クローズアップ現代「イラク派遣 10年の真実」 2014.04.16

煙に包まれる自衛隊の車両。
自衛隊がイラクで行った訓練を撮影した映像です。
大丈夫ですか?大丈夫ですか?
イラク派遣から10年。
膨大な映像記録が初めて開示されました。
発足以来、最も戦場に近い場所での活動となったイラク派遣。
自衛隊は現地での任務を1000本にも及ぶテープに記録していました。
武装した群衆に囲まれる車両。
宿営地への攻撃。
そして、多国籍軍との活動。
戦場に近い場所に派遣されることの現実が見えてきました。
隊員が死亡した場合の準備まで極秘裏に進められていたことも分かってきました。
自衛隊の任務の拡大に向け議論が進められている今イラク派遣が残した教訓を未公開の資料から探ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
安倍総理大臣は憲法の解釈を変え集団的自衛権を行使できるようにすることに意欲を示しています。
集団的自衛権の行使を容認することは必要か。
憲法の解釈を変えることは認められるのか。
安全保障を巡る論戦が国会で繰り広げられていますが今後の議論の行方によっては自衛隊の任務が拡大しこれまで派遣されたことがないような危険を伴う現場に送り込まれることも考えられます。
安全保障を巡る議論が進められる中で今夜お伝えするのは10年前から5年にわたって行われた自衛隊のイラク派遣の現実です。
元統合幕僚長が、自分が経験した最も有事に近い体験と振り返っている任務です。
アメリカとイギリスが中心となって進められたイラク攻撃。
フセイン政権が崩壊したあと自衛隊は、人道復興支援を目的にイラクに派遣されました。
派遣された場所は非戦闘地域とされたイラク南部のサマーワです。
国や国に準じる組織の戦闘行為が行われている地域への派遣は憲法に抵触するため非戦闘地域が選ばれたのですが隊員たちにとって戦場に近かった現場での任務の検証はこれまで十分に行われてきたとはいえません。
イラク派遣の実態はどのようなものだったのか。
自衛隊が撮影した映像や内部資料を独自に入手しました。
ことし1月。
イラク派遣10年を機に開かれた懇親会。
現地に派遣された隊員たちが全国から集まりました。
この10年公開されることのなかった映像記録が防衛省に保管されていました。
半年に及ぶ交渉で初めて開示されました。
自衛隊が撮影した1000本に及ぶイラク派遣の記録です。
その内容の大半は医療支援や給水、道路の修復など人道復興支援活動の様子でした。
しかし、詳しく見ていくとこれまで明らかにされてこなかったイラク派遣の実態が記録されていたことが分かりました。
派遣からおよそ1か月後。
夜間の宿営地を映した映像です。
宿営地にアナウンスされたA警備。
不測の事態に緊急で警戒に当たる態勢のことです。
この夜、武装勢力が宿営地を攻撃するかもしれないという情報が現地警察から寄せられていました。
自衛隊は、派遣された当初から武装勢力に狙われていたことが分かります。
そして、この1か月後。
宿営地に向けて迫撃砲が撃ち込まれました。
映像には、迫撃砲の着弾地点を探す隊員たちが映っていました。
着弾地点から数メートルにわたって土地が、えぐられていました。
迫撃砲は各国の軍隊にも配備されている殺傷力の高い兵器です。
こうした迫撃砲やロケット弾による宿営地への攻撃は13回に及びました。
自衛隊が派遣された非戦闘地域。
こうした線引きをしたのは憲法9条の下で海外での武力行使が禁止されているからです。
そのために作られたイラク支援法。
非戦闘地域への派遣であれば他国の武力行使と一体化せず憲法に抵触しないとしたのです。
当時、陸上自衛隊のトップを務めていた先崎一さんです。
自衛隊の転機となった任務だったと振り返ります。
派遣から1年半後の訓練の映像です。
痛い!痛い!
自衛隊は路上に仕掛けられた爆弾で攻撃されたことを想定していました。
負傷者3名。
警戒処置等、取れない。
イラクで多国籍軍を狙ったテロが一向に収まらなかったからです。
搬送が終わった者については警戒に就け、警戒!
人道復興支援の陰でこうした訓練を繰り返さざるをえない状況が続いていました。
訓練には、多国籍軍が参加していたことも分かりました。
付近に展開する他国の軍隊と共に活動することが日常化していたのです。
先崎さんは、攻撃によって隊員が死亡した場合の対応まで極秘に検討していたことを明かしました。
遺体をどのように運ぶのか詳細に手順を検討。
国主催の葬儀も考えられていました。
さらに、宿営地にひつぎまで持ち込んでいたといいます。
スタジオには取材に当たってきました社会部の、宮下記者です。
非戦闘地域ということで派遣されたわけですけれども、宿営地の中には、迫撃砲が撃ち込まれ、そして外では、訓練の様子を見ますと、多国籍軍と対処を迫られるような、そうした現実があった、かなり際どい現場だったということになりますか。
そうですね。
映像にもありました、多国籍軍との訓練の1か月ほど前には、実際に自衛隊の車両が、市街地を移動中に、道路に仕掛けられた爆弾で攻撃を受けるという事態がありました。
このときは、隊員にけがはありませんでしたが、車両に被害が出ました。
もちろん、宿営地の外での活動を控えれば、部隊の安全はより確保できたのかもしれませんが、外で復興支援活動をしなければ、逆に今度は住民の不満が爆発しかねないという状況にありました。
映像にありました訓練に参加していたのは、オーストラリア軍ですが、自衛隊が宿営地の外での活動を安全に行うためには、治安維持を任務とする多国籍軍と連携して対処する必要に迫られていたといえます。
自衛隊の歴史の中で最も戦場に近い状況の中での任務となったわけですけれども、イラクでの任務が隊員たちの心にどのような影響を及ぼしたのか、これまでほとんど知られてきませんでした。
イラクへ派遣された陸海空の自衛隊員は5年間で、延べ1万人。
隊員の精神面にも大きな影響を与えていました。
NHKの調べでこのうち、帰国後28人がみずから命を絶っていたことが分かりました。
28人は、なぜ命を落としたのか。
イラク派遣から1か月後に自殺した20代の隊員の母親が取材に応じました。
イラク派遣のときの土産と迷彩服につけていた記章が飾られていました。
派遣中の任務は宿営地の警備でした。
息子は帰国後、自衛隊でカウンセリングを受けましたが精神状態は安定しませんでした。
母親は、息子の言動の異変を心配していました。
この数日後息子は死を選びました。
自衛隊は、イラク派遣の任務が隊員の精神面に与える影響を当初から危惧していました。
これは、現地に派遣された医師が隊員の精神状態を分析した内部資料です。
宿営地にロケット弾が撃ち込まれた際の隊員の心境を聞き取っていました。
発射したと思われる場所はずいぶん近くに見えた。
恐怖感を覚えた。
そこに誰かいるようだと言われ、緊張と恐怖が走った。
中には、睡眠障害を訴える隊員もいました。
比較的近い所に発射光が見えたので敵が、そばにいる気がして弾を込めようか悩んだ。
今でもその光景が思い起こされて寝つけない。
この隊員は生死に関わる経験のあと精神が不安定になる急性ストレス障害を発症していると診断されていました。
さらに内部資料には派遣されたおよそ4000人を対象に行った心理調査の記録もありました。
睡眠障害や不安など心の不調を訴えた隊員はどの部隊も1割以上。
中には、3割を超える部隊もあったことが分かりました。
隊員の心に深刻な影響を与えたイラク派遣。
自衛隊に求められる役割が広がる中で、防衛省はさらなる対策を迫られています。
イラク派遣後みずから命を絶った28人の隊員たち。
帰国後、精神の不調を訴え自殺した40代の隊員の妻が取材に応じてくれました。
夫を支えられなかったことを今も悔やんでいました。
妻は、自衛隊の活動が広がろうとしている今隊員が直面する現実をもっと知ってほしいと語っていました。
宮下さん、イラク派遣後、28人の隊員がみずから命を絶ったというのは、本当に重い事実ですね。
重たい事実だと思います。
ただ防衛省は、亡くなった28人の方がイラク派遣と直接、因果関係があるかどうかについては、分からないとしています。
また派遣された多くの隊員は、現地での任務にやりがいを感じていたといいます。
ただ、VTRにもありましたように、派遣された隊員の1割から3割ほどの人たちが、精神に不調を訴えていたという事実は、今後の自衛隊の任務を考えるうえで、忘れてはいけないことだと思います。
また防衛省は、派遣当初から、現地でカウンセリングを実施したり、帰国後も必要に応じて、対応を取ってきましたが、こうした取り組みは、今後も重要性を増しています。
今夜は、元防衛大学校校長の五百旗頭真さんにお越しいただいています。
元統合幕僚長は、自衛隊にとって転機になる任務だった、5年間に及ぶこの任務で、一人の犠牲者も出すことなく終えることができたというものですけれども、最も困難なチャレンジ、一番大変だったことっていうのは、学長、校長として、隊員にも支えられて、どんな点にあったというふうにお考えですか?
防大校長を5年8か月している間に、イラク派遣の陸自の隊長10人、代わる代わる出られた中で、そのうちの2人の人が、東大で防衛学の教官を務めてくれて、親しく、そういう人たちは、学生たちにとって、実際にそういうのを経てきたということを教えられる、尊敬のまなざしで見られる人たちですね。
あの中での非常に難しかったところというのは、今、見せられたように危険度の非常に高い、戦闘がいつでも起こりかねない、そういう事態の中で、日本の自衛隊が独自に人道復興支援、平和構築の仕事をやろうと、誰かを撃つんじゃなくて、社会の再建をやろうという、そういう仕事をやり抜いたということだと思うんですね。
しかし、敵か味方か分からないし、また一般の人たちに混じって武装勢力が交じっているか分からないという状況の中で、こうした自分の安全、そして地域の人たちから反感を買わないようにするっていうのは。
難しいことですよね。
それは一つには、例えば訓練不十分な国の兵士ですとね、住民の中に変なやつがいる、銃を持ってる、それだけで撃ちかねないから、間違ってもそういうことをしないように、自衛隊の場合には、平時の10倍、100倍の射撃訓練をやったんですね。
本当のエキスパートになって、振り向いたらもう撃ち抜けるというほどね、熟達させて、その上で隊長がなんて言ったかというと、分かったなと、君たちはこれほどの腕なんだ、軽挙妄動しなくていい、慌てて撃つんじゃないと、しっかりと見極めたうえでね、任務を達成するんだというふうに言って、自信を持たせて、そしてやたら撃たないようにという指導教育をしてるんですね。
むしろ、その名手になることによって、恐怖を乗り越えられる心の余裕が生まれる?
そうなんですね。
ちょっと変な銃を持っている人がいるぐらいでね、撃つ必要はないと。
よく見て、撃ったからって、当たるもんでもないというかどうかは分かりませんが、そういう心の余裕を持って、そして、本当に最後の最後にならなければ発動しないというふうな訓練を十分していったということが大きいと思いますね。
そして、日本が独自に平和構築に向けた取り組みをしたということですけれども、イスラムという異文化の中で行う難しさ、そしてその中で、なんていうんでしょう、好感を持てる、社会に受け入れられるようにするっていうことの難しさっていうのは、非常に大きかったと思うんですけれども。
それが一番大事なところなんですね。
戦闘して相手を撃ち殺すというのではなくて、住民に支持される、受け入れられると、それができるかどうか、それを軍隊がやるというのは、普通と逆でしょ。
それをあえてしようとした。
しかし、日本の自衛隊はそれがわりとできるんですね。
東日本大震災で住民のために一生懸命やった自衛隊、それが外国へ行っても、同じような精神を持ってやるんですね。
それは防衛大学で幹部育成をやってますけれども、初めは理工系専攻しかなかったのが、3代のいのきまさみち校長のときに、国際関係論とか、人間文化とか、異質な社会への理解、複雑な国際関係への理解を指導、幹部自衛官を持たなきゃいけないというので、そういう専攻を入れたんですね。
その3代目の人が、初代の隊長になったばんしょうさんなんですね。
そういう教育がありますので、イラク社会というのは、どんなに違うのかということに関心を持って、その勉強していくんですね。
例えば600人行く中の100人は士官なんですが、その人たちは、たくさんある部族のいちいちの御用聞きに入るっていうんですかね、懇談して友達になる。
そして、宗教グループもいろいろある。
社会にいろんな層がある。
そのすべての所に入っていってね、了解を得る、一部だけごひいきにして、たくさん採用したら、反感が出る、できたらまちづくり協議会のような合意を皆さんで作ってほしいというようなことを自衛隊のほうから促すというふうなことをし、そして。
根回しのようなことも?
そうですね、日本社会の中でやる。
そして異文化社会、理解ということを非常に重視しますので、例えば調べてみたら、イラクはああいう戦乱の中にあっても、子どもの健やかな成育っていうのを非常に大事にしている。
日本と一緒じゃないか、子ども第一。
それならば、こいのぼりを持っていって、ユーフラテス川で一緒にやろうというふうなね、そういう異文化社会、内在的理解に基づいて、住民との共感を作る。
この努力をしたもんですから、イラク派遣のたくさんの軍隊の中で、日本はどうして住民の人たちから、こんなふうに支持されてやれるのかというので注目されるようになったんですね。
2014/04/16(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「イラク派遣 10年の真実」[字]

日米同盟のもと、自衛隊がイラクに派遣されてから今年でちょうど10年。NHKは、これまで明らかにされることのなかった膨大な資料や映像を入手した。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】前防衛大学校長…五百旗頭真,NHK社会部記者…宮下大輔,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】前防衛大学校長…五百旗頭真,NHK社会部記者…宮下大輔,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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