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Kickstarter というサービスがある。一言でいうと、クリエーターの活動のための資金調達を支援するサービスだ。「資金調達」と書いたが、Kickstarter が提供するのは、投資や融資を多くの人から募るサービスではない。ホームページには、「新しい形の商取引や後援 (new form of commerce and patronage)」を提供するサービスだと記されている。
普通に考えると、商取引と後援。顧客視点の言葉で言い換えると、購入と寄付は対極にある概念だと思われる。購入は対価を支払って、商品なりサービスなりを受け取ることであり、寄付は、活動を支援するために見返りを求めない行為だというのが一般的な考え方ではないだろうか。しかし、Kickstarter では、「and」でつながれているとおり、それが同列に並べられている。これはどういうことだろうか？この疑問を導きの糸として、購入と寄付の違い、あるいは、その類似点について考えてみたい。
Kickstarter 上のプロジェクト例
Kickstarter には、実に 5,000 ものプロジェクトが登録されている。その総額は 1,50万ドル（約1.2億円）に上るという。その中から、まず、Diaspora の例を取り上げて、少々詳しく見てみよう。
Diaspora は、ご存知の方も多いかもしれないが、Facebook の対抗馬と目されているオープンソースの SNS である。9/15にオープンソース化が発表されており、アルファリリースは 10月くらいだという。※参照：Diaspora: コードのオープンソース化が9月15日, アルファバージョンの公開が10月（Tech Crunch JAPAN）
Diaspora は、Kickstarter で、１万ドルを目標に後援者を募り、6,479人から 200,642ドル（約1,700万円）の資金を集めた。
注目したいのは、資金提供者への「見返り」である。ちなみに、「見返り」は、Kickstarter では、PLEDGE（誓約）と表現されている。これは、購入なのか寄付なのかを考えるときに気になる表現だが、ひとまず、その内容を見てみよう。Kickstarter の Diaspora のページに一覧があるが、資金提供した金額によって、８段階に分かれている。基本的に、上の段階は下の段階の PLEDGE（誓約）を含んでいるようだ。
※参照：Decentralize the web with Diaspora
もうひとつだけ例をあげる。バッグやカードケース、コースターなどの革製品に写真をプリントする製品を提供している Lumi という会社だ。ここは、やはり 1.2万ドルを目標に後援者を募り、188人から 13,597ドル（約114万円）の資金を集めている。PLEDGE（誓約）の内容をみると、少額の場合は自社製品のクーポンなどだが、金額が増えるにつれカードケースやコースター、バッグなど提供される自社製品のグレードがあがったり、カスタマイズ付きとなったりしていく。
注意すべきは、ローンチパーティへの招待などもあるが、基本的には自社製品の提供となっていることだ。
※参照：Lumi Co. - A NEW TEXTILE PRINTING TECHNOLOGY
これ以外にも多数登録されているが、興味のある方は、BusinessWeek で特集が組まれていたので、そちらも見て欲しい。
※参照：Eight Companies Kick-Started by Fans（BusinessWeek）
「見返り」をどう捉えるか
これらの例を見てみると、Kickstarter の特徴は、大きく２つあると考えられる。
（１）プロジェクトに対して、多数の人が（比較的）少額の資金提供を行うこと
（２）資金提供者への「見返り」が、PLEDGE（誓約）という形で製品やサービスの提供となっていること
（１）から思い出されるのは、多数の人による投資や融資、寄付などによるプロジェクトの支援だ。それぞれ、既にサービス化されている。
投資は、元本保証なしの配当という形で資金を返還してもらうことを「見返り」とした資金提供だ。（１）の特徴をもちつつ、これを実現しているのは、ミュージックセキュリティーズ が提供している各種ファンドがある。
次に、融資は金利という形で提供した資金に対して「見返り」をもらう資金提供のスタイルである。同様に、この種のサービスは、海外では Kiva（日本語サイト）、国内では、 maneo や AQUSH などがある。この形態については、以前、コラムでも書いたのでそちらも参照して欲しい。
投資と融資に共通しているのは、いずれも「見返り」が金銭であることだ。資金提供者からすれば、金銭を増やすということが資金提供の動機となる。
それに対して、寄付は「見返り」を求めないとされている。あるいは、応援したという満足感や継続して得られる活動に関する情報がその「見返り」と言えるだろう。（１）の特徴をもちつつ、これを実現しているサービスには、コペルニク や GiveOne がある。
（２）だけを素直に捉えると、これは、通常の製品やサービスの販売に外ならない。つまり、製品やサービスを購入するために顧客は支払いを行う。製品／サービスの提供者側は、その支払われた金額をもとに、事業を継続することができる。言い換えると、製品やサービスを「見返り」として資金提供が行われていることになる。
これらの既存のサービスと Kickstarter の違いは、繰り返しになるが、（１）と（２）を同時に実現していることだ。それが「商取引と後援」あるいは「購入と寄付」を併記する意味になる。Kickstarter が提供している場は、それ上のプロジェクトへの資金提供者にとって、そのプロジェクトのアウトプットを（ある程度の範囲で）享受できるという意味で「購入」であり、とはいえ、その享受の対価という意味だけでなく、そのプロジェクトを応援するという意味で「寄付」であることになる。PLEDGE（誓約）という表現がその間をつないでいる。製品／サービスがそれを購入した顧客に対する提供者側の約束を提供するように、寄付も寄付してくれた人たちに対して、その活動の実行を約束するものである。これを包括的に言い表すために PLEDGE（誓約）という表現が使われているように思える。
このように見てくると、「購入」と「寄付」の境界線は、意外に明確ではなく、その違いはさほど大きくないように思えてくるのだが、いかがだろうか？
このモデルが可能になる条件
もう一歩だけ進んでみよう。いままで、なぜ購入と寄付は全く違うものと見えていたのだろうか。あるいは、なぜ Kickstarter ではその距離が問題にならないのだろうか。
この理由は、ネットの特性に帰着させることができるように思える。つまり、ネットというメディアを使うことで、プロジェクトの主体と資金提供者（購入者＝後援者）をダイレクトにつなぐことが可能になったということである。
スーパーで農作物を購入する場合、家電量販店で電化製品を購入する場合、あるいは、書店で書籍を購入する場合、いずれも、その商品の製作者／生産者と購入する人の間には、複数の中間業者が存在する。そのため、購入することが直接商品の製作／生産を支援していると感じることはほとんどない。われわれは、スーパーからキャベツを購入するのであり、キャベツを生産した農家から購入しているとは考えにくい。もちろん、最近は、産地や生産農家が明示されている場合も多いので、徐々に意識は変わりつつあるとも言えるが、まだまだ総じて薄いと言って良いだろう。これは電化製品でも書籍でも同じことが言える。
しかし、それを直接つなぐことができる手段がインターネットというメディアには存在する。しかも、これまで生産側のカスタマーサービスなどで実施されてきた１対１ではなく、ソーシャルメディアという形で、直接的に多数の参加を促せる仕組みが整ってきた。これが、（１）と（２）を同時に実現するような Kickstarter のモデルが可能になる条件を形成したといえる。つまり、プロジェクトのオーナーが、直接、資金提供者に語りかけてコミュニケーションをとることが出来る仕組みである。
最後に、Kickstarter が投資や融資という仕組みを取らない理由を考えてこのコラムを終わりたい。それは、クリエイティブなプロジェクトを支援したいという Kickstarter のターゲットに理由がある。上記のとおり、投資や融資は金銭的な「見返り」を前提としてしまうため、その金銭的な成果が重視されやすい。どんなに良いものを作っても、金銭に変換できなければ失望を与えてしまうことになる。おそらく、それを避けるためのスタンスが Kickstarter にはあると思われる。
しかし、これは程度問題と考えることもできる。投資、融資、寄付、購入のいずれにしても、製品／サービスを提供するためのプロジェクトに対する資金提供の一形態であることには変わりがない。どの形態で資金提供するにしろ、資金提供者には、納得した上で資金提供するということが要求されるのであり、以前より増して、その納得するための選択肢と材料は手に入りやすい環境が整ってきているのである。
このように考えてくると、様々な製品／サービスの提供形態あるいは事業の維持の仕方があって良いし、これから様々なモデルが試されることになるんじゃないだろうか。そんな気になってくる。
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