京都大学の中辻憲夫教授らは日産化学工業と共同で、体の様々な細胞になるiPS細胞を大量に増やす新しい培養法を開発した。従来の10分の1のコストで治療に使う量のiPS細胞を確保できる。現状のままだと1千万~2千万円かかるとされる再生医療の治療費を、先進医療並みの数百万円に引き下げられる。今後、富士フイルムやニプロなどが参加、5年後を目標に実用化する。
研究成果は米科学誌「ステム・セル・リポーツ(電子版)」に25日掲載される。
新手法は日産化学が持つ特殊な物質を培養液に加えて細胞が沈殿しないようにし、さらにナイロンの膜で細胞の塊をこすようにして小さくする。こうすると細胞がバラバラになり増えやすくなる。実験では0.2リットルの培養液にiPS細胞を5日間浸すと、1億個になった。
今後の実用化研究では数リットル規模の培養タンクなどを富士フイルムが中心になって開発。治療費のうち大きな割合を占める培養コストを従来手法の約1割に抑える。
京都大の山中伸弥教授が開発したiPS細胞を使った世界初の再生医療が、今夏にも神戸の病院で始まる。目の難病が対象で、この臨床研究だと患者1人当たり数万個の細胞で足り、従来の培養法で問題がなかった。
ただ、神経の難病や脊髄損傷、肝不全などを治療するには、10億個以上を確保しなければならない。今回の培養法が実用化すれば、再生医療が対象とするあらゆる病気に対応が可能になる。2020年以降の再生医療の普及に弾みがつく。
安倍政権は再生医療を成長戦略の柱に据える。今回の培養法については経済産業省が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて14年度に数億円の研究費を支援、実用化を後押しする。
iPS細胞を使った再生医療では、味の素が16年から培養液の販売を始める予定。富士フイルムは再生医療を抗がん剤開発などと並ぶ重点分野と位置付ける。今後、大手企業の参入が相次ぎそうだ。
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