ニューヨーク・タイムズは4月25日の一面トップで「オバマ、敗退(Obama suffers setbacks)」と今回の訪日が失敗だったことを報じています。

オバマ大統領は今回、日本に対してチーズや豚肉に対する保護関税を、ほぼゼロにするように日本側に迫りました。

これは日本としては簡単に呑めない条件です。

オバマ大統領がこのような要求をした背景には、そうでなくては米国議会が通商法案を可決するのが難しいからです。つまり後でどうせ議会に撃ち落されるような譲歩なら、最初からしても無駄というわけです。

このように日本側だけに譲歩を押し付けられては、日本としても譲れません。今回の交渉では、結局、米側からのプレッシャーに屈しなかった安倍首相の方に軍配が上がりました。

それというのもオバマ大統領は「尖閣諸島をめぐる中国との対立で、米国は日米安全保障条約の規定上、日本を守る義務がある」ということを今回明言したからです。因みに、大統領の口からこの米国の義務が確認されたのは、今回が初めてです。

ただ尖閣諸島が日本固有の領土であるという認識に関してはオバマ大統領は態度をあいまいにしました。

ウォールストリート・ジャーナルは日米間の貿易に関する合意がTPPに向けての重要な第一歩になる予定だったことを指摘し、土壇場での双方の努力にもかかわらず、今回、進展が得られなかったことは、アジア太平洋地域の安全保障の礎石としての両国の強固な団結をアピールするどころか、逆に断絶が深いことを印象付ける結果になったと評しています。

さて、ここからは僕の考えですが、米議会は誰にとっても嫌な相手です。オバマ大統領が、どうせ議会にすんなりと受け入れてもらえない空約束をすることを躊躇した気持ちはよくわかります。

でもTPPが成立しないシナリオ下では、日本が米国からシェールガスを買い入れる際、いちいちプロジェクトごとにお伺いを立てなくてはいけないし、米議会の気分ひとつで過去に承認されたものが反故にされるリスクも無いとは言えません。

つまり米議会はいつ日本に「報復(retaliation)」するか、わからないのです。

そもそもTPPに代表される多国間貿易協定の狙いが、そのような各国の立法府のきまぐれから通商を守ることにあることを考えれば、多国間貿易協定を退けるということは、エネルギーの安全保障に関するキャスティングボートを米議会に握られることを甘受するということに他ならないのです。