀振られへんお侍さんみたいなもんやで。
嬢さん見てて下さい。
つかんだんや!へえ。
どないしたん?・ごめんやす。
井川屋でござります。
はいよ!ごめんやす。
ご苦労はん。
毎度おおきに。
ああ松吉やないか。
何やどないしたん?どないしたんて寒天届けに来てもらったん決まっとるやろ。
へえ〜。
そうか。
もうそこさっきからずっと拭いてんで。
し…知ってます!そこ置いといて。
へえ!ほなまた寄らしてもらいます。
おおきにだす。
あっちょっと待って!あの…あの…え〜っと…あれや!ほらあの〜何や…。
あっごはん!ごはん食べていき。
いやいや!めっそうもございまへん!そんな…丁稚が外で呼ばれるやなんて。
うんそれは…そやな。
あっほしたらあれや!真帆。
何やほらあれやろ…。
真帆。
あの〜何や思いつかん。
真帆!松吉を天神橋の辺りまで送ってったれ。
しゃあないなあ。
松吉道分からんやろ?いやあの…。
お加代お加代次何や?あ〜はいはい。
じゃあこれもお願いします。
へえ。
あの…お加代さんというのは?ああおじいちゃんなうちの事時々間違えはんねん自分の娘と。
うちがうちのお母ちゃんやと思てはんねん。
それでお加代さん…。
羨ましいわ。
うちもウソでもええからお母ちゃんに会いたい。
松吉のお母ちゃんはお元気なん?7つの時に亡くなりました。
お父さんは?どこにいてはんの?10の時に亡くなりました。
じゃあ弟さんは?お兄さんは?妹さんは?お姉さんは?誰もいません。
祖父も祖母もおじもおばも…私以外には誰もいません。
い…嬢さんど…どないしはりました!?何でもない!何でもないわ!またな!おう!おう。
松吉も今までかかったんか?うん。
わてもやっと終わったわ。
ああご苦労はんだしたな。
(2人)お帰りやす。
うん。
え!?何だすのこれ!旦さん大事おまへんか!?ああ…うん。
おい!お〜い!旦さん新しい女衆の名前どないいうんです?あああの〜あれや。
何ていうたかな…。
あんたらちょっと捜してき!
(2人)へえ!あああの〜あれや!あの〜もうかかか…帰った。
帰ったて…。
寒天?これ新しい女衆さんが作らはったんだすか?うん。
ほな頂きまひょか。
(一同)頂きます。
おい!うっ!やっぱり寒天は酢味噌が合いますなあ。
(嘉平)飯の代わりに寒天?おかずも寒天?それがもう3日も。
3日!3日ずっと寒天!?へえ。
そらひもじいなあ…
けどまあ寒天やったら腹いっぱい食えるやろ。
なんぼでもあんねんさかい。
そうかて寒天だけやで?けったいな女衆やなあ。
どんな人や?それが見た事もないんだす。
見た事ない?へえ。
女衆っさんを?へえ。
幽霊や…。
幽霊!?ああ寒天みたいに透けとったやろ?え!?ワハハハハハハッ真帆!わしゃ幽霊やない。
(笑い声)
ヒヒャッワワン!ウワッワヒャヒャヒャヒャッ…!
ハハハハハハッ!お父違うで!こっちの話や!ほなまた。
おう!松吉?松吉!
(真帆嘉平)松吉!松吉!
(数馬)鶴之輔…鶴之輔!えい!えい!お〜鶴之輔!ちょっと休ませてくれ。
(政江)随分上達しましたね。
ありがとうございます母上。
松吉?松吉?松吉?…松吉ではない。
松吉?私は…鶴之輔だ。
鶴之輔だ!うわっ…ええっ!?大事ないか?嬢さん?ちょっと待っとりや。
はい。
あ〜ん。
あ〜んや。
あ〜ん。
あ〜んやで。
あ〜ん知ってるやろ?真帆やめなはれ。
あ〜ん。
松吉も食わんでええ。
それなこいつが作ったんや。
わてが作ったる言うてもうちが作るんや言うて一個も聞かへん。
それがまあ味見したら塩っ辛い塩っ辛い。
あんなもん食べたらなあ死んでまうで。
死んでまうで…。
ごちそうになり申した。
お粗末であり申した。
死なれたらかなわんわ。
お茶持ってきたるわ。
よっぽどおなかすいてたんやな。
倒れるやなんて。
寒天じゃ腹膨らまんか。
じ…実は寒天食えんのです。
え?何言うてんの。
ウソやろ?寒天食われへんて。
せやから思うんだす。
私は商人には向いてないんじゃないかなって…。
それはさっき言うてた鶴之輔いうのと何かつながりがあるんか?え?寝言で言うてはったで。
私は鶴之輔だって。
鶴之輔ってお武家さんの名前やんな?あ…。
そ…それは昔の話だす。
わては丁稚だす。
今は商人だす。
今は?あかん。
このままやったら銀二貫寄進するどころか…。
どころか?井川屋潰れてしまう。
行て参じました!松吉!へえ…。
うちは寒天問屋だす!油売っても一文にもなりまへんで!す…すんまへん!・
(皿が割れ物が落ちる音)あの女衆!今日こそはわし言うたる!何だす?これ。
旦さん女衆はんどこだす?あ…。
ヤケドしてはりまんがな!ああいや…だんないだんない。
(善次郎)薬箱!へえ!ひょっとして旦さん…わてらのごはん作ろうとしてくれてはったんと違いますか?え?違うてたらすんまへん。
最初から女衆はんなんかおらんかったんと違いますか?何言うてまんねや。
え?ほな誰が毎日ごはん作ってたんや?旦さんが作ってたっちゅうんか!んなアホな事あるかいな!え?あるか!ある…ある…。
ウソや…。
女衆さん1人雇うのもお金かかるさかいな。
堪忍やで!今苦しいけどな…あの辛抱はこの時のためやったんかってきっと思わせてみせますさかい。
わてを信じて今はこの井川屋の暖簾守っておくれやす。
へえ!
(2人)へえ!ほな今夜は…うどん食べに行こう!うどん…。
うどん!うどんや!うどんやて松吉!うどん屋さん!わてうどん食べたかったんや!わてもや!ほな行こか!ただいま戻りました!何だす?さあ長旅で疲れてますけどお茶漬けぐらい作りまひょか。
いや〜もうちょっと…。
うどん…食べたかったです。
…へてから次の日
(松葉屋)うちもなかなか商いあきまへんけどなあさすがに女衆は雇いまっせ。
いや商いは始末才覚神信心でおます。
旦さんのその始末しようとするその心意気こそわてら井川屋の誇りだす。
銀二貫早うためなあきまへんもんなあ。
うちはもう先に寄進さしてもうたけど。
あっそやそやそろそろ行かなあかん。
女房とな…人形浄瑠璃見に行きまんねん。
ほなごめんやす。
ん?また数違うとるがな!え!?いやそんなはず…!あんたホンマにええ加減にしいや!す…すんまへん!もうええわ。
あんたんとこ高いしほかのとこにするわ。
いやあの…ちょっ…!あっいらっしゃいませ!ちょっと待って下さい!もうどないしよ…。
ああ!間に合わへんねやったら早起きしなはれ。
(2人)へえ!うわっ!あ!
(2人)あ…。
松吉!わてもあっち行ってこっち行ってテンヤワンヤやったわ。
あっ天満橋んとこの乾物屋あるやろ?あそこの…。
(いびき)
(雷鳴)ああっ…!すんまへん!前を見て歩かんか無礼者!す…すんまへん。
(雷鳴)
(政江)鶴之輔…父上のような立派な武士になるのですよ鶴之輔…。
(雷鳴)遅うなりましてすんまへん!おう。
ずぶぬれやんか!えらい雨やのにすまんかったなあ。
いいえ。
ほなまた寄らして頂きやす。
ちょっと待ってんか。
何や?この寒天。
あっぬれてましたか?ぬれとらん。
ほな…な…何だすやろ?それ本気で言うてんのか?え?…へえ。
折れとる。
この寒天折れとるやないか。
あんたわてにこんなもん売りつける気ぃか?えっ何かあきませんでしたか?寒天は別に折れてても料理したら一緒やないですか。
大体寒天なんか折れとろうが欠けとろうが…。
ううっ…!なんかって何や?大体寒天なんかって何や!松吉…あんた自分とこの売り物がどうなってんのか気にならんのか?何…何がいけないんだ。
そんなよく分からない食べ物どうだっていいじゃない。
商いなめんのもええ加減にせえよ。
しんどいな。
そらしんどいわ。
う〜んおいしいわあ!ハハハハハッ!さすがお里はんだすなあ。
旦さんの料理とは大違いだすわ。
どういう言われ方や?ハハハハハハッ!こんな上品なお料理わてには作れまへん。
えっほな誰が?真帆家はんの差し入れや。
あ〜嘉平はんの料理だすか!そらおいしいはずやわ。
けど何でまた?松吉。
へえ。
明日な真帆家はん行ってお礼言うてきて。
…へえ。
あ〜おいしいわあ!あの…これ。
かえって和助さんに気ぃ遣わしてしもたみたいやな。
おおきに。
ほ…ほな失礼します。
え?あんたとこの寒天や。
食うてみ。
う〜んまあちょっと天草が臭うけど味はあらへんやろ?味がない。
それが大事なんや。
何作ってるか分かるか?な…何か汁物だすか?そうや。
このままやったらただのおつゆや。
お待っ遠さん。
これはなお父ちゃんの考えた料理や。
その名も琥珀寒や。
眺めとっても腹は膨らまへんで。
早う食べ。
え?けど…。
こいつがなどうしてもあんさんにこれ食べさしてやれってしつこうてな。
せやから構へん。
遠慮すんな。
こんな…こんなうまいものを生まれて初めて食べました。
そやろ?お父ちゃんすごいやろ?へえ!寒天っちゅうやつはな出しゃばらへんねや。
せやからケンカせんとな料理のうまみをグッと引き出してくれんねん。
それが寒天の技やな。
それだけやないで。
そうやって固まってギュッと中にうまみを閉じ込めてくれるんや。
それを一番上手にやってくれるんが…あんさんとこ井川屋の寒天や。
こいつあんたにしんどいって言うたらしいな。
意味分かるか?寒天問屋の丁稚が自分とこの売り物の味も分からんまま売り歩かなあかん。
その心がしんどいなあ。
疲れるなあ。
かわいそうやな。
そういう事やろ?真帆。
松吉。
もうしんどないか?しんどないよな?へえ!
えっ…お?おおっそれあれだすやろ?あれや!あれあれ!あれやがな!
(嘉平)あっ2つ?おおっ松吉!早う持ってこい!寒天足らんのや!へえ!そない思て今日は多めに持って参じました。
気ぃ利くやないか。
真帆真帆!ちょっとお父はん手伝ったってくれ!は〜い!すんまへん。
前…。
あ〜すんません!すんません頂きます。
真帆家の琥珀寒…あれうちの寒天だす。
へ?いや知ってますがな。
知ってますがな!いやちょうどええとこに来てくれはりました!いや実はあんさんとこの寒天に切り替えよ思てたとこだすがな!毎度ありがとさんでございます!井川屋はんの寒天が大坂一でござりますなあ!
(善次郎)ありがとさんでございます!琥珀寒手土産に色町行ったら遊女の覚えがええらしい。
寒天はお肌にもお通じにもええさかいな。
ホンマだすか?ホンマや!ほな女子にそんなに人気があるんやったらもっともっと売れまっせ!
世間はあっちゅう間に師走や
ごめんやす!寒天お届けにあがりました!ああ松吉か。
ごめんやで。
お父ちゃん風邪引いてしもてな。
嘉平さんが?大事おまへんか?もう寝ときいや。
治るもんも治らんで。
ああ。
おお松吉ちょうどええとこ来た。
ごめんやす。
久しぶりに店閉めたさかいなこの寒い季節に合う料理考えとこう思てな。
もう…。
アホやろ?このご時世そんなもん考えたって誰も見向きもせん。
これはもう業やな。
業…。
ゆでて潰した里芋に寒天混ぜたやつや。
わてはこれを寒天で固めたい。
え?いや里芋みたいな固いもん寒天では固まりまへん。
無理だす。
分かってる!…分かってる。
例えばなこの寒天腰の強さは井川屋さんが大坂一や。
けどな松吉。
わては里芋を固めるような寒天が欲しいんや。
そんな腰と粘りのある寒天があったら料理の幅もどんどん広がっていくはずや。
もしも…もしもやで。
あんたがその寒天探して見つけてきてくれたら…。
わては料理人や。
料理人になった以上この道を進むしかあらへんねん。
一遍歩き始めた道はもう戻られへん。
振り返ったってしゃあない。
前へ前へ進むしかあらへん。
松吉は商人の道。
寒天の道や。
わては料理人の道を。
ずるいわお父ちゃん!真帆の道も交ぜてえや!せやな。
せやせや。
真帆も一緒に歩こな。
引き止めて悪かったな。
いいえ。
お父ちゃんもう寝ときいや。
うん。
気ぃ付けて。
お大事に。
おおきに。
堪忍やで松吉。
お父ちゃんの面倒見なあかんさかい今日は送ってあげられへん。
嬢さん明日も来ます。
せやからまた明日送って下さい。
ほなまた明日な!へえ!ほな!
ええ顔や!ええ顔してますなあ松吉っとん!青春や!青春だすなあ松吉っとん!
ついてくるな!ああ真帆家の琥珀寒食うてみたいなあ。
うまいんやろなあ。
うまいもんならすぐ近くにある。
どこや。
どこや?寒天。
え?松吉寒天好きになったんか?うん。
うまかった。
わて井川屋の寒天が一番好きや。
いやわては井川屋が好きなんや。
何て言うかここはわてのふるさとみたいなもんやさかいな。
旦さんも番頭さんもお里さんもみ〜んなわての身内みたいなもんや。
み…身内か。
(半鐘の音)おい赤いぞ。
火事や!火事やぞ!真帆家ある方ちゃうか!?松吉!?松吉!ちょっと危ないやん!松吉戻ってこ〜い!死ぬ気か!?
(悲鳴)どいて!嘉平さんも嬢さんも生きておられます!死んだら承知しまへんで!銀一貫でおます。
(一同)え〜!?鬼と呼ばれながらためた金だす。
人違いや。
あんさんなんか知りまへん。
2014/04/24(木) 20:00〜20:45
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 銀二貫(3)「ふたつの道」[解][字]

板前の嘉平(ほっしゃん。)は一人娘の真帆(芦田愛菜)とともに料理屋「真帆家」を開業する。真帆は寒天を配達しに来る松吉(林遣都)にほのかな恋心を抱くようになる。

詳細情報
番組内容
寒天の産地を偽装した「浮舟」に嫌気がさした元・板前の嘉平(ほっしゃん。)は一人娘の真帆(芦田愛菜)とともに料理屋「真帆家」を開業する。真帆は寒天を配達する井川屋のでっち・松吉(林遣都)にほのかな恋心を抱き、松吉もけなげな真帆にしだいに心を許すようになる。そんな中、お里(いしのようこ)の義父が亡くなり葬儀のためいとまを取ることになる。お里の留守の間、新しい女衆を雇うことになった井川屋だったが…。
出演者
【出演】林遣都,芦田愛菜,ほっしゃん。,いしのようこ,尾上寛之,団時朗,塩見三省,津川雅彦,【語り】山口智充
原作・脚本
【原作】