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政治
【主張】日本船の拘束解除 対中危機認識甘くないか
対中危機認識が甘くなかったか。
中国当局から差し押さえ命令を受けていた商船三井の貨物船が、その措置を解かれた。戦前の船舶賃貸をめぐる訴訟で、同社が上海市の裁判所の判決を受け入れ約40億円の供託金を支払った。
日本政府は中国当局による差し押さえを強く批判したが、政府の対応に問題がなかったわけではない。事態を的確に把握し、早い段階から商船三井側とも協議していれば異なる展開になっていたはずだ。
商船三井は差し押さえが続けば「今後の事業展開に影響が出かねない」とギリギリの判断を下したのだろうが、事実上の和解金を支払わされたことにもなる。「実力行使すれば日本は簡単に譲歩する」と中国側に予断を与える前例となりかねない。
さきの大戦中に「強制連行」されたとして、中国人元労働者らが中国各地で戦時賠償訴訟を提訴している。こうした動きが広がらないよう政府は日常的に関係企業との連携を図り、対応策を練っておくべきだった。
2010年に判決が確定して以来、商船三井側は示談交渉を行ってきたというが、これについて外務省が官邸に報告を行い、政府一体で対応を協議した形跡はみられない。差し押さえに至るまで政府が事態の深刻さに気づかず、船舶が競売にかけられることになって驚き、十分な検討を経ずに和解金支払いもやむなしと判断したなら、危機認識が甘すぎる。
菅義偉官房長官は当初、「日中共同声明に記された日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と遺憾の意を表明した。
ところが中国外務省が戦後補償と無関係だとの見解を示した後、「時効ではないということで裁判になった特異な事例」と語った。チグハグな印象を拭えない。
1972(昭和47)年の日中共同声明で中国政府は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」とし、戦後補償問題は決着した。大原則を政府がみずから緩めるようなことがあってはならない。
天津市でも別の船会社による船舶賃貸をめぐる訴訟の動きが出ており、同種の提訴が相次ぐ事態も想定される。日中共同声明の合意が損なわれないように、政府は十分な情報を収集し民間と緊密な意見交換、連携をしていくことが必要だろう。
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