本誌記者 齋藤剛
「兄が母のコピーなら、僕はコピー2号。でも、僕は兄と同じことはしない」—。弟は悲痛な叫びを残して、みずから死を選んだ。大事件のあと、加害者家族を待っていたのは、拷問に近い日々だった。
生きる理由がない
「あれから6年近くの月日が経ち、自分はやっぱり犯人の弟なんだと思い知りました。加害者の家族というのは、幸せになっちゃいけないんです。それが現実。僕は生きることをあきらめようと決めました。
死ぬ理由に勝る、生きる理由がないんです。どう考えても浮かばない。何かありますか。あるなら教えてください」
そう語った青年は、その1週間後、みずから命を絶った。彼の名前は加藤優次(享年28・仮名)。日本の犯罪史上稀にみる惨劇となった、秋葉原連続通り魔事件の犯人・加藤智大(31歳)の実弟だった。
彼の問いかけに対し、どう答えればよかったのか、いまでも答えは見つからない。彼を止められなかったことは悔いが残る。だが、どうやって止めればいいのか、その時は正直、わからなかった。
'08年6月8日、日曜日。加藤智大は白昼の秋葉原の雑踏に2tトラックで突っ込み、さらにダガーナイフを使って、7名もの命を奪った。
筆者は事件直後に優次に接触し、加藤が生まれ育った家庭の内実を明かしてもらった。それ以来、取材協力者と取材者の付き合いが始まり、その関係は6年近くに及んだ。
その彼から突然、大きな段ボール箱が届いたのは、今年1月31日のことだった。開封すると、優次が事件について振り返った、A4判250枚にも及ぶ分厚い手記が入っていた。
何百回も、ファイルをデリートしようとした。書くというより考えることが、嫌で嫌でしょうがない。
こんな書き出しで始まる手記には、「加害者の家族として生きる」ことの厳しさと苦痛が、切実な言葉で綴られていた。
優次は生前、「本を出版したい」と私に繰り返し言っていた。この手記を公開することは、優次の遺志にそむくものではないと私は考える。なぜなら彼はこうも記しているからだ。
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