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2014年4月22日(火)

新企画 2014とくほう・特報

靖国と安倍首相の歴史観

日本外交「瀕死に」

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 安倍晋三首相が靖国神社の「春の例大祭」にあわせ、神事に使う真榊(まさかき)を「内閣総理大臣」の肩書で奉納しました。昨年末、自身の靖国神社参拝で巻き起こった国際的な批判に対して無反省な姿勢を示したものです。閣僚も相次いで参拝しています。安倍首相の歴史観と、それにもとづく行動は日本に何をもたらすのか―。 (政治部政党取材班)


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米国が戦後初めて疑い始めた

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(写真)靖国神社と安倍首相が奉納した真榊、そして首相の参拝風景。そこからみえるものは…

 「首相が靖国神社にいったこと自体衝撃だったが、その後、日本会議(注)の人たちが『よくやった』『行くとしたらあそこしかなかった』などと、あたかも毎年行くという雰囲気だ。年が明けて、(『慰安婦』問題での)『河野談話』見直しの話が出てきて、プロセスを検証するという言い方になった。その後、NHK会長らの一連の発言。アメリカは、戦後初めて日本の指導部が一体何を考え始めたのかという深刻な疑いを持ち始めている」

 元外務省高官は、安倍首相が靖国参拝した後の日米関係についてこうのべます。

 別の大使経験者は、「安倍首相の靖国参拝は数え切れないマイナスの打撃を日本外交に与えた。もし、もう一度行けば日本外交は死ぬとは言わないが、まさに瀕死(ひんし)の状態に追い込まれるという事案だ」と指摘します。

 昨年末の首相の靖国参拝に対し、米政府が「失望した」と公式表明したほか、中国・韓国・ロシア・欧州連合(EU)など世界中が異例の批判をしました。ところが安倍首相に反省のそぶりはみられません。

 それどころか、衛藤晟一(せいいち)首相補佐官から「米国は失望したと言ったが、むしろわれわれの方が失望した」(2月)と“反発”する発言が飛び出しました。安倍政権と結びつきの深いNHK経営委員やNHK会長は「南京大虐殺はなかった」「自虐思想は東京裁判のせい」「『慰安婦』問題はどこの国でもあった」などの妄言を繰り返し、政権は「個人的な発言」としてかばい続けています。

側近の言動 首相の本心と思われる

 自民、民主、維新、みんなの党などの国会議員でつくる「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」は毎年、春と秋の「例大祭」と終戦記念日にあわせて集団参拝しています。参拝する国会議員は第1次安倍政権の2007年でも39人、民主党政権の12年が81人でした。これが第2次安倍政権となり、昨年は168人と急増しています。

 今年は22日に靖国参拝の予定。閣僚は新藤義孝総務相(12日)、古屋圭司国家公安委員長(20日)の2人がすでに参拝しています。

 こうした動きに米側が反応します。今年2月20日、米議会調査局の日米関係報告書は「歴史問題に関する安倍首相と安倍内閣の発言や行動は、日本政府は米国の利益に害をなすような形で地域関係を損なうのではないかとの懸念を生んでいる」と指摘しました。

 4月11日、都内で行われた講演で、日本政治に詳しいジェラルド・カーティス米コロンビア大学教授は、米国の苛(いら)立ちを代弁するように発言しました。

 「歴史問題について、安倍首相の側近や友だちと称する人たちの発言によって、(日本は)歴史を美化している、弁解しているという印象を与えている。一人でも“とんでもないことを言ってくれた”とクビにすれば、随分すっきりすると思うが、個人的な立場で言っていることだからと否定しない。彼らは安倍首相の本心を話しているというふうに思われても無理はない」

 歴史学の吉田裕・一橋大学大学院教授は、「安倍内閣になって一番の特徴は、靖国問題が中韓だけでなく米国に波及していることだ。米国の極東戦略にマイナスだという判断をかなりはっきり打ち出している」と指摘します。

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参拝した歴代首相との違いも

 米国も外交専門家も、このまま安倍政権の姿勢が続けば“日本外交の死”という事態を招きかねないと警告するのはなぜか。

 吉田氏は「A級戦犯などを裁いた東京裁判の判決の受諾を前提に、日本は国際社会に復帰しました。米国は賠償請求の放棄などの一方で、親米的な保守政権をつくることに動くわけですが、その最小限度の前提すら崩すとなると、戦後の国際社会の出発点を否定することになります。いまのままでは、国際的に孤立していくだけです」と言います。

 安倍首相には、これまで靖国参拝した首相との違いもあります。

 「小泉元首相は、終戦記念日の戦没者追悼式での式辞で加害の事実に言及していたし、日本共産党の志位和夫委員長の質問に、靖国神社・遊就館の歴史観はとらないと答えるなど、一応のけじめが最低限あった。中曽根元首相も講演では侵略戦争だったと発言し、A級戦犯合祀(ごうし)にも反対するようになった。しかし、安倍首相は戦争に対する反省の言動がない。終戦記念日の式辞からも加害の事実を取り払って完全に内向きになった。そのなかでの靖国参拝というのが大きい」

 吉田氏の指摘です。

元外務省高官 反知性主義と警告

 「グローバルな時代にあって『日本のことしか知らない』“ガラパゴス人間”では、話になりません。いかなる行政分野にあっても、広く世界と交わりながら最善の判断をしてほしい」

 4月2日、国家公務員合同初任研修開講式で、こうのべたのは、安倍首相です。しかし、肝心の安倍首相自身が世界の批判をわかっているのか―。

 大使経験者は、「安倍首相がもう一度参拝すれば政権は終わりになるくらいのインパクトを与える。通常はもう二度と行くことはないといわれているが、相変わらず百パーセントの払拭(ふっしょく)はできない」と指摘します。

 それどころか、終戦から70年となる来年8月には新たな「首相談話」を発する計画があるとされます。元外務省高官は、「歴史認識というなら、原点は『村山談話』だ。そこを踏み外せば、世界に対するアピールはゼロで、次の日には忘れられる。日本のなかでも日本会議の人たちの中だけで通用するものでしかない。反知性主義を証明するだけだ」と警告します。


 靖国神社 1869年、戊辰(ぼしん)戦争で戦死した軍人をまつるため創建された「東京招魂(しょうこん)社」が前身。旧陸軍省・海軍省が所管し、「死んだら靖国で会おう」が合言葉とされたように、侵略戦争に国民を動員する軍事的宗教施設でした。天皇も参拝するときは大元帥(だいげんすい)服でした。戦後は、「自存自衛のやむをえない戦争だった」「アジア解放のためだった」などと侵略戦争を美化する宣伝センターの役割を果たしています。1978年に太平洋戦争開戦時の首相・東条英機ら侵略戦争を指導したA級戦犯を合祀(ごうし)。付属の軍事博物館「遊就(ゆうしゅう)館」では、「近代史の真実」を学ぶと称して「自存自衛」論にもとづく展示をしています。

 日本会議 1997年に「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」が合流してつくられた右翼改憲団体の総本山(そうほんざん)。侵略戦争を美化・肯定する“靖国派”と称すべき歴史観を基本に、改憲と愛国心教育を掲げています。衛藤晟一(えとう・せいいち)首相補佐官が幹事長を務める「日本会議国会議員懇談会」と一体の関係にあります。


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