今回の事故をきっかけに、海洋水産部とその傘下にある団体や海運業界との癒着によるいわゆる「海洋水産部マフィアカルテル」に関する証言も次々と出始めている。船舶の監督業務を行う韓国海運組合の運航管理者は、船舶の出港前にその船が貨物を過積載していないかチェックを行うが、チェックとはいっても実際はオフィスから双眼鏡を使って目視するだけで終わりだという。海洋水産部の職員は3500人に達するが、その職員たちは皆、このような実態を知っていたはずだ。このようにずさんな監督業務について海洋水産部内で誰一人として問題視しなかったのを見ると、自らの職務を本当に果たしていた人間は同部内に一人もいなかったことになるのではないか。
管轄部処の人間が自分の職務に取り組んでいなければ、それを監視し尻をたたくのは監査院の仕事だ。しかし監査院が海運業界で長く続く病弊にメスを入れたという話は聞いたことがない。また地元の検察や警察も、海運会社の運営の実態についてはよく把握できる立場にある。もし実態を把握できずにこれまで手をこまねいていたのであれば、その地域で汚職を摘発する機能が失われていたことになる。今回の事故発生後、業界の内部事情について専門家の間からさまざまな指摘や証言が相次いでいるが、彼らの専門的な知識も、安全を度外視してきた海運業界の異常な経営の実態を正すことはできなかった。清海鎮海運の船員や一般職員も事故が発生した後になって「いつも不安を感じていた」などと語り始めている。自分の所属する組織に対して内部から果敢に改善を目指すとか、それが駄目なら社会に告発するといった風土も考えもなかったわけだ。要するに今回の事故が起こるまで会社内部はもちろん、海運業界の安全対策を監視する業界団体、海洋水産部、検察や警察、監査院など、どこも業界内の異常な慣行や汚職をけん制・監視する矯正機能が働かなかったのだ。
原子力発電に使用される制御ケーブルの試験結果改ざん問題が表面化したのは昨年5月だった。この問題をきっかけに原子力安全委員会は関連する試験結果の報告書について全数調査を行ったが、それによると部品では2114件、機器では62件の改ざんが確認された。原子力発電分野では業界関係者の告発によってこれだけの問題が表面化したわけだが、おそらく海運業界でもさほど事情は変わらないはずだ。また原子力や海運以外でも、監視や修正の機能が働かず、何かをきっかけに問題が一気に表面化しかねない業界は幾つもあるはずだ。どこにいても国民が心から安心できないのがこの国の実態なのだ。
現在、韓国は社会の問題を自ら修正し、これを補う能力を備えているかどうかが試されている。今後も自然災害であれ人災であれ、思いがけない時に予測もしていなかった分野や業界でいつ大惨事が発生するか分からない。そのためもし万一本当に事故が起こったとしても、国家と国民にとって最低限の被害で終わらせることができるよう、普段目に見えない安全上の問題点を一日も早く見つけ出し常に改善を進めていかねばならない。今回のセウォル号沈没事故を、韓国が安全面で一段階成長する絶好の機会として生かすことができれば、若い高校生たちを含む多くの人の犠牲は決して無駄にはならないはずだ。