クローズアップ現代「復活するアルカイダ 〜テロへ向かう世界の若者たち〜」 2014.04.24

出迎えた天皇皇后両陛下とあいさつを交わして、宮殿に入りました。
シリアの隣国レバノンにあるアルカイダの拠点です。
戦闘員をシリアに送り込んでいる人物に接触することができました。
アルカイダが今急速に息を吹き返しています。
シリアの広い地域を支配し街の統治を行うようになっているのです。
貧しい人には食料を配布。
一方で、武力を背景に自分たちに逆らう者は徹底的に弾圧しています。
さらに中東諸国だけでなく若者を中心に、ヨーロッパからも数千人の戦闘員を勧誘。
欧米を狙ったテロを引き起こすのではないかと各国は警戒を強めています。
アルカイダがなぜ今、復活しているのか。
その実態と脅威に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
アルカイダといえば同時多発テロ事件など数々のテロ事件を引き起こした国際テロ組織ですが拠点としていたアフガニスタンをアメリカが攻撃し、その後幹部やリーダーが殺害され弱体化しつつあると思われていました。
しかし、アルカイダは今急速に復活しているとして国際社会は危機感を強めています。
そして国際社会にとってやっかいなのはアルカイダの勢力が拡散しヨーロッパからも戦闘員を勧誘していることです。
過激な思想に感化された若者たちがヨーロッパに戻って、テロを引き起こすのではないかという強い懸念が広がっています。
アルカイダは、なぜ急速に復活してきたのか。
今、どの程度の勢力なのか。
活動がとりわけ活発になっているのが内戦が長期化しているシリアです。
アルカイダによって実効支配され統治が進む地域も生まれています。
治安が低下したり無秩序な状態が続いている地域に入り込み、活動するアルカイダ。
アラブの春以降政情が不安になっている北アフリカ。
イエメン、ソマリアなどの国々でも勢力を拡大しています。
初めにアルカイダの急速な復活によってヨーロッパで高まっていますテロの脅威からご覧ください。
シリアで戦うアルカイダの戦闘員がみずから撮影したという映像です。
話しているのは現地のアラビア語ではなくフランス語です。
フランスからシリアに渡って戦闘員などとなった人はおよそ700人に上りヨーロッパで最も多いとされています。
シリアから3000キロ余り。
フランスでは、テロに対する警戒感が高まっています。
ことし2月、カンヌ郊外にある高級マンションでシリアから帰ってきたアルカイダの戦闘員が武器や爆発物を準備し、テロを計画していたことが分かりました。
フランス政府は警察による捜査活動を強化。
アルカイダとつながりのある組織の摘発を急いでいます。
イラク戦争のときはこうした若者は数十人しかいませんでしたが今は数百人に増えています。
アルカイダが彼らを使ってフランスを攻撃する危険があるのです。
なぜフランスの若者たちはアルカイダに加わるのか。
戦闘員となった人の多くがイスラム系移民の若者たちです。
移民が多く暮らすフランス南部のニースではシリアに渡った人がおよそ30人に上ると見られています。
その中には、キリスト教徒だった若者も含まれていました。
18歳のこの青年もその一人です。
学校を中退し職業訓練を受けていましたが仕事はありませんでした。
友人の多くが近所に住むイスラム教徒の若者でした。
去年12月こうした若者3人と共にシリアに行ったと見られています。
青年の母親が取材に応じました。
長年、介護施設に勤めながら女手一つで息子を育ててきました。
最近、シリアにいる息子から送られてきた写真です。
イスラム教に改宗しアルカイダ系の武装組織に入ったと見られています。
息子がメールで私に伝えてきました。
シリアで殺された女性や子どもの映像をたくさん見た。
彼らを助けるためにシリアに来たんだというのです。
母親は、アルカイダが仕事のない若者たちに目をつけリクルートしていたのではないかと考えています。
ひげを生やした男たちが近所の若者と話しているのを見たことがあります。
シリアに行ったのは皆お金のない無職の若者です。
飛行機代もないし食べ物を買うお金もありません。
アルカイダが、お金を渡して連れていったのだと思います。
シリアに渡ったヨーロッパ出身の若者たちの中には過激なテロ思想に染まる者も少なくありません。
私たちは、今シリアにいるという若者の一人にインターネットを通じて直接話を聞くことができました。
19歳のこの青年はアメリカによる対テロ戦争に協力するフランスは祖国であっても攻撃の対象にするといいます。
フランスを含むヨーロッパ全体でシリアに渡りアルカイダに加わった若者は2000人に上ると見られています。
EU・ヨーロッパ連合では治安担当の閣僚が集まる会議を開きアメリカや中東諸国と連携するなど対策を迫られています。
ヨーロッパの若者は、EUのパスポートを持っているのでさまざまな国に自由に行くことができ警察にマークされていない人も多くいます。
だからアルカイダにとって絶好の人材なのです。
国際社会全体で情報の共有を行い対策を打ち出すことが急務です。
今夜はイスラム政治思想がご専門でいらっしゃいます東京大学准教授の池内恵さんにお越しいただいています。
ヨーロッパからシリアに向かったその若者たちが、2000人に上ると見られていますけれども、たとえ自分の生活に不満を持っていたとしても、そのジハード、聖戦をしに、シリアに行くというところまでは、かなりの距離があると思うんですけれども、なぜ人々はひきつけられていくんですか?
それは、フランスを中心とした西欧社会の社会的な条件の面と、それから、イデオロギーの両方から見ていったほうがいいと思うんですが、まず条件面からいいますと、特にフランス社会では、移民の統合がうまくいっていない面があります。
もちろんそのうちはうまくいっている場合もありますけど、うまくいっていない面がある。
非常に象徴的なのが公害問題、都市の郊外に、特に移民を中心とした、特に若者が職もなく集まっていて、その犯罪なども多いわけですね。
このイスラム教の特にジハード、そして外国に行ってまでジハードをしようという、こういうグローバルジハード主義といいますが、このイデオロギーは、まさにこのようなフランスの抱える社会問題、西洋諸国の抱える社会問題の中に、うまくつけこんでいるということですね。
つまり、通常であれば、目的のない若者が多く郊外にたむろしていたら、例えばマフィア組織に勧誘されるとか、麻薬に染まるとか、そういった犯罪に、実際に染まってしまうことはよくあるんです。
むしろ、ジハードをやろう、やりたいという人たちというのは、そういうところから抜けようと思って、より確かな目標、目的のために、身を投じたいということですね。
そういった形で、人々を勧誘する、そして受け入れて、みずから例えばシリアにまで行くと。
だからそういう意味でのイデオロギー的な、社会条件に適合したイデオロギーが広まっている、しかも広めるために、インターネットとかさまざまなメディアが出来たということが大きいと思います。
インターネット上に出ている、無実の人々が殺されている映像などに引かれていくという。
そうですね。
つまりなんか狂信的な人がジハードやってるとか、あるいは、犯罪者が人を殺すためにシリアに行って、そういうことでは、恐らく、少なくとも主観的にはそうではないわけですね。
むしろ世界に何か問題が起こる、不正義がある。
そして社会には、自分たちの目的がないと、この2つが合わさったところに、ジハードをすれば、あなたの人生に意味が生じると、そういうふうに言われると、イスラム教徒の移民の子弟とか、あるいはフランスや西欧の社会に対して反発して改宗した人たちなどがそういったイデオロギーに染まる、そして実際にシリアで内戦が行われていますから、その身を投じる場所がある、機会があるということですね。
そういう形で生じてる現象だと思いますね。
お伝えしているようにヨーロッパをはじめ、世界各国の若者たちが引き寄せられているのが、シリアを拠点とするアルカイダ系の組織です。
今や広い地域を実効支配し、そして行政や司法を牛耳るようにまでなっています。
なぜこれほど求心力があるのか、取材しました。
シリアの隣国レバノン。
私たちは、シリアに戦闘員を送り込んでいるグループと接触することができました。
拠点を訪ねると厳しく取り締まられているはずのアルカイダの旗が公然と掲げられていました。
拠点には銃を構えた男たち。
周辺には監視カメラを張り巡らせ24時間、当局の取り締まりを警戒しています。
このグループは世界中から勧誘した若者を次々とシリアに送り込んでいます。
中東出身のこの若者はこのグループを通じて勧誘されました。
シリアでの戦闘に加わるといいます。
彼らが目指すのはシリアのアサド政権を打倒しイスラムの教えに基づいた新たな国家をつくることだといいます。
世界の国々は誰もシリアの人々を助けてくれない。
だから、われわれが中東だけでなく世界にまたがる巨大なイスラム国家を築くべきなのだ。
すでに、この地域には世界中から集まった1万人以上のアルカイダの戦闘員がいると見られています。
去年、「イラクとシリアのイスラム国」の樹立を一方的に宣言。
シリア北部の広い地域で統治を始めました。
貧しい人々には食料を配布。
苦しい暮らしを余儀なくされている人たちから一定の支持を得ていると見られています。
さらに学校を開き聖典コーランの読み方などイスラム教を重点的に教え込んでいます。
たばこなどの、しこう品は堕落した文化の象徴だとして強制的に処分しています。
この組織を率いるのがイラクで数々の爆弾テロ事件を引き起こしてきたアブバクル・バグダディ容疑者。
インターネットを通じて民主主義国家よりイスラム国家のほうが公平で平等な社会が実現できると呼びかけています。
アルカイダの統治を支える資金集めも活発化していることが明らかになってきました。
資金源の一つが世界有数の産油国クウェートです。
イスラム教スンニ派の聖職者アリ・ヘラン師。
毎週、集団礼拝に合わせてシリアで戦う同じスンニ派の同胞への寄付を呼びかけています。
アリ師はイスラム過激派を支持しているとして当局から活動を制限されています。
しかし、シリアへの支援活動に賛同する人は後を絶たずこの3年間でおよそ12億円の寄付を集めたといいます。
背景には湾岸産油国の人々がシリアのシーア派系のアサド政権を倒すため同じスンニ派の反政府勢力を支援していることがあります。
集められた寄付の一部が反政府勢力の中核の一つアルカイダにも渡っていると見られています。
シリアではただスンニ派というだけで無実の人が大勢、殺されています。
資金援助をすることは、われわれクウェート人の義務なのです。
シリアの内戦に乗じて勢力を増すアルカイダ。
しかし支配地域では、市民への厳しい弾圧が行われていることが明らかになってきました。
アルカイダの掲げるイスラムの教えに背いたとする市民を次々と拘束しているのです。
これはNHKが入手したアルカイダの内部文書です。
拘束した人の名前が記され組織的に弾圧が行われていることをうかがわせています。
シリア北部で見つかった150人の遺体。
そのほとんどに拷問の痕がありました。
アルカイダにはスパイ組織があります。
難民キャンプやホテルを監視したりインターネットを使ったりして批判的な人物の洗い出しをしています。
いったん連れ去られると二度と戻ってきません。
シリアのようなアルカイダの新しい拠点は今、世界各地に広がっています。
アメリカがイラクの混乱を収束させないまま撤退するなど中東への関与を弱める中アルカイダの押さえ込みはますます難しくなっているのです。
今や、アメリカ市民にとって直接的な利益がないかぎり中東での軍事作戦はほとんど支持が得られません。
したがって、今後われわれはアルカイダの脅威にさらされ続けることになるのです。
かつて破綻国家、アフガニスタンがアルカイダの拠点だった。
今、シリアがそうなってきたのではないかと見えるんですけれども、ただそれにしても、シリアの内戦が始まって3年で、これだけ急速にアルカイダが、その勢力を伸ばし、しかも統治までできるようになったのは、どんな背景があるんですか?
まず一つは、アラブの春という3年前の出来事、シリアは体制が不安定になり、エジプトなどが倒れたわけですね。
しかしそのあとに安定した体制が出来ているわけではない。
つまり、またシリアのように体制側が、退かずに弾圧をし続けて、そしてそれを押しとどめる手段がないわけですね。
そこでやっぱりイスラム的なものが、結局は代替し、オルタナティブなんだということが一般的にそういう考えが一部で強まっているということですね。
そしてまた、シリアの内戦の状況では、アサド政権に対抗するための支援をしてくれる勢力というものが少ないわけで、周辺諸国なども支援はしていますけれども、またアメリカも支援をすると言っていますけれども、あまりやっていないわけですね。
それに対してアサド政権のほうは、イランから、あるいはレバノンのヒズボラという組織から支援を明確に受けているわけで、そうしますと、世界中の、特に、スンニ派の人たちが、イランのシーア派に対抗するために、あるいはイランの脅威に対抗するために、集まってくる。
そういう現象があります。
そしてそのことをイランを脅威と感じる湾岸諸国、サウジアラビアとか、クウェートとか、そういった国の政府も支援しているわけですが、むしろ個人が支援する。
そういう形でシリアの内戦、いろんな勢力に、いろんな形で資金とか、武器が集まってくる。
それによって内戦が永続化するわけですね。
そうしますと、混乱した状況下で、直接、そういった周辺諸国から支持を受けていなくても、アルカイダにとっては、非常に好都合な環境が生まれているわけです。
そしてアサド政権もまたそのような環境が生まれることを、むしろ好都合と考えている。
例えば2011年の紛争が始まった初期の段階に、アルカイダ系の指導者は、むしろアサド政権、たくさん釈放しているんですね。
わざと釈放したんですか?
そうなんです。
むしろ、アサド政権の場合は、一般民衆がはんせいふこうどうをやっていると、それを弾圧するという、非常に国際的にも、そして国内的にも都合が悪いわけです。
ところが、相手がアルカイダのテロリストだということにしてしまえば、どんな弾圧をしても許される。
そういうことですから、むしろ初期の段階から、アルカイダ的な勢力を、実際に自分たちが刑務所に入れていた人たちも釈放したわけですね。
そういうわけで、政権側と反政府側の両方が、この状況をそれぞれ、目的は違うんですけれども、状況を作り出している。
そしてそのような状況を変えようという強い意志を生きがいの大国、超大国、アメリカやロシアは見せていないわけですね。
むしろこのような内戦が永続化することをやむをえないと考えて、黙認している、そのような雰囲気もあるということですね。
そういった中で、今、そのアルカイダの復活は、どの程度まで広がっているのか、どんなアルカイダという、そのテロ組織を、どういうイメージでもって受け止めればいいんですか?
われわれはアルカイダ、アルカイダって気軽に呼んでいますけれども、実際には一つの明確な大きな組織があるわけではないんですね。
しかもその組織は、過去10年の間に、むしろ非常に弱まったわけです。
その中枢の組織はほとんど壊滅しました。
それは2001年の9・11事件で、それ以降、アメリカがもうグローバルに、大規模な対テロ戦争をやったわけです。
それによって、アルカイダの組織はほとんど壊滅したんです。
しかし、そのあとに何が出てきたかというと、アルカイダが掲げたイデオロギーが残った。
そしてシンボルが残ったんですね。
ですから、ビデオの中でもあったように、世界共通の黒い旗を掲げる。
そしてアルカイダと直接つながっていなかった人たちも、その旗を掲げて、何かジハードをやるべきだと考える場所に行って、何かやる、それをビデオに撮って、インターネットに載せると。
それを世界中の人が見て、あっ、この人はアルカイダだなというふうに認めると、またこれまでアルカイダを名乗っていた人たちも仲間に入れてあげるということをやる。
そういう形でネットワーク的、ソーシャルネットワーク的に広がっていく。
組織を作らないで、小規模な民兵集団を作って、あとからアルカイダとして認めさせていく、そういった分散的な組織としてアルカイダは今、育っているということだと思います。
そのアルカイダの優位な状況を、どうやって変えられますか?
これ、非常に難しいんですけれども、アルカイダっていうのは、やはり基本は、イスラム的な観点から見て、不正義が各国にある、あるいは国際社会にあると、その不正義に対する憤り、そしてそれを正そうとする目的意識を人々が持つことによって生じるわけです。
2014/04/24(木) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「復活するアルカイダ 〜テロへ向かう世界の若者たち〜」[字]

弱体化したと見られていたアルカイダが今、復活を遂げようとしている。シリアの内戦に乗じて勢力を拡大。欧米でもテロの脅威が広がっている。謎に包まれたその実態に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学准教授…池内恵,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学准教授…池内恵,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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