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遅咲き冒険者(エクスプローラー) 作者:安登 恵一

第一章 冒険者の憂鬱

第十七話 再会と作戦

 ――雨音に混じり、何者かが襲ってきた。

 振り下ろされたのは大剣。冒険者がよく使うそれだ。

 俺は咄嗟に片手半剣を両手で持ち、受け止める。

 ギィンと音を立てて剣が交差する。飛び掛かられた勢いそのままに押し込まれそうになった瞬間、生体活性・脚(ブーストレッグ)を使って弾き返す。

 相手は俺達と同様に耐水性の外套を頭から被り、その表情は窺えなかった。

 すぐさま黒騎士が俺達の間に入る。マルシアは俺の後ろで手を翳している。

 黒騎士の姿を見た襲撃者は何故か構えを解いた。

「――すまぬ、貴殿達であったか」

 そして頭巾をとると謝罪を述べてきた。

「お前は……」

 それは行方不明だった風の騎士団の一人、大剣使いのシーズだった。

「生きてたのか」

 俺の言葉にシーズは頷いた。

「皆、生きている」

「お前たちもコボルトに?」

「うむ――詳しい話は向こうにて」

 そう言って歩き出す。説明が少ないからわかりにくいが、多分向こうに風の騎士団が居るのだろう。俺達は黙ってシーズの後に続いた。

 シーズは途中に置いてあったコボルトの死体を回収して更に進む。どうやら近くに居たコボルトを狩っていたらしい。

 視界が悪い中、木々の間をすり抜けるように進んでいくと、やがて小さな洞穴に着いた。

 入口の周囲は木々に囲まれており、視界が悪いこの状況だと見落とす可能性が高いだろう。

「おう、お主たちも来たのか」

 いつも通りのヨンドが笑いかけてきた。どうやら入口の見張りをしていたらしい。

「ああ、シーズに殺されかけたけどな」

「はっは、災難だったな」

「それより説明してくれ。一体何があったんだ?」

「まあ中に入れ、アルフ達が説明してくれるだろう」

 ヨンドは奥に行くように促し、見張りを続ける。

 言われたとおり中に入ると、光魔石のランタンを挟んでアルフとメルディアーナが座っていた。

 アルフの姿は痛々しかった。全身に包帯が巻かれ、血に滲んでいる。

「ちょっと、ドジっちゃってね」

 相変わらずの明るさでアルフが口を開いた。隣りのメルディアーナがその言葉に俯いてしまう。

「ソルジャーか?」

「うん、ソルジャーとリーダー」

「リーダーだと!?」

 コボルトリーダーだと……馬鹿な。ソルジャーの上、つまりレベル5じゃないか。

「魔物の巣でもないのに何故リーダーが居るんだ!」

 俺は焦って声を荒げる。通常、高レベルの魔物と言うのは魔物の巣という己の住処を拠点としていることが多い。魔物の巣はテレシア付近で確認されたことはない。

「それは僕達にもわからないよ……でも実際戦った結果がこれさ。生命があっただけでも儲けたよ」

「……それもそうだな、すまなかった。無事で何よりだ」

「取り敢えず座って。シーズに偵察をお願いしていたから報告してもらうよ」

 俺は頷き、邪魔にならないように端に座った。その両隣に黒騎士とマルシアも腰を下ろす。

「じゃシーズ、お願い」

 アルフが促すと、シーズは頷いてその重い口を開いた。

「近くにソルジャー以上は居ない。偵察と思わしきコボルトを何体か倒しておいた」

 シーズの報告に俺は眉をひそめる。

「まずいな、偵察が帰ってこないとなると……来るぞ」

「コボルトにそれだけの知能が?」

「少なくともリーダーはかなり知能が高いだろう。さっき俺たちが襲われたのもきっとリーダーの作戦だな。危うく死にかけた」

 話からするとリーダーは後方で待ち構えていたのだろうか。

「済まない、軽率な行動だった」

「いや、どの道そのままだったら発見されていただろうし、気にしないで」

 落ち込むシーズにアルフが声をかける。

「来るとわかっているなら迎撃するしかないな」

 今からアルフを担いで出ても、雨の中で方向もわからず彷徨うのは危険過ぎる。正確な時間は分からないが、そろそろ日が暮れてもおかしくない。

「彼奴等は夜行性じゃない。来るとすれば日が昇ってからだ」

「まずは見張りを残して休もう、夜が明ける前に行動に移る」

「マルシア、ちょっと来てくれ」

 俺は立ち上がると隣にいるマルシアに声をかける。

「あ、はい」

 そのまま入口へと向かう。

「ここにバリケードを作ってくれるか?」

 マルシアは頷き植物制御(プラントロール)を使う。木々が瞬く間に寄り添い、根が絡みあって堅牢な壁が出来た。

「……凄いのう」

「……そうだな」

 ヨンドが漏らした感想に俺は相槌を打つ。コンコンと重厚な自然の壁を叩いて素直に驚いた。これは期待していた以上の出来だ。

「頑張りましたから!」

 相変わらずの得意顔に思わず吹き出してしまった。良くも悪くもマイペースな奴だ。

「何笑ってるんですか!」

「いや、すまん。お前なら冒険者でも十分やっていけそうだなと思ってな」

「本当ですか?」

「嘘はいわんさ。ただし心得をしっかり叩き込んでからだがな」

「うええ」

 嫌そうな顔をするマルシアを置いて、俺は中へと引っ込んだ。

 戻るとアルフが奥で自分の愛槍を磨いていた。

「そういえば怪我の状態はどうなんだ?」

「……薬草使っているから、明日なら多分なんとか戦えるレベルかな」

「そうか、それなら後衛の護衛を任せる」

 アルフという戦力が主だって使えないのは辛いが、無理に組み込んでも足手まといにしかならない。

「了解」

「それとメルディアーナ」

「……はい」

 メルディアーナが凄く暗い。アルフとは対照的だった。アルフの怪我の原因をつくったのが彼女なのかもしれない。

「確か風の魔術に気配を消すのがあったよな」

「あ、あります。風膜(ウィンドスキン)という魔術です」

「それは匂いも消せるのか?」

「はい、消えます。私たちがコボルトたちから逃げるときに使いました」

「ならいけるか」

「どうするんだい?」

「迎撃時、こっちにコボルトたちを集中させておいてリーダーを奇襲する」

「なるほど、頭を狙うんだね」

 群を形成する魔物は大抵の場合、頭を倒すと瓦解する。シャドウウルフ達と同じだ。さすがにわざわざリーダーと名の付く魔物が頭でない訳がないだろう。

「作戦は単純だ。頭を潰せれば俺達の勝ち。潰せなければ俺達が物量に潰されて負ける」

 俺の言葉に洞窟の中に居た全員が頷いた。

「さて、取り敢えずは少しでも休んでおこう」

 そう言うと俺は腰を下ろした。

「そうだね、今から緊張しててもしょうがない。ご飯でも食べようか」

 その言葉に焦った。黒騎士の飯をどうするか。いや、食料自体は問題ない。なんて言ったって、あの黒騎士の余ったスペースには色んなモノが詰め込まれているのだ。その中には食料もある。昨日の寝る前に確認したらこっそりと食料が減ってたから、今回も腹が減ったら勝手につまみ食いするだろう。非常時だから許す。昨日の分は戻ったら説教かます。

「どうせならパーティ一緒に飯食っとけ。俺達が見張りをしているよ」

 俺は黒騎士の方を向いてついて来いと合図をする。黒騎士は頷いて立ち上がり、後に続く。

 これで見張りをしている間に食ったと言い張ろう。

 入口に戻ってくると、花があちこちに咲いていた。一瞬何がなんだかわからなかった。

 そしてヨンドの近くでマルシアが得意顔をしてる時点で全て察した。

「何無駄に魔力消費している」

「え、これくらいなら大丈夫ですよ。ほら奇麗じゃないですか」

 花を俺に渡してくる。普通渡すなら逆じゃないのか? 俺は渡す気はないが。

「ヨンド、彼奴等が飯を食うみたいだから一緒に食べておくといい。見張りなら俺達がしていよう」

 俺は無視してヨンドに声をかける。

「ほうほう、なるほど。了解じゃ。邪魔者はいなくなるとするか」

 そう言うと、笑いながら奥に引っ込んでいってしまった。

「で、どうするんだこの花?」

「飾っときましょう」

 洞穴に飾ってどうするんだ。
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