戦争時の賠償請求権 中韓との国交正常化時はどうだった?
戦時中の徴用工をめぐり、韓国で日本企業に賠償金の支払いを命じる判決が相次いでいます。「徴用工」とは日本統治時代に日本の工場などで強制労働させられた韓国の元労働者のことです。韓国の最高裁判所は一昨年、この徴用工について「韓国で個人の請求権は消滅していない」とし、個人で賠償を求める権利「請求権」を認める判断を示しました。以降、韓国内では「徴用工裁判」が増え、日本企業に賠償を命じる判決が相次いでいるのです。また、中国でも最近、日本企業による戦時中の強制連行をめぐり元労働者らの損害賠償訴訟が受理されました。中国政府は「民間や個人の請求権は放棄していない」との公式見解を示しました。戦時中の強制徴用をめぐって、中国でも日本企業への提訴が急増する可能性が高くなったわけです。
なぜいま戦時中の賠償が問題になっているのでしょうか。日韓、あるいは日中の間で、賠償を求める「請求権」の扱いはどのようになっているのでしょうか。
韓国とは「請求権協定」で解決済み
そもそも、徴用工の補償や未払い賃金は1965年の日韓国交正常化で結んだ「請求権協定」により決着済みとなっているというのが日本政府の立場です。請求権協定には、徴用工の賠償について「完全かつ最終的に解決された」と明記されています。日韓両政府の間でも、この認識で一致していました。これまでも徴用工が賠償を求める訴訟は何度もありましたが、韓国の裁判所はそのたびに「日本に賠償を求めることはできない」とする判断を示してきたのです。
その徴用工の問題が再燃したのは、ひとつにこれまでの韓国政府の対応にも一因があるとされています。日韓請求権協定によって、当時、日本から無償・有償で計5億ドルもの請求権資金が韓国に支払われました。本来なら、韓国政府はこの資金で元徴用工ら被害者への救済を行わなければいけなかったのですが、韓国の歴代政権は国の経済開発を優先。その結果、元徴用工が十分に救済されない状況が生まれました。こうした不満が日韓関係が悪化するなかで表面化してきたともいわれているのです。