徘徊(はいかい)中に列車にはねられ死亡した愛知県大府市の男性(当時91)の遺族に、JR東海が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が24日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は、介護に携わった妻と長男に約720万円の支払いを命じた一審・名古屋地裁の判決を変更し、359万円に減額して妻に支払いを命じたうえ、長男は見守る義務はなかったとして請求を棄却した。

 判決などによると、男性は2007年12月、室内にいた妻がまどろんだ数分の間に1人で外に出て徘徊し、大府市内の駅で列車にはねられ、死亡した。男性は認知症の症状が進行し、「要介護4」と判定されていた。

 JR東海は10年2月、男性の家族が事故を防ぐための対策を怠っていたとして、男性の妻と長男ら親族計5人を相手取り、振り替え輸送費など約720万円の支払いを求める訴えを名古屋地裁に起こした。

 昨年8月の地裁判決は、横浜市に住み、男性の介護方針を決めていた長男に事故を防ぐ責任があったと認定。その上で、徘徊して事故に遭う可能性を予測できたのに、ヘルパーを頼むなど見守りを強める責任を果たさなかったと判断した。

 さらに男性の妻について、男性と2人きりの時に目を離さずにいる義務があったのに怠ったと結論づけた。ほかの親族3人は介護への関わりが乏しいとして責任を認めなかった。

 遺族は判決を不服として控訴。介護方針は長男だけで決めたわけではなく、長男は事故を防ぐ責任を負わないと反論した。仮に責任を負う立場だったとしても、外出の頻度が減っていた男性が事故に遭うと予測できなかったと主張。妻も高齢で体力も衰え、男性の行動を制止できなかったと訴えた。

 控訴審で遺族は、今回の訴訟が介護現場に与える影響は大きいとして、一審判決の問題点を指摘する医師など専門家の意見書を提出していた。