NHK短歌 題「歩く」 2014.04.20

ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第三週の選者永田和宏さんです。
今日もよろしくお願い致します。
また今年度もどうぞよろしくお願い致します。
さて冒頭の今日の一首は河野さんのご病気が分かった頃の歌ですか?そうですね。
がんが分かった時間もなくの歌で僕が先に死ぬのがうちの約束事みたいなものだったのでそれが急に逆転するというのでちょっと慌ててしまった。
あんまり手をつないだりする事なかったんですが彼女のポケットに手を入れて歩いていたという歌で今日の「歩く」という題で歌を募集しているのでこの歌を出してみました。
はい選者の一首でした。
それでは今日お迎えしたゲストをご紹介致します。
神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャーの平尾誠二さんをお迎え致しました。
ようこそお越し下さいました。
どうもよろしくお願いします。
平尾さんといえばご紹介するまでもございません。
日本選手権7連覇など輝かしい記録をお持ちで日本代表の選手としてまた監督としてもご活躍中です。
日本ラグビー界を牽引してきた方なのですが短歌の番組にお招きしまた永田さんとどういうご交流があるのかちょっと不思議なんですがどういう事でしょうか?知人を介して知り合ったんですがその後京都という縁もありまして時々食事させてもらってます。
永田さん。
ほんとに会うと面白いので…。
ちょっとかっこよすぎるんですね彼はね。
さてそういうご交流のあるお二人ですが平尾さんこの番組にご出演して頂く方には短歌にまつわるキーワードをお考え頂いてるんですが平尾さんはどんな言葉になりますか?今日は永田さんにちなんで「ワイン」というのを。
ワインのお話…永田さんに因んで…これはもしかして?酔っ払いの話です。
酔っ払った話とかそこで何か変な短歌が生まれたとかあるんでしょうか?どんなお話になりますか後半よろしくお願いします。
楽しみにしております。
それでは今週の入選歌のご紹介でございますが題が「歩く」または自由でした。
永田和宏選入選九首です。
一首目。
世代によっては遠足なんて言葉はなくて全て行軍だったと。
食も持たないで水も持たないでとにかく歩かされた。
遠足なんてこんな贅沢なものはなかったよというそういう世代の歌だと思いますね。
「僕等の戦争」という結句その事全てが戦争にまつわる事だったというつらい記憶を歌った歌で我々直接経験しない人間にもよく分かる歌ですね。
では二首目です。
平尾さんこの歌どう読まれました?これね「きみの抜け殻」という意味がいまいち僕なりには読み取れなかったんですが永田さんにお聞きしたいです。
僕もよく分からないです。
でもね何となくとにかく若い作者でしょう多分ね。
その辺にあるようなものはあんまり見たくないと。
この世にありえないものを今は探したい時期なんだと。
それが恋の思いとつながってきみそのものじゃなくてきみの抜け殻を探したい。
まあ失恋の歌かも分かんないけどとにかくきみそのものよりもきみの抜け殻を探したいというところが若くて面白いですね。
それでは三首目です。
さあ平尾さんこの歌はどう読まれますか?これね「歩幅もせばまりて」というので年老いた事を感じさせるというかまさしくそうだなと思いますね。
僕も母が結構な年になりましたので時々会うと歩幅の違いというかどっちかというと元気よくなくなってくるわけですよね。
小さくなっていますからそういうもので母の老い具合を感じ取ったりしますからね。
うまく表現されてるなと思いました。
歩幅に注目されておりますね。
歩幅の歌が多かったんですけど今おっしゃったようにだんだん歩幅が狭まっていくのが感じられるというところにしかも姑というのは旦那さんのお母さんという事でしょうね。
年を取っていくのを若干客観的に見られる立場にいるという。
実際に歩いているのを見ているよりも音を聞いているような気もしますけどね。
ドンドンと行くんじゃなくてトットットットッというような感じがその音の向こうに虫の音が細く聞こえている。
虫の音も季節の終わりを知らせるようなそういう細い音色で鳴いているとそんな感じでしょうかね。
平尾さんおっしゃったとおりだと思いますね。
それでは四首目を見ましょう。
何か不思議な歌ですね。
男性がクロールで泳いでいるその横をもっと頑張りなさいよとかもっと速くとか怠けないでとか言いながら女性が歩いているようなそんな歌ですね。
とても面白い歌で特に「プールサイドぴたぴた歩く」がいいですね。
女性も裸足なんですよね。
水がある所をぴたぴた歩いている。
犬の散歩をしてるみたいな感じでとても面白い歌ですね。
それでは五首目を鑑賞しましょう。
これは山川登美子記念館登美子の実家なんですがそこへ行った時の歌でこの歌のいいのは「軋む廊下はかへりもきしむ」これがいいですね。
コンクリートなんかのしっかりした廊下じゃなくて木製の廊下で軋む歌。
行く時軋むなと思ったんだけど帰りもやっぱり軋むというところがとてもいい歌になったと思います。
これ「軋む」を漢字と仮名で使い分けていますが…。
これは同じ字が重なるのを嫌った明らかに意図的な使い方だと思いますね。
それでは六首目です。
さあ平尾さんこれどう読まれました?多分この方お若いんじゃないかと思うんですよね。
生きる意味聞かれても困ってしまうのはそのとおりだと思いますね。
今歩いてる事に夢中だという事でやっぱりう〜ん…僕も今じゃそうじゃないかもしれませんが若い頃聞かれりゃ恐らくそんな事考えもせずにやっぱり生きてたと思うんですよね。
ただ目の前の事を一生懸命くぐり抜けていくというこれをそのまま歌にされてるという感じしますよね。
ラグビーで走ってる意味考えろとか言われた事ありますかね。
それ考えると迷ってしまいますよね。
その目の前の出来事に対して100%力を費やすという事がある種すごい連続性を生むという事になるんじゃないかなと思うんですよね。
大体生きる意味云々というのは年取ったという事ですからね。
この歌いいのは現在進行形なのね。
そんな事も考えずにとにかく歩いてるんだと。
平尾さんの場合ならとにかく走ってるんだというそういう時代の歌ですね。
それがそのまま出ているいい歌だと思いますね。
そんな事聞かれても困っちゃうなという感じがよく分かりますね。
大人のあれをいなしてる歌ですよね。
それでは七首目にまいりましょう。
これもお母さんの歌として実感のある歌だと思いますね。
4つか3つぐらいの子かな手を繋いで歩いてると。
お母さんはゆっくり歩いてるつもりなんだけど娘はその時走ってたんだと。
歩幅が全然違うので。
それに今になって気が付いたという歌ですね。
何ていう事もないんだけど時間がたってみるとあのころの事が見えてくるというのがどっかである。
そこがいいところだと思いますね。
それでは八首目です。
福島で原発の汚染で一時帰宅をした時の歌だと思いますね。
白い防護服を着て歩いていく。
ところが周りは本当に万緑の美しい風景でかじかが鳴いている。
こういう美しい自然の中にあると人間のこういう防護服なんかを着て歩いてるのはいかにも無様に見えるし醜く見える。
それをしたのは人間である。
自然はやっぱり変わらないでこんなに美しいんだというところに非常に深い悲しみが感じられるそういう歌だと思いますね。
それではおしまい九首目です。
こちらは自由題で頂戴しました。
これもねやった事ない人間には作れない歌ですね。
飯盒飯なんて懐かしいですけどやりましたよね昔ね。
炊けてくるとひっくり返して蒸らしておいてそれから食べる。
それを向こう岸にまだ雪が残ってるようなそんな風景を見ながらやっている。
「天地返して」がとてもいいと思いますね。
カナダでやられたのか日本の記憶なのかちょっと分からないですけど…。
カナダの風景だと雄大な風景と手元の飯盒飯何かいいですね。
そんな感じですね。
以上入選九首でした。
それではこの中から永田さんがお選びになった特選三首の発表です。
まず三席です。
三席には小林理央さんを選びました。
では二席です。
二席は小沢美代子さんを選びました。
ではいよいよ一席の発表です。
一席は杉崎康代さんを選びました。
登美子というのは山川登美子で晶子と鉄幹と3人で「明星」の星だった女性歌人ですが亡くなってから登美子の実家のある小浜市に山川登美子記念館というのが出来ましてねこれは記念館なんだけど鉄骨じゃなくて登美子の実家そのものなんですね。
だから古くもあるし本当に登美子が亡くなったその部屋が保存されている。
まさに廊下が軋むわけですね。
そうですね。
今でも山川登美子の短歌賞というのがあって毎年作品を募集してるんです。
私も長くもう10年以上選者をやってるんですけどね。
地元で登美子をたたえるというその一環ですね。
以上今週の特選でした。
今回ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちらです。
「NHK短歌」のテキストにも掲載されます。
是非このテキストもご覧下さい。
さあそれでは引き続き「うた人のことば」ご覧頂きましょう。
最初に生まれたのが男の子でもよかったんでしょうけどやはり女の子であったのがうれしかったんじゃないかなと思うんですね。
若い時は父に反発もしちょっと疎ましい時もありそんな感じでしたけどある時ふと私の事やっぱりかわいがってくれたんだなって気が付く事があったんですね。
父も老いてしまってでもいつまでも「常ちゃん常ちゃん」って言ってくれるのがとてもうれしくて本当に私が生まれた時父がうれしかったんだなって事をしみじみと感じた事がありました。
六条御息所を演じた時の事なんです。
母はとても小柄な人で装束というのはとても重いものですね。
大丈夫かなと思って見てたんですがその時母は70代前半だったと思うんですけど声は朗々としていて堂々と歩き堂々と舞いあの小さな体でよく舞ったなと思います。
そのすばらしさが今でもあの時の声が耳に残っていて…。
さあ続いては「入選への道」のコーナーです。
たくさん頂くご投稿歌の中から少し手を入れるととてもよくなるという歌がたくさんあるんです。
今日は一首取り上げて頂いて直して頂きましょう。
これ面白いですね。
下の句がね。
「イヌのおまえとヒトの私」と言わないで「イヌ科のおまえ」「ヒト科の私」なかなかしゃれていて面白いしそれぞれ科の違う者同士が一緒に歩いていくってそこがちょっとアンバランスで面白いんですよね。
「添ひゆけり」がこれが添ひゆくというともうちょっとピタッといくようなあれなんでこれはもうちょっと乱れてる方が面白いのでもっと即物的にしたいと。
それと同じで歩調もこれだと同じ歩調で歩いていくという感じなのでそこももう少し即物的にしたいという事でこんなふうにしてみます。
「歩幅」とする事と「歩きゆく」という事で具体的に目に見えるようになるそこがいいと思いますし「イヌ科のおまえとヒト科の私」は是非残したい。
面白い歌になると思いますね。
いかがでしょう?皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
では投稿のご案内を致しましょう。
続いては選者のお話です。
永田さんの「時の断面あの日、あの時、あの一首」今日は「デモのなかから」というお話です。
清原日出夫さんは私の直接の先輩にあたる歌人で同じ雑誌で歌を作ってた人なんですが60年安保闘争の時に学生で京都の立命館大学の学生だったんですがデモに行って非常にいい歌をたくさん作って60年安保というと清原日出夫の名前が思い出されるとそういう歌人なんですね。
この歌はデモに行くとどこまでもポリスカーがついてくる。
ポリスカーもちょっと古いですけど無電もちょっと古い言葉だけどポリスカーがついてくる。
ふと見ると中に…無電って無線電話ですよね。
無電で話をしてる口が見える。
それだけしか歌ってないんですけれども社会詠とかデモの歌になるとどうしてもイデオロギーが先に立ってきて何かを訴えたい。
こういう事を言いたいって事が先に立ってしまうんですけどこの歌のいいのは作者の見てるものはポリスカーの中の無電に話す口だけを見てる。
そこに焦点を絞ってる。
でもその口がしゃべってる先にはそのデモをどういうふうに鎮圧するかというような権力の構造がどこかに見えて作者はその具体的な個別を見る事によってそれが権力につながっているというそこの構造まで見通しているという社会詠というのはどうしても観念的になりやすいんだけどできるだけ即物的に歌いたい。
即物的に歌う事でふだんは見えないいろんな矛盾構造というのが見えてくる。
そういう見本のような歌だと思いますね。
この歌の場合無電の口口の向こうに見えるものを口で歌っているという事なんですね。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
それではゲストにお迎えしている平尾さんにもいろいろとお話を伺ってまいりましょうね。
まずは冒頭お見せ頂いたキーワードをもう一度お見せ下さい。
「ワイン」という言葉をお考え頂いたんですがどういう事でございましょう?これは永田さんにまつわる僕のエピソードなんですが娘さんの結婚式に呼んで頂きましてその時に永田さんが自分のお持ちになっている娘さんが生まれた時のワインを皆さんに振る舞われて非常に感動的でしてねかっこいいなと思いました。
父親の愛情とかっこよさが入り乱れて僕の中で感動めいたものがあったわけです。
年代物も年代物で…。
まあそうですね。
あんまり古いと言ったら紅さんが怒りますけど。
そうですよね。
そのお話をすごくよく覚えてらっしゃるという事で一緒に酒を酌み交わしたという感じではなくて?わりと小人数の感じで…。
大体結婚式って派手なんですがいい意味で落ち着いた家族的な本当にいい結婚式でしたね。
司会も居なかったんで花嫁の父が司会したんですよ。
一人何役もやってましたね。
実は平尾さんはその時の事がとても印象的で短歌の番組に出るという事で歌も作ってみられたんですよね。
ちょっと恥ずかしいんですがね。
こんな歌が実は誕生したんです。
皆さんにご披露下さい。
初めてで恥ずかしいんですが…。
これですよ。
どうぞお読み下さい。
初めて詠んだとはちょっと思えないな〜。
多少アドバイスも頂きながらなんですがその時の永田さんのお気持ちもあり我々もそれに心地よくワインに酔えたなという。
「心地よく酔う」は本当に実感でしたね。
花嫁花婿そっちのけで平尾さんとワ〜ッとしゃべってたりとかね。
永田さん平尾さんの言葉への感覚っていうのはどうです?本当にお世辞じゃなくて初めて作ったと思えないぐらいいい歌だと思います。
平尾さんね今ラグビーで総監督ゼネラルマネージャーと言われてて自分が動いていた時のあれとは違って今人を束ねたり指示したりして平尾さんの著書の中で人の心に届く言葉という事を言っておられた事があってそれがとても印象に残っててスポーツなんかでも言葉の重要性ってやっぱりあるんですよね。
今日この短歌というので改めて思ったんですけど選択をしますよね言葉を遣う時っていうのは人に話す時も何通りも同じような表現があるんですが一番届くようなものというか深く突き刺さるものを選ぶというのが多分僕らの仕事じゃないかなと思うんですね。
それができた時って行動が変わるんですね相手の。
そういうものまで持ち込まないと言ってる意味がなくて人間はあっそうだなと思う事いっぱいあるんですが行動が変わる時ってその突き刺さり度合いが恐らく深い時にやっぱり行動にまで及ぶという事ですね。
そういう事は長年やってますとどの言葉がいいのかなってすごく考えますよね。
それには非常に言葉を選んでいかなければいけない。
これ無意識のうちの選択だと思うんですよ。
考えてるうちはまだ駄目だと思うんですよね。
ふだんそういう場面に出くわした時にすぐさまその言葉が出るような用意をしておかなきゃいけないんで恐らくその準備たるや無意識のうちにやってるんでしょうね。
一般的な言葉じゃ駄目だね。
誰もが言うような言葉では通じないという。
でも共感が得られないとやっぱりドキッと来ないですよね。
短歌もとても短い言葉で結構深いという事をお感じになったんじゃないですか?大変勉強になりました。
一つの言葉にいろんなものが含まれてるというか作者の葛藤だとか矛盾もそこにあって読み手がそれをまた感じてそれを読み切るというかねその深さを今日非常に強く感じましたね。
読者がいて作者がいてどっちのものでもなくてね。
その関係性が面白いですね。
読者が読んであげないと歌って生きてこないんですよね。
非常に深いなと改めて感じさせてもらいました。
平尾さんのワインの歌以外の新作もまた期待しております。
平尾誠二さんをお迎え致しました。
どうもありがとうございました。
永田さん来月もどうぞよろしくお願い致します。
「NHK短歌」失礼致します。
ごきげんよう。
2014/04/20(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「歩く」[字]

選者は永田和宏さん。ゲストは平尾誠二さん。ラグビーで輝かしい実績を誇る平尾さん。永田さんとは以前から親交があり、その縁で短歌に興味を持つようになったという。

詳細情報
番組内容
選者は永田和宏さん。ゲストは平尾誠二さん。ラグビーで輝かしい実績を誇る平尾さん。永田さんとは以前から親交があり、その縁で短歌に興味を持つようになったという。題「歩く」 【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】平尾誠二,永田和宏,【司会】濱中博久

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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