ハートネットTV 介護百人一首 2014「春編 その二」 2014.04.24

(小谷)「介護百人一首2014」。
神奈川県の横内守光さん64歳の短歌です。
「母は昔旅芸人だったといいます。
歌も踊りもプロ並みでした。
『青森県人なら津軽あいや節を歌え』と言われ歌った事もあったそうです。
なんとも明るく気丈な母でした。
そんな母にまた会いたいです」。
宮城県の伊藤ふみ子さん69歳の短歌です。
「私のベッドから見やすいようにと夫がガラスケースの中から内裏様三人官女五人ばやしを取り出し棚に並べてくれました。
赤い布の上に肩を寄せ合うようにしてどのひな人形もほほ笑んでいます」。
静岡県吉林悦子さん83歳の短歌です。
「夫と2人で真面目に働き生きてきたのに『なぜに病気を?』と恨む事もありました。
でも落ち込む私は日の光に感謝しながら介護に尽くしました。
夫が亡くなってもう9年です」。
「介護百人一首2014」。
たくさんの歌の中から選ばれた100首の歌。
介護を巡る思いは人さまざま。
その歌に込められた心もようを訪ねます。
(毒蝮)介護は明るく楽しくかっこよく。
全国の介護家族の皆さんご機嫌いかがですか?「ハートネットTV」昨日に引き続き今日も「介護百人一首春編」をお送りしてまいります。
今回のゲストも昨日に引き続き漫画「ペコロスの母に会いに行く」の作者岡野雄一さんをお迎えしています。
岡野さんよろしくお願い致します。
岡野さんは漫画に描いて歌も歌うっていう…。
何か共通点ってお感じになる事あります?皆さんの歌聞いてて…皆さん何か元気じゃないですか。
いい顔してらっしゃるし。
多分吐き出すって事ですごくいい感じを自分でどっかからくみ上げてくるんじゃないかなと思うんですけれど同じような事が漫画でも言えて漫画でもやっぱり描く事で自分の中の何かをそれに吐き出すという行為がすごく似てる感じがしました。
それでは「介護百人一首2014春編」ご覧頂きましょう。
介護を学んでいる福井県の井村友哉さん22歳の短歌です。
「実習先の施設でリハビリの一環として行った書道。
ある利用者の方は昔習った事を思い出したのか自然と筆が進み気が付けば習字の先生になっていました」。
三重県の海老原秀世さん72歳の短歌です。
「独り暮らしの母を私たち4人の娘が交代で通い見ていました。
母の電話の声に安心したり心配したりもしましたが思い出は今も残っています」。
母を介護している神奈川県の栗原せい子さん74歳の短歌です。
「そばに寄り添う事が介護。
そして優しい言葉と手助け。
そばにいるのがまず介護の第一歩だと思います」。
岡山県の真ん中吉備中央町。
ここにも介護百人一首の詠み人がいます。
歌を詠んだ新田香さん85歳と夫の和郎さん88歳です。
これが酸素を製造する装置です。
四六時中これを引っ張ってる訳だから…。
4年ほど前にぜんそくを起こしてから酸素を吸引している和郎さん。
2人とも足が悪くなったため今は娘の有理さんが同居してくれています。
(香)いいお天気になってよかったね。
(和郎)うん。
おあがり。
(香)耳入れてないん?入れとらん。
(香)もう〜。
アハハハハ。
全然聞こえん。
(香)アハハハ!
(取材者)でもこうやったから分かったんだ?これはあの…呼吸不全という事でなようけえ病気を持っとんですら。
頭から下までね。
胸が悪いでしょ。
…でこっち足悪いでしょ。
そうするともし火事がいった時なんか逃げられないじゃないですか。
そうか言って私帰ってきても2人を連れて逃げる訳にはいかないんですがまあ何かあった時に助けになるかなと思って…。
香さんが和郎さんと結婚したのは昭和23年。
和郎さんは中学の数学の教師で真面目一筋な人。
親の探してきた縁談でした。
嫁いでみると兵庫の龍野市内で育った香さんにはいきなりの田舎暮らし。
だいぶ戸惑いもあったと言います。
嫁としてしゅうとしゅうとめに仕え慣れない畑仕事も牛の世話もする毎日でした。
お嫁に来た時の寂しさはね母が恋しくてね…。
まあ泣いてました毎日。
だけど主人の優しさに引かれて我慢ができたんやね。
嫁いでから香さんは短歌を始めました。
詠み続けた短歌は香さんの描いた水彩画と共に歌集にまとめられています。
「寂しさの極みと見てゐし峡の村その土とならむ一日また一日」。
嫁いだ土地に溶け込みひたすら生きてきた日々も今は思い出です。
実は香さんの父親は短歌結社「水甕」の選者も務めた人で母も女流歌人。
2人とも皇居の歌会始に短歌が選ばれたほどの歌人でした。
行ってきます。
(香)行ってきます。
香さんは月に1度町の公民館に出かけます。
香さんが主宰するもう20年も続く短歌会があるのです。
いつものメンバーが集まります。
これ夏のやつ。
夏のでもよろしいわ。
「注文の肥料農薬積みてあり旅の余韻は現実に覚め」。
みんなの持ち寄った短歌が披露され1首ずつ検討されていきます。
(香)ちょっと字足らずかな。
2文字足りんかな。
2文字足らないでしょ。
「詠んでみるかな」「詠んでみるなり」。
どっちでもいいけど…どっちがいい?先生いい方取ってって下さい。
アハハハハ!仕事の合間にするのがな。
ちょっと…私ら鳥とか風とかそんなものばっかしじゃからそれを詠むだけですけど…まあでも楽しいんです。
先生がして下さるからみんなこのメンバーだけ楽しみにしてます。
日々の暮らしをつづる小さな集いです。
和郎さんの所へは週に1回訪問看護が来てくれます。
体調に変化はないかいつも香さんはそばで付き添います。
ちょっとごめん。
冷たいかもしれん。
ごめんね。
胸の音はきれいです。
そう?ありがとうございます。
ゆっくり前。
はい後ろ。
はい前。
はい後ろ。
はい前。
(香)今まで自分の親とかねこちらの両親とか見送ってきてねやはりいくばくかは悔いがある訳ですよね。
どうしても。
だからもう主人の場合は悔いのないように。
100点の介護はできなくってもいいからね「心尽くしていこうよ」って言います。
チューブ引っ張ってちんば引いて歩いてますからね。
「用心して歩こうねおとうさん」。
「どっこいしょ」って言うから「はいよっこいしょ」って…フフフ…2人で。
漫才みたいな事言いながらねなるべく声かけをしています。
よいしょ。
今年結婚して66年になる2人。
甘い物が大好きな和郎さんが楽しみにしているおやつの時間です。
和郎さん専用のおやつの缶があります。
私がいつも朝これにキャンデーを5つこういうキャンデーを5つ入れて…。
そうすると母がここに金平糖を10粒入れて…。
だから15粒食べる訳ですよ。
一日に。
(香)はい10粒。
フフフフ…。
そんな香さんの金平糖の歌。
山あいの棚田も随分春めいてきた岡山の金平糖の2人です。
かわいいねこれ。
金平糖を詠んだね…。
また金平糖の色がいいよ。
何かここの缶の中に春の風が吹いてるって感じが…。
だけどね金平糖と5粒のあめ?これ砂糖とり過ぎで糖尿病大丈夫?和郎さんの場合はですねお医者さんに診て頂いてちゃんと血糖値も大丈夫だという事ですので。
そうか大丈夫なんだ。
はい改めて…ホント春を感じるな〜金平糖っていうのは。
この歌を岡野さんどうご覧になりました?何か絵本みたいですね。
そうでしょ?いい感じです。
そうですね。
例えば母とかもやっぱり好きな物ってずっとありますよね。
やっぱり甘い物?やっぱり甘い物ですけど…。
こっぱもちっていったかな?こっぱもち?こっぱもちっていったと思うんですけど…。
干し芋か?干し芋です。
よく軒下にこう…。
そうです。
サツマイモを輪切りにして干して…。
食べる時はちょっと焼いて食べたりもしたしあるいはそのまま食べる事もありましたねおやつで。
ちっちゃい頃は母のところは女の子ばっかりなんですけど何かみんなで「プッププップ屁ばかり吹いよった」って…。
サツマイモで?やっぱり出るよね。
そうそう。
忘れられない食べ物味覚ってありますよね。
新田香さん和郎さん。
金平糖のかわいらしいいい歌をね…。
ご結婚66年おめでとうございます。
はい。
さてですね岡野さんほかにも気になった歌ありましたでしょうか?はい。
え〜っと……という歌がありますけれどこの「電話」っていうのがですねこのとおりじゃないんですけど母がとにかく父が亡くなったあと僕が仕事に出てたりしますんで1人でいる時間が長いんですよ。
それもあってか携帯にチョコチョコかけてくるんですよね。
僕が取ると「おったとや?」って言うんですよ。
要するに「いたのかい?」って…。
いるよねそりゃね。
携帯ってどこにいるか分からないじゃないですか。
それなのに「いたのかい?」って安心した感じなんですけど…。
おうちの電話と同じだと思ってる訳ね。
電話に僕が出てちょっとでもしゃべって安心するっていうのがあったんじゃないかなと…。
声だけ聞く。
どうって事ないんだよね。
声聞くって…お話大事ですね。
それでは「介護百人一首春編」。
引き続きご覧頂きましょう。
徳島県の泉信夫さん88歳の短歌です。
「妻はもう薬の管理ができなくなりました。
テーブルに妻と私の薬を並べると私の方が倍はあります。
『病気が多いからしかたがないんだよ』と医師から言われております」。
岡山県の大倉寿佐子さん58歳の短歌です。
「母は15年間寝たきりで去年の1月に旅立ちました。
病に伏せる前2人でお揃いの洋服を求めましたが母は一度も袖を通す事なく逝ってしまいました」。
千葉県の葛岡昭男さん70歳の短歌です。
「もう退院はできなくなった岳父でしたが妻よりも私との筆談を楽しみにしてくれているようでした」。
この町の細野清子さんの歌も介護百人一首に選ばれています。
これ見るとホントにあの時の部屋の散らかりがもうなんとも情けなくて…。
でも…病気なのに怒ってしまってホントに悪かったなって思うし…。
うん…。
ちょっとね…。
細野清子さん68歳。
夫の省二さんは去年の9月特別養護老人ホームに入所しました。
40年近く前に買ったこのマンションに今は息子と2人で住んでいます。
少しきれいにしとけばよかったね。
夫の不在にはまだまだ慣れないと言います。
そうなんですよ。
ホント寂しいですね。
まだ次男がいてくれるからいいんですけどね。
ホント寂しいです。
広すぎますね。
ホントに寂しい…。
清子さんはこんな歌も詠んでいます。
清子さんが省二さんと結婚したのは昭和44年。
2人は京都の同じ銀行に勤めていました。
清子さんも省二さんもスポーツが大好き。
省二さんは市民マラソンにも出場しました。
健康には人一倍気を遣っていた省二さん。
しかし59歳を迎えた13年前認知症の症状が現れました。
いっとう最初は「省二さんこのごろ何回も同じ事言うね」って言われた事とあとは出かけようと思ったらふらついちゃってめまいがするっていう事ですぐ急きょおかしいっていう事で病院に行ったら「精密検査受けて下さい」って言われたのが始まりですね。
それですぐに行ったんだけどあっちこっち行ったんだけど「やっぱりアルツハイマーですね」って言われたんですよね。
59歳だから若年アルツハイマーですかね。
省二さんは時々自分がどこにいるのか分からなくなるようでした。
自宅を目の前にしても家に入れず周りをグルグル回っていた事もあります。
体力は十分にあったのでしばらくは好きだった山に何度も2人で行きました。
でも今はもうできません。
何か家で見てる時はひょっとしたらもう少しよくなるかもしれないみたいな気持ちもあったりね手術してもらったりいろいろしてるのでね期待もあったんですけどやっぱり入所したらだんだん落ちちゃったからやっぱり駄目なんだなっていう気持ちの方が大きくなってきましたね。
じゃあ行ってくるからねハッピーね。
お願いね。
30年間保育士として働いていた清子さんは2年前から知り合いとデイサービスの施設を始めました。
小さな住宅を借り受けて開いた10人規模の施設です。
省二さんも去年まで1年ほどここに通っていました。
こういう施設なら夫を日中見ていられるという思いもあったと言います。
このデイサービスを一緒に始めた…清子さんに短歌作りを勧めました。
「あなたね来ない?」って。
そこから出発したのね短歌。
彼女も。
やっぱり短歌を作るって事は自分の気持ち頭整理しなければできませんね。
その事はとてもよかったんじゃないですか?もうホントにこうやって話してても泣いて話ができない人でしたからね。
省二さんのいる特別養護老人ホーム。
清子さんは時間の許す限り省二さんのもとを訪ねます。
省二さん。
来た。
来たよ。
帰る?帰りたくなった?分かった分かった。
清子さんが毎日のように来ても省二さんはよく寂しがります。
どうした?お風呂入ったんでしょ?泣かないでよ。
泣けちゃうから。
うんよかったね。
はいどうぞ。
清子さんはこのところ省二さんの症状が更に進んだような気がすると言います。
省ちゃん。
うん。
はいって言うんでしょ。
省二さん。
ああ。
ああ分かった。
うん。
お名前は?言えないね。
細野省二だよね。
そうそう…。
よし。
すごいすごい。
わっすごい!省二さん。
大丈夫だ。
フフフフ…。
よい時も悪い時も清子さんは省二さんのありのままを詠み続けてきました。
今はもう短歌詠むと自分の気持ちがすっきりする。
見つめ直して…こう何て言うのかな。
ちょっと一歩引いた感じで夫の病気を見る事ができるようになりましたね。
客観的に見られるというのかね。
省二さんよかったね今日はいっぱい食べれて。
ねえ省ちゃん。
もう寝ちゃった。
疲れちゃった。
歌を詠む事が心の支えになってくれれば。
祈るばかりの2人です。
省ちゃん。
か〜ねえ。
新婚だよね。
まあそうですね。
もう一回紹介しますけれども…「いさかいて」怒ってしまって反省しているというような状況ですけれども岡野さんはどうご覧になりますか?いや…結構シビアですよね中身。
だから結構ケンカとかいろいろあったあとでのそういう事なんでしょうけれどすごく切なさがありますね。
いろんな歌を詠んでらっしゃいますが……という壮絶な歌もありましたが。
多分この人言葉の選び方がすごい人なんじゃないかな。
非常に言葉を縦横無尽にお使いになってる感じがするよね。
細野清子さん省二さんもねいい歌を思いを込めて歌って下さいました。
ありがとうございました。
でもホント介護ってね岡野さんのいろんな漫画絵を見てますとほんのり…「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」のかなと…。
「忘れてしもて良かろ〜?」って言って…。
人生のしこりというかあくというかそういうものがだんだんとけてって天使になって近くなってきつつあるんですね。
そうですね。
生まれて何日目かの赤ちゃんなんてまだこうボロボロッと白い粉…白い皮みたいのがあるじゃないですか。
母もそういう白い粉みたいのがば〜っとあって…。
例えば赤ちゃんだったら天使の名残のような天使を脱いでいくような感じで人間になるみたいな感じで母は人間を脱いで何になるんだろうっていう感じですね。
また天使になるんですよ。
わあ〜。
まあこれは漫画家の勝手な思い込みなんですけど…。
「ペコロスの母に会いに行く」の作者岡野雄一さんを交えて今日はお送りしてまいりました。
岡野さんどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
「介護百人一首2014」。
次回は「夏編」でお会いしましょう。
夏まで元気でいよう。

(テーマ音楽)2014/04/24(木) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV 介護百人一首 2014「春編 その二」[字][再]

介護をめぐる短歌を詠んだ「介護百人一首2014」。今回は「春編その二」 金平糖にいたく執する病夫に赤青黄色を交え十粒 その他の歌をご紹介します。

詳細情報
番組内容
「介護百人一首2014」 介護する人、される人、日々の介護生活の中でふと心に浮かんだこと、あるできごとの情景…いずれもさまざまな思いがこめられた珠玉の百首です。今回は「春編その二」。歌はどんな時にどんな思いで詠まれたのか、作者の方々を訪ねます。介護短歌という“三十一文字の器”にこめた人の優しさ、強さにふれていきます。「ほどほどにすればよかったいさかいて汁散る服を手間かけて拭く」他の歌をご紹介します
出演者
【出演】毒蝮三太夫,小谷あゆみ,岡野雄一

ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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