戦争時の賠償請求権 中韓との国交正常化時はどうだった?

中国は「共同声明」で請求放棄

 また、中国で民間による賠償請求の動きが活発になったのも日中関係の冷え込みが影響しているとみられています。日中両国も1972年の国交正常化にあたって「日中共同声明」を発表し、中国は「日本に対する戦争賠償の請求を放棄する」と宣言しました。その後、中国はこの問題について具体的な言及はせず、請求権を否定する日本に対して曖昧な態度をとってきました。民間で賠償を求める動きもありましたが、日中関係を考慮する中国政府の指示で裁判所も受理しませんでした。しかし、昨年末の安倍首相の靖国参拝後に中国政府が方針転換。3月末の習近平国家主席の欧州歴訪とタイミングを合わせ、今回「個人や民間の請求権は放棄していない」との見解を出すにいたったのです。中国は安倍首相の歴史認識とともに戦争償の問題を国際社会にアピールしたい考えとみられています。

日本企業はどう対応すべきか?

 この先、日本政府や日本企業はどのように対応すべきなのでしょうか。

 日本政府は、韓国で被告となっている三菱重工業、新日鉄住金などの企業に賠償を拒否するよう繰り返し要請しています。日本企業が判決に応じれば請求権協定で問題が解決済みであることを自分たちで否定することになり、日本政府や企業が賠償請求の嵐にさらされるからです。とはいえ、賠償に従わなければ韓国の日本企業の資産が差し押さえられるリスクも出てきます。

 その場合、韓国の司法の不当性を国際社会にアピールするために国際司法裁判所(ICJ)に提訴することもできますが、ICJで問題を解決するには2国間の合意が必要のため、実現性は低いといわれています。こうしたなか、日韓両政府が注目するのが元徴用工の生活支援を目的とした財団を設立する韓国国内の動きです。ただ、賠償名目で日本企業が資金を出すのは難しいとされ、この財団方式で賠償請求の問題が解決するかどうかは不透明な状況です。

 この4月には、戦争賠償関連の訴訟を抱える商船三井が中国当局に貨物船を差し押さえられる事態になりました。中国政府は戦時賠償の問題とは別だとしていますが、商船三井は中国側に「供託金」を支払いました。

 いまやこの問題は日韓の外交摩擦に発展し、中国でも今後は対日圧力の一環として日本企業が訴えられるケースが急増するとみられています。請求権協定や日中共同声明によって「解決済み」と主張するだけでなく、日本政府が具体的にどのように対応していくのか、安倍政権の外交手腕が問われることになりそうです。

(真屋キヨシ/清談社)