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商船三井の大型運搬船が中国の裁判所に差し押さえられた。 唐突感はぬぐ…
商船三井の大型運搬船が中国の裁判所に差し押さえられた。
唐突感はぬぐえない。日中関係が冷え切っている時だけに、不穏にもみえる出来事だ。
だが、この訴訟の由来をひもとけば長く複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのは難しい特殊な民事紛争だ。
ことさらに政治問題化することは日中双方にとって利益とならない。両政府は当事者間の解決が図られるように冷静に振るまうことが肝要である。
話の始まりは古い。1936年、上海の海運会社が日本の会社に船2隻を貸した。やがて日中戦争が起き、船は日本軍に徴用され、44年までに沈没した。その日本の会社を今に引き継ぐのが商船三井だ。
中国の会社側の創業者遺族は戦後すぐ来日して交渉、のちに東京で提訴したが敗れた。中国で88年に改めて提訴し、07年に一審で勝訴。10年に確定した。
その後も和解の話し合いは続いたが、破談となって遺族側は差し押さえを申請した。
日中は72年の国交正常化の際「戦争賠償請求は放棄する」と合意した。だが、中国側の法廷は、安全海域でのみ船を航行するとした契約の不履行を重視した。ふつうの民間企業同士の訴訟としての扱いだ。
中国側は、戦争賠償の放棄とは別に残る問題として①強制連行・労働②慰安婦③遺棄化学兵器を挙げ、折に触れ日本側に対応を求めている。今回の件はいずれにも当てはまらない。
日本企業がかかわるトラブルは、戦前の中国で多かったはずだ。ただ、87年に中国で民事の法制度が変えられた際、それ以前の案件は88年末まで受け付け、以後は時効成立とした。今回に似たケースが蒸し返されることは考えにくい。
むろん、中国では司法は完全に独立しているわけではない。共産党政権は差し押さえをあえて止めなかったとみられる。それによる対日関係への影響をどう考えたかは不透明だ。
だとしても日本政府が「国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と即断して反発するのも賢明さに欠ける。
日本政府は遅くとも一審判決時にはこの問題を知っていた。経緯を踏まえ、この民事問題が円満に収まる環境を整える方向に動くべきではないか。
日中間の経済交流は切っても切れない関係にある。どの国同士でもあるように、民間の紛争は絶えないだろう。できるだけ政治から遠ざけ、実務的に解決できるようにすることが、日中双方の国益にかなう。
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