歴史秘話ヒストリア▽アンナと直己の北極物語〜植村直己北極圏1万2千キロ大冒険 2014.04.16

(犬の鳴き声)今から40年前一人の日本人が北極圏1万2,000km走破という世界初の快挙に挑戦していました。
たった一人で北極に挑んだ植村の唯一のパートナー。
それは「アンナ」というメス犬でした。
これは植村本人が撮影した映像。
植村はこの冒険に北極の人々が使う犬ゾリを使用しました。
しかし犬たちは簡単に言う事を聞きません。
こら〜!お前ら何やってんだ!勝手に食料を食い荒らし植村はいらだちを募らせるばかり。
更に隙を見て犬たちが脱走。
極寒の地に取り残された植村は生命の危機に追い込まれます。
そんな植村を救ったのがチーム唯一のメス犬アンナ。
アンナを中心にチームを組むとソリは進み植村と犬たちは徐々に心を通わせるようになります。
よくやったぞ。
偉いぞ。
しかし絶体絶命のピンチが訪れます。
北極最強の動物ホッキョクグマが襲ってきたのです。
恐怖と緊張でライフルに弾が込められない植村。
(ほえる声)北極の大自然を乗り越える中で絆を深めていった植村と犬たちの物語です。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
今年は冒険家・植村直己が帰らぬ人となってちょうど30年。
植村は日本を代表する冒険家です。
エベレストやキリマンジャロなど5つの大陸の最高峰全てに世界で初めて登頂した事でも知られています。
中でも植村の名声を不動のものにしたのが…犬ゾリを操りながら1万2,000kmもの距離をたった一人で走破する前人未踏の大冒険です。
実は…必ずしも体格的に恵まれていたわけではありません。
そんな植村がなぜ無謀とも思える冒険に挑む事になったのかまずはそこからお話しいたしましょう。
植村直己はグリーンランド北部のヤコブスハウンを出発しました。
氷点下30度にもなる真冬の北極圏1万2,000km走破。
この過酷な挑戦の裏には植村のある強い思いがありました。
ヤー!それは若い頃から人づきあいが苦手で集団行動になじめなかった自らの性格を卑下して言った言葉です。
植村の生まれた兵庫県の日高町。
農家の末っ子だった直己は農作業も学校生活も苦手な少年だったといいます。
19歳で大学に入学した植村は山岳部に入部。
山に登って友達を作りたい。
そんな軽い気持ちからでした。
ところが…。
まずは自己紹介しなさい。
小林正尚です。
高校の時は山岳部に所属していました。
周りの新入生は体格が良く登山経験の豊富な者ばかり。
植村直己です。
高校の時は…特に何もしていませんでした。
身長158cmと小柄で登山経験もない植村はいきなり同級生に劣等感を感じる事になります。
しっかりしろよ。
転ぶなよ?合宿では重さ30kgを超すリュックを背負って山道を歩きます。
しかし植村は重みに耐えられず何度も転んでしまいます。
そこで付いたあだ名が…ドングリのようにコロコロと転んでばかりだと仲間からからかわれたのです。
植村はなんとか力をつけようと他の部員に隠れてひそかにトレーニングを始めます。
練習のため山へも登りました。
たった一人きりでの登山を重ねるうちに…すっかり単独登山に魅せられた植村は…経験を積んでいきます。
1964年大学を卒業すると周りの反対を押し切って…そこでアルバイトをしながら…やがて植村はヨーロッパ最高峰のモンブランやアフリカのキリマンジャロに登頂。
更にアメリカ大陸のマッキンリーにも登り…そんな植村に転機となる出来事が起こります。
それは1969年に行われた日本山岳会のエベレスト遠征。
海外での実績が認められた植村は遠征隊の一員として参加する事になりました。
遠征隊は現地スタッフを含めおよそ1,000人。
久しぶりに挑む大勢の仲間たちとの登山です。
そして1970年5月仲間たちに支えられ…よくやったなあ。
ほんとありがとう。
ご苦労さんでした。
喜びに沸く仲間たち。
しかしこの時植村の胸には複雑な感情がわき上がっていました。
仲間との冒険に満足感を得られない自分は集団では生きていく事が難しい…やはり自分は一人で冒険に挑むしかない。
植村は考えます。
世界最高峰のエベレストに登頂した今一人でできる全く新しい冒険とは何だろうか?植村が見つけた答え。
それは北極と南極の走破。
しかも犬ゾリで横断するのです。
しかしこの冒険に必要な資金はどう見積もっても現在の金額でおよそ3,000万円。
そんな大金植村にはありません。
かつて出版社で編集者を務めていた…北極圏の犬ゾリ横断計画について植村から資金の相談を受けたと言います。
そこから始まるんです。
(鳴き声)イヌイットなどの北方民族エスキモーは冬の間アザラシを狩りながら犬ゾリで移動します。
彼はやっぱり調べてるんですよそれは。
非常に詳しく。
ふっとこう思ってしまったんですね。
植村は更にテレビ局や新聞社からも協力を取り付けます。
それが「社会人失格者」植村の選んだ「人生の裏街道」でした。
1974年12月植村は足かけ2年にわたる前人未踏の大冒険に出発。
日本で待つ妻にこんな葉書を送りました。
しかし植村の行く手には北極の厳しい自然と予想もしなかった犬たちとの戦いが立ちはだかる事になるのです。
さてここで植村の計画をおさらいしておきましょう。
スタート地点はグリーンランドのヤコブスハウン。
冬の間に北上し国境を越えてカナダに渡りケンブリッジベイに到着。
そこで氷が解ける夏場を過ごし冬を待ちます。
氷が北極圏を覆ったら再び出発。
カナダからアメリカのアラスカ州に入りコッツビューでゴールです。
距離にして1万2,000km。
それまでの冒険家たちは主に北極点を目指しておりその距離は長くても往復1,500km程度。
植村の冒険はその8倍もの距離を単独でゆくというまさに前人未踏のものだったのです。
グリーンランド最北端の村シオラパルク。
1973年冒険に先立ち植村はこの村に10か月滞在して…極地で生きていくために必要な知恵を学んだのです。
ここは毛皮があるんですがシロクマの毛皮のズボンです。
シロクマの毛というのは…犬ゾリですね。
大きなものです。
これは犬を扱うためのムチなんですね。
ソリを引くエスキモー犬とはエスキモーが飼っている犬の総称でその多くが雑種です。
エスキモーはこの犬ゾリを使って氷の上を移動しアザラシなどを捕って生活します。
そのため犬は命令に従うよう徹底的にしつけられます。
獲物が捕れず命の危険にさらされた時には犬を食べて生き延びる事もあります。
1974年12月20日。
エスキモーから犬ゾリの手ほどきを受けた植村はグリーンランドから1万2,000kmに及ぶ冒険をスタートしました。
しかし犬ゾリはなかなかまっすぐに進みません。
犬たちが勝手にバラバラな方向に走ろうとするのです。
ハク!ヤー!植村はいらだち強引に進めようとムチを振るいます。
しかし犬たちはムチから逃げようとして余計に混乱してしまいます。
そんなある日事件が起きました。
植村がソリを離れた隙に犬たちがソリに積んでおいた貴重な食糧を勝手に食い荒らしていたのです。
こら〜!お前ら何やってんだ!一向に言う事を聞かない犬たち。
犬と植村の関係は悪くなる一方でした。
犬ゾリの難しさはどのような点にあるのでしょうか?かつておびひろ動物園では人々に犬ゾリを知ってもらおうとエスキモー犬によるデモンストレーションを行っていました。
通常群れの中で一番強いボス犬を先頭に立てその後ろを他の犬に走らせます。
ヤー!ヤー!ところがボス犬は植村の指図に従いません。
しかたなく代わりの犬を先頭にすると今度はボス犬がその犬をいじめる始末。
どうしたらソリは走るのか。
困り果てた植村は12頭の中で唯一のメス犬に目をつけます。
メス犬を先頭にするなどエスキモーの常識にはありません。
しかし試しに…群れ全体を従わせる事はできなくてもこのメス犬を命令に従わせればソリを操れるかもしれない。
エスキモーにとって犬は家畜なので普通名前は付けません。
しかし…ようやく走り始めた犬ゾリ。
しかし出発して1か月余り植村を絶体絶命のピンチが襲います。
犬同士のけんかを止めようとした植村はうっかり手綱を放してしまいます。
無線も持たない植村は…その時…。
(犬の鳴き声)思いがけない光景が植村の目に飛び込んできました。
リーダー犬のアンナを先頭に犬たちが植村に向かって走ってきたのです。
「犬は家畜ではなく旅のパートナーなのだ」。
植村の心の中で犬への感謝の思いが大きくなっていきました。
そんな植村の思いに応えるようにアンナもまた命令を忠実に守ります。
アンナに指示を出しそのアンナに他の犬がついていくという…アンナヤー!犬ゾリは快調に進み植村にも自然を眺める余裕が生まれました。
冒険が進むにつれ他の犬たちとの関係も徐々に良くなりました。
出発から半年がたった6月2日には…植村が初めて捕った大きな獲物でした。
植村はグリーンランドを北上しカナダとの国境を突破。
6月12日にはケンブリッジベイに到着します。
植村が冒険に挑んだ1970年代当時。
北極海はアメリカとソ連がしのぎを削る軍事的な要衝で一般人の立ち入りは厳しく制限されていました。
そんな所をなぜ植村は横断できたのでしょうか?それは環境調査という目的で各国の許可を得ていたからです。
集められたデータは今も活用されています。
例えば現在の北極は70年代と比べて最低気温が10℃も高い暖冬が頻繁に起きています。
温暖化によって北極の氷の面積も当時の半分になりました。
こうした環境の変化を知る事ができるのも植村をはじめ当時の冒険家たちが熱心に観測データを集めたからこそなのです。
1975年の夏。
植村はカナダ北部の海岸に滞在し再び氷が張って旅を再開できるようになる冬を待ちました。
そんな中思いもよらぬうれしい出来事が起きます。
これは植村自らが撮影した映像です。
お前にも名前を付けよう。
「コンノット」。
よしいい子だコンノット。
9月半ばに乳離れするとコンノットたち子犬はテントをうろつき植村の後をついて歩くようになりました。
植村は毎日サケやカモを捕り犬たちに食べさせました。
子犬たちもサケを丸々一匹平らげるほどよく食べすくすくと育ちました。
植村は日本で待つ妻公子さんへの葉書にこう書いています。
12月15日。
北極圏を再び氷が覆うと植村はアラスカを目指して出発。
この時子犬は村の人に譲りましたが…しかし北極に吹き荒れる冬のブリザードは子犬にとってあまりに過酷でした。
氷点下40度に冷え込んだ朝。
植村が起きるとテントの傍らにぐったりと横たわるコンノットがいました。
息も絶え絶えな中植村のそばに来ようとしたのです。
コンノットは間もなく息を引き取りました。
僅か半年の命でした。
コンノット…。
(遠ぼえ)植村の犬ゾリはゴールのコッツビューまであと数日に迫っていました。
しかし突如命の危険にさらされます。
(鳴き声)いつもと違う犬たちの鳴き声にテントを出た植村。
そこで見たものは…。
この時植村が撮影した写真です。
犬たちの先にいたのは大きなホッキョクグマ。
襲われればひとたまりもありません。
通常ホッキョクグマは人間を見ると逃げていきます。
それが向かってきているという事はよほど空腹なのか人間を襲って食糧を奪おうとしているのです。
(銃声)このままでは危ない!そう思った時…。
(ほえる声)アンナを先頭に犬たちが必死にほえかかりました。
白熊は犬たちに行く手を阻まれて立ち止まります。
アンナたちが時間を稼ぐ間に植村は震える手でなんとか弾丸を込め頭を目がけて発射。
(銃声)植村はまたもや絶体絶命のピンチをアンナたちに救われたのです。
(植村)アンナよくやったぞ。
危機を何度も乗り越える中で植村はいつしかアンナをはじめとする犬たちと強い絆を感じるようになっていました。
(植村)頑張ってくれよ。
出発から1年と6か月。
植村はついにゴールのコッツビューに到着。
北極圏1万2,000kmを犬ゾリで走破しました。
植村を祝福しました。
北極圏1万2,000km犬ゾリ横断。
冒険家・植村直己の名声を確固たるものとしたこの快挙は犬たちとの強い絆がもたらしたものだったのです。
世界初の快挙を成し遂げた植村は苦楽を共にした犬たちを日本へ連れて帰りました。
犬たちは北海道の旭川と帯広の動物園に預けられ植村はその後も冒険の合間を見ては犬たちに会いに訪れました。
しかし思わぬ別れが待っていました。
植村はアラスカ・マッキンリーで世界初となる冬期の登頂に成功します。
しかしその帰路で遭難し帰らぬ人となりました。
それでは最後にもう一つ。
植村がいなくなった今でも…そんな秘話をどうぞ。
カナダ北部のレゾリュートを走る犬ゾリ。
現在グリーンランドやカナダの各地を犬ゾリで移動する日本人がいます。
高校生の時に植村の遭難を知った山崎さんは植村に憧れて冒険家を志しました。
山崎さんは各地で氷の厚さや気象の観測を行いデータを日本に送っています。
20年以上北極に通う山崎さんはさまざまな場面で温暖化を実感すると言います。
やはり海の氷の状態がすごく悪くなってきてですね…エスキモー犬を預けたこの地で植村は人々に…こうした活動をしながら植村はある夢を帯広の人に語っています。
…という事を帯広の方たちに随分お話しされていたようです。
1985年植村の夢は「植村直己野外学校」として実現。
今も地元の人々に受け継がれています。
雪の中で眠る子供たち。
野外学校の冬のキャンプです。
このキャンプでは子供たちは3日間雪山に入って自然の楽しさそして厳しさを身をもって体験します。
今年で29年になります。
社会人失格者だろうが成功者だろうが大自然の前では小さな事。
子供たちには自信を持って生きてほしい。
植村が残したメッセージです。

(テーマ音楽)2014/04/16(水) 22:00〜22:45
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア▽アンナと直己の北極物語〜植村直己北極圏1万2千キロ大冒険[解][字]

冒険家・植村直己が遭難して今年で30年、植村の北極圏1万2千キロ単独犬ぞり横断の真実に迫る。極寒の中、悪戦苦闘しながら犬たちと心を通わせていった植村の冒険秘話。

詳細情報
番組内容
冒険家・植村直己が遭難して今年で30年、植村直己の名を一躍世に知らしめたのが、北極圏1万2千キロ単独犬ゾリ横断だった。すべての犬が逃げて氷点下30度の氷原に取り残されたり、ホッキョクグマに襲われたり、冒険行はトラブルの連続。しかし、植村は悪戦苦闘しながら植村流の犬ゾリ操縦法を編み出してゆく。それは、犬を仲間として認め、信頼するというもの。厳しい自然の中で培われていった植村と犬たちのきずなの物語。
出演者
【キャスター】渡邊あゆみ

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
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