食品添加物基礎講座(33)
食品添加物に関わる規格・基準(その9)
消費期限と賞味期限の表示
前回は、食品の表示におけるちょっとしたミスを実例で見てみた。それらの例に見られたように、多くの場合はもう少し気をつければ問題にならないものである。食品での表示は、法的に義務づけられているから、考えることなく実施するというものではなく、消費者、則ち購買者の判断の一助にしてもらうという見地で、読みやすく、判りやすい表示に努めることが望まれる。
この表示の一つである期限に関しては、一昨年からさまざまな問題が発生している。今回はこの期限表示について見直すことにしよう。
 
消費期限と賞味期限
既に事例でも見てきたように、期限の表示には消費期限と賞味期限がある。この2種類の用語は、次のように定義されている。
消費期限:
定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。
(食品衛生法施行規則第 21条第1項ロ)
(加工食品品質表示基準 第2条)

賞味期限:
定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を越えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。
(食品衛生法施行規則第 21条第1項ロ)
(加工食品品質表示基準 第2条)
 
ここに示したように、厚生労働省管轄の食品衛生法に基づく定義と、農林水産省管轄のJAS法(農林物質の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)に基づく定義は全く同じである。
この定義は、2003年(平成15年)の食品安全基本法の施行に合わせて両法が改正されるに当たって、整合化を図る目的で協議の上定められたものである。これ以前、1996年(平成8年)以降、食品衛生法の下、食品衛生法施行規則で、次のように定められていた(旧第5条)。
消費期限:
(定められた方法により保存した場合において品質が急速に劣化しやすい食品又は添加物に使用する)
定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴う衛生上の危害が発生するおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。

品質保持期限:
(その他の食品又は添加物に使用する)
定められた方法により保存した場合において、食品又は添加物のすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。
 
この規定により、期限に関する表示をする際に、品質保持期限にあっては同様の意味を持つ用語を使用することもできるとされ、このため、後述するように「賞味期限」という用語も使われてきた。
この期限表示のうち、消費期限で表示する「品質が急速に劣化する」とは、おおむね5日間以内に品質が劣化することを意味すると説明されてきており、この概念は現在も踏襲されている。
 
ところで、これまでの両省の検査・取締り等における取り組みには、いくらか違いがあるように感じられる。これは、かつて「賞味期間」という表示で、表示が義務づけられていたJAS規格(日本農林規格)の食品があったことも、一因となっていよう。この賞味期間は、次のように説明されていた。
賞味期間:
容器包装の開かれていない製品が、表示された保存方法に従って保存された場合に、その食味や品質特性を十分に保持しうると製造業者が決めた期間
 
この賞味期間という用語が、JAS規格食品以外でもさまざまな食品で使用されていたことから、これらの食品では、期限表示が義務づけられたとき、そのまま賞味期限に変更したものが多かった。
また、賞味期間については、「おいしく食べられる期間」という説明がなされていた。このことが、消費者だけではなく、農林水産省系の検査官にも根強く意識され、「賞味期限」を「おいしく食べることができる期限」と誤解するもとになったようである。このため、検査や取締りに際して、賞味期限を過ぎた食品を食べられないものとするかのような説明が行われることがあったものと考えられる。
このことは、法で決める用語の持つイメージは、簡単には変わらないことに注意を払うべきであろう。もし、この点を考慮して食品衛生法で使うこととされた新たな用語である「品質保持期限」に統一されていたなら、新たなイメージを与えることができた可能性がある。
 
製造年月日の表示
市販されている加工食品では、期限表示の他に製造年月日が表示されているものも見受けられる。
1995年の食品衛生法の改正(1996年施行)に伴い製造年月日の表示から、期限表示に改正され、製造年月日は各メーカーの自主的な表示となっている。
 
このことは、両省が共同で作成した期限表示のパンフレット「知っていますか食品の期限表示?」(平成20年版・農林水産省消費・安全局表示・規格課、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課 共編)に、トピックスとして次のように説明されている。
どうして製造年月日を表示していないの?
それは、
 @ 食品規格との調和(包装食品の表示に関するコーデックス
   一般規格)
 A 保存技術の進歩により食品を見ただけではいつまで日持ち
   するかわからない
 B 製造年月日の表示が返品や廃棄を増大させている
  という理由から、平成7年(1995年)に製造年月日表示から期  限表示に変わりました。
 
このように説明されているにもかかわらず、農林水産省では、製造年月日の表示を奨励しているかのように見受けられる場合がある。この点には再考が求められる。
 
この後、期限表示の実例を用いて説明しよう。
 
食品表示の事例−9
品名/がんも 原材料名/丸大豆(遺伝子組み換えでない)、食用植物油、人参、ごぼう、わかめ、しいたけ、山芋、ごま、凝固剤(塩化マグネシウム) 内容量/2枚
消費期限/表面記載 保存方法/要冷蔵(10℃以下)
製造者/株式会社 ○○○○○
茨城県××市△△2761-1
お客様ダイヤル(省略)
脇に消費期限を印字
 消費期限 08.4.13
 
これは、2個入りの「がんもどき」である。
一括表示事項は印刷されており、期限表示(消費期限)に関しては別の箇所に印字されている。
この例のように、別の箇所に表示する場合は、「消費期限」あるいは「賞味期限」の文字とともに表示することとされている。
とみろで、弁当類のように、消費期限が極めて短い場合には、時間まで表示することが指導されている。
この指導に基づいて、次のように表示されている例もある。
 
食品表示の事例−10
名 称 寿 司
品 名 ○○
原材料 米、酢、砂糖、錦糸玉子、椎茸、焼穴子
厚焼玉子、メキシコ海老、はも焼き身、鯛、昆布、きくらげ、海老
そぼろ、三つ葉、焼海苔、生姜、車海老
[原材料の一部に玉子、醤油(由来小麦、大豆)を含む
保存方法 直射日光を避け20℃以下で保存
消費期限(年月日)   時間
  08.4.18     24:00
売場名  ジェイアール京都伊勢丹
    京都市下京区烏丸通塩小路下ル
    東塩小路町901
製造者名 梶宦宦寰し
 
また、次のように、調製あるいは製造した時刻を印字している事例
もある。
食品表示の事例−11
商品名:深川めし
消費期限 2008.04.14 17時04分
調製   2008.04.14 04時04分
品名:弁当 原材料名:あさり炊き込み飯、煮物(筍、
蓮根、人参、その他)、穴子蒲焼、はぜ甘露煮、小茄子漬、べっ
ら漬、海苔、植物油、酢、調味料(アミノ酸等)、pH調整剤、酸
料、V.B1、酸化防止剤(V.C)、漂白剤(次亜硫酸Na)、保存
(ソルビン酸K)、酒精、増粘多糖類、乳酸Ca、リン酸塩(Na)
カラメル色素、ミョウバン、香料、(原材料の一部に小麦、乳成

大豆を含む)
内容量:1人前 消費期限:上記表記
保存方法:25℃以下
製造者:梶宦宦
   東京都○○区×××7−48−1
 
この事例のうち、事例10の持ち帰り弁当のメーカーでは、日持ちは調整後4時間であることを販売時に説明しているとのことである。また、事例11の駅弁は、調製時刻が印字されていることから、日持ちを10時間に設定しているものと考えられる。
これらの弁当類における消費期限の規定は、それぞれのメーカーが、自社の経験とデータを参考にして、ある程度の余裕をもって、設定しているものと考えられる。
 
次の事例は、消費期限までが極めて短時間というわけてはないが、製造年月日が表示されている例である。
 
食品表示の事例−12
名称 フランスパン 値段 ○○○円
小麦粉,塩,パン酵母,大麦麦芽,乳化剤,V.C
消費期限 08.4.10
製造年月日 18.4.8           内容量 1本
保存方法 直射日光,高温多湿を避け保存下さい
製造元 梶宦宦宦宦@東京工場
東京都八王子市○○○1−11−22 TEL(省略)
 
この事例における製造年月日の表示は、先に説明したように不必要なものであるが、近年見受ける機会が増えているものである。
 
賞味期限の特例
期限表示は、期限となる年月日を表示することが原則となっているが、賞味期限が3か月を超える場合は、年月だけの表示が許されている。
これは、次の規定によるものである。
第1項題号の規定にかかわらず、製造又は加工の日から賞味期限までの期間が3月を超える場合にあっては、賞味期限である旨の冠したその年月の表示をもって賞味期限である旨の文字を冠した年月日の表示に代えることができる。
          (食品衛生法施行規則第21条第3項)
 
この規定にそう表示が行われている例は多くはないが、次の事例のようなものがある。
 
食品表示の事例−13
<名称>本みりん         エキス分45度以上
<原材料名>     アルコール分12.5度以上13.5度未満
もち米・醸造アルコール・糖類
<賞味期限(年月)>
       2008.10
       KKB/D
・お客様相談室TEL.(省略)
○酒造株式会社
京都市○○区××町××
 製造所固有記号は賞味期限下段右に記載
 
このような年月による期限の表示は、醤油や酒類でも行われている。
 
牛乳等における期限表示
牛乳などの乳製品に関しては、「乳等省令」と略称されている「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に、成分に関する規格などと共に、表示に関しても規定されている。この中で、期限に関する規定もある。その内容は食品衛生法施行規則の規定にそったものである。
この乳等省令による表示の規定で特徴的なものに、乳脂肪分と無脂乳固形分の表示、牛乳における殺菌方法の表示などがある。
これらの表示を含めて牛乳における表示の事例を示す。ここに示すように、市販されている牛乳などでは、次に示す例のように、消費期限が表示されているものと賞味期限が表示されているものがある。
なお、今回示す牛乳の事例は、一つの店舗(食品スーパー)で、4月20日夕刻時点で販売されていたものである。
 
食品表示の事例−14
  14−a 14−b
種類別名称
商品名
無脂乳固形分
乳脂肪分
原材料名
殺菌
内容量
消費期限
賞味期限
保存方法

開封後の取扱



製造所所在地

製造者
 
牛乳
○○低温殺菌牛乳
8.4%以上
3.6%以上
生乳100%
66℃・30分間
500ml
上部に記載
―――
要冷蔵(10℃以下で保存)
開封後は消費期限にかかわらず10℃以下で保存し、お早めにお召し上がりください。
岩手県○○郡××町○○−○○−1
○○乳業株式会社岩手工場
牛乳
○○牛乳
8.3%以上
3.5%以上
生乳100%
130℃2秒間
200ml
―――
上部に記載
要冷蔵10℃以下

開封後は、賞味期限にかかわらず、できるだけお早めにお飲みください。
神奈川県○○市
××○−○○−1
日本○○
○○工場
上部での表示
 
消費期限
08. 4.25
08. 4.27
FFA
 
20日の時点で、5日後の日付のものは消費期限、7日後のものは賞味期限で表示されている。なお、14−aの低温殺菌のものは、24日期限の表示のものも売り場に残されていた。別の牛乳では、5月1日期限のもの(130℃2秒殺菌)があり、さらには、室温保存可能で1月以上先の5月26日を期限とするもの(140℃2秒殺菌)があった。
なお、牛乳メーカーでは、低温殺菌の牛乳は消費期限で表示し、高温殺菌の牛乳は賞味期限で表示しているとのこと出ある。
しかし、上述したように、賞味期限の表示ということでは同じでも販売されている期間にはある程度の差が出ている。メーカー毎に、データを基に適切な期限の設定基準を採用しているものと考えられる。
なお、乳製品のうち、冷凍で流通し、家庭でも冷凍で保存されるアイスクリーム類については、期限の表示を免除する規定が定められている。
‥(前略)‥、アイスクリーム類にあっては、期限及びその保存の方法を省略することができる。
(乳等省令 第7条第6項)
 
なお、牛乳など「乳」では、密栓されている場合は、賞味期限などの文字を冠することなく、年月日の表示だけでも良いことも定められている。したがって、事例14−bの表示方法も適法である。
 
食品添加物の期限表示
化学的に合成された物質が多かった食品添加物に関しても、一般的に品質が長期間保持されることから、次のように、期限に関する表示を省略することが認められている。
第1項第1号の規定にかかわらず、別表第3号第2項の食品、…(中略)…及び同表第14号に掲げる添加物にあっては、消費期限又は賞味期限である旨の文字を冠したその年月日(以下「期限」という。)及びその保存方法(法第11条第1項の規定により保存の方法が定められた食品又は添加物にあっては期限の表示)を省略することができる。
        (食品衛生法施行規則第21条第4項)
 
このように、省略が認められているが、近年はユーザーの要望により表示されているものが多い。
ただし、食品添加物に「賞味」という語感がそぐわない場合も多く、メーカーでは表示方法に苦慮している模様である。中には、期限の表示は省略し、品質保持期間、品質保証期間等として表示したり、ロット番号で期限を読みとることができるよう工夫するメーカーもある。
なお、天然物を基原とする、既存添加物等のいわゆる天然添加物では、その特性上日持ちの短いものもある。このような食品添加物に関しては、省略規定にかかわらず、期限の表示を積極的に行うよう、業界団体である日本食品添加物協会でも勧めている。
 
期限に関する表示は、食品の実態に合う形で、年月だけの簡略化や省略等の規定が設けられている場合もあるが、多くの場合年月日で表示されている。
この期限に関する表示で、期限を過ぎた後の食品の安全性に関しては、消費期限と賞味期限で意味が異なっている。消費者や原材料として食品を扱う食品メーカーでは、この点を充分に理解して対応する必要がある。
一方、期限に関する表示を行うメーカーには、充分な根拠をもって期限を設定する事が求めらる。
 
(この項 了)