第九話 レベル4と十分間
あれから二週間たった。
試行錯誤を繰り返し、どうやら生体活性の限界時間は10分程度だということがわかった。
それ以上使うと次の日に影響が出る。少しぐらいのオーバーなら軽い筋肉痛で済むが、最大稼働時間だとどうなるかは一生試すことはないだろう。後の人生に影響が出そうだ。
今回からはレベル4をメインに狩ろうと思う。
制限があるとはいえ、生体活性を使えばレベル3以下を相手にするより簡単に稼げるだろう。
前回のパワーエイプ程度なら問題ないはずだ。
いざとなったらシルヴィアバリアーを使おう。
「……変な事を考えていませんか?」
なんでわかるんだろうか。
「という訳で、古の森に行くぞ」
「……何が『という訳で』なんですか」
いちいち絡んでくるシルヴィアを無視して俺はさっさと歩いて行く。
「あっ、まってください!」
生体活性・脚!
俺はスティンガーの素早い尻尾攻撃を避けつつ、肉薄した。
スティンガーとは大きなサソリの一種で尻尾に毒を持つ厄介な相手だ。
事前にシルヴィアに毒も特殊能力で回復できるかと聞いたところ「時間はかかるけど大丈夫です」との返答をもらったので挑んでみた。
レベルは4。パワーエイプと変わらないレベルだ。
戦ってみてすぐ分かったが、素早い毒の尻尾攻撃と硬い甲殻が極めて厄介だった。パワーエイプより上に感じる。
「なんでこれがレベル4なんだよ!」
と、つい文句が口を衝くがその理由はわかっていた。
レベル4を超えるとこういうレベルに合わないほどの硬い敵が時折現れる。ではどうすればいいのか。答えは簡単だ、魔術を使えばいい。
テレシアでは全くと言っていいほど見なかった魔術師の冒険者だが、これには訳がある。
以前にも話したようにレベル4以上には能力がなければ登れない。そして魔術師には『魔術が使える』という能力がある。即ち、魔術師であるだけでレベル4冒険者にはなれるのだ。逆に魔術師が伸び悩むのがレベル5への壁。レベル5となると一流の冒険者と言っても差し支えない。一流であることの一つに一人でもある程度は戦えることがある。魔術師だろうとレベル3程度の冒険者と対等に接近戦が行えるぐらいでないとレベル5になるには厳しい。
残念ながら俺達に魔術は使えない。シルヴィアの回復能力は魔術に近いが攻撃能力皆無だし、俺は近接攻撃しか出来ない。なんともバランスの悪いパーティだこと。
生体活性・腕!
となれば力押ししか無い。片手半剣を両手で持ち、腕に生体活性をかける。そして一気に振り抜いた。
ガゴンッ! と音を立ててスティンガーの甲殻がひしゃげた。欲を言うなら華麗に切り裂きたいところだがそんな技量もない。
思わぬ一撃にスティンガーが怯む。その隙を逃さずに滅多打ち。十数回叩きつけたところでスティンガーの活動は止まった。
「しかしひどい光景だな」
原型を失いつつあるスティンガーを見て思わず呟いてしまった。
「……攻撃してる時は楽しそうでしたよ」
シルヴィアは俺の横に立ち、回復能力を使い始めた。毒がある尻尾の攻撃だけは食らわないように気をつけていたが、代わりに何度か可動爪の攻撃を躱しそこねてしまっていた。
因みにこの回復能力にも名前をつけようと提案したのだが「わざわざ名前を唱える必要がないので要りません」と一蹴された。
しょうがないので回復貸出と勝手に名づけておいた。自分自身を回復するのはそのまま自己回復と呼ぶとしよう。
「これじゃ甲殻は使えないな」
スティンガーの甲殻は防具の素材になる為に収集したかったのだが、目の前のボコボコになった甲殻では何の価値も見い出せそうにない。
「魔石だけでもそこそこの値段だからまだいいか」
スティンガーの魔石は銀貨25枚。パワーエイプより少し高いが、魔術師じゃない限り割に合う気はしない。
「残り時間的に後一体は狩れそうだな」
だいたい今の戦闘における強化時間は5分とかかってないはずだ。仮に次の戦闘で10分超えても多少なら問題ないだろう。
「――っ」
と、その時微かな声が聞こえた。
「誰か居るな、複数だ。冒険者パーティか」
耳を澄ましてみると、複数の声に加え、魔物たちの咆哮も響いた。
戦闘中の冒険者と出会った場合、邪魔にならないように去るのが基本だ。下手に手を出すと問題が起こる場合が多い。
だがひとつ気になった。敵の咆哮からしてパワーエイプだ。ただし複数。少なくとも3匹以上。
「これはマズいかもしれないな」
「……どうしましょう」
「取り敢えず様子を見てくる。シルヴィアは気づかれないようにしっかりと隠れておけ」
他の冒険者がいる前でシルヴィアがやられ、自己回復が発動したりすると面倒だ。俺が釘を刺すとシルヴィアはこくんと頷いた。
予想は悪い方向にあたった。俺は木の上から戦闘現場を眺めていた。
パワーエイプの数は5体。冒険者達は4人。前衛が3人に後ろにいるのは魔術師か。前衛は抑えるのに必死で攻撃役が魔術師しか居ない。魔術はたしかに強力だが詠唱に時間が掛かるし、魔力にも限界がある。魔術師の状態から見ても後二体くらいを倒すのが限度に思える。
「手を出す……しかないか」
さすがに見逃して全滅というのは後味が悪い。ランク的に俺が逃げるのは間違っちゃいない判断だが……なまじ生体活性なんて使えるからなあ。
「今考えても仕方ない。問題になったらなった、だ!」
俺はパワーエイプ目掛けて飛び降りた。
生体活性・腕!
そして思いっきり剣を振り下ろす。
ずしゃっ!
思いっきり行き過ぎて真っ二つになってしまった。あきらかに異常だ。だが、そんなことにかまっている余裕はない。
「勝手ながら手を貸す! 俺は攻撃にまわるから変わらずに注意を引きつけてくれ!」
驚いてる冒険者達に向けて怒鳴る。冒険者達ははっと気づくと頷いた。
一番近いパワーエイプが俺に気づき、向き直ろうとするがそこに冒険者の槍がささる。再び冒険者に注意が向かったところを生体活性・脚で一気に間合いを詰め、生体活性・腕に切り替えて裂く。
やはりスティンガーより柔らかいから簡単に斬れる。
残り2体を同じように奇襲して処理したところで最後の一体が魔術師の風の刃に切り裂かれた。風とともに血が舞う光景はなんとも言えない恐ろしさだった。これを人に向けたらかなりやばいことになる。
「いや、助かったよ。ありがとう!」
槍使いの冒険者が俺に近づいてきて礼を言った。俺と同い年くらいの爽やかな青年だ。アルフという名前でパーティのリーダーと言うことだ。
それに続いて残りの三人も次々礼を言う。パーティの壁役だと思われる片手斧と大盾に全身鎧のドワーフのおっちゃん、ヨンド。影が薄そうな大剣使いのシーズ。最後は唯一の女性で風の魔術師のメルディアーナだったが、ふらふらと足元が定まらない。どうやら最後の魔術に殆どの力を使いきったらしい。
「丁度近くに居たものだからな。お互い無事で何よりだ」
「しかしお主凄いな。パワーエイプを一撃で真っ二つとは」
ドワーフ特有のヒゲをいじりながら感心したように呟くヨンド。やっぱり言われるよね、それ。
「そちらの女性は限界みたいだし、ここで長話するよりさっさと戻るのがいいと思うがどうだろうか」
取り敢えず話をそらす。後でなんか良い言い訳を考えなくては。
「全くそのとおり。皆、魔石を回収したらさっさとこの森を抜けよう。詳しい話は後で」
アルフの言葉にメンバー達は頷いた。
俺もアルフ達に続いて歩き出そうとして――シルヴィアのことを思い出した。
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