Washington must not settle for secular stagnation  by Lawrence Summers
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/ba0f1386-7169-11e3-8f92-00144feabdc0.html#axzz2zhZ9jNFL
ファイナンシャルタイムズの1月5日(2014年)のコラムの翻訳です。

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ワシントンは長期停滞に甘んじていてはいけない   ローレンス・サマーズ

私たちはこの機会をインフラ再生のために利用すべきだ

 先月のファイナンシャルタイムズのコラムで論じたように、私たちは「長期的停滞」"secular stagnation" の時代に陥っているかもしれない。長期停滞とは、経済成長、生産量が停滞し、雇用が潜在可能なレベルより低くなる状態が非常に低い実質金利とともに長期間続くことである。

 今世紀の初めから、アメリカの毎年のGDP成長の平均は1.8%を下回っている。アメリカ経済は、現在、最近では2007年に到達した潜在生産量から約%10低いレベル――1.6兆ドル以上低いレベル――で稼働している。こういう状態が、5年以上実質金利がマイナスになっており、大規模な金融緩和策がとられているにもかかわらず続いている。

 成長予測に関して、過去数年間、慎重に悲観的な予測をしていた景気予測も2014年に関しては――少なくともアメリカでは――より明るい見方をし始めている。これは頼もしいことだが、楽観的な予測でも、生産量と雇用は今後もかなりの間、以前のトレンドより低くなるだろう、と予測されている。より悩ましいことは、現在の経済が停滞しているにもかかわらず、また、賃金と物価のインフレ率が低いにもかかわらず、信用能力の評価基準が下がっており、資産価格が上昇しつつある兆候があることだ。仮に現在の金融市場の状況で健全な成長を近い将来享受できるとしても、生産量と雇用が長期的トレンドに戻りインフレが再び上昇する前に、2005年から2007年に生じていた問題が再び発生する可能性があるのである。

 したがって、長期的停滞が突き付ける問題は、健全な成長を達成できるかどうかだけでなく、金融市場を健全に維持した状態でそれができるかどうかの問題でもあるのだ。基本的には次の3つの方法がある。

 最初の方法は、供給側からの基本的対策と考えられる方法を強化するものである――労働者の技術を向上させること、企業のイノベーションの能力を高めること、構造的な税制改革、長期的に維持できる社会保障制度をつくることである。これらの方法は――政治的には実現が難しいかもしれないが――有効なものになるだろう。また、経済の健全化に長期にわたって大きな貢献をするだろう。しかし、5年後、10年後という期間で見るならば、大きな効果は期待できないだろう。政策の実施が遅れるということ以外にも、例えば、教育が効果を発揮するまでにはかなりの時間がかかる。また、現在、経済は供給不足によって停滞しているのではなくて、需要不足によって停滞しているからでもある。生産の供給能力を拡大しても、財やサービスに対する需要が増加しないかぎり、生産量の増加にはつながらないだろう。労働者の教育プログラムや社会保障制度の改革は、誰が仕事を得るか、ということには影響を与えるが、どれだけの労働者が仕事を得るか、には影響を与えないだろう。むしろ、経済の供給能力を拡大する政策は、デフレ圧力を強めてしまうという逆効果を生む可能性がある。

 2番目の方法は、近年アメリカの政策の中心になっているものだが、関連する金利と資本獲得の費用をできる限り低く抑え、いっぽう金融の安定性を補強するために規制政策に頼るというものである。このような政策のおかげで、経済はかなり改善している。しかし、成長率よりも著しく低い金利に長期間依存するのは、本格的なバブルとレバレッジの危険な積み上げを発生させる可能性も高くする。金融規制を緩和し低い融資基準によって、デメリットなしに経済成長の果実を得ることができる、という考えを信用するべきではないのである。むしろ、適切な規制が注意すべきなのは、金融資産価格の上昇と、経済を刺激するために貸出能力を水増してしまうことなのである。

 第3の方法――最も有望なもの――は、適切な成長率と適切な金利が一致する状況をつくりだすような政策を通して、どの金利のレベルでも需要が増大するようにコミットすることである。つまり、毎年政府支出を削減し雇用を減らすような悪い傾向を終わらせることである。そして、むしろ現在の経済的停滞を利用し、インフラ再生とインフラ強化を行うことである。もし政府が過去5年間、もっと多く投資していたならば、私たちの所得に対する債務の割合は、もっと低くなっていただろう。経済を停滞したままに放置していたので、長期的な経済の能力を低下させることになったのである。

 また、需要を高めるためには、民間の支出をもっとうながす必要がある。化石燃料と再生エネルギー分野の両方に対する民間投資をうながすために、エネルギー分野でできることがたくさんある。火力発電所を別の形態の発電所に変えるようにうながす規制は、投資を増加させ、成長を押し上げるだけでなく、環境にも望ましいことだろう。問題が多い世界経済に関しては、貿易赤字の増加がアメリカ経済の需要を奪ってしまう、ということにならないようにしなければいけない。

 長期的停滞は必然的なものではない。正しい政策を選択すれば、適切な成長と金融の安定の両方を達成することができる。しかし、現在の問題を正しく分析することができなければ、また、需要の全体的な増加にコミットできなければ、わたしたちの経済は、低い成長と不安定な金融との間を行き来するだけのものになってしまうだろう。できることはたくさんあるのだ。