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10年で世界有数のグルメ都市へ変貌したバスク地方

  • 森本剛史
  • 2014年4月25日

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写真:『人口18万人の街がなぜ美食世界一になれたのか』(祥伝社)、高城剛(著)、842円(税込み) 『人口18万人の街がなぜ美食世界一になれたのか』(祥伝社)、高城剛(著)、842円(税込み) 購入はこちら

写真:『スペイン 美・食の旅 バスク&ナバーラ 』(平凡社)、菅原千代志・山口純子(著)、1620円(税込み) 『スペイン 美・食の旅 バスク&ナバーラ 』(平凡社)、菅原千代志・山口純子(著)、1620円(税込み) 購入はこちら

 バスク地方と聞いて、ぱっとイメージできる人は旅行通、もしくはスペイン通だ。バスクは、ピレネー山脈をはさみフランス、スペイン両国にわたるおよそ2万平方キロメートルの地域だ。世界のどこの言語とも類似性がない独特の言語を話す人たちが住んでいる。そうそうベレー帽はバスクが発祥の地だ。

 最近、バスク(特にスペイン側)はグルメ通には注目の的。「ヌエバ・コッシーナ」(新しい料理)として世界中を席巻しているからだ。特に中心的都市のサン・セバスチャンは美食世界一の都として知られ、わずか18万人の街に、ミシュランの三つ星レストランが3店、二つ星が2店、一つ星が4店もある。さらにイギリスの世界的な飲食業界専門誌「レストラン」の「世界ベストレストラン50」のトップに2店も選ばれている。

 なぜ、サン・セバスチャンがわずか10年で世界一のグルメ都市になったのか? その奇跡を解明してくれるのが「人口18万人の街がなぜ美食世界一になれたのか」。その理由を著者は、5つ挙げている。

 まず、科学技術を駆使した「分子料理法」。料理を学問としてとらえ、あらゆる料理は物理化学の式で表せるとした。この料理法が画期的だったのは、これまで単なる経験則であった料理を科学的に検討し、よりおいしいものを追求したこと。だから新しいメニューは料理研究室で白衣を着た科学者が開発しているのだ。

 2番目に、各シェフがレシピを公開し、シェフたちがそれを共有する。サン・セバスチャンの料理人たちは、自分の技や、どこかで習得した技術、新しい技術をお互いに教え合うことから始めたという。この街のレストランのクオリティーが急速に上がった秘密がここにある。

 3番目に、「バスク・クリナリー・センター」と呼ばれる、世界でも珍しい4年生の料理大学が誕生したこと。先進的な料理研究ならここという名声が高まっている。1999年、世界初の料理学会もこの街で誕生した。

 4番目に、料理人の社会的地位の向上。今やシェフはサッカー選手と並ぶスター的存在になり、若者の憧れの職業となっている。

 5番目に、伝統的な「美食倶楽部」の存在。バスクには、「美食倶楽部」という男性だけのクラブがある。クラブハウスで仲間と料理を作り、それを楽しむという会だが、入会資格や会則は厳しい。サン・セバスチャンには100を超える「美食倶楽部」が点在しているという。街の男たちが、このクラブでみんな1日シェフになるのだ。こういった伝統文化がバスクの料理文化を支えているのだろう。

 バスク料理の入門書としては「スペイン 美・食の旅 バスク&ナバーラ」(菅原千代志・山口純子著、平凡社、1500円)がいい。

 高城さんの著書のビジュアル版といった趣だ。おいしいいバスク料理の写真を始め、謎の集団「美食倶楽部」の紹介もある。

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『人口18万人の街がなぜ美食世界一になれたのか』(祥伝社)
高城剛(著)
842円(税込み)

『スペイン 美・食の旅 バスク&ナバーラ 』(平凡社)
菅原千代志・山口純子(著)
1620円(税込み)

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PROFILE

森本剛史(もりもと・たけし)

30年以上、旅行ライターとして活躍していた。訪れた国は100カ国以上。制作したガイドブックは22冊。執筆した旅行記事は無数。代官山 蔦屋書店の開業時に還暦を過ぎてから書店員に転職。代官山 蔦屋書店の旅行コンシェルジュを務めている。


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