Jリーグは選手を育てられているのか? 日本の選手育成の現状と課題に迫る
■出場機会がなくてもトップにあげてしまう
――まず率直に伺います、Jリーグの育成がいろいろ言われていますが、オファーがあった高校生たちは、J1へ行ったほうがいいのか、J2へ行ったほうがいいのか、はたまた大学行きがいいのかっていうのは、どう思われますか?
川端 一概には言えません。もちろん、J1でいきなり出場できる実力のある選手は、J1に行くべきだとは思いますよ。でも、たとえ実力があっても、Jのユースの選手たちは、そもそも選択権がないという側面もあります。
――というのは?
川端 これはあくまで例え話ですが、ベガルタ仙台のユースで左サイドバックだった選手がトップに上がれる実力があったとします。けれど、その時の仙台の左サイドバックが正副共にハイレベルな選手がいるとしましょう。そうなると、その選手は昇格してもまず試合に出られない。仙台では試合に出られなくても、もしかしたらFC東京が左サイドバックを欲しがっていて「高卒ルーキーでもあいつならすぐ使える」と思っているかもしれない。たとえそうだとしても、現行のルールだと彼がFC東京へ行くことはまずないんですよ。
――これは、制度的に行けないんですか?
川端 制度的には行けなくもないです。ただ、ルール的にFC東京が仙台の頭越しに「ウチならスタメンで使うから来い」とは言えません。あくまで仙台の許可を得たケースに限定されますし、仙台が昇格させるとなれば、それまでですね。実態として、世代の有力な選手だからと、すでにポジションが埋まっていて使う予定や余地がない状況であっても、クラブが「とりあえずトップに上げてしまう」傾向がある。「高卒は3年見ます」なんてロジックが都合良く解釈されて、まるで構想外の選手がとりあえず昇格することがある。このケースだと、なかなか幸せになれないですよ。例えば、これはカテゴリーを横断する形ですが、近年は強豪クラブのアカデミーからJ2のクラブへという例も増えてきています。今季で言えば、神戸U-18から愛媛に行った表原玄太、横浜FMユースから山形にいった汰木康也などがいます。彼らはいずれも既に試合へ絡んでいますよね。それも「必要とされてのプロ入り」だからこそ、です。
■ビッグクラブ入団と大企業就職は違う
――つまり、たとえトップにあがれても出場機会のほうが大事ということですよね。J1だからいいとか、大きいクラブだからいいというのではなくて。
川端 プロサッカー選手になるというのは、就職活動とは違うんです。プロは本質的には一人で生きていくもの。クラブに養ってもらうわけではありません。ブランド力のある大きなクラブに入ること自体が目的化していて、その後のことをちゃんとイメージしていない人が多いなというのは正直感じます。例えば、高校でやっていた選手の場合、「J2からしかオファーがない」と言っていた選手が「ついにJ1からオファーが来た、やったー」となって、J1の強いチームに入ったとします。周りも「いやぁ、おめでとう。J2からしかオファーがなかったのに、頑張ってJ1の内定を取ったね。よかった、よかった」と喜んでいる。でもそれって「中小企業しか内定取れなかった子が、なんとあの大企業から内定を取りました!」みたいな価値観になってしまっていませんか? それは違うと思うんです。これは大卒、高卒に限りません。学校の先生が持っている価値観なのかもしれないし、お父さん、お母さんの多くが持ってしまう価値観なのかもしれない。「より大きな企業に入ることが勝ち組」みたいな。でもビッグクラブでベンチ外の1年を過ごすなら、スモールクラブの主軸で戦ったほうが、選手としての未来はあるかもしれない。そういうシビアな考えでクラブを選ぶ選手もいますが、まだまだ少数派だと思います。
――なるほど。例えオファーがあってもプロとして先をちゃんと考えてチームを選ぶべきだと。でも今後は、J1のチームからオファーが来て入団したけど、一年目はすぐにJ2にレンタル移籍する前提というのがトレンドになったりするんじゃないでしょうか?
川端 そうなって欲しいですね。オファーはJ1だけど、プレイするチームはJ2みたいな……。僕は単純に「クラブは余計に選手を抱えないほうがいい」ということだと思っています。
――「Jの新人」の中には“かわいい子には旅をさせろ”という言葉が出てきます。獲得下ばかりの選手をいきなり他チームにレンタルするというドライな決断ができるクラブは少ないですよね?
川端 まだドライになりきれているクラブは少ない、クラブが選手を信じていないなって感じます。
――具体的に「選手を信じてない」というのはどういう意味でしょうか?
川端 色々あると思うんですが、例えば「この子あのチームに行って大丈夫かな?」みたいな、過保護的な部分と、もうひとつはあるのは「借りパク」に対してビビリ過ぎていること。実際“借りパク”はあるんです。貸したはいいけど、そのまま持っていかれてしまう。実質タダに近い金額で持っていかれることもある。逆にJ2やJ3は、そこが狙いどこじゃないですか。「良い選手を借りて、そのままもらっちゃえ」という。
――酷い話ですが、もし、使えなかったら返せばいいですもんね。
川端 J1と契約直後にJ2即レンタルが難しいというのは、やっぱりそういうリスクがあるから。でも何人かに一人が借りパクされていくリスクがあっても、そういう決断に踏み切ってもいいんじゃないかと思うんです。何人かに一人は逞しくなって帰ってくることもありますし、「可愛い子なので自分のところでしまっておいたら腐らせました」というよりはずっといいでしょう。
――レンタルに出した後もこまめに「見てるぞ」とか、「ケアしてるぞ」という愛情をもって接していればそういうことになる可能性も低くできそうですよね。
川端 そういう可能性はあるけれど、そう単純ではないとも思います。どこでもチーム事情があるし、本人の意向もあります。そもそも個人の判断として「戻ってくることが良いこと」とは限らない。J2で活躍して、クラブに戻って来たけどダメだったという例だっていくらでもありますから。
――まだ戻すには早いだろうと思うケースもたくさんありますよね。
川端 戻すタイミングはとても難しいんですよね。クラブや監督にしてみれば「あのポジションのバックアップがほしいからあいつを戻そう」という考え方はあって当然。それはクラブの論理。個人の論理を優先するのではなくて、クラブは冷徹に考えるのは当たり前ですからね。それが編成の難しさでもあります。監督としては「とりあえず計算出来るバックアップにはなるんだから戻せ」と言うに決まっている。でも、そこで強化部は先のことを考えて「いやいや、確かにバックアップにはなるけど、主軸として頑張らせるにはもう1年貸しといたほうがいい」という判断をどこかでしなきゃいけないときもあります。強化部は監督が辞めた後の、もっと先のことを考えるのが仕事ですからね。
――判断をしなくてもいいというのは具体的に?
川端 強化部がバックアッパーとして必要と考え、まずは今シーズンを戦うことが大事だという判断を下すのは、それはそれでありじゃないですか。同時に選手側も「いや、これはなんか調子いいこと言っているけど、単にバックアッパーとして戻そうとしているだけなんじゃないか」という疑いを持つことが大事ですよね。
――確かにそうですね。
川端 クラブはバックアッパーとしてしか考えていなくても、口では「重要な戦力として考えている」くらいのことは言いますよ。そこは選手一人ひとりが、プロとして、個人として、クラブと向き合わないといけない部分は絶対にある。
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