「理想の仕事」に夢破れたら―次に進むための方法は?

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  • SUE SHELLENBARGER

[image] Jason Surfrapp

広告業界で働く理想と現実に苦しみ新たな道を切り開いたCaroline Kelso Winegeartさん(25)

 長年にわたって計画と準備を重ね、追加で学位や資格を取得するために学費を払い、夢にまでみた仕事を手に入れた。それなのに、その仕事が好きになれない――。

 これは驚くほどよくあるジレンマだ。近頃、求職者の中には「理想の仕事」という考えが浸透している。生活のためだけでなく、刺激があり、精神的な充実感や目的意識を満たしてくれるような仕事につくことを期待する人が増えている。情熱の源としての仕事のイメージが就職アドバイザーや自己啓発本、さらにはテレビドラマの華やかな登場人物によって喧伝(けんでん)されている。しかし、仕事に関するファンタジーは現実に対する求職者の目をくもらせ、自分に最適な職業を見つける判断力を鈍らせる。

 クリエイティブな才能があると言われたCaroline Kelso Winegeartさん(25)は学生時代に広告業界を目指し、大学の広告クラブでは代表を務めた。そしてニューヨークにある大手広告代理店のインターンシップに参加した。「自分がなりたいと思っていた華やかな職業につくための足がかりになる予定だった」と言う。

 大学卒業後の2010年に初めてついた仕事はノースカロライナ州ダーラムにある広告代理店マッキニーのアシスタント・メディア・プランナーだった。彼女は「理想の仕事だと思った」と話す。そこで働く人たちが好きだったし、全国的にも知られ、流行に敏感でクリエイティブなイメージをもった会社に入ったことに興奮したと言う。

 だが、彼女は担当することになった顧客企業2社の大きな予算を管理するのがいかに複雑か、予期していなかった。しかも媒体からは広告スペースを売り込む電話がひっきりなしにかかってきた。予想以上の仕事量と時間的制約のプレッシャーの中で、彼女は「常にストレスを感じ、参っていた」と話す。世間知らずで、「自分の役割より会社の方が重要」だと思っていたという。

 打ち砕かれた「理想の仕事」への夢を「勝利」に変えるには失望を乗り越える必要がある。どこで間違えたのかしっかりと見極め、持てるスキルを最大限に生かすことだ。ジョージア州アトランタのリーダーシップ開発コンサルティング会社、パスビルダーズで代表を務めるヘレン・ロリス氏は「完全なユーターンをせずに、ここからどこへ行けるだろう」と自問するのが良い方法だと指摘する。これは現在の仕事をしながらスキルを磨き、次のステップとなるような会社とコンタクトをとることを意味するかもしれない。

 Winegeartさんはソーシャルメディアを使うことが好きだったので、この分野のスキルを磨くことを仕事の目標にした。そのおかげで、別の会社でソーシャルメディア部門を構築する仕事につくことができた。さらに、2011年には広告業界を離れ、ボーイフレンドが経営するマーケティング会社で2年間、オペレーションマネジャーとして働いた。その後、彼女はブランド構築とウェブデザインを手がけるメードビブラント・ドット・コムを設立した。

 心理学専門誌「ソーシャル・サイコロジー」に発表された2011年の研究によると、予期せぬ失敗も新しい思考法を得るきっかけにすれば、有益になり得る。そこで立ち止まり、他にどんな方法があっただろうかと深く考える人は、将来の目標達成に関してより創造的になれる傾向があることが研究で分かった。

 では「理想の仕事」がうまくいかなかった場合、どれだけ長くそこにとどまるべきだろうか。ハイテク業界などは他の業界よりも離職が早い。就職仲介サイト「TheMuse.com」の創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるキャスリン・ミンシュー氏は、スキルがあるなら数週間で見切りをつけてもいいと話す。

 しかし、あまり早急に予期せぬ課題から逃げ出さない方が良い。自分が安定していることを示すために、普通は1年から1年半は務めたほうがいい。ロサンゼルス在住でキャリア開発に関する著作「Skills for Success」を執筆したアデール・シェーレ氏は、理想の仕事が煙のように消えてしまった後、精神的に回復する時間が必要になる人もいると指摘する。シェール氏は「仕事Aが満足できるものでなく、しかもそれが自分の理想の仕事だった場合、ただ仕事Bに逃げることはできない。落ち込んだ気持ちをそのまま引きずってしまうかもしれない」と話す。

 特定の仕事に惹かれる理由に気付くことが重要だ。アリゾナ州メサ在住で転職に関する指南書「Body of Work」の著者でもあるパメラ・スリム氏によると、よくある失敗は、例えば「文化や経営スタイル、ワークライフバランス」といった要因を検討しないで仕事を選ぶことだという。「1日20時間働くことになることを知らなくても、弁護士になることを夢見ることはできる」と話す。

 中には無意識のうちに理想の仕事を夢見る人もいる。スポーツ心理学の養成コースに入ってくる人は、自分の目標が果たせなかった元アスリートの場合もある。応用スポーツ心理学の専門誌「Journal of Applied Sport Psychology」に昨年掲載された研究によると、そうした元アスリートたちは投影された栄光に浸ることを夢見るかもしれないという。その場合、選手たちが抱える問題を聞いたり、能力向上のための戦略を見つける助けをしたりといった仕事がより難しくなる。元アスリートでもある心理学者は選手の否定的な感情や問題から健全な距離を保つことができないためだ。7人の学生を対象に、半年間の日記の分析や徹底的な聞き取り調査を行った研究でそのことが分かった。

 シカゴにある弁護士や専門職向けのキャリアコンサルティング会社ローターナティブスで代表を務めるシェリル・ハイズラー氏は、自身の幸福感に影響するであろう仕事のすべての特徴について、良い点と悪い点をリストアップすることを勧める。また、すでにその仕事に就いている人から話を聞くことで、意外なことや危ないことが事前にわかることもある。

 ハイズラー氏は壊れた夢を次の面接では資産として生かすといいとアドバイスする。自分が身につけたもの、例えば新しいスキルや他の業界の知識などを強調しなさいと言う。「自分は新しいことを学んだ。以前の自分とは違う」というメッセージを送ることだ。

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