◯を△や□には(1)「グリッチ刺繍とは」

◯を△や□には(1)「グリッチ刺繍とは」

Nukeme
Nukeme (ID125) 公認maker 2014/04/24

はじめまして!ヌケメです。普段は洋服を作っています。 ここでは、僕が作っている作品の制作方法や、新作のための実験などを中心に、そこで考えたことや気づいたことについて書こうと思っています。 第1回は「グリッチ刺繍」という作品についてです。

Photo:Dorita

こんな感じの作品です。 インターネットから仕入れたロゴデータなどを元に、壊れた刺繍データを洋服の上に出力しています。第16回文化庁メディア芸術祭で評価をいただき、国立新美術館でも展示をさせてもらいました。(http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2012/entertainment/works/16ej8_Glitch_Embroidery/) コンペに出したりするときに何かと便利なので、作品の概要を文章でまとめているのですが、その中には「グリッチ刺繍は、コンピュータミシン用の刺繍データの16進数コードを書き換え、針の動きに直接グリッチを起こす作品である。グリッチとは、「データや機器の破損そのもの、もしくは、破損しているが再生可能なデータの状態」のことを指す。この作品は意図的に刺繍データを破損させ、破損した状態を刺繍として布の上に出力することで作品化している。としています。 (全文はこちら http://3084c01ff1b8b5d5.lolipop.jp/data/ge_abstract_jp.pdf)

グリッチは、ざっくり言うとデジタルデータのエラー、みたいなものです。メールの文字化けとか、MacとWindowsの間で画像データを転送した時に画像が変になってるとか、Youtubeで動画を見ているときに一瞬動画が歪んだりとか、そういうデータ上のアクシデントのようなものです。

グリッチしたGIF画像

https://www.youtube.com/watch?v=B9_6vN49V5M

Super Glitch Bros.

エラーならエラーと言えばいいものを、わざわざ「グリッチ」と別の名前で呼んでいるからには、「エラー」という呼び方には含まれていない、別の文脈がそこにあるわけですが、「グリッチとは何か?」みたいなことを書き出すと、今回書きたいことは別に外から色んな文脈を持ち込まなければならないので、今回は省略します。 あと、「グリッジ」と書く人がよくいてすごく気になるのですが、「グリッチ」です。スペルはGlitchで、最後の音は"ch"なので。 グリッチ刺繍は意図的に壊した刺繍データをミシンに読み込ませて、ムリヤリ刺繍させる、という作品です。 刺繍データはX軸とY軸の相対座標データを持っていて、「針がどの辺りに、どういう順番で落ちるか」ということが記録されています。 グリッチさせることによってその座標計算は狂ってしまうのですが、狂っているなりにミシンが動いてくれたりします。動いてくれないときもあります。データはUSBケーブルを通して、PCからミシンに転送するのですが、データが壊れすぎているとミシンはデータを読み込まずに、電源がダウンします。動いてくれるけど途中で針が折れてしまう、という状態もあります。出力できないとあまり意味がないので、出力できるように調整しながらデータを作成します。 刺繍データのグリッチは針と糸によって、刺繍として布に出力されます。 僕はこれを、書き換えたバイナリが刺繍として布に複写された状態、だと考えています。

https://vimeo.com/60466854

グリッチさせすぎると出力できない、というのが具体的にどういうことかというと、 ・ヘッダが壊れている ・body領域の針の座標を指定する区画の総バイト数が増えている、もしくは減っている ・上記区画内で、7Fを超える数字(80~FF)が文法外の使われ方をしている ・刺繍枠を大きくはみ出たところに刺繍データが存在している の4種が主な原因です。 この4種のどれかに抵触しているのに刺繍可能なデータというのもありますし、他にも出力不可能な状態というのはあるかもしれません。あくまで僕が気づいた一例、という感じです。 刺繍データの作成や、使用している刺繍ミシンなどの作業環境はこんな感じです。

写真:Brother Innovis D300 刺繍ソフト:刺しゅうプロNEXT バイナリエディタ:Stirling 刺繍ミシン:Brother Innovis D300 子供の体操着に名前を刺繍したりするような、普通の家庭用刺繍ミシンです。 刺しゅうプロはWindows版しかないので、Windowsで作業しています。[*] コンピュータミシン、刺繍ソフト、バイナリエディタ、PCがあれば割と簡単に作れます。 なので、もし自宅や実家にコンピュータミシンや刺繍ソフトがあれば、刺繍データのグリッチで遊んでみてもいいかもしれません。グリッチした刺繍データが実際に縫われているのを見るのは結構楽しいです。 コンピュータミシンは、Brother製品でなくても同じことができます。それぞれ読み込むことができるデータの拡張子が異なるのでやり方などは若干異なりますが、原理は一緒です。工業用刺繍ミシン用のデータでもできます。 具体的なデータの操作方法などは次回以降で詳しく記述できればと思っています。コンピュータ刺繍ミシンとミシン専用のデータという、ある意味遊びにくい機材をどう遊び倒すか、という試みを通じて、開発者や刺繍の専門家の方たちが思いついてこなかったようなミシンの使い方、その誤用の楽しさを感じてもらえれば幸いです。 [*] Mac対応の刺繍ソフトも存在します。例えばWilcomのEmbroideryStudioとか。 http://www.wilcom.com/en-us/products/embroiderystudiodesigning.aspx ただし価格は日本製の新車が買えるレベルらしいので、趣味で買うにはオススメしません。無料版だとTruesizerというソフトもあって、WindowsとMac両方に対応しています。 http://www.wilcom.com/en-us/products/truesizer.aspx Truesizerは僕も持っています。フリー版は刺繍データを開けるだけで作成や編集はできませんが、ほとんどの刺繍拡張子を開けて、拡張子変換もできるので結構便利です。

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