(数馬)我らはこれより脱藩する。
これから先どんな事が起ころうとも自分の身は自分で守るのだ。
(玄武)これは我が父の仇討ちである。
覚悟!
(鶴之輔)父上!
(数馬)鶴之輔…。
うわ〜!
(和助)待っておくれやす!今日や。
4年前の今日やった。
あんさん丁稚やろ?えらいりりしいなあ無駄に。
ウソ聞こえた?わての声
おちょくっとんのかい!あの子は寒天問屋井川屋はんとこの松吉っちゅう丁稚ですわ
おはようさん。
おはようさんでござります。
梅吉。
へえ。
水替えてきてへんか?へ?「へ?」やあらへんがな。
水や水!チャッチャとせな!へえ!おはようさんでござります!
(お里)はいおはようさん。
(善次郎)ほな今日の配達分と新しいお客さんに試してもらう分頼むわな。
(松七)へえ。
(善次郎)あんさんら。
(梅吉竹吉)へえ。
こういうこの細か〜い所にこそ目配り気配りが大事なんやで。
(梅吉竹吉)すんまへん!おはようございます。
松吉!はい。
「へえ」やろ。
へ…へえ。
いつんなったら丁稚らしゅうならはるんやろなあ。
そんなシャキ〜ッと背筋伸ばして…。
何べんも言うてまっしゃろ。
おはようさんでございます。
おはようございます。
おはようございます〜。
おはようございます。
おはようございます〜。
松吉松吉…背筋!また叱られるで。
こうか。
笑顔!おはようさんだす。
(小声で)おはようございます〜。
おはようございます〜!
(善次郎)商人の心得は始末才覚神信心でおます。
身を慎んで始末して知恵を絞る。
それが大事だす。
けどそれだけではあきまへん。
神さん仏さんに感謝する気持ち。
これがあって初めてホンマもんの商人だす。
こないしてごはん食べられるのもみんな天神さんのおかげだす。
あんさんらも知ってのとおり天神さんは4年前の大火事で焼けてしまわはった。
この辺りの氏子はんらは天神さんを建て直すために身銭を切って寄進したはります。
井川屋としても一日も早う寄進せなあきまへん。
目指すは銀二貫だす。
せぇだい気張っとくれやっしゃ!
(一同)へえ!ほな頂きまひょか。
(一同)頂きます。
ええ音だすなあ。
ん?若い衆がお香香かんではる音は気持ちがよろしいわ。
若い衆が?こないだ松葉屋はんとこの女衆さんにうちは旦さんも番頭さんもみんな一緒に同じもん食べてるて話したらえらいびっくりしたはりましたわ。
けど旦さんの言わはるとおりだす。
みんなで頂いた方がおいしいおます。
へい。
「へえ」やて!へえ。
「へえ」!早く中入って。
あっ奥の荷物。
へ?え〜っと…。
それや!それそれ。
これ4つ。
へえ!
井川屋はんは寒天を乾物屋さんや料理屋さんに卸す細々とした商いをしております。
銀二貫いうたら結構な大金でっせ。
一体いつになる事やら…
ほな!ほな…行…行て…。
松吉!ほな。
ほな。
行て。
行て。
参じます〜。
参じます〜。
ほな行て参じます〜!・お早うお帰り。
松吉背筋!
ここは大坂・天満でおます。
大坂城の北を流れる大川には天満橋天神橋難波橋の3本の橋が架かっとります。
ほんで天神橋をまっすぐ抜けたとこに天満天神社がおます。
天神さんは4年前の大火事でこれこのとおりのありさまですわ。
一日も早う元どおりにしとおますけどそこはそれ先立つもんがなあ…。
このころはそないガッポガッポもうけたはる商人なんか…。
あっえらいこっちゃ!ご覧のとおりわては天満宮の狛犬テンちゃんだす。
天神さんの氏子はんらが機嫌よう暮らしてはるかちょいちょい見て回ってます。
以後よろしゅうお見知り置きの程…
おおきに。
(松葉屋)善次郎はん。
へえ。
銀一貫や。
天神さんだすな。
寄進してくるわ。
ご苦労さんでございます!4年もたってしもて天神さんに申し訳のうて心苦しぃてしゃあなかった。
お気持ちよう分かります。
この松葉屋丁稚が一人しかいてへんしがない乾物屋や。
そら始末して始末してようやくためたんや銀一貫。
…で丁稚3人抱えたはる井川屋はんは?はあ?いつ寄進しはるんだす?うちは銀二貫ためてからやて決めてますさかい。
二貫!?へえ。
銀二貫いうたら一貫の倍ですわな。
ハハハッ…。
よろしいかしっかりお気張りやっしゃ!おおきに〜。
(松葉屋)天神さ〜ん待っといてくれやっしゃ!この松葉屋藤三郎が行て参じまっさかいなあ!ほなさいなら!ただいま戻りました。
お帰りやす。
直す気ないんだすな。
え?その侍みたいな背筋じゃ!すんまへん!
(竹吉)うわっ!
(松七)シッ!松吉てホンマに侍やったんと違うか?え?近頃食い詰めた侍が自分の子ぉ商人に奉公出す事もあるんやで。
ホンマだすか!?確かめてみよか。
30年か…。
34年だす。
そんな長い間顔突き合わせてたら飽きるやろ。
旦さんにはいっつもハラハラさせられっ放しやったさかい飽きる間もおまへんでした。
そやな。
銀二貫どえらい怒らしてしもた事もあったしなあ。
あれなちょうど4年前の今日や。
今日だしたか…。
今日は言い過ぎました。
松吉にとっては父親の命日だしたな。
・
(数馬)鶴之輔!我らはこれより脱藩する。
脱藩!?もうこの家に戻る事はない。
よいか?これから先どんな事が起ころうとも自分の身は自分で守るのだ。
(唾を飲み込む音)うわっ!美濃国苗村家中彦坂数馬に相違いないな?お主…。
建部源エ門が一子建部玄武!立派になられたな。
これは…これは我が父の仇討ちである。
覚悟!父上!ううっ…うっ…。
ああ!お主の父は苗村家中勘定方であった我が父建部源エ門に従う身でありながら一昨日口論の末父を斬殺し逃亡したのだ。
どけ。
どかぬか!あっあかん!鶴之輔…。
うわ〜!待っておくれやす!ままま…待っておくれやす!無礼者!下がれ!わては大坂・天満の寒天問屋井川屋の主和助と申します。
下がれと言うておるのが聞こえぬのか!?…何のマネだ?商いでおます。
商い?これで…これで買わせて頂きとうございます!武士を愚弄する気か!?銀…銀二貫おまっせ!この銀二貫は大火事で焼けてしまぁた天満宮再建に用立ててもらうために貸し付け先に頭下げてかき集めてきた銀二貫。
ほれ!天神さんの…お導きだすがな。
この銀二貫わてが持ってる今が今この仇討ちに出会うてしもたんでおます。
大坂の商人は命も銭で買うのか。
命やおまへん!仇討ちでおます。
この銀二貫で約束をして頂きたいのは…今後…こ…今後仇討ちをせん事。
へてから…仇討ちの息子やいう事を忘れる事。
この2つ。
この2つで銀…銀二貫でおます!あ!こぼしたらあかん。
せっかくの銀二貫…こぼしたら…こぼしたらあかん。
あかん。
せっかく集めた銀二貫…。
この仇討ち…お前に売った。
買いました!おおきにありがとさんでございました!鶴之輔…。
はい!けがは?いいえ。
彦坂家はお取り潰しになるだろう。
お前は帰る家がない。
すまぬ。
しかし…恥じるな。
父は…武士として…。
父上!鶴之輔お前は…生きよ!父上?父上〜!鶴之輔…いわはるんやな?はい。
何歳だす?10歳です。
10歳…。
うちの店の丁稚になるか?どや?ここや。
さあ着いたで。
行こか。
これで合うと思うんだすけど…。
ちょっと着せてみてんか?はい。
ほれちょっと立って着てみよ。
よいしょ。
怖い顔して。
なあ?子どもの頃からこんな顔だす。
そうだすか!よいしょ。
銀二貫がお侍の子ぉなって帰ってきよった。
旦さんうちに丁稚入れるゆとりありまへん。
しかしまあこの子ぉが食べるぐらい知れてるやろ。
井川屋は天神さんにも寄進せんと新しい丁稚入れたて世間はそない言いまっせ。
う〜んまあ…そう言われるかもしれんな。
大体お侍に算盤できるんだすか?いや〜それはどやろなあ。
お客さんに頭下げられるんだすか?そら言えるなあ?はい。
「はい」やない。
丁稚は「へえ」や。
うちは寒天の問屋だす。
寒天作ってもろとる所は京都・伏見の美濃志摩屋っちゅうとこや。
その伏見であんさん旦さんに助けてもろうたんや。
はい。
へえ!…へえ。
天神さんに寄進せんならん大事な大事なホンマ大事な銀二貫やったんや。
分かりまっか?はい。
「へえ」や!ようできてる。
合うてる合うてる。
これでええこれでええ。
よいしょ。
ゆっくりおやすみ。
かたじけない。
「おおきに」や。
なあ。
え?わて梅吉。
分からん事があったら何でも聞いてや。
おお…きに。
・
(足音)
(戸を開ける音)ああここにおった!悪いけどまた包丁あかんねん。
はい。
「へえ」。
へえ。
・
(鳥の鳴き声)
(お里)寒天だす。
(善次郎)ゆうべ旦さんが伏見から持って帰ってくれはった初荷の寒天だす。
ほなみんな心して頂きまひょ。
(一同)頂きます。
(善次郎)どないだす?今年もええ出来や。
そうだすか。
(一同)ごっつぉさんでござります。
貸し。
片づけといたる。
鶴之輔。
はい。
「へえ」や!へえ…。
まあそこへお座り。
名前付けなな。
え?丁稚の名前は松竹梅に吉を付けるのがうちの決まりや。
ほな今からあんさん松吉や。
ええな。
「へえ」やろ?嫌です。
はあ?鶴之輔という幼名は我が彦坂家代々名乗ってまいったもの。
松吉などと…。
あんさん自分の立場が分かってまんのか?何だす?すき好んでこんな所へ来た訳ではない!あの時死んだ方がよかった。
旦さんこの子に丁稚は無理だす。
美濃志摩屋の寒天場で修業でもさせんとどもならんのと違いまっか?え!?番頭さんそれはあんまりだす!何だす?伏見の寒天場へ行かすてまだ10歳だっせ。
そやな。
「石の上にも三年」いうさかいな。
(清二)何してんねん。
早うおいで。
ほら。
半兵衛はん。
へえ。
この子ぉ天満の井川屋はんからの紹介や。
和助はんでっか?ああ。
うっ!
(半兵衛)これはな海の匂いや。
寒天は海で採った天草を丸一日煮込んで作る。
天草っちゅうのはいろいろな海藻の事や。
うちは丹後の海で採れた天草を使うとる。
匂いくらい早う慣れんとどんどんキツなるで。
気ぃ付けや。
アホんだら!何やっとんじゃ!「気ぃ付けや」言うたやろ。
貸せ!ホンマ鈍くさいのお前は!早うせえ!
(せき)
(数馬)鶴之輔!鶴之輔!えい!えい!えい!えい!えい!えい!
(政江)随分上達しましたね。
ありがとうございます母上!父上のような立派な武士になるのですよ鶴之輔…。
母上母上母上母上母上…!父上父上!父上!気ぃ付いたか。
雪でぬれとったさかいな。
お前飯も食うてへんのやろ。
まだ慣れてへんのか?天草の匂い。
いつまでも慣れへんのはいつまでも心開いてへんっちゅう事やぞ。
しゃあない本人次第や。
あの…!ん?父は私に生きよと言い残して亡くなりました。
武士を捨て商人になってこんな目に遭ってそれでも生きなければならないんでしょうか!?生きて確かめてみたらどや?お前さんが何者なんか。
自分が何者なのか…。
武士なのか商人なのか…まだ分かりません。
しかし父上私は今生きております。
…へてから?
へてからあの朝出来たての寒天しょって帰ってきよった。
3年たって一回り大きいなって帰ってきよった。
あの寒天場で自暴自棄になって逃げ出してたらあの銀二貫は死に金やった。
ありがとさんでございます。
生き金になるかどうかはわての目利きがこれから試されるところや。
なあ善次郎。
まあそない言われたらわて何も言えまへんがな。
そんな事したら松吉怒りまっせ!うるさい!お前も早う手伝え!もしあいつが侍やったら旦さんこの店を継がせるつもりなんかもしれへん。
淀屋はんかて鴻池はんかて大坂の大店はみんな本を正せば侍の出や。
そんな…。
クソ!
(カラスの鳴き声と羽ばたく音)
(一同)うわっ!
(梅吉)あれ?…あれ!何や?あそこ!あそこ!竹吉そっとやぞ!天井の梁に何か引っ掛かってます。
…こいつ!
(一同)うわ〜!何事や?これは。
(松七)これ松吉の持ち物でっしゃろ!?まだこんなもん後生大事に持ってたんか。
どういう了見や!ど…どないするつもりや!?鞘を。
へ?あ…。
松吉はお侍の子だした。
お前たちには隠しててすまんかった。
なにも旦さんが謝る事やおまへん。
いやこれはけじめや。
へてから松吉。
はい。
その刀わてに預けよか。
それともそれ持ってここを出ていくか。
どないする?松吉預けるやろ?預けるやんなあ。
なあ松吉預けよ。
な?頼むし!あ!あっ落ちましたよ。
(真帆)おおきに。
あんたえらいんか?え?えらそうやなあ…。
ちちんぷいぷい!これでだんないだんない。
大事ない。
かわいらしい嬢さんでんなあ。
ほんでや松吉っとんあんた分かってないやろ?「えらいんか」っちゅうのは「しんどいんか」っちゅう意味やでえ
何だすて?松吉は何か隠してます。
この…貧乏神!「へえ」や!暖簾っちゅうもんはなみんなで守っていくもんなんや。
あんさんは何を守りたかったんや?2014/04/16(水) 01:25〜02:11
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 銀二貫(1)[新]<全9回>「仇(あだ)討ち買い」[解][字][再]
寒天問屋の丁稚・松吉(林遣都)には隠された過去があった— 今から4年前父親があだ討ちに会う。その時、「銀二貫」を渡して彼の命を救ったのが和助(津川雅彦)だった。
詳細情報
番組内容
大坂天満の寒天問屋「井川屋」の丁稚(でっち)・松吉(林遣都)には隠された過去があった—。今から4年前、苗村藩士・彦坂数馬(石黒賢)が建部玄武(風間俊介)という青年武士にあだ討ちに会う。その時、たまたま居合わせた井川屋の主人・和助(津川雅彦)は、天満宮に寄進するつもりの「銀二貫」を渡して数馬の息子・鶴之輔(玉山詩)の命を救う。和助は身寄りを失った鶴之輔を井川屋の丁稚・松吉として育てようとする。
出演者
【出演】林遣都,芦田愛菜,塩見三省,津川雅彦,いしのようこ,尾上寛之,板尾創路,風間俊介,団時朗,石黒賢,音月桂,玉山詩,【語り】山口智充
原作・脚本
【原作】