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遅咲き冒険者(エクスプローラー) 作者:安登 恵一

第一章 冒険者の憂鬱

第十三話 黒の騎士と風の騎士団

 やはり依頼あっての冒険者である。

 俺達は王都にやってきた時と同様、テレシアまでの護衛依頼を探すことにした。

 ただ無為に旅するよりは効率的だろう。

 王都ギルドは依頼も多いがその分冒険者も多い。見つかるまで暫く時間がかかるだろうと踏んでいたのだが、それは杞憂だった。

 なんと言っても実績のある「風の騎士団」に噂の黒騎士がセットなのだ。依頼はすんなりと決まった。問題は全くない。俺が蚊帳の外であること以外は。




 黒騎士の横をシルヴィアが並んで歩いて行く。

 中に居ずとも動かせるのは本当に助かる。近くに居ないと鉄くずに戻ってしまうので迂闊に離れられないのが欠点ではあるのだが。

「鎧の制御に何か問題はないか?」

「大丈夫です」

 小声でそう聞くとシルヴィアが頷いた。それと同時に隣の黒騎士が親指を立てた。なるほど、かなり精密に動かせるようになっている。

 人々がごった返す大通りの中を進んでいくと、やがて大きな南門が見えてきた。兵士たちが至る所に立ち、通行者たちを確認している。

 俺達は依頼人の馬車を探した。今回の依頼主は真っ当な商人だ。いや、奴隷も国の認可を受けているまっとうな商売ではある。だが、あの商人のがめつさと浅ましい眼の所為でなんとなく認めたくはない。しかし商品を買った俺も周りから見たら似たようなものか。シルヴィア連れてると色々と言われる訳だし。

 テンションが下がってきたので頭を振ってイメージを払う。

 隣でシルヴィアが不思議そうな顔をしていた。

「イ、イグニスさん……お、おはようございます」

 護衛の馬車の前まで来るとメルディアーナと出会った。食事の後からどうにもぎこちない。

「……おう」

「メルさん、おはようございます」

 いつの間にかシルヴィアはメルディアーナのことを愛称で呼んでやがる。この状況はお前が原因だと言うのに。

「シルヴィアもおはよ」

 俺とは打って変わってメルディアーナは笑顔で応じる。凄く、距離を感じます。

「アルフ達はどうした?」

「え、えっと。あちらで商人の方と打ち合わせを」

 メルディアーナが向けた視線の先にはアルフ達と商人が居た。

「今回、俺達はおまけみたいなものだし、アイツに全部任せておくとするか」

 俺は大きく伸びをして投げやりに言った。

 どうせパーティで受けた護衛代なんて人数で割ればたかが知れてるし、テレシアに着いたら酒でも奢ってもらえばいい。

 暫くすると横で女同士の会話が始まる。

 時折、何故か黄色い声を上げるメルディアーナを無視して、俺は空を見上げていた。




 旅路は快晴とはいかなかった。

 曇天模様の空の下、馬車が街道を進んでいく。

 芽吹きの季節もおおよそが過ぎ、そろそろ雨季に入ってくる頃合いだ。空の崩れもこれから多いことだろう。

 いつもであれば散発的に襲ってくる魔物たちも、何故か今回は鳴りを潜めている。

 楽なのは結構だが、どうにもすっきりしない。

 最近成長を感じた所為で欲でも出てきたのだろうか。俺はそんなに戦闘狂じゃないはずなんだが。

「のう、イグニス」

 俺の前を歩くヨンドが話しかけてくる。

「何かおかしいと思わんか?」

 どうやら俺と同じような感覚に囚われているみたいだ。

「静か過ぎる……と、でも言えばいいのか、よくわからんが変な感じだな」

「もうすぐテレシアにつくのに魔物が一匹も現れないなんてやっぱりおかしいね」

 俺の反対側を警備しているアルフも会話に参加してきた。シーズはアルフの前、女性陣と黒騎士は後ろを警戒している。

「まあ、荷馬車が襲われないだけマシだろう」

「それもそうだけど……」

 納得がいかないと言う感じの面々。

 このもやもやした感覚はテレシアに着くまでずっと続いていた。




「やっと着いたな」

 馬車は無事、テレシアの街の北門をくぐった。

 王都と比べて人の数はまばら。一ヶ月程度しか離れてないのにやけに懐かしく感じてしまった。

 馬車の護衛を終えると、鬱屈した気持ちを解消するかのように俺は大きく屈伸をする。

 続いて黒騎士も同じような動きをする。だんだんと芸が細かくなってきてるぞ。シルヴィアはどこへ向かっているのだろうか。なんだか得意そうな顔を浮かべている。

 アルフ達がギルドで依頼の処理をしてる間、俺達はまとめて宿を取ることにした。

 もちろん宿といえば馴染みの【安眠亭】である。

「あら、久しぶりだね」

 慣れた道程を颯爽と歩いて店の前までくると、草木に水をやっていた女将が声をかけてきた。見た目30後半と言ったところの恰幅のいい人間族の女性だ。

「ども。またお世話になります」

「うちは部屋なんて満室になったこと無いから何時でも大歓迎さ」

 屈託の無い笑顔で女将が答えた。

「そっちの可愛いお嬢ちゃんと黒くて大きい人はお仲間かい?」

「あー、その話は中でいいですか?」

「なんだ訳ありかい。取り敢えず入っとくれ」

 俺達は女将に促されて宿屋の中へと入った。




「奴隷を買うなんてアンタもやるわねぇ」

 さっきとは打って変わってニヤニヤとした顔で女将が言う。

 ああ、やっぱりそういう反応するよね。

「アンタは堅実派だと思ってたから余計に驚いたわ」

「まあ……なんと言うか、成り行きでそうなりまして」

「成り行きだろうと何だろうとちゃんと扱ってやるんだよ」

「ええ、買った以上責任は持ちますよ」

「それでこそ男だ。頑張んな!」

 女将は俺の背中をバンバンと叩く。痛い。

「それでさっきの話なんですが……」

「ああ、わかってるよ。これだけ人見知りが激しい子なんだ。あの鎧の中がこの子だって他には言わないさ。黒騎士って奴には部屋で食事をとってることにしておくよ」

 俺の傍に寄り添い、黙っているシルヴィアを見ながら女将さんが言う。

 この大きな鎧を小さい娘が操っていると知った時の女将さんの反応はなかなかのものだったが、この鎧を付けないと人前に出難いことと王都で目立って一悶着あったことを話すと納得してくれた。なんだかんだで面倒見のいい人だ。秘密は守ってくれるだろう。

 俺達の部屋は二階の奥。アルフ達の部屋とは結構離れている。これもシルヴィアに配慮してくれたのだろう。ありがたいことである。それと部屋に向かおうとした俺に「激しくやってまわり迷惑かけないように」と忠告された様な気がするのはきっと気のせいだ。

 さっさと荷物を置いてギルドへと向かおう。アルフたちも待っていることだろう。

 テレシアのギルドも久々だ。護衛に行ったまま、王都に一月ほど借金という名の鎖で繋がれていたからな。

 そう言えばちゃんと連絡もしてなかった……ってあれ、俺ってもしかして行方不明扱いになってるんじゃなかろうか。いや、死亡扱いかもしれない。

 ――アイツの事だからやりかねない。
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