いきますよ〜。
プロボクサー井上尚弥選手です。
デビューから僅か1年3か月の新人ボクサーは大きな誓いを立てました。
この3か月後世界王座に挑戦。
いくぞ〜!
(一同)オ〜!プロ6戦目日本最速で世界チャンピオンに上り詰めました。
ありがとうございました。
(取材者)どう?最高です!頑張れば来るんだよ相手は!出るんだよ!育て上げたのはプロボクサーの経験すらない父親でした。
2人が追い求めてきたのはスピードパワー全てで相手を凌駕する究極のボクシングでした。
しかし世界チャンピオンへの道のりは決して平たんではありませんでした。
試合直前には練習ができない状況に陥りました。
いかに試練を乗り越え世界王座をつかんだのか。
親子の挑戦の日々を追いました。
井上選手の一日は10kmのロードワークから始まります。
弟の拓真選手もプロボクサーです。
走り終えたあと向かったのは自宅の離れ。
(ゴングの音)ここが幼い頃からの練習場です。
井上選手を指導してきたのが…リードもうちょっと変化つけて。
ボクシング歴はアマチュアで2試合。
プロの経験はありません。
塗装業を営むかたわらトレーナーとして15年間付きっきりで教えてきました。
(ゴングの音)打ち終わったあとの手の位置しっかり。
そこが一番大事だから。
じゃあ今度サイドでアッパーやるからうんぬんだったら合わせるだけでいいよ。
井上選手はおととし19歳でプロボクサーに。
以来世界チャンピオンを目指してきました。
ホントに難しい事は特別やってないんですけどただ本人が体で覚えるまでは反復練習はホントにやりますね。
だからこれが…言葉で言うのは簡単なんですけど「じゃあ次いこう次いこう」じゃなくてこれができるまでもうホントにそこは自分のこだわりっていうかパンパンパンパン進んじゃうとやっぱり全部が中途半端になっちゃうじゃないですか。
真吾さんは息子が自宅でもトレーニングを積めるようさまざまな練習メニューを考案してきました。
毎朝上り下りする事で腕力を鍛えてきました。
更にこんなトレーニングも考え出しました。
5mあるぞ。
車の重さは2t。
それを50m押し続けます。
足腰はもちろん体幹や上半身も鍛えられます。
ちょい!ラストラスト…。
限界出せ出せ!ちょいちょい!うわ〜!あ〜!どこまで押し続ける事ができるか兄弟で競わせます。
ここのラスト1本で。
ちょいだよちょいだよ。
いいよこっからこっから。
えい!
(真吾)いけ!いけ!意地だ意地意地意地いけ!いけ!いけいけいけ!はい!あ〜っ!お〜っ!これを3本行いました。
夕方からは所属しているジムで練習です。
2年前井上選手のプロデビューに合わせて真吾さんもトレーナーを志願。
ジムに入りました。
スパーリングが始まりました。
ビデオを撮るのは母親の美穂さん。
課題を後で確認するためです。
相手は1階級上の世界ランカーでした。
真吾さんが最も嫌っているのは集中力を欠いた練習です。
少しでも弱気を見せると厳しく指摘します。
ちょっとねちょっとね…お父さんは結構褒めないんで。
もう常に怒ってるって言ったら変なんですけど。
怖い存在とかではないんですよね。
練習の時だけ。
熱心なだけ。
熱心なんですけどね多分。
もし教えてる人がお父さんじゃなかったらここまで強くもなってないと思うし。
やっぱりもう…真吾さんは10代の頃大きな目標を持つ事ができなかったといいます。
転機が訪れたのは19歳の時。
妻美穂さんとの結婚でした。
2年後長男尚弥君が誕生。
息子には常に全力で向き合おうと決めました。
尚弥少年が真吾さんのボクシングをする姿を見て自分もやりたいと始めたのは6歳の時でした。
やれるの?大変なんだよとか。
途中でやめるとかってそういう事言わない?男の子だから大丈夫?とかという話をしながら「大丈夫やりたい」と言ったので遊びの延長でとかそういう感覚では教えてなかったです。
真吾さんは忙しい仕事の合間を縫って基礎となるステップから一つ一つ技術を教え込んでいきました。
12歳の時大会に出場するようになるとすぐに結果を出していきます。
尚弥〜!ジャブジャブだ。
よく見とけよ。
ありがとうございました。
高校生の時には史上初のアマチュアタイトル7冠を達成しました。
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)プロでも父親仕込みの一歩も引かないボクシングで勝ち上がっていきました。
スピードとタイミングでスコ〜ン。
それ拓が突いたらやばいよ。
絶対やばいよ。
絶対やばい。
家族全員の夢は井上選手が世界チャンピオンになる事です。
いやまだまだもっといけます。
自分の中でやってるつもりなんだけど多分まだ甘い部分が絶対あるんでそこをしっかりもっと追い込めば多分もっとよくなると思います。
やっぱ人生懸けてやってるんでこれで失敗したらもう何も残らないんで。
今聞いてすごいオ〜ッて。
自分はやっぱこういろんな複雑な思いがありながら子どもにこんな厳しいスポーツやらせていいのかなとかあってでもそこまで思ってくれて…。
自分もホントに割り切って一緒にこいつと「やったるよ〜」みたいな。
地味でもいいですから子どもがボクシングで飯食えるようになってもらったら最高ですね。
世界戦を2か月後に控え対戦相手の分析が始まっていました。
チャンピオン…王座を4度防衛しています。
チャンピオンは強打の持ち主でした。
相手のパンチをもらいながらも猛然と前に出てパワーでねじ伏せます。
(実況)あ〜右もらった!そしてボディーが入ってくる!コンビネーションにボディーがちゃんと入っています。
ここで止めましたか。
まだでも…。
チャンピオン対策の練習が始まりました。
相手はチャンピオンと同じ打ち合いを得意としている選手です。
意識したのは常に足を動かして相手との距離をとる事でした。
そして…。
一瞬の隙をついて踏み込み打つと素早く離れます。
チャンピオンとの打ち合いを避けるため真吾さんと2人で考えた作戦です。
(アラーム)更にチャンピオンが猛然と前に出てきた時の対策も練習します。
真吾さんがチャンピオンの動きをまねします。
チャンピオンの武器は大振りのフック。
このパンチが来た時はカウンターを狙います。
何度もタイミングを確かめ体に染み込ませていきます。
試合まで1か月。
トレーニングは順調に進んでいました。
異変が起きたのは3月中旬の事でした。
減量を前にスタミナをつけるための追い込み練習をする時期。
しかし井上選手がジムに来ません。
もう3日も姿を見せていませんでした。
一体何が起きたのか。
(取材者)こんにちは。
こんにちは。
井上選手は部屋に籠もっていました。
(せきこみ)
(取材者)そうだよね。
インフルエンザにかかり40度近い熱が出ていました。
追い込みをかけなければいけない大事な時期を棒に振りました。
翌朝。
まだ微熱が続いていたにもかかわらず走ると言いだしました。
しかし走り始めてすぐあいにくの雨。
ロードワークは中断せざるをえませんでした。
焦りだけが募ります。
そのころ真吾さんは一人スーパーにいました。
栄養がありそうな食材を買い込みます。
ふだんは料理をしない真吾さんが台所に立ちました。
鶏肉やニンニクショウガなど20種類もの食材を入れたスープです。
その夜。
気分的にパワーがついたような感じになりますね。
ジムでの練習を再開したのは1週間後でした。
尚弥大丈夫?完璧?もう大丈夫。
はい。
大丈夫?大丈夫です。
試合まであと3週間。
ここから更に大きな壁が待っています。
井上選手がサウナスーツを着込んで現れました。
過酷な減量が始まります。
この時の体重は58kg。
3週間でおよそ10kg落とさなければなりません。
インフルエンザで弱った体。
そして過酷な減量。
練習の途中で座り込み足を気にする事が増えてきました。
極度の水分不足で筋肉が悲鳴を上げていました。
うがいで喉の渇きをごまかします。
一日200gの水分しかとれない日もありました。
寒くなったりもするんですよいきなり。
足がめっちゃ冷えたりとか。
体ほてる場合もあるんですけど。
この日真吾さんが一人で出かけていきました。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいました。
減量期間中息子の前では食事をしないように心掛けています。
試合は目前。
地元で壮行会が開かれました。
みんなで一つになって応援したいと思いますのでよろしくお願いします。
乾杯!
(一同)乾杯!
(拍手)思いっきり応援します。
頑張って下さい。
尚拓と一緒に闘うぞ〜!
(一同)オ〜!
(拍手)え〜4月6日は日本最速の世界挑戦という事で今すごく気合いが入ってます。
自分たちは勝って恩返しする事しかできないので4月6日必ずチャンピオンになって応援してよかったなって思える試合をしたいと思います。
応援よろしくお願いします。
(拍手)決戦の日。
親子で築き上げたボクシングで世界チャンピオンに挑みます。
(ゴング)序盤井上選手は作戦どおりの動きでチャンピオンを圧倒します。
(歓声)
(歓声)
(歓声)
(歓声)前に出たいチャンピオン。
この時を待っていました。
練習どおりのカウンター。
井上選手が完璧に主導権を握っていました。
(ゴング)しかし4ラウンド終了後思わぬ試練が待っていました。
左足がけいれんしていました。
過酷な減量の影響でした。
(場内アナウンス)「ラウンドファイブ」。
(ゴング)第5ラウンド流れが変わりました。
足が動きません。
第6ラウンド全く距離がとれません。
チャンピオン得意のフック。
真吾さんはもう作戦を変更するしかないと考え始めていました。
この時井上選手も同じ事を考えていました。
倒すか倒されるか。
覚悟を決めました。
チャンピオンとの壮絶な打ち合いが始まりました。
井上選手一歩も下がりません。
(実況)井上ショートで打ち勝っている!右のフック右のフック!こめかみを捉えている!右右!チャンピオン下がる!左フック左フック!チャンピオン嫌がっている!そして…。
(実況)左をさします井上尚弥。
深追いはせずに…。
(歓声)打ち合いを制したのは井上選手でした。
(歓声)
(実況)やりました!井上尚弥!世界タイトル獲得なる!
(実況)6戦目で世界のてっぺんに立ってみせました!プロ6戦目での世界チャンピオン。
日本最速の記録でした。
おめでとう!ありがとうございました!最高です。
めっちゃうれしかったですよ。
すごく。
頼もしい息子を持ったっていう。
翌日。
早くも次の闘いに向けて動き出した親子の姿がありました。
相手がラフファイトしてきたところを切り抜ける。
これもいい経験だったな。
もっと強くなるために。
ともに闘い続けます。
もっともっとあいつが多分強くなりたいと思ってるし自分ももっと強くさせなきゃいけないと思うしお互いの気持ちが一緒だから確実にそうなると思うんで本当に強くなります。
自分のためだけだったら諦めてる事とか多分あったのかな…思っちゃうかもしれないですね。
ただ支えてくれてる人たちの期待とかそういうのってすごくでかいと思うんですけど。
そういうのがあるから乗り越えられるのかなと思います。
2014/04/24(木) 01:55〜02:40
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「ともに闘う ボクシング 井上尚弥」[字]
ボクシング界に現れた超新星・井上尚弥選手。4月、プロデビューからわずか6戦目、日本最速で世界チャンピオンに輝いた。偉業達成までの舞台裏に密着した。
詳細情報
番組内容
日本最速の、プロデビュー6戦目で世界王者に輝いた井上尚弥選手。強烈なカウンターを武器に“怪物”と呼ばれる井上選手のボクシング人生を語る上で欠かすことができないのが家族の存在だ。父親の真吾さんは海外の試合を研究し自宅でのミット打ち、軽自動車を押す筋トレなど独学メニューを作成。スパー時のビデオ撮影は母親、体のケアは姉、練習相手は弟と一家で井上選手を支えてきた。偉業達成の舞台裏に密着した。語り:杉本哲太
出演者
【語り】杉本哲太
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 相撲・格闘技
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